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21話 機械国の陣地

 アデムはアラクーネを追いかける。

 しかしアラクーネは六本の足を巧みに動かして、かなりの速さで進んでいる。一方でアデムは、足の骨格が走るに適していないため、巨体であってもスピードが出ない。

 そのため、両者の間にある距離は段々と開きつつあった。

 そして決定的なまでに距離が開く――その直前にアラクーネは速度を緩めた。 

 この逃走の目的が、アデムを必殺の布陣まで誘導するためであること。さらには、アラクーネの足の関節の負担を少しでも下げるためである。

 ファルラはコックピットの中で後ろを振り返る。かぶっている兜に連動して、アラクーネの顔も後方のアデムへと向けられた。


「よしっ、ついてきているな。そしてこの距離で気にするべきは、あの光る吐息だけ」


 発射の仕方を一度見たため、ファルラはアデムの口が輝いていないかぎりは、破壊光線の心配はないと予想する。

 そして【長船】が撃破された際のために、必殺の陣はそれなりに近い場所に作られる予定だった。

 ここでファルラは、天上に浮かぶ太陽の位置を確認する。


「少し時間稼ぎが必要か。なら、迂回路を進むとしよう」


 街道を進んでいたアラクーネの軌道が変化し、木々がまばらに生える区域へと侵入した。

 ときどき木々を弾き飛ばしながら進むアラクーネの後ろを、アデムが残りの樹木を蹴散らすように移動しながら追いかける。

 その直後、アラクーネのコックピットに警報が鳴った。

 ファルラはなんの知らせかを、搭乗前に記憶した手引書から引っ張り起こす。


「この警報音は、飛翔物接近の知らせだったはず」


 ファルラが後方を向くと、アラクーネに向かって飛んでくる、半ばから折れた木が見えた。


「なんとっ!?」


 アラクーネが横っ飛びに躱すと、飛んできた木が地面に落ちる。落下の衝撃では慣性を殺しきれなかったようで、縦方向に回転しながら地面を転がり、そして止まった。

 ファルラが驚きに満ちた目を、再度後方へ向ける。

 追いかけてくるアデムの姿。そして走っている最中にも関わらず、尻尾の先端が素早く翻り、近くにあった木を折ってアラクーネへ飛ばしてきた。


「器用なヤツ!」


 ファルラはこの地帯に招きいれたことを航海しながら、アデムの特異な攻撃を回避する。

 何度か飛んで来る木を避けていったところで、再びコックピットに警報音。

 今度の警報について、ファルラは手引書の内容を思い返す必要がなかった。

 なぜなら、兜の内側に備わった眼前のモニターに、概容のアラクーネの姿と赤く染まった右二番の足の絵図が現れていたからだ。


「駆動が壊れたのか。古代兵器というだけあって、骨董品め」


 ファルラは口惜しそうに呟きながら、冷静に機動力の低下を加味した逃走経路を思い描く。


「少し予定時刻より早く到着することになるが、陣地まで招き寄せる前にアラクーネが壊されるよりはマシなはず」


 決意し、アラクーネが走る向きを修正する。

 向かうは必殺の陣が敷かれているはずの、タパッスバ川の川岸へと。

 そうして経路を変更つつも、可能な限り到着を遅らせるべく、アデムの進路に太い木が重なるように逃げたりするなどの、小さな努力を積み重ねながら。




 アラクーネを操るファルラから、到着予定時刻が早まると通信が来て、必殺の陣地を敷いている最中の機械国の軍隊は大慌てになった。


「配置と固定を行うだけで威力を発揮できる兵器を先に展開しろ! 技術者どもの調整が必要なのは後回しだ!」


 指揮官の命令に従って、兵士たちは運んできた兵器の数々を川岸に沿って配置していく。

 いま現在動かされている兵器は、大砲やロケット弾を撃つものだが、それらに備わっている弾が少し変わっていた。

 砲弾は純粋な金属や榴弾ではなく、青白く光る鉱石が弾頭になっていた。

 ロケット弾の先端も少し膨らませた改造を施されている。


「そこっ、注意しろ! ここに運び込んでいる全ての弾薬は、通常弾とは違って貴重なものだ。一発たりとも粗末に扱うなよ。吹っ飛ぶだけじゃすまない被害を生むぞ!」

「も、申し訳ありません!」


 指揮官に注意されて、兵士たちは殊更に慎重に、しかし可能な限りに素早く弾薬の補充作業を行っていく。

 そうした陣地構築の最中、白衣を着た何人かが指揮官へ近づいてきた。


「なにをしているんですか。あんな通常兵器に毛が生えたようなものを展開するより先に、我々が再現に成功した超古代兵器である【アフステン砲】の準備を!」


 詰め寄ってきた白衣の人たちに、指揮官は冷ややかな視線を向ける。


「あんな見るからに間に合わせで不格好の兵器など、信用できん」

「なんですと! ちゃんと稼働して効果が確実に出るのなら、見た目などどうでもよいではないですか!」

「本当に『ちゃんと稼働』するのですかね、あの機動ゴーレムに大砲を括りつけた、ヘンテコな物体が」


 指揮官が視線を向けた先にあったのは、彼が言った通りの物体があった。

 前後二列に四機ならんだ機動ゴーレム。その真ん中を縦に貫くような形で、計器や配管が外に飛びてている金属の筒が置かれている。よく観察すれば、四機の機動ゴーレムの体からも一本ずつ管が伸びていて、それらは例の金属の筒に接続されていた。

 機動ゴーレムが手で持って運用する大砲かと思えば、近くには弾の一つもない。

 それもそのはず、この兵器は実弾を使用するものではない。

 白衣の一人が、講義をするような口調で、指揮官に言う。


「いいですか。このアフステン砲は、砲口から絶対零度の光を放つ兵器なのです。いわばおとぎ話に出てくる、氷の竜の吐息のようなもの。ひとたび発射されれば、万物全てが凍りくのです。それは、この場所に近づきつつある地竜と手同じことですとも!」


 自信満々の白衣の人とは裏腹に、指揮官は詐欺師を見る目をしていた。


「眉唾も良いところの話だな。それで、なぜ機動ゴーレムを四機直結しているんだ?」

「もちろん、絶対零度を生み出すためには、それなりの動力が必要。本来はアラクーネと【長船】の動力を連動させて用いるものなのです。ですが、前責任者が【長船】の動力の仕組みを勝手に変えてしまったために連動が不可能となってしまい、こうして機動ゴーレムの動力を流用するしかなかったのです!」

「……信用不確かな急造品と言っているようにしか聞こえんぞ」

「なにをおっしゃいます。試験射は機動ゴーレム四機直結の方法で行っており、成果をだしてあります!」


 証拠だとばかりに文字と数字が書かれた紙を突き出してくるが、一分一秒を争う状況の中で、指揮官が読んでいる暇などなかった。


「話は理解したが、やはりお前たちの兵器の設置は一番最後だ」

「なぜ!?」

「運用実績が乏し過ぎるからだ。信用に値しない」

「そんな、横暴な!」

「議論は受け付けない。お前たちも、これ以上俺に何かを言うよりも、自分たちの力だけで配置の事前準備を行った方が建設的だぞ」


 指揮官はもう取り合わないと態度で告げながら、忙しく動き回る兵士たちに命令を発していく。

 白衣の人たちは「これだから兵士は」と悪態をつきつつも、自分たちの兵器こそが生命線になると信じて、独自にアフステン砲を陣地に配置するように動き出したのだった。





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