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8話 戦争――機械 対 魔族 そして


 機械国の山を改造した砦へ進攻するため、魔族は五、六人の少人数の班を場所広く展開し、徐々に徐々に近づいてきている。

 一容に魔族と括っても、その容姿は色々と違っていた。

 一番多いのは、耳の先が少し尖っているだけの、人間のような容姿の者たち。肌が紫色や青白かったりする者もいるが、肌色も髪色も基本的に人間と大差ない容姿をしている。

 その次に多い種族は、全身が毛や鱗などで覆われている者たち。二足歩行する犬に似た姿の者や、羊の着ぐるみに入った人間ではないかと疑いそうになる容姿の者、耳鼻と髪がない顔を持つ全身に鱗があるものなどだ。

 数は少ないが、大人三人分の背丈と四人分の幅を持つ巨人や、それと同程度の大きさの動く石の像に見える者、人間のような体躯で腕が四本ある者や、目が一つないし三つの者などもいる。

 そんな存在達が仲良く――どころか、一糸乱れぬ動きで班ごとに砦への進攻を行っている。

 彼らの装備はというと、大砲を撃ってきたり爆弾を投射してくる相手に向かっていくにしては、革鎧に槍か剣という格好。少々心細く見える装備だ。

 しかし彼らへ照準を向けている砦の兵士たちは、見た目通りに容易い相手ではないと、何度となく行ってきた防衛戦で分かっていた。


「速射砲は、連中の一班ずつに集中砲火だ。榴弾砲は、爆発で他の連中の頭を押さえたり、連携を鈍らせることが目的だぞ。手柄欲しさに勝手な真似しやがると、この俺がぶん殴って退かして、別のヤツに銃把を握らせるからな!」


 レジメンとスタッフォが連名で配布した作戦指令に従って、部下を持つ兵士たちはがなり立てる。

 部下の兵士たちは緊張した面持ちで、自分たちの受け持ちにどんな働きを期待されているかを説明を受けて理解していく。

 そうして意思統一を図っていたところに、観測所から攻撃開始を告げるラッパが鳴り響いてきた。


「出番だ! ぶっ放せ!」


 上官の命令に従い、兵士たちは割り当てられた兵器を撃ち始めた。

 素早い弾丸や爆発物を含む榴弾が砦の前面のいたるところから発射される様は、まるで山が噴火して火山弾を吐きだしているかのよう。

 発射されたものらは、兵士たちが狙った通りに、魔族たちに降り注ぐ。

 撃ち下ろしの格好となる銃撃は威力が増すため、弾丸が地面を抉り、爆発が土を吹き飛ばして、進攻する魔族の先頭が土煙に塗れる。

 これほどの銃撃を受けた相手が人間だったのなら、握り砕かれた枯れ葉のように、無残な状態を晒すことになったことだろう。

 しかし、魔族はそうはならない。

 進攻する先頭の班が、土煙の中から無傷の状態で現れた。彼らは片手を前に出した状態で歩いている。そして差し出している手の先には、身長大の半透明で分厚い板のようなものが浮かび上がっていた。


「チッ。相変わらず魔族の防御魔法は硬すぎるな。おら、射撃の手を休めるな! 速射砲は一つの班だけに集中砲火しろ! 硬くたって、これだけの火力を集めれば、短時間で【魔法の壁】を抜くことができる!」


 上官の冷静な指示に従い、兵士たちは速射砲を進攻してくる魔族の中で一番突出して近くにいる班へ、発射する弾丸を集中させた。

 兵士たちが魔法の壁と表現する防御魔法に、多数の弾が当たる。

 しかし半透明の壁で運動エネルギーを失った弾丸が、次々に地面に落ちていく。

 一向に効く様子がないと思いきや、着弾して落ちる弾丸の数が百を超えた頃、唐突に魔法の壁は消失し、その後ろにいた魔族に弾丸が当たった。

 青い肌をした魔族は、弾丸に腹の半分を吹き飛ばされて地面に倒れる。その血は肌と同じ青色だった。

 魔法の壁は厄介でも、弾丸が当たりさえすれば相手は死ぬと改めて分かり、速射砲を担当する兵士たちの戦意が高まる。

 榴弾を撃つ兵士たちにも、嬉しい情報がきた。


「よしっ、進攻の足を鈍らせることができている! 爆炎を防ぐために魔法の壁を広く薄く展開する必要があるから、進む速さがゆっくりになるみたいだな!」

「どんどん撃ち込んでやれ! そんで連携が取れずに突出した連中は、速射砲や機動ゴーレム部隊に連絡して集中砲火してもらえ!」


 砦から撃ち込まれる弾丸と榴弾の数々に、魔族に犠牲者がぽつぽつと現れ始める。

 しかし、魔族だってやられてばかりではない。

 進攻する班の中では、二人が最前に立って魔法の壁を再展開して防御に徹し、その後ろで他の人員が攻撃魔法の準備を始めていた。


「ヴロゥ、グロゥツ、ツェイケン、ヴァーウェグ!」

「ロオク、ヴィイグ、ストゥト、ヴァーウェグ!」

「クールハゥズエン、ゲウェルアヂグ、ヴァート、ヴァーウェグ!」


 魔族独特の呪文詠唱により、彼らの手から火炎弾や土の柱や弾ける水球などが生み出され、間を置かずに砦へと発射された。

 着弾した数々の魔法の攻撃により、砦に被害が出る。

 大多数は砦の元である山肌を削るぐらいに留まったが、不運にも兵器に命中したものもあった。

 命中したものが機動ゴーレムなら、まだいい方。損傷部を取り換えれば、再出撃が可能だからだ。

 しかし、速射砲や榴弾砲に命中した場合は、かなり悲惨なことになる。速射砲なら射手とその補助員の全てが魔法の餌食だし、最悪にも榴弾砲に火炎弾が当たれば榴弾の暴発で区画一つが吹っ飛ぶほどの被害が出てしまう。

 今回の攻撃では、被害的には幸運な方で、速射砲二門が魔法に当たっただけ。傷を負った兵士の搬出と兵器の修理も、スムーズに済む程度だ。

 仲間が負傷したことで兵士たちの士気が一時的に下がるが、上官たちがすぐに発破をかけて対処する。


「連隊長と参謀の指令書にあっただろ! 相手が魔法を使ってきたら、それは逆に撃ち倒す好機だと! 攻撃に手を裂いた分、防御魔法の壁が薄くなるため、速射砲だけでなく榴弾砲でも被害を与えられると!」

「怪我や死んだ仲間のことを思うのなら、ここで攻撃の手を緩めず、一層苛烈に攻撃することが手向けになるってもんだぞ!」


 檄に励まされて、兵士たちが操る速射砲と榴弾砲の発射間隔が元に戻る。

 上官たちはその姿を見て安堵しつつ、こっそりと通信を使う。


「おい、機動ゴーレム部隊はどうした。あっちが魔法攻撃を始めたら、突っ込んでいく手はずだろ」

『は、はい! いままさに砦から出撃したところだと、報告が来てます!』


 通信の交換手が、ゴーレム部隊に繋がずに自分で答えてしまっている。

 通常なら交換手は通信をゴーレム部隊の責任者に繋ぐはずなので、この対応は特殊となる。不備を働いたゴーレム部隊の上官が、交換手を苦情の盾に使っているのだと、通信を入れた兵士は察した。


「チッ。ゴーレム部隊の上の方に伝言だ。『出撃が遅いぞ馬鹿』を優しい表現でお願いする」

『了解です。『官僚風』に伝えておきます』


 『ねちっこい文言で』という機械国の表現を聞き、速射砲部隊の上官は苦情の通信をすぐにやめた。長々と苦情を入れていられるほど、戦闘の動きは鈍くないと、いままでの戦いで骨身に染みて知っているからだ。


「手を止めるな! そして魔力の使い過ぎで失神する前に、次の射手に交代することを徹底しろ! 失神した者を席から退かすにも時間がかかり、その時間で敵は近づいてくるんだからな!」


 魔法が砦を叩く音に負けないように、上官は大声で怒鳴る。そして、動きの鈍い兵士を無理やり次の人員に交代させたり、魔法の餌食になってしまった兵士の救護指示を出したりと、慌ただしく時間を使っていった。




 砦の機械国兵士たちと進攻する魔族の戦いは、四日目に突入した。

 砦の作戦指令室では、レジメンが頭を抱えていた。


「昨日、機動ゴーレムでの一騎打ちを失敗したことが痛かった。あれが決まっていれば、アデムとやらが来る時間が稼げたものを」

「相手が【竜激将】では、機動ゴーレムでは勝てませんよ」


 スタッフォはあの失敗は仕方がないと判断しつつ、現状を投げ出したいという気持ちを込めて次を語る。


「今回ばかりは、魔族は本気も本気のようですね。【竜激将】だけでなく【四魔将】も出てきてます。こうなると明日には【魔王】も出張ってくるのではありませんか?」

「そうならないことを祈りたいな。こんな苦境を強いる神になど、本当は祈りたくはないがな」


 レジメンが冗談で場の空気を軽くしようとしたところで、通信が作戦指令室に入ってきた。

 スタッフォは視線で『自分が取るか?』と尋ねたが、レジメンは横に首を振って自分で受話器を取った。


「どうした。どこかの戦線が崩壊したか?」

『竜激将と四魔将が投入されてから戦線はどこも厳しい状況ですが、今回はそれじゃありません! 竜です! 超巨大な地竜が砦の後方から現れました!』


 通信先の相手の報告を聞いて、レジメンの表情は苦悩から緊張と安堵が入り交じったものに変わった。


「その地竜とは、二足歩行で黒い鱗を持ち、巨樹の倍は身長があるか?」

『は、はい、その通りです!』


 レジメンは受話器を手で覆いながら、スタッフォに「アデムが来た」と小声で告げ、通信を再開する。


「その地竜は無視して――いや、一応の警戒はしておけ。ただし、魔族の圧力が強いから、最低限の人数で行え」

『了解です! それでその、質問があるのですが』

「なんだ。短く言ってみろ」

『連隊長殿は、あの竜がくることをご存知だったので?』

「それは軍事機密だ。ただし、あの地竜は魔族と敵対するであろうことは伝えておく」


 レジメンは受話器を戻して通信を切ると、スタッフォに「アデムを見てくる。しばらく頼む」と告げて、作戦指令室から出ていく。

 砦の中を忙しく移動する兵士たちの邪魔にならないように歩き、後方の様子が見える物見所に入る。

 部外者が張ってきたことに物見の兵が咎める視線を向けるが、連隊長のレジメンが入ってきたと知ると、表情を硬く緊張したものに変えて敬礼した。


「連隊長殿! このような場所に、どのようなご用件でありましょうか!」

「楽にしろ。砦に近づきつつあるという地竜を見に来ただけだ」


 レジメンが物見の筒――湾曲した板ガラスがはめ込まれていて、遠くまでよく見える道具を覗き込むと、すぐに大怪獣アデムの姿が大写しになった。

 巨体の迫力、力強い歩き方、そして国境砦を突破したにしては無傷に過ぎる体表。

 それらの全てを見て、レジメンは言いようのない頼もしさを、アデムに抱いた。

 しかし物見の筒で見えた光景に、見咎める材料がないでもなかった。


「……竜の足元に蛮人が群れているな」


 レジメンが言ったように、大人数の蛮人がアデムに付き従うようにして歩いていた。

 その数は、国境砦を突破した数より、はるかに多かった。

 それは、エンダリフ連山の機械国側の森に住んでいた蛮人が多数合流したからなのだが、レジメンにそれを知る術はない。ただ、蛮人の群れが砦に近づきつつあることに、問題を感じるだけだった。


(あの迫力を誇る地竜アデムなら魔族がちょっかいをかけに行くことは確実だろう。しかし、蛮人たちはどうか。あいつらは、この砦を占拠しに来るのではないか?)


 レジメンは砦の元となった山が、蛮人たちが霊山として崇めていた場所だったと引き継ぎの際に教えられていたため、攻め込んでくるであろう蛮人相手にどんな手段を講じるべきか考える。

 その考えに結論が出る前に、砦とは別の方向から火の玉がいくつも空中を飛んで、アデムに着弾した。

 連続する爆発に、アデムが不愉快そうな鳴き声を上げる。


「キシィィァァァゴオオオオゥゥゥゥ!」


 攻撃された方へ、アデムの顔が向く。

 視線の先にあるのは、四魔将の一人――漆黒の甲冑に全身を包んだ【剣魔将エィズワァ】と、直接指揮をしている魔族の一隊。

 その姿を目にしたアデムは、目的のものを見つけたと告げるように、大咆哮を上げた。


「キシィイイイイアアゴオオオオオオウウウウウウゥゥゥゥゥ!」


 不可聴域までの全周波数帯を揺らす大きな咆哮は、砦の中まで小刻みに揺らす威力があった。

 初めて身に受ける衝撃に、砦の兵士の大半が肝を潰す。

 砦の機能が一瞬麻痺した間に、アデムと蛮人たちの移動方向が分かれた。

 大怪獣アデムは魔族の部隊が集まる方向へ、そして蛮人たちは粗末を武器を掲げて砦へと走り寄る。

 レジメンは物見の筒でこの光景を見て、物見所にある通信機をとっさに取り、命令を下していた。


「砦の後方警戒班、各員! 兵器を全て立ち上げろ! 蛮人たちが襲ってくるぞ!」


 レジメンの指示に、慌てて兵士たちが行動を開始する。

 しかし後方警戒班とは、前線で戦えない怪我人や病人中心の予備の班であったため、動きは鈍い。

 どうにか兵器の準備を終えたその間にも、蛮人は砦へと近づていた。




 前線砦の後部では、兵士たちと、信仰の山を取り戻そうとする蛮人たちの戦闘が始まった。レジメンは怪我人と病人ばかりの兵を鼓舞しながら、前面や側面に比べて貧弱な砦の後方にある兵器を効果的に運用していく。

 蛮人の方も、エンダリフ連山を越えてから合流した新たな種族――人間の胴体と腕にヤギの頭と足を持つ、地球でいう悪魔の『バフォメット』に似た存在――が魔法を撃ちながら先導する。


「メエエエェェエエェェェェェ」

「ブメエエエエェェェェェェ!」


 山肌に当たって爆発する魔法の炎たちに、病気や怪我で気が弱くなっている兵士たちは恐怖心から、つい攻撃の手を緩めてしまう。

 そこですかさず、レジメンが怒声を飛ばす。


「攻撃の手を止めるな! 弾幕の厚みがなくなったら、連中が砦の中に入ってくるぞ! そうなったら白兵戦だ! 怪我や病気をしているお前たちなど、真っ先に殺されてしまうぞ!」

「ヒッ! し、死ぬのはイヤだ!」

「くそっ、くそっ! 武器撃つだけでも、怪我に響くんだぞ!」


 兵士たちは恨み言を呟きながらも、兵器による攻撃を再開する。

 厚みが戻った弾幕によって、蛮人たちの進行速度が遅くなる。そしてあまりの圧力に、とうとう蛮人たちは敗走していく。

 その姿を見て、兵士たちは攻撃の手を止めようとするが、レジメンが一喝する。


「まだ攻撃の手を止めるな! ここで止めたら、連中が引き返してくる! 射程外へ出るまで、弾で追い回してやるんだ! そうすれば不用意に近くに来なくなる!」


 レジメンの命令に従い、兵士たちは兵器で蛮人たちを追い散らしていく。

 そんな彼らの横、かなり遠くの場所を、大怪獣アデムは足音荒く進んで、魔法で攻撃してきた魔族へ近づきにいっている。

 その姿を、兵士の人が見咎めて、レジメンに質問した。


「あの地竜は、見逃してもいいんですかね?」

「手を出すなよ。馬鹿な魔族がちょっかいをかけたお陰で、あの地竜はあちらに喧嘩を吹っ掛けようとしているのだからな」


 国境砦を無傷で突破したアデムには、砦の後方に配置されている兵器は効果がないことを、レジメンは兵士に言わなかった。下手に動揺を与えることは、好ましくないという判断で。

 その配慮は適切だったようで、病人である兵士は安堵して顔色に少しだけ赤みが戻った。


「ってことは、魔族に倒されるまで、あの地竜は俺たちの仲間ってわけですね。応援しなきゃですね」

「……いや。お前たちは応援などせずに、部屋に戻って安静にしていろ。蛮人たちが性懲りもなく再び攻めてきたときには、働いてもらわなきゃいけないんだからな」


 レジメンが告げると、兵士たちは冗談だと思ったようで苦笑している。

 少しだけ雰囲気が明るくなったところで、レジメンは再びアデムに視線を向ける。

 アデムと魔族が戦闘に入ったのだと、魔族側から連続発射される魔法攻撃で分かった。


次話から、毎日更新ではなくなりますので、よろしくお願いいたします。



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