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脳筋

「これで、三十ぅぅぅ!」


 アルカディアの通路で槍を振るうグレッグは、次々に押し寄せてくる帝国の鎧を前に息を切らしていた。


「きりがねーな」


 隣で戦っているユリウスも、グレッグの意見に同意してくる。


『そうだな。だが、リオンの邪魔をさせるわけにはいかないからな』


「フィンのことか? 俺はリオンと戦わせたくなかったけどな」


 グレッグは、リオンとフィンが友人であるのを知っている。


 だからこそ、戦わせたくなかった。


 ただし、ユリウスの意見は違う。


『あいつがあそこまで覚悟を決めたんだ。止めるのは野暮というものだ』


「――そうだな」


 二人の後ろに控える無人機が、背負っているコンテナから交換する武器を取り出していた。


 グレッグはボロボロの槍を放棄して、新しい槍を受け取る。


「よし、次は――ん?」


 すぐにその場を飛び退くと、天井から一機の魔装が降りてきた。


「こいつら、自分たちの要塞にボコボコ穴を開けすぎなんだよ」


 魔装をまとっている騎士は、酷くボロボロだった。


 ここに来るまで無理をしてきたのだろう。


 相手も槍を持っている。


『この敗北者の末裔共が。大人しく滅んでおけばいいものを』


 相手が槍を突き出してきたので、グレッグは受け止めて距離を詰める。


「諦めが悪いのが取り柄でね」


 軽口を叩きつつ、グレッグは相手の強さを感じ取る。


(こいつ強いな。そんな奴が無理をしてここまで来たとなると、かなり焦っているって証拠か?)


 相手もグレッグの強さを感じ取ったようだ。


『若いな。機体性能に頼りすぎているところも、槍の腕前も!』


 相手の言う通りだ。


 グレッグよりも、魔装をまとっている騎士の方が強かった。


(こいつ、俺よりも強いな。だが!)


「悪いな。機体性能に頼らせてもらう」


 腕に仕込んだマシンガンを撃てば、相手は被弾しながらも下がった。


『隠し武器か! 姑息な真似を!』


「あんたに勝つためなら、どんな手でも使ってやるよ。俺は――俺たちは負けられないんだよ!」


 グレッグの槍が赤くなる。


 刃が熱を持ち、その部分が赤く光っていた。


 槍を振り回し、そして相手が受け止めるとその部分が溶けていく。


『くっ!』


 受け止めるのは危険と判断した敵は、一度距離を取ってから近付いてきた。


 槍を突き出してくる。


「そんな丸分かりの――」


 だが、敵は持っていた槍を囮にして――魔装の先端の鋭い尻尾部分を伸ばし、グレッグを貫こうとする。


 コックピットに尻尾の先端が迫ると、すぐにグレッグは左腕を犠牲に攻撃を防ぐ。


『見事だ。だが、これで終わりだ!』


 身動きが取れないグレッグに、敵は槍を突き刺そうとする。


「この程度で、驚いてやれるかよ!」


 コックピット内で、操縦桿のトリガーを引く。


 すると、鎧のバックパックに取り付けたコンテナから、杭が何本も発射された。


 その杭に貫かれ、敵がグレッグから離れる。


『く、くそ。その機体さえなければ』


 相手は悔しそうに倒れている。


 グレッグはその言葉を認めるのだった。


「そうだな。あんたは俺よりも強かったよ。俺が勝てたのは、機体性能のおかげだ」


 相手は笑っていた。


『認めるとは潔いな。やっぱり、若さか――』


 動かなくなった敵から、襲いかかってくる敵に視線を移す。


 魔装をまとう騎士が倒されても、帝国兵の士気は思ったよりも落ちなかった。


『この敗北者が!』


 襲いかかってきた敵の鎧を槍で貫き、蹴り飛ばすと槍を手放した。


「本当に数が多いな」


 ユリウスがグレッグに武器を渡してくる。


『すまない、フォローが遅れた』


「気にするな。邪魔が入らなくて助かったぜ」


 グレッグは、先へ進んだリオンが気に掛かる。


(リオン、ちゃんと戻って来いよ)



 ルクシオンが自動操縦を行うアロガンツは、アルカディアの動力炉へと到達した。


 動力炉はアルカディアの中心部に、柱のような形で存在していた。


 部屋もそれに合わせて、円柱の形をしている。


 黒い柱に、何本もの赤いラインが血管のように張り巡らされている。


 それがまるで鼓動しているかのように、弱く、そして強く光を繰り返していた。


『これが動力炉――魔素を生み出す装置ですか』


 旧人類が、長年到達できなかった場所に足を踏み入れることが出来たのだが、ルクシオンにはそれよりも気になることがある。


『マスター、気分はいかがですか?』


「最悪だ」


 即答するリオンは、汗が噴き出ていた。


 強化薬を使用したおかげで、随分と体に負担がかかっていた。


 中和剤を使用し、他にも色んな薬を使用してようやく会話が可能になってきた。


『先程まで意識が朦朧(もうろう)としていましたので、それを考えると十分ですね』


「あぁ、おかげで大事な場面に間に合った」


 リオンが操縦桿を握りしめると、アロガンツはコンテナを開放してミサイルを発射する。


 後ろに控えていた無人機たちも同じように攻撃を開始すると、動力炉は自動的にシールドを展開して攻撃を防いだ。


 リオンが眉間に皺を寄せる。


「簡単に終わらせてくれないか」


『接近して攻撃することを提案します』


 シールドを突き破れば、問題なく破壊できるだろう。


 動力炉自体が、そこまで頑丈に作られてはいないはずだ。


 たとえ作られていたとしても――アロガンツなら破壊できる。


「分かった。その前に補給だな」


 武器を使い果たしたので、リオンはコンテナを交換するため振り返った。


 アロガンツはコンテナをパージして、受け取る体勢に入る。


 無人機たちが背負っているコンテナの一つを受け取ろうとすると、ルクシオンが緊急回避を行う。


『マスター、敵です!』


「このタイミングでかよ!」


 無人機たちが燃やされ、そして爆発していく。


 全て破壊されてはいないが、それでも敵がいる中でコンテナの交換は難しい。


 それに、相手が悪かった。


 ルクシオンは聞き慣れた声を拾う。


『よう――久しぶりだな』


 円柱状の部屋――その上から降りてくるのは「ブレイブ」だった。


 フィンが鎧としてまとっている姿で、他の魔装よりも一回りほど大きい。


『ブレイブ』


 リオンが笑みを見せていた。


「会いたかったぜ、フィン!」


 そう言いながら、リオンは全速力で下がってバックパックを受け取ろうとしていた。


 アロガンツは機体構造上、推進力を生み出すノズルなどはバックパックに取り付けている。


 浮かぶことは出来ても、バックパックがなければスピードが出ない。


 ただ、フィンもそんなリオンの考えを読んでいた。


『俺もだ――リオン!』


 無人機たちがアロガンツにバックパックを渡そうとすると、フィンがその邪魔をする。


 火球を放ち、無人機たちを破壊していくのだ。


「邪魔しやがって!」


『俺はお前を高く評価している。だから、手なんか抜かない!』


 迫り来るフィンのブレイブに対して、ルクシオンは計算を続けていた。


『マスター、準備が出来ました』


「俺の相棒も頼りになるね」


『当然です。ブレイブと比べないでください』


 そんな二人の会話を聞いていたブレイブが、腹を立てるのだった。


『言ったな! 俺と相棒のコンビが最強だって教えてやるよ!』


 今まで下がっていたリオンだが、立ち止まると無人機たちもフィンに向かってコンテナの開口部を向けた。


「逃げてみろよ、フィン!」


 リオンの言葉を合図に、コンテナから次々にミサイルが放たれる。


 無人機たちが持つ武器も使用され、持って来た弾薬を撃ち尽くすような勢いだった。


 広いとは言え、鎧同士が戦うには狭い通路だ。


 フィンはすぐに左腕を前に出すと、盾の形に変えて受け止める。


 そして吹き飛ばされた。


 アロガンツは、そのまま床を駆けてフィンを追い抜く。


『その程度でどうにかなると思ったのか、リオン!』


 フィンが振り返って剣を振り下ろしてくると、戦斧で受け止めたリオンはその体勢を維持する。


「これでどうにかなるんだよ!」


 ルクシオンは後方を注視した。


『来なさい――シュヴェールト』


 破壊された無人機たちの残骸の中から、バックパックの一つであるシュヴェールトが浮かび上がり飛んでくる。


 元はエアバイクという空飛ぶバイクだったが、ルクシオンに魔改造されて今はルクシオンのバックパックになっていた。


 まるで飛行機のようなその姿が、ルクシオンの背中に近付くと合体するためスピードを落とした。


 ブレイブが攻撃しようとすれば、アロガンツが押さえ込む。


 リオンが焦っていた。


「アロガンツがパワー負けしているじゃないか」


『合体すれば出力が上がります。それまで耐えてください』


 フィンとブレイブも焦っている。


『あのバックパックは? まずい、黒助!』


『やっているよ! でも、こいつが邪魔で――くそ!』


 アロガンツの背中にシュヴェールトがドッキングすると、ルクシオンはすぐに行動を開始するのだった。


『出力上昇。いつでもいけます』


 リオンが操縦桿を押し込む。


「おらぁぁぁ!」


 アロガンツのツインアイが赤く光り、ブレイブを突き飛ばした。


 シュヴェールトの装甲がスライドして開き、そこに並べられた丸いレンズからレーザーが放たれてブレイブに襲いかかった。


 フィンはアロガンツから離れ、盾を前にして後退する。


 それを見たリオンは、背中を見せると全速力で動力炉の方向へと向かった。


『ま、待て! っ! こいつらぁぁぁ!』


 残っていた無人機たちが、フィンにしがみついて邪魔をする。


「悪いな。お前と遊ぶのは後だ」


 ヘラヘラしているリオンだが、冷や汗をかいていた。


『マスター、このまま動力炉の破壊を優先します。今戦うのは危険です』


「分かっているさ」


 薬の影響で本調子ではないリオンは、苦しそうにしていた。


 目を細めている。


 後方で爆発音が聞こえてくると、ルクシオンは即座に計算するのだった。


(思っていたよりも早くこちらに追いつきそうですね)


 シュヴェールトを得たことで推進力は増しているが、それでも向こうは魔装だ。


 ブレイブは過去にネームドだったこともあり、優秀なのは間違いない。


(先に動力炉を破壊してしまえば、マスターがフィンと戦うこともない。そうすれば、薬の使用も――必要ない)


 ルクシオンが気にかけているのは、リオンが薬を使用することだけだ。


 リオンが無事に生還することを考えている。


 だが、そんなルクシオンの願いも虚しく――ブレイブが迫ってきていた。


『リィィオォォンッ!』


 ルクシオンはすぐにブレイブの能力を修正する。


(予想よりも早い。このままでは――)


 追いついてきているフィンを見たリオンは、ルクシオンに命令するのだった。


「ルクシオン――投薬だ」


 リオンに命令されているルクシオンは、投薬を拒否できなかった。


(こんなにも早く二度目を使用するなんて)


『――了解です、マスター』


 リオンの背中のバックパックから、強化薬が打ち込まれる。


 そしてリオンが苦しむのを見て、ルクシオンは思うのだ。


(私ではどうすることも出来ない)


 リオンが苦しみから解放されると、顔を上げた。


 二度目の投薬で、すぐに目から血が流れてくる。


(使用する間隔が短すぎる。このままでは、三度目の投薬ではマスターの体がもたない)


 リオンはアロガンツを振り返らせ、そのまま後ろに飛びながらブレイブを攻撃するのだった。


 レーザーがブレイブを襲うが、フィンもそれらを器用に避けていく。


 その動きを見て、ルクシオンが気付く。


(まさか、あちらも同じ事を?)


 予想以上の性能を見せるブレイブだが、フィンがリオンと同じように投薬を行っているのなら辻褄が合う。


 フィンとブレイブの音声を拾う。


『相棒! 無茶をするな!』


『ここで無茶をしないで、いつ無茶をするんだ! ミアの未来のためなら、これくらいのこと!』


 フィンも強い薬を使用しているようだ。


 リオンも話を聞いて事情を察したようだ。


「お前もドーピングか? 気が合うな、フィン!」


『――お前もかよ!』


 互いに笑っているようだった。


 ルクシオンは、この二人が戦うことになって後悔する。


(――過去のことさえなければ、マスターは友人と戦うこともなかったのでしょうか?)


 それは、自分がリオンの負担になってしまったという後悔だった。


 通路を抜けて、再びアロガンツは動力炉のある部屋へと出る。


 すぐにシュヴェールトのレーザーで攻撃を行うが、動力炉は魔法でバリアを張って攻撃を通さなかった。


「シュヴェールトでも駄目か」


『――はい。ですが、接近して攻撃するのは難しいと判断します』


 大剣を抜いたブレイブがアロガンツに迫っていた。


 アロガンツも、シュヴェールトから大剣を引き抜いてブレイブの攻撃を受け止める。


『させない。ミアの未来は――誰にも奪わせない!』


 フィンの決意を聞いて、リオンも()える。


「こっちも大事な姪っ子の命がかかっているんだ。退けるかよ!」


 姪っ子――前世の姪であるエリカのことだ。


 だが、ルクシオンは知っている。


 リオンが戦っている理由は、別にエリカだけのためではない。


 エリカだけなら、リオンはどこか安全な場所に移住させて終わらせていた。


 口では色々と言っているが、これから王国で生まれてくる子供たちのためである。


 普段のリオンなら「そういう正義感って信用できないんだよね」などと軽口を叩くだろう。


 だが、リオンはその態度からは分からないが、人一倍優しかった。


(――マスター)


 ルクシオンが求めていたのは、新人類を滅ぼしてくれるマスターだ。


 それをここに来て、リオンが叶えてくれた。


 それがルクシオンには、とても悲しかった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ルクシオンの望みがルクシオンの望まない形で叶うのが最高に悲しくてエモい
[一言] ドーピングは上手い表現だよなあ、機体自体は壊さなくても、パイロットが無事では済まないと描写することで、戦闘が茶番にならないようにできる。
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