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バルトファルト姉妹

 混乱する王都。


 学園から逃げ出す人々の中には、ジェナとフィンリーの姿もあった。


「何で学園に来るのよ。ここ、避難場所よ。何が目的なのよ」


 重要施設は他にもあるのに、敵が何を考えているのかジェナには分からなかった。


 ジェナは、フィンリーの手を握りしめ、人の流れの中を進んでいく。


 フィンリーは後ろを振り返りながら、上空を見上げるのだった。


「ニックス兄さんの船、大丈夫よね? あれ、リオン兄さんが作った新型だから、簡単に沈まないのよね? ねぇ、姉さん!」


 遠くに見える化け物に向かって砲撃しているが、その効果はなかった。


 化け物に近付いた飛行船が破壊され、落下して王都を焼く。


 そして、火球がいくつもニックスの乗る飛行船に襲いかかり、爆発を起こした。


「姉さん!」


「黙りなさい! 今は逃げることだけ考えて! 私たちは――何も出来ないのよ」


 ジェナも悔しそうにしていた。


 フィンリーは、ジェナの手が震えていることに気が付く。


(これが戦争なんだ)


 自分たちには縁のない世界だった。


 男は戦場に出ても当たり前だと教わってきたが、こうして体験すると凄く恐ろしい。


 逃げているだけでも恐怖なのに、敵と戦うなどフィンリーには考えられなかった。


「――ニックス兄さん」


 炎に包まれる飛行船から目をそらした。


 ジェナが涙を拭っている。


 すると、人混みの中からジェナとフィンリーに手が伸びてきた。


「見つけた」


 フードをかぶった女は、フィンリーに銃を突きつける。


「ついてきなさい」


 フードをかぶった女の声を聞いて、ジェナが目を見開いて驚く。


「あんた――メルセ」


「久しぶり。元気だった?」


 フィンリーは銃を突きつけられ、脚が震えてしまった。


(な、なんで、メルセ姉さんがここにいるのよ)


「――ついてきなさい。逃げたらためらわず撃ち殺すわよ」


 ジェナは奥歯を噛みしめると、フィンリーと一緒にメルセに連れて行かれるのだった。



「くっ!」


「きゃっ!」


 二人が連れ込まれたのは、学園にある倉庫の一つだった。


 授業で使用する道具が置かれた倉庫内には、ボロボロのドレスに身を包んだゾラの姿があった。


 持っている扇子も、随分と傷んでいる。


 痩せこけて不健康そうな顔をしていた。


「お母様、連れてきたわよ」


 メルセがそう言うと、二人を蹴り飛ばした。


 二人とも手を後ろで縛られている。


 ゾラは二人を見下ろすと、足でフィンリーの頭部を踏みつけた。


「痛い!」


「黙りなさい。あの妾の子というだけでも腹立たしいのに、今はお前たちがメルセやルトアートを押しのけて本妻の子だなんて――王国は間違っているわ」


 フィンリーはゾラを睨み付けるのだった。


「はぁ? あんたが父さんの子を生まなかったからでしょう? やることが全部汚いのよ。追い出されて当然じゃない!」


「この糞ガキが!」


「っ!」


 ゾラが何度もフィンリーを踏みつける。


「バルカス程度の男に、私が本当に相応しいと思っているの!? あいつは、私の言う通りに金だけ出しておけばよかったのよ! それを、あの穀潰しのリオンを好き勝手にさせるから!」


 踏まれて苦しむフィンリーを見て、ジェナは慌ててゾラの意識を自分へと向けるために口を開いて挑発する。


「穀潰しはあんたたちじゃない! あんたらが、うちに何をしてくれたっていうのよ!」


 ゾラが額に青筋を浮かべ、ジェナに蹴りを入れた。


「何をしたか、ですって? そんな事も分からないの! 私は“バルカスと結婚してやった”のよ! そのおかげで、お前らは貴族として扱ってもらえたのよ。それすら分からないから、田舎のガキは嫌いなのよ!」


 王国が女性優遇をしていた頃は、身分に釣り合わない女性との結婚は白い目で見られていた。


 バルカスが、リオンたちの母親であるリュースを嫁に出来なかったのもこれが理由だ。


 フィンリーがジェナを見る。


「姉さん!」


 ジェナは、小声で言うのだった。


「フィンリー、あんたは黙っていなさい」


 そして、ジェナはゾラを煽るのだった。


「もう時代が違うのよ。あんたたちは、もう貴族じゃないの。そんなことも分からないの?」


「黙れぇぇぇ! すぐに貴族に戻って、今度はお前たちを処刑してやるわ! バルカスの前にお前たちの首を並べて笑ってやるのよ! 私を裏切ったからこうなったとね!」


「馬鹿じゃない。先に裏切ったのはあんたよ!」


 ジェナがゾラに蹴られ、それを見ているフィンリーは涙目になる。


 メルセは笑っていた。


「いくら強がっても駄目よ。外を見ていたでしょう? ルトアートがあんたたちの兄弟を殺してくれるわ。散々好き勝手にしてきた報いを受けるのよ」


 フィンリーは、鬼の形相でジェナを蹴り続けるゾラと、それを見て楽しそうに笑っているメルセを見て思うのだ。


(何なのよ。なんでこいつら、こんなにおかしいのよ)


 二人を見て、フィンリーは恐ろしくなるのだった。



 炎に包まれた飛行船。


 ニックスは目を閉じていたが、いつまでも無事なことに違和感を覚えて目を開けた。


 すると、目の前にはコンテナを背負ったアロガンツの後ろ姿が見えた。


「リオン!」


 振り返るリオンは、アロガンツにサムズアップをさせる。


『兄貴、待たせたな。ここは俺が引き受ける。いや、ここは俺が食い止めるから先に行け、かな?』


 何を言い出すのかと思ったが、これがいつものリオンだ。


「相変わらず訳の分からないことを言いやがって! 遅いんだよ」


『これでも急いだんだよ。それより、本当に下がってくれ。こいつはちょっと厄介らしい』


 アロガンツがルトアートを見ると、相手も気が付いたようだ。


 ルトアートが震えている。


『リオン。リオン、リオン! りおぉぉぉん!!』


 長い両手を振り回し、周囲にある建物に当たり散らしていた。


 ニックスはすぐに命令する。


「このまま後退! 俺たちは救助を優先する!」


「了解!」


 ニックスの指示に部下たちが答え、飛行船が動き出す。


 アロガンツから離れていく途中で、ニックスはその隣に並んだ鎧に気が付いた。


(何だ? アロガンツの同型か?)


 やけに刺々しいアロガンツの姿。


 またリオンが作ったのかと勘違いしてしまうほどに、二機は似ていた。



 ニックスが去って行くのを見届け、俺はかんしゃくを起こして暴れ回る化け物を見た。


「どうしてルトアートの声がするのかな?」


 コックピット内で呟けば、ルクシオンが即答してくる。


『王都に持ち込んだ魔装の一部を使用したのが、ルトアートでは?』


「あいつも使えたのか? というか、ルトアートってそんな重要人物だったのか?」


 魔装の一部を使用するくらいには、決起した連中に認められていたのだろうか?


 そう思っていると、隣に浮かんだアロガンツの偽物のような姿をしたフィンと黒助が話しかけてくる。


『――コアのない魔装は、制御できずに暴走する。そして、使用者の命を奪う。言い方は悪いが、お前の兄さんは捨て駒に使われたな』


『命を奪われていないのを見るに、ドーピングでもしたのか? 醜く膨れ上がりやがって、見ていられないぜ』


 黒助の方は、どうやらお仲間のなれの果てを悲しんでいるように感じられた。


 そして、二人の姿だが――ついに思い出した。


「フィン、その鎧は課金アイテムか?」


『ん? あぁ、そうだろうな。俺は購入したわけじゃないが、運良く見つけられたんだ』


 黒助が自慢してくる。


『相棒との出会いは運命だ! 課金アイテムとか、前世とか関係ない!』


 ルクシオンの方は態度が冷たい。


『とんでもないゴミを拾ってしまいましたね。フィンには同情しますよ』


『てめぇ、もういっぺん言ってみろ!』


 騒ぎ出すルクシオンと黒助だが、どうやらルトアートの方が我慢できなくなったらしい。


『リィィィオォォォン!!!!』


 俺に向かってくるのだが、フィンの方もアロガンツに似ているために戸惑っていた。


 俺たちのどちらを攻撃するか悩んでいる。


 すぐに散開して、ルトアートの意識をそらすとコンテナからライフルを取り出す。


「倒すしかないんだな?」


 フィンに確認すると、肯定するのだった。


『ここまで浸食されたら、もう無理だ。戦うのが嫌なら、止めは俺が刺すぞ』


「勘違いするな。倒すしかないなら、喜んで倒したい相手だ。それと、こいつは元兄さん。しかも偽物だ。家族じゃない」


 そう言うと、フィンは空中で触手に襲われるが、それらを華麗に避けて大剣で斬り裂いていた。


『複雑だな。問題ないならいいが、気を付けろよ』


 刺々しいアロガンツは、前世で俺が購入した課金アイテムに似ていた。


「そうする。それにしても――ようやく見つかったな」


 どこにあるのかと思ったが、まさかフィンが手に入れているとは思わなかった。


 ブレイブ――確か、そんな名前だった気がする。忘れていた。


 ルクシオンが俺に指示を求めてくる。


『マスター、敵の魔装が魔法攻撃を準備しています。ミサイルの使用許可を求めます』


「ぶちかませ!」


 コンテナの一つが開くと、そこからミサイルが次々に発射されてルトアートに襲いかかった。


 全てルクシオンにコントロールされ、体中にある眼球に命中して炎に包み込む。


『ギャァァァ!!』


 叫ぶルトアートに、俺は怒鳴るのだった。


「ルトアート、てめぇにはこれまでの恨みもあるからな! 心置きなく叩き潰してやるよ!」


『その勢いであの黒いのも灰にしませんか?』


「――却下」


 ルトアートが手を伸ばすと、伸びて俺に襲いかかってきた。


 俺を捕らえようとしてくるので、ライフルで撃ち抜く。


 しかし、撃ち抜く程度では動きが止まらない。


「厄介な」


『効果が薄いですね。武器の変更を提案します』


 距離を取ると、フィンが俺の方にやって来て大剣でルトアートの腕を切断する。


 空から真下に急降下して、その後すぐにもう一本の手も斬り裂いた。


『油断するなよ。銃を使うなら、こいつの中にいる操縦者を狙わないと意味がない。もしくは、吹き飛ばすか、だな』


 随分と魔装との戦いになれているようだ。


「こんなのと何度も戦ったのか?」


『こいつで六度目だな。お前は初めてか?』


「いや、以前に一回だけある」


 黒騎士の爺さんとは、違った面倒くささがあるな。


『ないよりマシだな。援護を頼むぞ』


「任せろ。ルクシオンが狙いを外さない限り大丈夫だ」


 すると、すかさず黒助が会話に割り込んできた。


『そいつが一番信用できないけどな! 相棒、俺たちだけで倒そうぜ』


 ルクシオンが苛立っている。


『お前など不要です。マスター、我々だけで倒しましょう』


「変に張り合うなよ」


 操縦桿を握り直し、ペダルを操作してアロガンツを空中で一回転させる。


 新しい腕が生えてきたルトアートは、手を振り回して俺たちを叩こうとしている。


 触手が襲いかかってくるので、コンテナから取り出したアックスで切り払った。


「吹き飛ばすには、ミサイルじゃ足りないか」


『本体の使用許可を求めます』


「被害出るから却下だ。――シュヴェールトを出せ」


 すると、上空で待機していたルクシオンの本体からシュヴェールトが射出された。


 コンテナをパージすると、空中でシュヴェールトと合体する。


『うおっ! 合体した!』


 ちょっと興奮気味のフィンが面白い。


 こいつも男の子だな。


「いいだろ」


『合体は浪漫だよな。――さて、準備はいいか?』


 シュヴェールトから大剣を引き抜き、構えるとルトアートの向こうのフィンも構えていた。


 醜い姿で叫んでいるルトアートを見る。


「ルトアート、助からないならせめて解放してやる」


 俺の言葉に、ルクシオンは皮肉を言う。


『お優しいことですね。ご兄弟として何かいい思い出でも?』


「ない。ま、憎んでいても、殺したいとは思わないからな」


 アロガンツがブースターを噴かし、速度を上げてルトアートに突っ込む。


 反対側のフィンも同様だ。


 ルトアートを挟み込み、向かい合って突撃して――大剣を振り抜く。


 そして、ルトアートが空中で黒い液体を噴き出すと、方向を変えてまた突撃する。


 俺とフィンで、ルトアートを切り刻んでいた。


「ルクシオン、あいつの弱点は?」


『シンプルに頭部です。そこにルトアートと思われる反応がありますね』


「――そうか」


 暴れ回るルトアートの目の前にアロガンツを移動させると、人の顔が恐怖で歪んでいた。


『どうしてだ。どうして私は――私の方が偉いのに! 私は侯爵だ! 全ては私が手に入れるべきなんだ! 地位も、名誉も、財産も! そして女も!』


 混乱しているようだ。


 黒騎士の爺さんと同じだな。


 大剣をそんな人の顔に突き刺した。


「ルトアート、お前はやり方を間違えたな」


『リオォォォン!』


 ルトアートが叫ぶと、ルクシオンがさっさと終わらせるように呟く。


『インパクト』


 大剣が赤く染まり、ルトアートがまるで沸騰したようにボコボコと泡を出して弾けた。


 黒い液体が周囲へと飛び散ると、アロガンツにもベタベタした液体が張り付く。


『マスター、何者かが接近してきます。どうやら、魔装の破片を回収するのが目的のようです』


「ラーシェルの連中か?」


『――また、学園からの報告です。マスターの姉君、妹君が囚われているそうです。犯人はゾラとメルセの二人ですね。姉君が暴力を受けていますよ』


「――は?」


 それを聞いていたフィンが、俺に声をかけてきた。


『リオン、お前は姉妹を助けにいけ。魔装の破片は俺たちで潰しておく』


『俺様の仲間を利用されてたまるか!』


 この場はフィンに任せるとして、俺とルクシオンは学園に向かうことにした。


「た、頼む」


 しかし、よりにもよってゾラとメルセかよ。


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― 新着の感想 ―
兄弟喧嘩につついて姉妹喧嘩、けじめはつけられようとし時ですね、。
[一言] おまら姉妹全員目くそ鼻くそじゃねーか(笑)
[一言] 二人ともカッコいい!!アニメ化希望
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