10話 闘争――アデム 対 魔族 後編
アデムが前に進むと、巨人のインラスと巨大土人形を操るクフルも呼応して動いていく。
まずはインラスが巨木から作った棍棒を振り上げて、正面から殴りかかる。
「おおおおうううぅぅぅー!」
巨体を生かして大股で踏み込み、棍棒を斜めに振り下ろす。
その一撃はアデムの首筋に命中し、地面を揺るがすほどの衝撃をあたりに散らした。
巨岩すら一撃で破壊できそうな強力な攻撃だったが、身長差が大人と子供ほどもあるからか、アデムは小動ぎしただけで鱗一枚も傷を負っていなかった。
「キィィシィグルルゥゥゥ」
アデムは受けた攻撃に対して怒ったような喉鳴りを発すると、片手を振り上げ、そして下ろす。
巨体に似合わず素早い手ぶりに、インラスは下がり避け損ない、爪による攻撃を身に受けてしまった。
しかし長大な板金を何層にも張り合わせて作られた鎧によって、アデムのかぎ爪の一撃を防ぐことに成功。代償として、鎧は素肌が見えるまで切り裂かれてしまう。そして幸いなことに、無傷で済んでもいる。
インラスは壊れてしまった鎧に手を当てつつ、相手を警戒しながら棍棒を構え直した。
アデムの方も、殴られたお返しはまだ済んでいないとばかりに、荒々しい足取りで次の攻撃を繰り出そうとする。
そんな両者が戦っている間に、クフルが乗る巨大土人形は場所を移動していた。
「はっはー! 後ろを取らせてもらったよ!」
上機嫌に大声を放つクフルが言った通りに、土人形は地面を滑るような独特な移動方法でアデムの後方に回り込んでいた。さらには粘土のような腕を使って、アデムを後ろから羽交い絞めにしてみせる。
「さあ、私とゴリアテールくん参号が抑え込んでいる間に、やってしまうがいい! そして、この私の功績に感謝して、後でご褒美を持ってくるといいぞ!」
クフルが「はーっはっはー!」と大笑いするが、インラスは気にした様子もなく棍棒での攻撃を再開する。
迫りくる棍棒に、アデムは身を捻って土人形から脱しようとするが、意外にも耐久力と膂力があり、少し動くだけで精一杯だ。
インラスは相手が動けないと見て、ここが好機と考えて、滅多矢鱈に棍棒を振り回し、乱打に次ぐ乱打で攻めていく。
振り回される棍棒が巻き起こす風は、嵐のように強い。
そんな棍棒の乱打に、攻撃を受けているアデムからではなく、土人形を制御しているクフルから苦情が出てきた。
「この馬鹿巨人! 激しく攻撃するのは良いけど、ゴリアテールくん参号の腕に当てるな! 殴られてへこんでも自動修復されるけど、殴られた衝撃で拘束が緩んじゃうだろ!」
クフルの一喝に、インラスはハッとした様子に。そしておずおずと気後れした様子で、土人形の体がない部分だけを狙って、アデムに攻撃するようになった。
そんな直接戦っている三者からやや離れたところでは、剣を構えるエィズワァに守られるジェクンスタがいた。
彼女は短い棒の先を唇に当てながら魔法の呪文を唱えている最中である。
「アゥラドゥ、ヴェランデリン、メタアアリ、スケルプ――」
一語一語呟くたびに、ジェクンスタの周囲に変化が起こり始める。
まずは塵のようなものが空中の五か所に集まりだし、集まった塵がやがて土に、そして光沢のある金属の球へ変質する。
「ラアンゲ、アフェルキグ、ポィジステ、ホオウグ、スネルヘイ――」
生まれた金属球は続いて人の身長の三倍はありそうな長い棒と変わり、その棒が潰れて板となり、縁が削れて刃と変す。
「グゥイエン、トエヴオエジン、インジェクテリアン、オプニュウ、ヘルハリエン」
ジェクンスタは流れるような呪文詠唱の終わりに、自分の唇につけていた短棒の先をアデムへと振るう。
この行動に触発されたかのように、彼女の周りに浮いていた五本の長大な刃たちが、空中をアデムの方向へと滑り出す。
やがてジェクンスタとアデムのいる位置のちょうど真ん中で、五本の刃たちは再加速し、目に残像としてしか映らない物凄い速さで飛翔し始める。
飛来した刃は、その魔法で生み出された巨大質量と魔法で限界まで鋭く研磨された縁によって、アデムの鱗と皮を貫通し肉まで達してみせた。
「キィシシシシギウゥゥゥゥゥゥ!」
胸と腹に五本の刃を突き立てられ、傷口から血を流して叫ぶアデム。
痛みに身悶えするかのように、その尻尾がバシバシと地面を打ち、周囲に地揺れに似た振動を発生させる。
力強く身動きしだしたアデムに対し、クフルは土人形の拘束をさらに強めていく。
「このぉ! ジェクンスタ! 時間稼ぎしてやっているんだから、確実に仕留めきれる魔法を使えよー!」
「ごめんなさいね、クフちゃん。これでも精一杯やったのよ。でも、予想外に硬すぎたのよねえ」
クフルの罵声に、ジェクンスタは悲しそうな顔になる。
すると、すかさずエィズワァが慰めるように肩を叩く。
「気にするな。ヤツに血を流させただけでも、凄いことだ」
「ありがとうね。でも、いまの魔法が、わたくしの中で一番貫徹力が高いものだったのよね。これ以上の魔法となると、魔王様しか使えない魔法になっちゃうのよね」
困った様子で、ジェクンスタは夜会服に身を包んだ肢体をくねらせる。
煽情的な格好に映るが、エィズワァは気にした様子もなく会話を続けていく。
「魔王様にご出場を願うわけにはいかない。それは我々の無能を証明することに繋がる」
「それはそうだけれどね。でもそうしたら、あの地竜。どうやって倒すのかしら?」
当然の指摘に、エィズワァは少し黙り、硬い口調で言葉を続けた。
「……お願いがある。君の魔力を、俺に貸してくれ」
「あら、なにか手があるのね。ふーん、わかったわ。魔力を渡してあげるわね」
ジェクンスタはゆったりとした動きで指を操ると、エィズワァの甲冑の首にある隙間――素肌が触れられる場所に差し入れた。
「魔力を渡すのなら、直接触れていたほうが効率化良いのよ。触られるの嫌かもしれないけど、我慢してね」
蠱惑的に笑うジェクンスタに、エィズワァは兜の内側で何も言わず、させるがままにさせる。
そんな二人の様子――抱き合おうとしているように見える格好に、土人形の肩に乗って見ていたクフルが怒鳴り声を上げた。
「そこ! 乳繰り合っているんじゃない! こっちは必死にコイツを抑えているんだからな! 少しでも早く攻撃してよ!」
クフルが叫ぶ一方で、インラスも諦めずに攻撃を続けていた。
「ふんー! ふはー!」
インラスは棍棒を振るう狙いを、アデム自身ではなく、その体に突き刺さった刃に変えていた。大きく思い棍棒で刃の尻を叩き、より深く刺さるようにして、傷口を広げようとしているのだ。
アデムは突き立てられた刃がさらに身の中に入る感触に、大きな咆哮を上げる。
「キィシシシシギウゥゥゥゥゥゥ!」
この咆哮の直後、アデムの退職に変化が現れた。
魔法攻撃でボロボロになっている胸部にある赤色が、段々と広がってく。やがて、胸元から腹の上にまでの鱗が赤色に染まった。
そして赤色の意味を教えるように、アデムは激しく荒々しい咆哮を口から迸らせた。
「キシィィィィアアァァァァゴオオオオオウウウウウウウウウ!」
その怒りに染まった声は、現実的に巨大な圧力を持っていた。それこそ正面に立つインラスが踏ん張り切れずに後退し、付近の木々がアデムを中心に放射状に倒れてしまうほどだ。
鳴き声一つでインラスが物理的に退けられた光景に、土人形の肩で耳を押さえて丸くなっていたクフルが慌て出す。
「物理現象を伴うってことは――やっぱり! 捕まえているゴリアテールくん参号の腕にも、深刻な被害が出ちゃってる!」
クフルが上げた悲鳴の通りに、土人形の腕は圧力がある音波を至近距離で食らった結果、魔法的な結びつきが綻んでヒビ割れを起こしていた。
クフルは急いで魔法で修復しようとし――この行動が決定的な悪手になってしまう。
操縦者が修復に意識を強く割いたことで土人形の動きが止まり、そこにアデムの怒りに満ちた力強い抵抗が加わったことで、割れている腕の片方が千切れ飛んでしまった。
こうして土人形の拘束が緩んだ瞬間に、アデムはさらに体を振るって土人形を押しのけ、拘束を脱出。さらにここで、体を一回転させながら尻尾を振り上げる。
「うわっ、やばい!」
クフルは嫌な予感を受け、急いで土人形の肩から飛び降りる選択をする。
この行動は的確だった。
回転しながら持ち上げられ、斜めに振り下ろされたアデムの尻尾が、土人形に激突する。農業国の王都を守る障壁すら破壊した尻尾の攻撃は、土人形を衝突の衝撃で粉々に吹き飛ばしてしまった。
空中に四散する粘土状の土の中を、クフルは頭を抱えながら自由落下していく。そして地面に当たる直前で魔道具を取り出し、落下速度緩和の魔法を展開して墜落死を阻止する。
「くのおおお! ゴリアテールくん参号をよくも! この地竜め、覚えてろよ!」
クフルは捨て台詞を吐きながら、脱兎のような速さでその場から退避する。
インラスはクフルの逃走を助けるために、下がってしまった分を踏み込みの力に変えて、強力な一撃を叩き込もうとする。
しかしインラスが助走に必要とした時間で、アデムも戦闘態勢を整え終えていた。そして、怒りに満ちた目向けている。
「おおおおおおおおおおーー!」
「キシィィィグルゥゥゥゥゥ!」
インラスが踏み込みながら振り下ろした棍棒を、アデムは片手で掴んで止めてみせる。
両者が衝突した衝撃で、周囲に風が吹き荒れる中、両者は力比べに移行した。
双方が渾身の力を込めて押し合うため、棍棒がギシギシと崩壊の軋みを上げる。
「ぐぬううううううううーー」
「キィィィィィグゥゥゥゥ!」
力比べは、体格差からアデムの方が優勢だ。
じりじりと棍棒の位置がインラスの方へと押し込まれ、やがてアデムがインラスを上から押さえつけるような格好へ。
「ぐぬぬううううううー」
インラスは押し返すべく、全身に力を入れる。鎧から見える素肌に巨大な血管が浮かび上がった。
しかし棍棒の位置は小動ぎもしないどころか、さらに押し込まれていく結果だ。
このままではアデムの力にインラスが押しつぶされてしまう――見ていた誰もがそう考えてしまいそうになった瞬間、ジェクンスタの艶のある声が空間に響いた。
「インラス。そこを退かないと、あなたも真っ二つよ?」
魔法で拡声した言葉を放つジェクンスタの横には、剣を大上段に振り上げたエィズワァがいた。
インラスはエィズワァの格好を見て、押し合いに使っていた棍棒から手を放し、地面を横に転がって退避する。
突然押し付け合う圧力が突然に消えたことで、アデムは反射的に一歩二歩と、たたらを踏んでしまう。
この崩れた体勢を見て、エィズワァは好機と判断した。
「受けよ、我が秘剣――」
エィズワァは自分の魔力とジェクンスタから融通してもらった魔力を、大上段に構えている剣の刃から放出する。
勢いよく放たれた魔力は、黒い奔流となって天高くまで伸び、その長さは優に元の剣の長さの千倍はあった。
「――【天上天下大縦断】!」
エィズワァは、自身の技の名前を気合を込めて叫びながら――戦場から退避するクフルの「いつ聞いても変な名前!」という声があり――剣を振り下ろす。
技名の通りに、天上から地面までにある物体全てを縦断する軌道で、剣から伸びた黒い奔流が動いていく。
遠目にはゆっくりとした動きに見えるが、至近距離で見ると、黒い奔流の先端は振るわれる剣の円運動に従った動きで加速され、人の目には霞すら見えないほどの速度と化している。
そんな魔力の黒い奔流は、エィズワァの剣の冴えを伴って、斜めにアデムに振り下ろされた。
「クゥキィィィゴオオオゥゥゥゥ!」
アデムは左肩から右腹の下まで達する傷を負い、そこから赤い血が噴き上がる。
悲痛な声と明確な深い傷に、勝算が見えたと、全ての四魔将が判断した。
「エィズワァ。魔力の再譲渡を始めるわね」
「一日に二度も、負担が大きいこの技を使う機会がくるとはな。だが、次こそは両断してくれる」
「時間稼ぎ、頑張るぞー」
「勝機とあらば! ゴリアテールくんは作れないけど、普通の巨人大の土人形なら触媒がなくたって作れるってところを見せなきゃな!」
ジェクンスタの魔力をエィズワァは受け取り、インラスは失った棍棒の代わりに徒手の構えを見せ、逃走中だったクフルは立ち止るとアデムの膝までの大きさの土人形を何体も生み出した。
このときの四魔将の誰もが、一度であれほどの痛手を与えたのだから二度目の天上天下大縦断を放てば決着がつくと、そう考えていた。
しかし、地球世界で『破壊神』とまで言われた存在に、そんな甘い判断が通用するはずがなかった。
「キシィィグルゥゥゥゥ……」
アデムは痛みにうめくような鳴き声を上げると、体表の色をさらに変化させ始めた。
胸全体と腹の上部だけだった赤い色が、腹全体を覆いつくすようになり、やがて二の腕の中ほどまで広がる。そして赤色の中心ともいえる胸の中央部は、赤から明るいオレンジ色に変わる。
ここで不思議な現象が起こる。
黒い奔流によって斬り裂かれた斜め傷から湯気に似た白い煙が立ち上ったのだ。
そして、段々とその傷口が塞がっていく。
それだけではない。
ジェクンスタが魔法で撃ち込んだ長大な金属の刃が、体内から盛り上がってきた肉に押し出されるようにして体外へ排出され、地面へ落下する。
こうして、四魔将との戦いでつけられた傷が、あっという間に全て消えてしまった。
アデムが全快ぶりをアピールするように、頭を右へ左へと傾かせると、その首の体色も変化し始めた。
胸元から首へオレンジ色の筋が何本も伸びてきて、顎の下に至る場所まで、オレンジ色の雷のような模様を作った。
その色と模様は――冷え固まった溶岩石が割れて、その下に隠れ流れていた溶岩が露出したような――不思議な迫力があった。
「キシィィィィゴオォォォォゥゥゥ」
アデムは鳴き声を上げ、口元から白い煙が吐き出す。
煙はかなりの熱気を含んでいるようで、白い色の周囲が蜃気楼のように揺らいでいる。
色の変化と意味深な白い煙。
明らかにいままでとは様子が変わったアデムに、勝ち筋を見た気になっていた四魔将の脳裏に嫌な予感が去来する。
「もしかして、いままで本気を出してなかったってことかしら?」
「……今のアイツに、秘剣が通じると思えなくなった」
「うううぅぅ。こ、怖いー」
「本気になったからなんだっていうんだ! いけ、土人形たち!」
クフルが青い顔のまま、嫌な予感を振り払うべく、巨人大の土人形五体を突撃させた。
土人形は命令に従い、アデムに殺到し、その粘土状の腕で殴り掛かる。
だが土人形たちの攻撃が当たった瞬間、殴り掛かった腕が消失した。
よく観察すれば、アデムの体表の上を、土が熱されて赤く液状化したものが緩やかに落ちていっている。
アデムの怒りによってその体が激しく熱くなったことで、触れた土人形の腕が、熱した鉄板に雪を置いたように、瞬く間に溶けてしまったのだ。
「腕がダメなら、体当たりするんだ!」
クフルが諦め悪く土人形に攻撃を命じるも、体当たりで体を触れさせると、あっという間に胴体が溶け崩れていく。
瞬く間に全ての土人形が消失した事実に、同時に相手に通用する手段がなくなったと理解し、クフルは顔をさらに青ざめさせた。
「一瞬で巨人を作れるだけの土を溶かす熱量を、あの体が発しているなんて、ありえない!」
それほどの熱量を放出しているのなら、生物はその熱によって自滅してしまう。
魔法を使える魔族であっても変えられない常識のはずだが、そんな理屈を蹴り退けるようにして、アデムは体の周囲の光景が歪むほどの熱を発しながら存在している。
魔族の感覚からも、常識外の相手。
四魔将は、そう判断するしかなかった。
同時に、触れた全てのものを溶かすほどの熱量を誇り、瞬く間に傷を治す存在に対する、明確な手段などないことを理解するしかなかった。
愕然とする四魔将を他所に、アデムはゆっくりと白い煙を吐きながら、口をさらに開ける。
口内には、万物全てを破壊し尽くす白い輝きが、発射されるのを待っているかのように溜まっていた。
「キシィィィググルゥゥゥゥ」
アデムは唸りながら、さらに口を開ける。
その顔が向いている方角は、インラス。彼の後ろには、エィズワァとジェクンスタも立っている。
明らかにアデムは、口に溜まっている破壊光線で、この三者を滅ぼそうと意図している。
「ジェクンスタ――」
「分かっているわ。障壁ね」
ジェクンスタが詠唱を開始すると同時に、クフルも自身の体を新たに生み出した土人形一体に運ばせながらインラスへ大声を放つ。
「馬鹿巨人、下がって! 障壁の内側まで下がって! 術者から位置が近い方が、障壁の強度が上がるんだ!」
「馬鹿って、いうなよー」
インラスは間延びする声とは裏腹に大急ぎかつ大股で下がる。
そしてクフルも土人形による移動を終えて、呪文を唱え終えたジェクンスタの後ろへ立つ。
「どうせアイツに私の土人形は通用しないんだ。使い道がなくなった魔力を、ジェクンスタに全部渡してやるよ。それでより硬い障壁を作るんだぞ」
憎まれ口のクフルに、ジェクンスタは微笑みかける。
「あら。あなたは狙われてなかったのだから、わざわざこっちに来なくてもよかったのよ?」
「ふんっ。あの地竜が気まぐれを起こして、一人で逃げる私を狙い撃たないとも限らないだろ。それに剣バカのエィズワァや馬鹿巨人のインラスには、魔力の譲渡はできない。そう錬金術を極めた、このクフル様ならできる! そして私の魔力を渡すからには、あの地竜の攻撃を確実に止めるんだぞ!」
「ふふっ。クフちゃんに頼まれちゃったら、頑張るしかないわね」
他愛のない会話を装っている二人だが、どちらも分野は違えど知識を力に変える分野の人間だ。アデムの口に見える輝きが、どれほど危険なものか予想できてしまうため、顔色は緊張と恐怖から真っ青だ。
それでもクフルから融通された魔力も使って、ジェクンスタはいまの自分が作れる最高かつ最硬度の障壁を生み出すことに成功した。
「これなら――」
過去最高の出来栄えに、ジェクンスタが歓喜の呟きを漏らす。
直後アデムの口から、無慈悲にも破壊の光が発射された。いままでアデムが吐いた光線の中で、最も太く厚い破壊の光だった。
――キュゥゥ、キイィィィィ!
光の熱量で焼かれた空気が、悲鳴を上げる鳥のような、不気味な音を鳴らす。その音の高さと鋭さは、鼓膜を突き破りそうなほどだ。
光が発する熱の余波で、光線の下にある地面はガラス化を起こし、それより外の地面にある草はひとりでに燃える。
余波でそれほどの被害を与える破壊光線。
その光線の直撃を、ジェクンスタの魔法障壁は受けた。
全てのものを破壊するはずの光線が、障壁に阻まれている。
一秒、二秒――そして三秒。
ここで一気に、光りの圧力によって、障壁が破砕して散った。
砕かれて光の粒となった障壁を目にしながら、ジェクンスタたち四魔将は光に飲み込まれ、黒い影すら秒を置かずに光の中に消失する。
四人の姿が消えても、アデムは欠片も残さずに焼き尽くそうとするかのように、彼らが立っていた場所に破壊光線を吐き続けていく。
やがて破壊光線の威力が衰えだし、吐きだした当初の十分の一ほどの細さへ。
ここで突如、アデムは首を横に大きく振った。
元からすれば残滓のような光線であれ、その光は十二分に破壊の力を持っていた。
アデムの口から続く光は地面を走り、前線砦を掠め、砦へ攻め入ろうとしていた魔族の班を一つ焼き払う。
唐突に降りかかった災厄に、魔族側と砦側の区別なく戦闘が停止した。
動きが止まり、戦場に静けさが満ちる。
その静かな空気を自ら破るようにして、アデムは咆哮を高らかと上げた。
「キイィィィシイィィィィゴォォォォアアアアァァァァァァ!!」
まるで、四魔将と多少の人員を焼いただけでは怒りを収めるには足りないと、この戦場にいる全員に知らせるかのように。




