幕間 男子寮職員の日記
幕間を一本用意しました。
本編の方はもうしばらくお待ちください。
――今はきついっす。
夏休み。
男子寮で働く職員の一人は日記を付けていた。
○月×日。
学園は夏期休暇に入り、多くの生徒たちが帰省した。
普段の仕事が減ったのは嬉しいが、全員が帰省するわけではない。
実家に帰れない生徒も毎年存在する。
だが、今年は特に多い。
それよりも、また外道――違った。
バルトファルト伯爵が何かやったらしい。
留学先の国で暴れ回ったと聞いたが、あの人は本当に何をしているのだろうか?
噂ではアルゼル共和国に喧嘩を売ったらしいが、誰か嘘だと言ってくれ。
伯爵と親しい貴族様たちがアルゼル共和国に向かったとも聞いた。
もう、あの人はどこに行っても何かする。
出来れば戻ってきて欲しくないが、最近は男子寮の様子がおかしい。
特待生が多く入学した影響だろうか?
時折、丸い球体が浮かんでいるという連絡を受ける。
同僚たちも、夜中に青い一つ目を見たと騒いでいた。
止めてくれ。
俺は怖がりなんだ。
今度の夜勤の見回りは誰かに変わって欲しい。
○月△日。
――最悪だ。
夜の見回りで青い一つ目を見てしまった。
窓の向こうを覗いたら、反対側の建物の廊下を浮かんでいるように移動していた。
同僚も見た奴が増えている。
本気で神殿に頼んでお祓いをしてもらうべきだろうか?
みんなでお金を出し合う話が出ているが、これは学園にも報告するべきかもしれない。
それはそうと、何だか残った生徒たちが騒がしい。
アルゼル共和国と戦争にならなくて良かったと思っていたら、男子寮の幽霊騒ぎだ。
出来れば生徒さんたちには静かにして欲しい。
○月▲日。
――最悪だ。
夜の見回りで、男子寮にいないはずの女子を見た。
潜り込んだなんてあり得ない。
女子寮の方では、その日に抜け出した女子なんていないと言っていた。
それに、俺が見た女子生徒は学園に該当者がいなかった。
似たような女子生徒はいるが、帰省中で学園にはいないらしい。
では、俺が見た女子生徒は誰だったのか?
本当に勘弁してくれ。
少し背が高く、長い髪をしたスレンダーな女子生徒だった。
もしかして、男子寮に残った生徒が外から女を呼んだのだろうか?
だが、それなら制服姿はおかしい。
くそ――この男子寮、呪われているのか?
○月□日。
――俺はおかしくなったのかもしれない。
朝方の話だ。
掃除をしていた俺は生徒さんに声をかけられた。
だが、その相手がおかしい。
女子生徒だったのだ。
男子トイレを清掃中に、女子生徒が俺に挨拶をしてきたのだ!
――きっと疲れているんだ。
最近、アルゼル共和国から多額の賠償金を得たという噂が聞こえてくる。
バルトファルト伯爵が共和国で暴れ回ったらしい。
あの人、外国で一体何をやっているんだ?
一歩間違えば、共和国と全面戦争だったのに。
正直、留学してくれて助かったと思っていたが、これなら学園にいる方がマシなのではないだろうか?
だが、あの人がいると何故か問題が起きる気がする。
それよりも、あの女子生徒だ。
女子が嫌いな男子生徒と一緒に歩いていたように思うが、俺の気のせいなのだろうか?
○月◇日。
――もう嫌だ。
今日、男子寮に女子生徒がいると思って注意をしたんだ。
普段女子には興味もないグループがその女子を囲んでおり、異様な盛り上がりを見せていた。
不思議に思ったが、規則なので注意をしたんだ。
そしたら――。
「俺、アーロンだけど」
――だってさ。
ふざけるなよ。
普通にちょっと可愛いと思ったのに!
男って何だよ!
しかもアーロンって――今年入学した特待生じゃないか。
以前はもっと不良というか、少し怖い感じだったのに。
周囲の男子たちはアーロンを囲んで盛り上がっているし、聞けば夜中に女装をして歩くのが趣味になったとか何とか――お前かよ!
男子寮に出る女子の幽霊の正体が、まさかの女装男子だ。
可愛かったのが余計に腹立つ。
職員さんも一緒に、とか誘うな。
俺はお前らと違ってノーマルだ!
○月■日。
――ノーマルって何だ?
ここ数日、俺はおかしくなったのかもしれない。
毎回おかしくなったのかもしれないと書いているが、今日の出来事はショックだった。
あのアーロンが。
あの悪ぶったアーロンが――可愛く見えた。
下手な女子生徒よりもお淑やかとか、お前は一体どこに向かっているんだ?
それに、何やら化粧や美容に関することを勉強しているらしい。
男子だから男子寮から追い出せないのも問題だ。
残った男子生徒の多くが、アーロンに夢中になっている。
気持ちは分かる。
痛いほど分かる。
今まで酷すぎた女子生徒と比べれば、今のアーロンは理想の女子だ。
――男だけどな。
もう、性別以外はパーフェクトで、ノーマルの男子たちが「アーロンでよくね?」何て言っていた。
目を覚ませ。お願いだ、そっちにいかないでくれ!
――俺も揺らいでしまいそうだ。
○月◆日。
今日はみんなでアーロンの愛称を考えた!
少し前まで男だ、女だと小さいことに捕らわれていたのが馬鹿らしい。
さて、アーロンの愛称だ。
いつまでも可愛い姿でアーロンはいけない。
みんなで考えた結果――「アーレ」という愛称に落ち着いた。
アーロン。――アーレちゃんも感謝していた。
「みんなありがとう」
――あの笑顔は眩しかった。
学園の職員になって十年になるが、あんなに可愛い女子が男とかあり得ない。
いや、むしろ女でないからあの可愛さなのだろう。
周囲ではアルゼル共和国で色々とあったらしいが、俺たちにとって大事なのはアーレちゃんの愛称だ。
そんな周囲の雑音は無視だ!
また伯爵が何かやったらしいが、そんなのは関係ない。
大事なのは今、この瞬間だ!
○月○日。
――職場を異動になった。
男子生徒たちと仲良くしすぎたのが問題らしい。
もうアーレちゃんに会えないと思うと、何もする気が起きない。
上司にそう報告したら、
「――だから配置換えしたんだよ」
と、凄く冷たい目で見られた。
――意味が分からない。
クレアーレ(;○)「私の愛称とかぶっただと?」
ルクシオン(● )「――気になるのはそこですか? もっと重要な情報があったように思うのですが?」
苗木ちゃん( ゜д゜)?「え、何かおかしいの?」
苗木ちゃん(゜д゜)?「……?」
苗木ちゃん( ゜∀゜)「まぁ、どうでもいいわ。それよりも宣伝よ。乙女ゲーはモブに厳しい世界です一巻は好評発売中! セブンスは七巻が好評発売中よ。それになんと! ――セブンスは一巻から七巻まで待望の電子書籍になりました! モブせか一巻はもとから電子書籍も発売中だけどね。みんな買ってね!」
苗木ちゃん(*´∀`)「いっぱい売れたら私のおかげね」




