幕間 短期留学
皆様、お元気でしょうか?
私――リオン・フォウ・バルトファルト侯爵は、今日も必死に生きております。
現在、ホルファート王国から短期留学という名目で追い出され、外国の学園に通っています。
外国って不思議ですね。
何だか、空気の匂いが違う気がします。
それよりも、国を救った英雄を留学という名目で追い出し、婚約者がいるのに単身赴任みたいな扱いをする王国が許せません。
このまま反逆してやろうかと思いつつも、王国を打ち倒してもその後が面倒だからと思い留まっております。
自分の優しさと忠誠心、そして清廉潔白なところがここに来て足を引っ張っている形ですね。
国を滅ぼしても、新しい国を建国するとか面倒ですとか、そんなことばかりを考えているのではありません。
王国と戦えば、大勢の人たちが血を流すことになるのが耐えられないのです。
そこのところを、間違えないようにお願いします。
さて、長々と現実逃避をしたところで、状況を再確認しよう。
「二人とも、私のために争わないで!」
マリエが言うと陳腐に聞こえる台詞を口にしていた。
その先には、二人の男性が向かい合い、腰に提げたホルスターにある拳銃を抜こうとしている。
西部劇のガンマンのような格好をしている二人は、俺たちが短期留学している先の現地人である生徒たちだ。
「ポール、お前はいい友人だった。だが、マリエは渡さない」
「気が合うな、ケビン。だが、勝つのは俺だ。お前を倒して、俺がマリエをいただくぜ」
マリエのために早撃ち――リボルバー式の拳銃で、決闘をする二人に俺は呆れていた。
右肩の辺りで浮かんでいるルクシオンが、不思議そうにしていた。
『どうしてこうなったのでしょうか?』
「ほら、こっちの言葉が分からないのに、マリエがノリで返事をしていたから面倒になったんだ」
何を言われているか分からないのに、イエス! とか言ってしまったマリエが悪い。
目の前の男二人は、自分こそがマリエの彼氏であると宣言してしまった。
ここで勘違いをさせたマリエを問い詰めればいいのに、腐っても乙女ゲーの世界だ。
女性を責めるなんて真似はしないらしい。
悪いのは相手の男!
だから、決闘しようぜ!
――どういう思考回路をしているのか、ルクシオンに調べさせたいところだ。
「二人とも止めて! 勘違いなのに! 私は――」
ポールがマリエに笑顔を向けていた。
もみあげが特徴的なポールは、イケメンだった。
「泣くな、マリエ――これは俺たちの問題だ」
そして、同じようにイケメンのケビンもクールに声をかけてくる。
「すぐに終わる。ポールの墓の前で、俺たちの結婚式を挙げよう」
クールキャラだと思っていたら、ただのお馬鹿キャラだったらしい。
お前は墓場で結婚式を挙げるの?
神父さん的な人が怒らないの?
というか、友達をマリエのために葬るなんて駄目だと思う。
『マスター、誤解を解かないのですか?』
「マリエが悪いと思うけどね」
泣いているマリエは、俺にすがりついてくる。
「あにぎぃぃぃ! だずげでぇぇぇ!」
本気で泣いているマリエを見て、俺はルクシオンにハンドサインを出した。
一つ目を縦に動かし、頷く仕草を見せたルクシオンがシールドを展開する。
――向かい合う二人の間にね。
「ポォォォルゥゥゥ!」
「ケビィィィン!」
俺がコインを投げ、地面に落ちた瞬間に二人がホルスターに手を伸ばして銃を抜いた。
銃声が重なって聞こえると――二人は唖然としている。
どちらかが倒れるはず。
そう思っていたのに、どちらも無傷で倒れる気配がない。
「く、くそぉぉぉ!」
ポールが引き金を引いて何度も撃てば、ケビンはすぐに移動して物陰に隠れる。
ポールの弾切れの際に顔を出し、撃ち返すという――戦いが繰り広げられていた。
互いに銃の扱いに長けているのか、当たらないことに驚いている。
二人の間に見えない壁――シールドを展開しているので、銃弾が二人に届くことはない。
持っていた弾丸を全て撃ち尽くした二人は、膝から崩れ落ちるのだった。
「ど、どういうことだ」
もみあげ――違った、ポールが自分の手を見ていた。
お馬鹿のケビンも同様だ。
そして、二人は互いに顔を上げ――視線を交わすと小さく笑った。
「何が起きるのかな?」
『次は近接戦闘でしょうか?』
まだ戦うのだろうと判断したルクシオンの予想に反して、二人は笑い合うと近付き肩を抱き合った。
「引き分けだ。これだけ撃って当たらないんだ。勝利の女神様は、俺たちに引き分けをプレゼントしてくれたらしい」
「ポール、分かっていないな。俺たちの女神は――マリエだろ」
歯の浮く台詞が次々に出てくると、もう感覚が狂ってしまう。
日常的にこんな台詞を言っている国なので、俺も気にしなくなってきた。
マリエが安堵している。
「良かった。どっちかが死ななくてよかったよぉぉぉ!」
自分のせいで人が死ななくて良かったと安堵するマリエだが、勘違いは一切解消されていない。
二人がサムズアップしながらマリエに言うのだ。
「マリエは俺たち二人の女神だな」
「あぁ、俺たち三人――どこまでも一緒さ」
いや、俺たちは留学生だし、故郷に帰るんだが?
それに、マリエには野郎が他にも五人――あ、六人? でも、カイルを入れると七人?
――とにかく、こいつに勝利の女神なんて称号は不釣り合いな女だ。
「あ、あのね。二人とも、私には恋人たちが――」
言い訳をはじめたマリエだったが、ルクシオンが視線を別方向へ向けた。
『次のお客様ですよ、マスター』
「うわ~、沢山いる」
ライフル、ショットガン、そしてバズーカ――様々な銃火器を持った男たちがやってきた。
彼らの目的はマリエだった。
「マリエ、迎えに来たぜ」
「そこの勘違い野郎共を蜂の巣にしてやる!」
「お前ら、マリエは俺の彼女だ。手を出すなら吹き飛ばす」
――こいつらも勘違いをしていたようだ。
マリエがぎこちなく首を動かし、俺を見て頬を引きつらせ笑っていた。
「あ、兄貴――助けて」
俺は首を横に振る。
「だから、もっと返事は慎重にしろと言っただろうに」
「いきなり告白されるなんて思わないわよ! 出会ってすぐに、告白してオッケーをもらったと勘違いするなんて――予想できるかぁぁぁ!」
マリエの言い分ももっともだ。
だが、俺に出来ることは少ない。
「がんばれ」
応援すると、マリエが地面に両手両膝を突いて泣いていた。
「助けてよ、おにいちゃぁぁぁん!」
◇
――ホルファート王国。
学園の女子寮で、リオンから届いたメールを手紙として印刷してもらったアンジェとリビアは、顔を真っ赤にしていた。
手紙を持つ手が震えている。
「い、いったいどういうことだ?」
アンジェが震えている理由は、手紙に俺の女神やら、愛しの、などの歯の浮くような文章が沢山書かれているからだ。
リビアは耳まで赤い。
「リオンさん、どうしちゃったんでしょうか?」
嬉しそうな二人に、クレアーレがリオンへのポイント稼ぎを考えた。
(チャンス! これで私のミスを打ち消してみせるわ)
アーロンをアーレちゃんにしてしまったクレアーレは、何としてもリオンに功績を認めさせなければならない。
きっと怒られるのは間違いないので、どこかでカバーする必要があるのだ。
『きっとマスターも成長したのよ。留学先で色々とあったんじゃないの?』
「――成長? 色々?」
リビアがそれを聞いて首をかしげ、そして口元に手を当てて呟いた。
「もしかして、リオンさん――また現地で女性を?」
アンジェが手紙を綺麗に畳みつつ、先程まで照れていた顔を改め真顔になった。
――目が怖い。
「――あれほど、先に言えと言ったのに、言葉で誤魔化そうとするとは思わなかった」
『え?』
クレアーレの予想に反して、二人はリオンに対する抗議のメールを用意する。
「アンジェ、ここは厳しく対応しましょう」
「そうだな。クレアーレ、すぐに返事を送ってもらうぞ」
『――え? 何でそうなるの?』
クレアーレは、ここに来て更にミスをしてしまうのだった。




