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乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 作者:わい/三嶋 与夢
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9/14

決闘

 パーティーの翌日。

 マリエはベッドの上で膝を抱えていた。

 親指の爪を噛んでいたが、離して独り言を呟く。

「いったい誰なのよ、あのモブは! どうして私の完璧な計画を狂わせるのよ」

 昨日から気分が悪いといって一人部屋にこもっていたが、攻略対象の男子たちは決闘を申し込まれてショックだったのだろうと勝手に納得していた。

「大丈夫。あの五人が負けるわけはないし、それにあのモブはなんか頼りなくて弱そうだったから大丈夫。というか、あいつを見ているとイライラするのよね。死んだ兄貴を思い出すわ」

 本当にろくでもない兄貴だったと呟くと、部屋をノックしてすぐに専属使用人のカイルが入ってきた。

「ちょ、ちょっと、返事を待ちなさいよ!」

 注意するマリエに、不満そうな態度を見せるカイルは溜息を吐いた。

「次からは気をつけます」

「この間も注意したじゃない」

 テキパキと朝食の準備をしてくれるカイルは、見た目も仕事ぶりも問題ない。だが、性格は少し癖が強かった。

 そのため売れ残り、売れても奴隷商館に戻されていた。そういう設定だった。

「今日の朝食は野菜多めです」

「……その野菜苦手なんだけど」

「これくらい食べてくださいよ。情けないご主人様ですね」

 主人を主人とも思わないような口ぶり。

(ゲームだとツンツンしているけど仕事はして可愛い弟キャラだと思ったのに、なんか毎日これだとムカつくわね。まぁ、美少年だから許すけど)

 数週間の付き合いだが、美少年が自分の世話を焼くというのは良いものだとマリエは思っていた。

 これくらい家事が出来て、女性を大事にする男性が元の世界にいれば自分も上手くいったと考えている。

「決闘の話はどうなったの?」

 カイルはカップに茶を注ぎ、そしてマリエに差し出した。

「闘技場の使用許可は取れたそうです。学園側を説得するのにジルクさんとブラッドさんが苦労したそうですけどね。使用人仲間から聞きましたけど、あのリオンって男の成績は良くて上の下らしいです。勝負にならないってみんなが言っていました」

「そ、そう」

 なら安心だと思い安堵するマリエは、朝食を食べる。

「もっと褒めてくださいよ。使用人仲間に聞いて回るのは大変だったのに」

「あ、ありがとう」

 妙に恩着せがましい部分がある自分の専属使用人だが、見た目が良いのと仕事が出来るのを考え我慢した。

(はぁ、私って健気よね。他の女子ならきっとこの子はすぐに捨てられているわ。それを寛容な私が許しているのよね)

 懐の広い自分、などと思いながらマリエは思う。

(予定は少し狂ったけど、これでさっさとアンジェリカを追い出せるわね。あの女、少し煽ったら決闘を申し込んできたし、本当に馬鹿)

 激情家であるアンジェリカの性格を知って、パーティー会場でわざと煽ったのだ。ユリウスに近づき、その後すぐに違う男と体を密着させ手を握るなどの行為を見せつけた。

(後は夏休み中に色々と準備しないと。ダンジョンでアイテムを回収して、それからアレも回収しないと)

 アレ、とは本来主人公が持つべき装備だった。

 それが今後の物語の鍵になるのをマリエは知っていた。



「昨日の今日で随分と酷いな」

 荒らされた自室の中で腕を組む俺は、天井を見上げた。

 姿を消していたルクシオンが姿を現す。

 球体が俺の視線まで降りてくると、そのまま周囲に映像を映し出した。

『マスターが出かけている間に男子が乗り込み荒らしていきました。実行犯はマスターが所属しているグループで、その後ろには別グループがいますね』

 俺が王太子殿下に喧嘩を売ったので、金持ちのグループがカースト下位のグループを使って荒らさせたのだろう。

 校舎から戻ってきたら酷い状況だった。

 映像には命令されているダニエルやレイモンドの姿も見える。

「あの二人もやらされたのか」

『儚い友人関係ですね』

「自分の将来を優先しただけだろ。暗い顔で命令されている二人を見て責められないよ。お前は心が小さいな」

 ルクシオンを煽ってやると、腹が立ったのか言い返してきた。

『小心者のマスターに言われたくありませんね。それと、学園内では既に今回の決闘で賭け事が始まっています』

 映像を見ると、俺が大穴となっている。だが、賭けるにしても殿下たちに賭けてもわずかな金額しか稼げない。というか、賭けが成立していなかった。

「圧倒的不人気だな」

『人気があると思っていたのですか? それはそうと、こちらの準備は整っています。当日に荷物が届きますが、それまでどうされますか?』

 俺は少し考え。

「金貨を一万枚用意して貰えるか? いや、白金貨五百枚の方がインパクトはあるかな? とにかく俺に一点賭けだ。こういうのは楽しくないと駄目だよな」

『本当に酷い人だ。それに、わざわざ決闘を受けずとも仲裁に入れば良かったのでは? 煽る必要性も感じられませんでした』

 俺は少し間を開けてから答えた。

「……それであの五人がマリエ一人と付き合うのを見ていろと? 俺、面倒ごとは一気に解決するタイプなんだ」

『失敗が多いタイプですね』

「そもそも長く関わる気がないんだよ。手早く済ませたい。それから煽ったのは気分だよ。気分。あの見下す態度に腹が立った」

『……そうですか』

 学園内というのは外から隔離されていることで、一種の別世界だ。学園内で通用する暗黙のルールがあるのもそれだ。

 多くの学生には公爵令嬢が殿下を筆頭とした名門貴族に喧嘩を売った形にしか見えていないだろう。どちらがより強いかなど明白。

 ただ、学園内の話だけで終わらないから厄介なのだ。

「さて、白金貨を受け取ったらブックメーカーの所に行くとするか」

 これだけ俺に賭ければ学園の生徒たちが挙って殿下たちに賭けるだろう。

 周りは俺がダンジョンで稼いだ金額だと思うだろうし、下手に怪しまれないというのが良いものだ。

 楽しみだな。

『それではすぐに届けましょう。港である浮島に取りに来てください。おや、友人二人が部屋の近くでお待ちですよ』

 俺は部屋を出ると、確かにそこには俯いたダニエルとレイモンド二人の姿があった。

 青い顔をしているのを見ると責められない。

 レイモンドが小声で。

「ご、ごめん」

 ダニエルも悔しそうだった。

「もう、お前には近づくなって言われて……俺たち、逆らえなくて」

 泣きそうな二人に俺は声をかけて通り過ぎる。

「次の決闘の賭けだが、俺に賭ければ儲けさせてやる。……悪かったな、二人とも。迷惑をかけた」

 俺は足早にその場を去った。



 学園の食堂。

 そこでは男子が五人ほど集まっていた。

「どうする? せっかくの決闘なのにこれじゃ賭けにならないぜ」
「みんな殿下に賭けているからな」
「せめて五人揃ってくれれば……」

 賭けを仕切るブックメーカー。

 そんな五人の下に俺は台車を押して近づいた。五人が俺を見てぎょっとした顔をするのだが、俺は淡々と話を進める。

「これ全部俺に一点賭けね」

 箱を開けると、そこには黄金よりも強く輝く白金貨の山があった。五人は金貨よりも価値がある白金貨の山を前に息をのむ。

「これだけあれば賭けも成立するだろう? あと、こいつはこの場に置いていく。持ち逃げしたら分かっているよな? 俺はかけた金額を公表する」

 彼らも学園を無事に卒業したい生徒だ。

 学園で他の生徒たちの恨みを買いたくないだろう。

 絶対に勝つような勝負。しかも儲けが出ると分かっている勝負なら、無理してでも賭ける馬鹿が出てくる。

 一人が俺に確認してくる。

「これ、全部白金貨だよな? ほ、本当に全部賭けるのか?」

 現代で言えば十五億から二十億? まぁ、それだけの金額になる。

 学生が取り扱う金額としては大きい金額だろう。

「もちろんだ。俺はダンジョンを攻略した男だぞ。全財産、自分に賭けて何が悪い」

 息をのむ五人は、全て本物か確認を始めた。

「こ、これだけあれば賭ける奴らも出てくるぞ」
「すぐに宣伝しないと!」
「今回は盛り上がるぞ!」

 楽しそうで何より。

 そんな俺の後ろから声がする。

「……バルトファルト、話がある」

 俺は振り返った。

 先に話しかけてくるのは次兄やら次女だと思っていたのだが、どうやらアンジェリカさんの方が先だったようだ。

 その場が静まりかえる。



 呼び出された場所は人気のない一室だった。

 普段男子が茶会を開く場所を借りたらしい。

「お前と話し合いに使うと言ったら快く貸してくれた。教師と仲が良いのだな」

 まさか先生――いや、師匠が気を利かせてくれたのだろうか。あの紳士を体現した師匠ならこんな心配りも当然だろう。

 嬉しくて涙が出てくる。

「……バルトファルト、お前はこの決闘を辞退しろ」

 アンジェリカさんが少しやつれた顔で俺に決闘を止めるように言ってくる。

「あの場で決めたことですから今更それは俺も面子が立たないんですよね」

 面子とかどうでも良いのだが、参加したいので参加するのだ。

 力なく小さく笑うアンジェリカさん。

「お前もやられたんじゃないか? 部屋が滅茶苦茶にされていた。決闘までの間、こうしてこちらを徹底的に叩くつもりらしい」

 万に一つの勝ち目も与えないように頑張っているらしい。

 殿下たちは知らないだろう。

 殿下の周りの取り巻きたちが気を利かせているのだ。何という忠誠心!

 だが、俺に喧嘩を売ったのは許せない。

 俺は小さい男だ。そしてモブだ。

 なので、やられたら普通にやり返す。

 普段なら黙って騒ぎが収まるのを待つのだが、今回に関しては泣き寝入りなどしないと決めた。

「私にもう力はない。お前が期待するような事は何一つ出来ないぞ」

 俺は溜息を吐いた。

「実家から何か言われたんですか?」

 肩が震えて反応を示していた。自分を抱きしめるようにアンジェリカさんは両腕を強く握る。

「……決闘を申し込んだことを短慮だと言われた。だが、だが……私はなんとかしたかった。なんでもいい。あの女を殿下から遠ざけたかった! そしたら頭が真っ白になったんだ。そう返事を書いたら、大人しくしていろと指示が来た。私は終わりだ。良くて軟禁か辺境送りだ。最悪は――」

 ――自裁だろう。命を以て償えと言うことだ。

 そんな事にはならないと思うが。

「勘違いをしていますね。正直、公爵家なんてどうでもいいんですよ」

 アンジェリカさんが顔を上げ驚いた顔をする。

「だ、だったら何故あの場で名乗り出た! 馬鹿なのか? お前、絶対に馬鹿だろ! いいか、今回の決闘で勝とうが負けようがお前は終わりだ。相手は王太子殿下を始め、名門の貴族たちだぞ。喧嘩を売ってこれから先どうするつもりだ!」

 まくし立てて息を切らすアンジェリカさんに、俺は意味ありげに小さく笑みを浮かべた。

「どうでもいいんですよ。貴族の地位も名誉も必要ない。上級クラスでカースト下位の扱いを知っていますか? 頑張って独立したら女子のご機嫌取りの毎日だ。もう疲れたんですよ。それならいっそ、嫌いな奴らを全部殴って辞めてやろうと思いましてね」

「お前の家族にも累が及ぶぞ!」

「俺はこれでも独立した騎士でしてね。仮免ですけど。まぁ、実家は別の家、って事で」

「か、かりめん?」

 アンジェリカさんが首をかしげているが、俺の目的はそこにはない。マリエという女を放置できないのは俺も同じなのだ。

「貴方はマリエを殿下から遠ざけたい。俺はあいつら全員を殴り飛ばしたい。ほら、互いに手を組むのに相応しい」

 アンジェリカさんが後ろによろめきながら数歩下がった。

「お前、狂っているのか? 相手は学年トップの実力者たちだぞ」

 それについては問題ない。

 これが三年――いや、二年生に決闘が起きていたら厳しかったかも知れないが、今の段階では俺の方が勝率は高い。

「大丈夫。俺は強いんで」

「信用できるか! そ、そう言えば、ダンジョンを攻略する冒険者の多くは頭のネジが数本抜けている奴が多いと聞く。お前もその類いか!」

「失敬な! 勝てる可能性があるから挑んだんだろうが。そもそも、決闘挑んだのはお前だからな!」

「だ、だから、それは悪かったと言っているだろうが! 私が責任を取る。お前は学園に残れ。巻き添えには出来ない……その、あの時に名乗り出てくれただけで十分だ」

 誰もが敵に見える中、損得抜きに俺が助けに来てくれたように彼女には見えたのだろう。きっとアンジェリカさんの中で俺はヒーローだ。

 俺自身はモブで小物だが。

「いや、ここまで来たら引き返せないし、引き返す方が恥ずかしいんで嫌です」

「……お前、相手にグレッグやクリスがいると分かっているのか? あいつらは冗談抜きで強いのだぞ」

 そうだ。あの二人だけではなく、他の三人も学年の中では図抜けて強い。学園の中では、だが。

「それにお前、自分に大金を賭けるとはどういうつもりだ!」

 ……やはりこいつはガチのお嬢様だ。

 白金貨の山を見ているはずなのに、別に驚いてはいなかった。普通はもっと腰を抜かすとか驚愕するはずである。

 羨ましい限りだ。

「何なら賭けます? 俺に賭ければ儲かりますよ」

「いらぬ! 私が金に困っているように見えるのか?」

 これだからお嬢様は……まぁ、いいか。

「嫌がらせもすぐに終わりますよ。決闘まで数日しかありませんからね」

 俺は部屋を出て行くのだった。



 決闘当日。

 学園にある鎧を使用出来る闘技場はとても広い。

 観客席は魔法障壁に守られ、安全確保も万全である。

 学園の闘技場。ここで多くの生徒たちが決闘してきたと思うと……どうしよう、あまり感情がわいてこない。

 控え室で着替えをしている俺は、自分の姿を見る。

『似合っていますね。まぁ、私が適正な素材でマスターのために作った一品ですから当然ですが』

 機体カラーに合わせてダークグレーメインのスーツは、体に張り付くインナーの上にズボンやらベストを着用しているスタイルだ。

 首回りが保護されている。

「思っていたのと違うな。作り直しを要求する」

『お断りします。色やデザインが多少違っても性能に差はありません。好みでなくとも我慢してください』

 こいつ本当に俺をマスターと思っているのだろうか?

 上着を着て控え室を出ると、そこにはオリヴィアさんが待っていた。

「――あ!」

 壁に寄りかかり待っていたのか、俺が出てくると慌てて近づいてきた。距離がとても近く感じる。

「あ、あの――私、何も出来ませんけど、応援します! リオンさんのこと、応援していますから!」

 主人公に応援されるとか不思議な感覚だ。本来なら、向こう側にいる人だというのに。

「俺に賭けたの? なら大正解だ。大儲けさせてやるよ」

 親指を上げて立ち去ろうとすると、オリヴィアさんが否定した。

「え? 賭けていませんよ。賭け事はいけないと思います」

「お、おぅ」

 とても綺麗な澄んだ瞳で言われた俺は、自分に大金をかけた事を思い出して恥ずかしくなってくる。

 これが主人公の力という奴だろうか?

 二人で控え室から闘技場の方へと向かうと、既に向こう側の五人は揃っていた。

 自慢の鎧を既に用意しており、観客に見せつけている。

 鎧と言うよりもロボットのような形をしており、大きさも三メートル近い。パワードスーツのようなもので、空だって飛べる不思議人型兵器だ。

「お~、派手なカラーリング」

 王太子殿下の白い鎧から順番に、それぞれ派手な装飾が付いた鎧が並んでいた。

 俺が出てくると一斉にブーイングが巻き起こる。

 観客席を見れば、ダニエルとレイモンドの姿も見えた。俺が視線を向けると周りに見えないように俺に賭けた証拠の赤い札を見せてくる。

 殿下たちに賭けると青い札が貰えるのだ。

「あいつら……さて、俺も頑張りますか」

 俺が出てくると、アンジェリカさんが駆け寄ってきた。

「おい! なんで鎧を用意してこなかった! お前、自信満々だったくせに用意していないとか言わないよな!」

 俺に対して遠慮がなくなってきているが、俺は空を見上げる。

 屋根のない闘技場。

 今日は青空が広がっていた。

「問題ない。到着した」

 俺が指を指すと、空に黒い点が見える。俺の上着に隠れていたルクシオンが俺にだけ聞こえる音声で伝えてくる。

『アロガンツ、来ます』

 大きな箱が空から落ちて生きた。

 高さ五メートル。幅は四メートルのその箱は、闘技場に着地すると前面から開いた。そこには腕を組んで立っている鎧が一つ。

 以前使った時は戦闘ではなく作業だったが、こうして見るとやはり戦闘用である風格というか威厳を感じる。最初に浮島に穴を掘る時に使ったのが申し訳なく思う完成度の鎧だ。

 しかし名前だ。俺には意味が分からない。

「……アロガンツってどういう意味だったかな?」

 どこかで聞いたことがあるようなないような……凄そうな名前なので個人的には好みだ。

『貴方にピッタリの言葉です』

「そうか。たまには気が利くことも出来るじゃないか」

 ダークグレーの鎧は現在の主流であるスマートな鎧とは違い、とにかく頑丈な作りをしていた。本体自体が普通の鎧よりも大きい。

 実戦向きなのか刺々しい飾りもなく、無骨なロボットに見える。

 殿下たちの鎧が高機動型のスリムタイプなら、俺の鎧は重装甲の鈍そうな鎧だった。

 俺の鎧の出現に闘技場の観客たちが盛大に大笑いをする。

 集まったのは一年から三年まで。

 とにかく夏休み初日にこのイベントに参加できる人は可能な限り集まった印象だ。

 何千人と集まっているが、観客席の収容人数は万単位を想定しているためか観客席が有り余っていた。

 アンジェリカさんが俺に疑ったような視線を向けてきた。

「お前、これで戦うつもりか? もしかしてロストアイテムか? だから強いと思っていないだろうな? ロストアイテムは再現不可能なだけであって、別に強いという意味ではないんだぞ!」

 オリヴィアさんが手を頬に当てて首をかしげる。

「でも、なんだか可愛いですよ」

「お前の美的感覚がおかしいのだ。確かに無骨だけではないが、今の戦闘には不向きだ」

 防御よりも攻撃力が高いこの世界では、素早く動いて敵を倒すのが主流である。

 つまり、重装甲は時代遅れの型落ちに見えるのだ。

 俺は重装備の方が好きだが。

「見ていれば分かりますよ」

 俺は闘技場の中――舞台へと上がった。

 俺が鎧の所までよると、闘技場内に紫色の鎧が降りてきた。細長いイメージで、背中にはランスのような武器をいくつも背負っている。

 色合いからブラッドのようだ。

 鎧の胸元を解放すると、そこにはブラッドの姿があった。

「逃げずに出てきたのは褒めてやろう。だが、そんなウスノロな古い鎧を持ち出して、僕の鎧に勝てると思ったのか? 名工に作らせたこの鎧は製作だけでも白金貨で――」

 自慢を無視して鎧の胸元を解放する。

 滑り込むように中に入ると、両脇の前にある穴に腕を入れた。中にある操縦桿を握る。ゲームのジョイスティックのような物が鎧の腕の中にある。それを握ると胸元がしまって視界が遮られるのだが――。

『アロガンツ起動します』

 ルクシオンの言葉に反応してアロガンツが起動する。目の前には、まるで実際に外にいるかのように映像が見えていた。

 内部の機械が動いて頭部や首――胴体などを保護していく。

 準備が完了したので前を見れば、まだブラッドが鎧の自慢話を続けていた。

「あいつまだ自慢しているのか?」

『彼の話からするに、後ろに背負っているのはドローンのような兵器のようです。こちらも対抗して展開しますか?』

「必要ない。最初は派手に行こう。こいつの性能を見せつける意味合いもあるけど、基本的に紫って打たれ弱いんだよね」

 ゲームではすぐに沈むので本当に苦労させられた。

 アロガンツが一歩踏み出すと、ブラッドが腹を立てた顔をしているのが見えた。話を無視しているのが気に入らないらしい。

 大丈夫……ちゃんと聞いていたし、お前の鎧の特徴は知っているから。

『……お前の態度に腹が立つ』

 そう言って胸部を閉じて戦闘の構えを見せたので、こちらも武器を取り出すことにした。

「えっと、一番のブレードを」

 すると、バックパックの収納ボックスから出てきたのはスコップだった。主に穴を掘るのに最適な剣スコだ。

 鎧用なので大きく、それなりの大きさがあるが……やはりスコップだ。

「あれ!?」

『前回、一番にはスコップを収納していましたね』

「ブレードを出せよ!」

『一番を指定したのはマスターです』

 こいつ絶対に分かっていてやっている。

 俺がスコップを構えると、観衆の笑い声が聞こえてくるのだが――ブラッドは舐められたと思ったのか激怒していた。

『貴様、そうやって僕を馬鹿にするのか!』

 闘技場に審判である教師の声が響く。

『両者、まずは決闘の誓いを――』

 だが、大きく踏み込み飛び出してきたブラッド。

 そんなブラッドは両手に持ったスピアを俺に向かって突き刺してくる。胴体狙い。思いっきり殺すつもりのようだ。

 スピアの先端が魔法の発生で光を帯びていた。

 ルクシオンは感心している。

『素晴らしい踏み込みです』

「お前は――」

 鎧を動かそうとすると、イメージ通りに動いた。重装甲な鎧が軽快に横へステップすると、そのままブラッドの腕を掴んで押さえつける。

『は、放せ!』

「はい、落ち着いてね。ほら、決闘の誓いがあるから。先に済ませないと色々と面倒だからちゃんとしようね」



 アンジェリカは、アロガンツの動きを見て冷や汗を流した。

 隣では鎧に関して何の知識もない素人のオリヴィアが手を握りしめ、リオンの応援をしていた。

「アンジェリカさん、リオンさん結構頑張れそうですね!」

 そんなオリヴィアを見て「あ、あぁ」と頷くしか出来なかった。

 ただ、内心ではあり得ないと思っていた。

(今の動きはなんだ? あれだけ重装甲な鎧があんなに軽快に動くというのか? あり得ない。いったいどんな鎧だ。重量があればあるだけ、持ち主の魔力を余計に吸い上げていくんだぞ)

 鎧のセオリーからいけばあり得ない重量。

 そして、一瞬の動きも驚きだが、そのパワーだ。片腕でブラッドの鎧を押さえつけたパワーはあり得ない。

(フィールド家が跡取りのために用意した鎧だぞ。ただの数合わせの量産品ではない。本物の騎士の鎧だ。それを……)

 闘技場の二人が決闘の代理人として誓いの言葉を述べる。

 死んでも恨まないというような誓いの内容。

 そんな言葉よりも、アンジェリカはリオンの鎧から目が離せなかった。

 周囲から声が聞こえてくる。

「なんだよ。早く始めろよ」
「俺、殿下に全財産を賭けたんだ。こんな儲け話ないよな」
「俺も実家から金を借りてきた!」

 観衆の多くはリオンが早く負けることを願っていた。

 中には借金をしてまで大量にユリウスたちの勝利に賭けた生徒もいる。男子も女子も、この機会に金を稼ごうとしているのだ。

 アンジェリカは笑みを浮かべた。

「アハ、アハハハ!」

 笑い出したアンジェリカに、オリヴィアが怯えるような視線を向けている。

「ど、どうしたんですか?」

「これが笑わずにいられるか。あの男は本当に酷い奴だよ」

 オリヴィアが言い返す。

「酷くありません! リオンさんは優しい人です!」

「そうだな。そうだった」

 適当にオリヴィアをあしらいながら、アンジェリカは思案した。

(だが、それなら何故私に味方した? 確実に勝てる見込みがあると判断したのは分かるが、今後を考えれば私に味方するのは下策だ。それが分からない頭ではないだろうに)



 ブラッドは焦っていた。

 狭い鎧の中、息を吐くと生暖かい息が跳ね返ってくる。

「なんだ、なんなんだよ」

 鎧の腕を見れば、握られた場所が指の形にへこんでいる。鎧の装甲は強度もあるが、そもそも魔法によって守られている。多少の攻撃では傷も付かない。

 付かないはずなのだ。

 それに――全く動けなかった。

 抵抗しようとしたのに動けず、相手は無理をしている様子がなかった。

 決闘の合図を待つ今、開始前は余裕は吹き飛んでいた。

「こうなればこいつを使うしかない」

 背中に背負った握る部分がないスピア――細長い円柱は、魔法で浮遊させて攻撃を可能とする兵器だ。

 魔法に関して高い適性を持つブラッドの奥の手だった。

 四本のスピアが四方から突撃させ、相手を突き刺す必殺だ。

『それでは両者――はじめっ!』

 決闘の開始と同時に背負っていたスピアを解放し、周囲に浮かせる。その数は四つ。

「四方からの同時攻撃に耐えられるわけが――」

 ブラッドがそこまで口にしたところで、ダークグレーの鋼の巨人が目の前に迫って来ていた。

 丁度、スコップを両手に持って大きく振りかぶっている姿が見えた。

「――へ?」



 金属のぶつかる激しい音が闘技場に響き渡る。

 開始と同時に突撃し、スコップで殴りつけたら闘技場の壁まで吹き飛んでいった。

「なんてパワーだ」

 圧倒的な機体性能の差は、相手が仕掛けて来る前に全てを終わらせてしまった。

 ただ、直進してスコップを叩き付けただけで、紫色のとんがり帽子は戦闘不能まで追い込まれている。

『これでも抑えましたけどね。魔法で動く鎧には感心しますが、見るべき技術はそこだけです。無駄に装飾が多くスマートではありません』

 ……こいつ、アロガンツが笑われたのを根に持っているだろうか? まぁ、製作したのはルクシオンだから、結構気にしているのかも知れない。

 俺は壁に激突してゆがんだ紫色の鎧に近づく。

 相手はなんとか動こうとしていたが、踏みつけた。

 ミシミシと音が聞こえてくる。

『や、やめっ! 苦しい――助けて!』

 相手の鎧はへこんだのに、スコップはまったくビクともしていなかった。このままスコップで戦うのも良いかもしれない。

 助けを求めるブラッドの声を無視する。

「ほら、潰しちゃうぞ。早く負けを認めないとね」

『圧倒的な力でねじ伏せる……流石はマスターです。卑怯という言葉がこれほど似合う方も滅多にいませんよ』

「……嫌味かよ」

『いえ、褒めています。勝負事で卑怯とは褒め言葉ですから。勝てると思わないと戦わない。私もそうありたいものです』

 ――そう、俺は勝てるから決闘に名乗りを上げた。

 右手にスコップを持って肩に担ぎ、紫野郎を踏みつける。

 ついでに言えばこいつらをぶん殴りたかったのも事実だ。前世の記憶が俺に言うのだ……面倒くさい野郎共をぶっ潰せ、と。

 徐々に踏みつける力を強めていくと、ブラッドの鎧の大事な骨格――基本フレームがゆがんだのか変な音が聞こえてくる。

「ほら、さっさと負けを認めないと死んじゃうぞ」

『認める! 負けを認めるから!』

 ブラッドを踏んでいた右足をゆっくり上げ、俺は振り返って闘技場を見た。ブラットが発射したスピアが闘技場の地面に突き刺さるか転がっている。

 闘技場の観客席は静まりかえっていた。

 俺は審判の方を見た。

「審判、ブラッドは負けを認めたぞ」

 その言葉に審判が俺の名前を叫ぶ。

「しょ、勝者! リオン・フォウ・バルトファルト!」

 パチパチと聞こえてくる拍手は、広い会場内で数人が行っているだけだった。

「数人拍手しているな」

 アンジェリカさんとオリヴィアさんなら理解できるが、それ以外にも数人が拍手をしていた。

 頭部のカメラが発見した人物の中には、教師である師匠が背筋を伸ばし堂々と拍手をしている。

 ……師匠ったらこんな時も紳士。
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