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乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 作者:わい/三嶋 与夢
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貴族の嗜み

 ホルファート王国の貴族は元をたどれば冒険者だった。

 そのため、冒険者というのは国が管理している立派な職業で、貴族たちも先祖に倣って一度は冒険者になる。

 学園でも普通、上級クラスに関係なく全員が冒険者ギルドで冒険者登録を行い、先祖の苦労を知るというありがたい授業があった。

 まぁ、理由はともかく、金のない貴族の子弟にとって冒険者家業は小遣い稼ぎになる。学園でも人気の授業で、休暇や長期休暇に冒険者として金を稼ぐ生徒たちは多い。

 親父も次兄も随分と冒険者で稼いだらしい。

 その金が女子とのお茶会などの交際費に消えていくと思うと悲しい限りだ。

 俺は金に困っていないが、それでもダンジョンと聞けばワクワクする。

 乙女ゲーの世界で、限りなく興味をそそられる中の一つだろう。

 ――の、はずだったのだ。

 五月半ば。

 一年生たちが冒険者となり、王都にあるダンジョンに挑もうとする日。俺は周囲を見て場違い感に悩まされていた。

「ダニエルもレイモンドも友達が困っているのに逃げ出しやがった。いや、俺も同じ状況なら逃げるけど。逃げるけども!」

 一般的な冒険者の装備に身を包んでいる俺の隣には、これまた一般的な冒険者の装備を身につけたオリヴィアさんが立っていた。

 俺に申し訳なさそうにしている。

「ご、ごめんなさい。アンジェリカさんがどうしても参加して欲しいと言うので」

 困っているオリヴィアさんを見る。

 いや、この人に文句を言ってもどうにもならないのは分かっているのだ。

 ダンジョンに挑む今日という日。

 俺はとんでもなく高貴なグループに回されていた。

 青い髪と瞳をした真面目そうな背の高いスマートな男は、どうやって身を守るのか分からないファッション性だけを追求した装備に身を包んでいる。

 腰には剣一本だけを下げている。

 攻略対象キャラで、真面目な前衛の剣士――いや、ゲーム的には剣豪と言うべきだろう。ホルファート王国の剣聖の息子【クリス・フィア・アークライト】。

 宮廷貴族の家柄。剣一本で成り上がった伯爵家の嫡男だ。

 対して、赤髪を逆立てたようなノースリーブ姿の筋肉質の男が槍を担いでいた。

 お稽古の剣術よりも実践主義だと言う荒々しい男は入学前からダンジョンに挑み、数多くのモンスターを倒してきた男だ。

 攻略対象キャラ。豪快な前衛で、実家は領主貴族の伯爵家だ。

 ノースリーブだが、金持ちのボンボンである。

 赤い髪に焼けた小麦色の肌はとてもお坊ちゃんには見えない。

 名前は【グレッグ・フォウ・セバーグ】だ。

 クリスとは馬が合わないというゲーム設定だったが、途中で友情イベントがあったと思う。ゲームを攻略するには必要ではないが、友情イベントはこなしていた方が後は楽だった気がした。

【ユリウス・ラファ・ホルファート】
【ジルク・フィア・マーモリア】
【ブラッド・フォウ・フィールド】
【クリス・フィア・アークライト】
【グレッグ・フォウ・セバーグ】

 この五人が攻略対象キャラ――主人公の相手になる五人である。

 ゲームでは、上から順番に黒、緑、紫、青、赤と覚えていたのが懐かしい。

 本来なら、ここにもう一人【カイル】というエルフの美少年が加わる。カイルは主人公が購入することになる奴隷――専属の使用人だ。

 本来なら身の回りの世話とか好感度を教えてくれる便利キャラで、戦闘では魔法を使ってサポートをしてくれる。

 可愛らしい弟ポジションらしいが、俺は主人公の小間使いにしか感じなかった。

 ちなみにホルファートでは、ミドルネームのラファが王族を示し、フィアが宮廷貴族の出身者で、フォウが領主貴族の出身である事を示している。

 五人が揃い、その取り巻きの中でも腕の立つ奴らが周囲を固めている。

 その中に俺とオリヴィアさんが混ざっている形だ。

 一つは五人の興味が理由。

 オリヴィアさんは特待生で、俺は実績を作った冒険者……学園側からすれば、俺にダンジョンで王太子殿下の護衛をさせたいのだろう。

 実家から連れてきた騎士や兵士を使うのは無粋とされるし、周囲も実家の力を利用したと思う。だが、俺のように同年代で実績が飛び抜けた奴がいれば、ただ一緒に行動しただけとか理由が付くらしい。

 よく分からないが、強い騎士や兵士を勝手に連れてきて貰っても困るので学生で問題を片付けているのだろう。

 学園側の思惑や、アンジェリカさんの推挙など色々と重なってこのような結果になってしまった。

 というか……今から入る場所は初級も初級だ。

 ここまで護衛を揃えるなど過保護すぎる。

 殿下もそれを気にしているのか少し嫌そうな顔をしていた。そう言えば、こういうのが嫌いだと主人公に語っていた気がする。

 周囲を探せば、殿下の婚約者であるアンジェリカさんもこのグループにいた。こういった所は男女平等だ。

 男女に関係なくダンジョンに入るのは決まっている。

 人数的には三十人くらいの集団。

 多い気はするが、今回はダンジョンを観光するような物だ。この人数でも問題ないだろう。

「それにしても、呼ばれた割には声もかからないな」

 俺が周囲を見ていると、オリヴィアさんが不安そうにしていた。

「こちらから声をかけるべきでしょうか?」

「どうかな? 出しゃばりと思われるだろうし、指示に従っておく方が良いかも」

 本音で言うなら、この中の誰かが主人公とくっつくのか気になるが、関わりたくないので距離を取っておきたかった。

 教師が全員を前に説明を開始する。

「それでは、班を作ってください。今回はダンジョンの地下二階に到達したら戻ってきて貰います。それ以上先には進まないように」

 班を作るとしても、三十人近くで移動する。

 怪我をしてはいけない殿下たちを中央にして、俺たちは一番前を歩くグループになった。まぁ、これは問題ない。

 ただ、班分けの際に問題が起きる。

「身の程を知れと言っている!」

 アンジェリカさんが怒気を孕んだ声は、ダンジョン内に響いた。

 全員が振り返ると、そこにはマリエの前にアンジェリカさんが立っていた。

 教師は若く、しかも公爵令嬢が相手とあってオロオロとしていた。

 様子をうかがうと、どうやら班分けで揉めたらしい。

 マリエは殿下の後ろに回る。

「アンジェリカ、もうそこまでにしておけ」

 庇う殿下にアンジェリカさんも言い返すのだった。

「殿下、この者のわがままをお許しになるのですか?」

 マリエは殿下の後ろでうつむいていた。殿下の袖を指でつまみ、可愛らしい仕草をしているが妙にイライラする。

「殿下、私……殿下と一緒が良いと思っただけです。迷惑なら断っていただいても構いません」

 マリエにアンジェリカさんが噛みつくように怒声を浴びせた。

「図に乗るな! お前と殿下とでは身分が違う。今まで大目に見てきたが、お前がそのような態度なら――」

 アンジェリカさんはよく怒っているイメージがあった。

 ソレはゲームでも同じだ。瞬間湯沸かし器、などと比喩されるようなキャラである。まぁ、主人公のライバルである悪役令嬢だ。

 短気で自分の美貌やら実家の権力を振りかざす痛い女をイメージされたのだろう。

 だが、このシーン……庇われるのは本来なら俺の隣にいるオリヴィアさんだ。オリヴィアさんの方は「ど、どうなっちゃうんですか!?」などと慌てているだけ。

 ……こっちは妙に可愛く見える。マリエとは大違いだ。

 どうしてこうなったのか考えるが、やはり原因は一つしかない。

「あのマリエって女、何かおかしくないか?」

 俺の言葉にオリヴィアさんが少し考える。

「そ、そういえば、最近は私よりいじめが酷くなりましたね。周りが言うには貧乏な子爵家の娘だとか噂されていましたけど」

 子爵家は男爵家よりも規模が大きいが、家によっては借金やら爵位に見合った領地を持っていたのは過去の話で、現在は領地が小さいという例はいくつもある。

 二人で話していると、周囲もアンジェリカさんに同調していた。

「婚約者の前であそこまですり寄るとかあり得ないよね」
「あの子、他の男子とも仲良くしていたよね?」
「信じられない」

 周囲の反応から察するに、マリエという女は主人公の立場を奪ったように思えた。オリヴィアさんに話を聞こうとすると――。

「いい加減にしろ!」

 殿下が大声を上げると、周囲の生徒たちも口を閉じた。

 アンジェリカさんが驚いた顔をしている。

「で、殿下?」

 殿下を庇うように前に出たのは、普段優しそうなジルクだった。アンジェリカさんの前に立ち、右手を横に出して殿下とマリエを庇う姿勢を見せていた。

「アンジェリカさん、あまり殿下を困らせないでいただきたいですね」

「困らせる? 私が困らせているというのか? 私は殿下のためを思って――」

 その言葉に噛みつくのは、暇そうにしていたグレッグだった。

 槍を担いで目を細めていた。

「そういう態度が迷惑だって言うんだよ。学園にまで外の関係を持ち込むな。見ていてイライラするぜ」

 有力貴族の跡取りの言う言葉に、周囲が言い返せずにいると殿下が教師に話しかけていた。

「申し訳ない。俺たちはここにいるマリエと組む。後は適当に編成してくれ」

 教師が慌てて何度も頷いていた。

「は、はい!」

 唖然とするアンジェリカさんだが、皆が見ていない中でマリエだけがニヤリと笑みを浮かべているのを俺は見逃さなかった。



 王都にあるダンジョンは、何というか……本当に廃鉱という感じだ。

 広い通路には等間隔で木の柱や梁が用意されている。

 時折、壁から出土する鉱石が出てくるのだが、それがダンジョンの宝でもあった。宝箱もいつの間にか置かれているようだが、その原因は究明されていない。

 きっとゲーム的な理由だ。

 深く考えても意味がない。

 オリヴィアさんが壁に埋まっていた鉱石を取り出している。

 見つけた鉱石は鉄か何か。そもそも、精錬されたような鉄が出てくるのもおかしい話だ。

「えへへ、見つけちゃいました」

 嬉しそうなオリヴィアさんだが、夢中になっている時に汗を手で拭ってしまったので鼻の頭に土が付いて汚れていた。

「おめでとう。こいつで百ディアは確実だな」

 重い金属の塊を受け取り、俺は荷物入れに放り込む。

 通貨単位は【ディア】と【ディル】。

 一千ディルで、一ディアだ。

 金貨や銀貨も存在しているが、お札や硬貨が存在しているのであまり見かけない。

 時折宝箱から出てくる質の良い金貨は、細工も凝っており一枚で一千五百から二千ディアの価値はあると聞いた。

 オリヴィアさんが周囲を見た。

「どうした?」

「いえ、あの……どうしてダンジョンにはこうした現象が起きるのかな、って。宝箱もあると聞きますし、なんだか変ですよね」

 そこに違和感を持ったら駄目な気もする。

 何しろ、王国を支えてきた資材と資金の宝庫だ。

「不思議だね。よし、先に進もう」

「ま、待ってくださいよ! 気にならないんですか、リオンさん?」

 俺は溜息を吐く。

「別に」

 オリヴィアさんが落ち込む。

「リオンさんが冷たい」

 随分と打ち解けたが……残念なことに彼女の出自は平民だ。いずれ聖女として認められた時は、手の届かない存在になる。

 そんな相手と結婚できないので、友人関係止まりだった。

 本当に惜しい。

 オリヴィアさんが貴族の娘なら告白しているところだ。本人の中身――心がとか、そんな甘い理由ではなく現実的に理想の相手だ。

 本人は離島の田舎育ち。将来は実家に戻ろうと考えているらしく、俺の実家でも問題なく暮らしてくれそうだ。

 本当に惜しい。

「落ち込んでいないでさっさと――おっと、止まった方が良いか」

 成り上がりと特待生。

 他の班員と上手くやれるわけもなく、二人で先行させられている訳だがかえって動きやすい。

 俺はオリヴィアさんを後ろに下げ、後ろ腰に下げた剣を抜く。剣というか幅広の刀だ。

 ルクシオンの奴が、日本人の魂なら刀が良いとか言い出した。使える物なら使ってみろというあいつなりの挑発に思えた。

 ……俺、別に侍の子孫でも剣道をやっていた訳でもないが、喜んで受け取った。

 ただ、あいつが作成した日本刀はファンタジーの刀である。

 似ているようで別物の気がする。

 オリヴィアさんが後ろで震えていた。

「あれが……モンスター」

 出てきたのはジャイアントアントだ。体長は七十センチから八十センチくらいの大きな蟻さんである。

 だが、その大きな顎に噛みつかれると大変なことになる。

 出てくる時は数も多く、ダンジョン内にはよく出現する。

 ダンジョンの掃除屋とも言われており、倒れた冒険者などをどこかに運ぶという噂だ。

「こういう通路だとライフルも使えないから面倒なんだよな」

 これでも田舎育ちで、親父には鍛えられてきた。

 将来はダンジョンで稼がなければいけないだろうから、戦い方だけは教えておくと言っていた親父を思い出す。

 きっと親父もダンジョンで苦労してきたのだろう。

 ジャイアントアントたちが俺たちを発見すると、次々に向かってくる。

 数は五体。

 まずは目の前の敵の首を切り落とす。

 黒い煙を出して消えていくモンスターだが、気にせず次の相手に攻撃を仕掛ける。

 ジャイアントアントは厄介な相手であるが、頭部と胴体などのつなぎ目は比較的もろい。

 顎やら頭部は多少頑丈なため、下手に斬りかかると弾かれてしまう。

 そのため、俺は弱点に斬りかかるようにしていた。

「はい、二体目! そして三体目、っと!」

 持っていた剣で次々斬り裂いていく。

 素早く横に回り込んで剣を振り下ろす作業を繰り返し、最後のジャイアントアントも首を切り落として無事に戦いは終了した。

 ゲームではターン制で相手の攻撃を受けるが、現実では位置取りを上手く活用すれば攻撃を受けない。

 ただ、ソレは相手にも言えることだ。

 囲まれたら本当に対処に困る。というか死ぬ。

 俺が剣を肩に担ぐとオリヴィアさんが近づいてきた。黒い煙を発し、消えていくモンスターたちを見て少し怖がっている。

「リオンさん、強かったんですね。あんなに怖そうなモンスターを次々に倒しちゃうなんて」

 確かにジャイアントアントはその見た目から女子には嫌われている。

 しかし、銃を使えば一発だ。当たれば、だが。

 そして倒し方を知っていれば相手もしやすい。

「弱点とか知っているからね。オリヴィアさんもなれれば簡単に倒せるよ」

 困ったような顔をするオリヴィアさんを見つつ、俺は剣を鞘にしまって先に進もうと提案するのだった。

「リオンさん、頼もしいですね」

「この辺は余裕だからね。それに雑魚しか出てこないし。あ、トラップには注意をしてね。よ~し、サクサク行こうか!」

 オリヴィアさんが複雑な表情をしているのが気になった。



 ユリウスたちがいるグループは、基本的に先行した班の後ろをついていく中盤の班だった。

 後ろにも班が存在しており、彼らは前後をしっかり守られている。

 ただ、入り組んで分かれ道もあるダンジョン内ではモンスターが飛び出してくることもあった。

 罠の類いにしても時に危険なものがある。

 地下へと進むダンジョン。

 地下一階や二階と言って気を抜けば死ぬことだってあるのだ。

 ユリウスは初めてのダンジョンと実戦に少し汗をかいていた。

 隣に立つジルクは、ユリウスを守ろうと緊張している様子がうかがえる。

 普段は嫌味を言うブラッドも口数が少なく、クリスも緊張からか剣の柄から手が離れていない。

 グレッグはダンジョンになれているが、このような学園の遊びレベルの冒険など興味もないのか暇そうにしていた。

 ユリウスは後ろにいる女性――マリエに気を使う。

「歩くペースは問題ないか?」

 少し不器用な台詞にも、マリエは微笑んでくれた。

「大丈夫ですよ、殿下」

 ユリウスにとってマリエは、王宮にはいないタイプの新鮮な印象を受ける女子だ。

 苦労してきた話も聞いており、庇護欲をそそられている。

 グレッグが舌打ちをしていた。

「マリエよりも王太子殿下様の方が心配だぜ。マリエは強いが、王宮育ちは貧弱でいけないな」

 その言葉にクリスが視線を細める。

「……粗暴な田舎者が良い度胸だ。だが、殿下に対する非礼は見逃せない」

 すぐにジルクが止めに入る。

「クリス君も生真面目ですね。今の私たちは学生ですから気にする必要はありませんよ」

 ゲラゲラとグレッグが笑った。

「これは失礼。だが、よくよく思い出してみれば領主貴族でも頭でっかちがいたな。俺が悪かった」

 誰のことを言っているのはすぐに分かる。

 ブラッドが額に青筋を浮かべていた。

 眼鏡の位置を正し、そして苛立った声で嫌味を言う。

「脳筋はすぐに腕力で物事を考える。マリエ、あの手の男に嫁ぐと苦労するぞ」

 マリエが苦笑いをしていると、ブラッドが言い返してきた。その慌てている様子は、マリエの誤解を解こうとしているようだ。

「おい、嘘は止めろ! マリエ、俺の所に来る女は苦労なんかさせないぜ。嫌味ばかりのブラッドの嫁になる奴は、細かすぎる性格に疲れるだろうけどな」

 二人が言い争いをしているのを、近くにいた護衛の班が聞いて気まずそうにしていた。

 ユリウスたちを守る班も存在しており、その中にはアンジェリカの姿もある。

 騒がしい集団。

 しかし、グレッグがすぐに槍を両手に持って構えると空気が一変する。

「……おい、全員警戒しろ。ジャイアントアントだ」

 全員が慌てて武器を手に取る。

 ダンジョン。特に通路では銃による同士討ちが怖い。

 そのため、銃に頼ってはいけない事になっている。

 護身用にジルクや女子が拳銃を持っているくらいで、男子は銃器の携帯を許されなかった。

 グレッグが少し焦る。

「数は……六体だな。脇道から出てきやがる」

 少し焦ったブラッドが苦々しい顔つきになっていた。

「先行した班は何をしていたんだ!」

 クリスは黙って剣を抜いていた。

 そして綺麗な構えを取る。

「脇道から来たのなら、先行する班は出会わなかったのでしょう。それにしても、六体とは数が多い。殿下、お下がりください」

 しかし、ユリウスは一度マリエに視線を向けると、一歩前に出て剣を手に取る。

(ここで情けない姿など見せられるものか)

 グレッグが口笛を吹く。

「いいね、殿下。それでこそ王族だ」

 戦う姿勢を見せるユリウスに呆れつつも、ジルクも拳銃を構えた。ジルクは銃の扱いに長けている。

 すると、後方にいたアンジェリカが――。

「何をやっているのですか! 殿下を守りなさい!」

 周囲にはユリウスたちを守るため、六人組が二組存在していた。本来ならモンスターの相手は彼らの仕事だった。

 だが、グレッグが怒鳴る。

「引っ込んでろ!」

 髪と瞳と同じ赤い装飾の付いた槍を振り回し、グレッグは飛び出すと護衛の生徒たちを押しのけて槍を叩き付けるように槍を振り下ろした。

 押しつぶされるジャイアントアントが黒い煙に包まれると、そんなグレッグを挟み込むように二体が迫ってくる。

 槍を持ち上げると、一体が斬撃により両断され、もう一体は炎に焼かれていた。

 見れば、剣を構えたクリスの姿。

「無駄の多い動きですね」

 その後ろでは杖を持っているブラッドの姿がそこにあった。魔法を放ったのはブラッドである。

「やっぱり脳筋だな。お前がいなければ三体同時に倒せたのに」

 直後、銃声が二発。

 頭部を撃ち抜かれたジャイアントアント二体が、黒い煙に包まれて消えていくところだった。

 ジルクの構えたリボルバー式の拳銃の銃口からは、白い煙が出ていた。

「気を抜きすぎですよ。――殿下」

 そうして残った最後の一体が向かう先は、ユリウスの所だった。

 アンジェリカが叫ぶ。

「何をしているのです! 早く殿下をお守りしなさい!」

 叫ぶアンジェリカにジルクが言う。

「少し見ておくのが良いでしょうね。アンジェリカさん、殿下は弱くありませんよ」

 狼狽するアンジェリカと違い、ジルクは落ち着いていた。

 ユリウスは駆け出すと両刃で幅広の西洋剣を振り上げた。

「はっ!」

 振り下ろされた一撃に、ジャイアントアントは頭部と胴体を斬り裂かれ、黒い煙を出して消えていくのだった。

 ユリウスは頬を汗が伝うのを感じ、手で拭うと震えている事に気が付いた。

 すると、後ろから駆けつけたマリエがユリウスの手を握る。

「殿下、大丈夫ですか?」

 ユリウスは握られたきゃしゃな手のぬくもりに安堵する。

(ホッとする。これが恋なのだろうか? いや、愛なのか?)

 ユリウスには、戦おうとすると止めに入るアンジェリカよりもこうして戦い終わった後に心配してくれるマリエの方が嬉しかった。

 アンジェリカが近づく。その時、マリエを押しのけるように追いやってしまう。

「殿下、タオルをお持ちしました」

 しかし、ユリウスにはそんなアンジェリカが煩わしかった。

「……必要ない。それよりも先に進むぞ」



 地下二階の入り口。

 地下一階から階段を降りたら地下二階なのだが、到着すれば今回の授業はおしまいだ。

 生徒が調子に乗って先に進まないように見張り役の教師が待っており、到着した俺とオリヴィアさんは用意された部屋で待つことになった。

 俺は担いできた荷物を見て笑顔になる。

「流石は王都のダンジョンだ。先行させられた時は、貴族のボンボン共はくたばれとか思ったけど大量に金属が手に入ったぞ」

 鉄、銅、その他色々だが、精錬後のような金属が土から出てくるなど流石はファンタジー世界だ。ありがたくて涙が出てくる。

 そして、その中には魔石と呼ばれる綺麗な結晶があった。

 オリヴィアさんが結晶を手に取って見ていた。

「宝石みたいですね。綺麗です。いったい何に使うんでしょうか?」

 俺は手に入れた宝の山がいくらで売れるのか計算しながら、魔石に関してのうんちくを語るのだった。

「え~と、これとこれで二百ディアになるから――あぁ、魔石? エネルギー資源だね。後は金属を鍛える時に釜に放り込むと良い感じに鍛えられるらしいよ。詳しくは知らないけどなんか凄い石だね。こっちは高値で売れるからどうでも良いけど」

 全体で五百ディアは硬い。

 先行して俺たちが手に入れたのだから、これは俺たちの物で良いだろう。金持ちのボンボンたちはどうせこの程度の宝は見向きもしない。

「これだけあれば二人で分けても茶会一回分に……ならないな。くそっ、もっと稼がないと」

 前回購入した茶器などはあるが、茶葉とかお菓子を購入すれば百ディア、二百ディアなどすぐになくなってしまう。

 落ち込んでいると、オリヴィアさんが話しかけてくる。

 どうにも意識が今後のことに向いてしまうので、対応がおざなりになっていた。

 だからゲーム的な知識や設定を口を滑らせ話してしまう。

「どうして魔石が出土するんでしょう? まだ金属は埋まっているから納得するんですけど、魔石が出てくる鉱山なんてありませんし、出てくるのはダンジョンだけと聞いていますから気になりますね」

「あ~、アレだよ。アレ。モンスターを倒すと魔力が放出されて土に溜まっていくの。それが魔石になるんだって」

「そうなんですか? 初めて聞いたんですけど? えっと、教科書にはまだ解明されていないって書いていましたよ」

「俺を信じろ。どこかで読んだ気がするから間違っていないはずだ。アレ? そうなると、宝箱も魔力が溜まって形になった物なのかな? 魔法というか、魔力って便利だよね」

 今度のお茶会はもっと相手に合わせた物にするべきか?

 そうなるとティーセットから購入しなおすべきになるが、今の未熟な俺では道具だけ凝った痛い状態にならないだろうか?

 くそ、お茶とはどうしてこんなに奥深いのだ。

 というか有名なティーセットが欲しい。

 日本の戦国武将が茶器を買い集めた気持ちが少し分かってきた。

 この世界のお茶会は茶道に通じるものがあるとみた。

 俺が真剣に考えていると、オリヴィアさんが俺の顔をのぞき込んでいた。

「……何?」

「リオンさん、物知りなんですね。私、驚いちゃいました」

 物知り? ソレは違う。

 大体、第二の人生なのに学園の入学テストでは平均七十点台の中の上という位置付けだ。

 優秀な生徒なら他にもゴロゴロしている。

 だが、褒められると嬉しいので喜んでおく。

 俺は小さい人間なのだ。だが、そんな自分が嫌いではない。

「そ、そう? 分からないところがあるなら教えてあげようか?」

 そう言うと、オリヴィアさんが満面の笑みを浮かべる。

「はい、お願いします!」

 まぁ、結婚相手を探す合間に勉強を見るくらい問題ないだろう。
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