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18話 機械国は会議する

 大怪獣アデムは歩き、視界の先にあった村へと到着した。

 幸いなことに、蛮族が済む森に近く、そして魔族の侵攻ルート上にあったからか、無人の村だった。

 人気のない家々が広く点在している村に、アデムは踏み入る。

 そして何を思ったのか、巨大な足で家や物置などの建物を、次々と蹴り崩し始めた。


「キィグゥ、キィィグルルゥ」


 気分は、誰かが構築した積み木を崩す幼児に近いのだろうか、尻尾の先が楽しそうに揺れている。

 アデムは廃村にある全ての建物を崩し終えると、次を探すように頭を左右に巡らし、草に覆われつつある街道を見つけた。

 その道が向かう先は見えないものの、後ろを辿っていけば、道は壊滅した前線砦に繋がっていた。どうやら、砦を構築するときと砦に隠し通路ができる前まで、実際に使われていた道のようだった。

 アデムは街道のことを、人が作った建物と建物を繋ぐ線と判断したようで、村から先に延びる道に沿って歩き出す。巨大な足が地面を踏むたびに、草に覆われた道がつぶされて、道の残骸へと変わっていった。




 機械国グレゴリアードの中央都にある城の作戦会議室では、アデムについての会議が行われていた。


「農業国が伝えてきたとおりに例の地竜――アデムとやらは魔族の手に落ちたようで、我が国の村々を破壊して回っている様子です」

「不幸中の幸いは、壊されている村は、魔族の侵攻に合わせて撤退した場所ばかりだということ。しかしながら、これから先はそうとはいきますまい」

「村人たちの護送は当然やらねばなりませんが、魔族たちの行動が不可解です。壊滅した砦に向かわせた先遣隊からの報告では、壊滅した砦の周辺に魔族の姿はないと。それどころか、あの地竜についた監視によると、奴に続いて侵攻してくる魔族の姿もないとのこと」

「アデムとやらに暴れさせ、こちらが壊滅した後で、ゆっくりと土地を支配する気なのだろうよ。いまは見えない魔族のことより、当面の問題であるアデムの対処だ」


 会議参加者の意識がアデムへの対応に傾いたところで、一段高い場所にある椅子に座っている人物――40歳頃の厳めしく彫りの深い顔立ちを持つ機械国の国王――【デックニ王】が宣言する。


「アデムを討滅するための献策をせよ。なお相手は、前線砦を吐息で壊滅させる力があるものと考えるべし」


 参加者は深々と一礼すた後で、議論を加速させる。


「構築済みの砦に誘導し、討伐してはどうか」

「どこの砦も、前線の砦ほど兵器は充実していない。誘導したところで、鉄板に砂を撒くがごとくの結果に終わるに違いない」


 役に立たないという機械国のことわざでの批判だが、他の面々も同意する。


「武器のこともそうだが、防御面にも不安がある」

「山を削って作った砦すら壊滅の憂き目にあうのだ。石を積み上げた砦など鎧袖一触もよいところであろう」

「砦に籠って迎え撃つことが悪手というのなら、平原や森での野戦となりますが、そちらの方が勝ち目がないのでは?」

「いやいや。戦力を一極集中して配置すれば、砦に配置する以上の破壊力が生み出せるはず」

「その兵器の配置場所はどうする。アデムは道に沿ってウロウロしているのだろう。待ち受けるように兵器を配置する時間を生むために、次に現れる場所を的確に判断することは難しいぞ」

「とはいえ、現れた場所に急行して展開するには、破壊力の大きな兵器ほど重く嵩張るため無理だ」

「機動ゴーレムを使って、兵器を展開し終えた必滅の陣形に誘導するのはどうだ」

「アデムが暴れた後に魔族の侵攻も考えられるのだから、兵士と兵器に消耗を強いる策は止めるべき」


 議論が段々と煮詰まっていく中で、参加者の一人がポツリと呟いた。


「いまこそ、古代の遺物を使う場面ではないだろうか」


 議論の声に隠れるような声量だったが、この発言が会議に与えた影響は大きく、一気に全員が黙り込んでしまった。

 そして止まった会話を再開させるために、提案をした人物が焦りながら言葉を紡ぐ。


「解析の途中とは聞いてはいますが、かの地竜に対抗するには、アレを出張るしか方法がないのでは?」

「……我らの兵器が通用しない相手とあれば、違う理で作られたアレを使うことも考えねばならないとはわかるが」

「いやいや。アレを解析することで、機械国は発展できたのだ。それをここで失っては困るだろ」

「解析はだいぶ終わっているのだろう。ならば国難に際して使い潰しても、後の技術発展は可能ではないか?」


 参加者たちの瞳は一様に、列席している兵器開発の責任者に向かう。

 意見を言わなければいけない場面に、責任者は『アレ』とやらについての説明を始める。


「皆様の疑問にお答えします。人の上半身と蜘蛛をくっつけたような姿の機械の巨人――コードネーム【アラクーネ】の解析は、ほぼ全て済んでおります。未解析の部分は、アラクーネの動力部のみとなっております」


 昔にいたという人と蜘蛛の特徴を持つ蛮族の名称を使った、兵器の名前。

 その兵器について知っている情報を問いただすべく、参加者が口を開く。


「動力が未解析だと? アレを解析して作ったという、機動ゴーレムは動いているぞ?」

「ゴーレムに使っているのは、鉄を溶かすための魔力炉を流用した、アラクーネの動力部の模造品です。実物の百分の一も出力は出ていないものですよ」


 兵器開発責任者は言外に、アラクーネの動力部の解析が済めば、いままでの百倍の力を機動ゴーレムが発することができると語った。

 会議の参加者たちは口々に「百倍か……」と、理解を示す呟きを漏らす。

 しかしここで、デックニ王が言葉を発した。


「アラクーネの動力部は、開ければ人が死ぬ魔所との報告よな。その満足に開けられぬものを解析できると、汝は語るのだな?」


 問い詰める響きの言葉に、責任者は背筋を振るわせた。


「目下、その方法を模索中でありまして――」

「悠長よな。古代の兵器を残そうと、国が滅びて研究する者が潰えれば、再び過去の遺物に戻るというのに。それにだ」


 デックニ王は一度言葉を切ると、目を眇めた鋭い視線を責任者に送る。


「汝は隠し通せていると考えているようだが、報告がきている。動力部の解析を棚上げし、組まれた予算を私的に流用して、アラクーネに取り付ける外部兵器を開発しているとな」


 参加者の多くが知らなかった罪状の追及に、責任者の顔に冷や汗が噴き出た。


「誤解でございます! あれらの外部装置は、アラクーネの中に情報として組み込まれていたものを再現したもので、れっきとした古代兵器の復元作業なのです!」

「件の設計図は夢物語のようなもので、復元物には汝が多くの手を加えていると知っておるぞ。今後の国の発展を思えばと目を瞑っていたが、国難に際して報告する口を閉ざすようなら、取り上げねばならぬ」

「そ、それは、その……」


 どんな弁明をしようと、デックニ王は論破してくると、会議の参加者全員が直感していた。

 進退窮まった責任者だが、デックニ王は薄く微笑みかける。


「しかしだ。汝のその『趣味』のお陰で、アデムを滅する方策が一つ立つ。外部兵器を取り付けたアラクーネならば、打ち倒せる公算が少しはあるのであろう?」

「確かに、あれには強大な力があることは保証いたします。ですが、まだ作りかけの代物で――」

「全てを供出せよ。よいな?」


 有無を言わさない言葉に、責任者は項垂れるようにして頷いた。

 デックニ王は満足そうに頷き、そして参加者たちに告げる。


「これで先駆けは整った。強化されたアラクーネがアデムを倒せればよし。倒せなくとも、必滅の陣まで引き寄せることは可能であろう。さて、どこで迎え撃つがよいと考える?」


 デックニ王の質問を受け、参加者たちは更なる会議を続ける。そんな中、兵器開発責任者は会議場に入ってきた騎士に両腕を掴まれ、予算の私的流用の疑惑を確かめるために、強制的に退出させられていったのだった。

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