盆が来る
昨年、死んだ父親の初盆だなと考えていた。実家は火事になり、もうないので今住んでいるところで祭壇に写真を飾り、線香でもあげてやろうと思っていた。ボケて警察沙汰や放蕩、暴挙をし尽くした父であったが、その面倒を嫌がり、逆に私に苦情をブチまけた挙句、最後まで逃げ切った妹が昨日電話をしてきて『初盆はどうするの?』顔も見たくはないので『こっちで勝手にやるから』と言うと『あっ、そう』で終わった。私には世界中で唯一嫌いでどうしようもない人間だ。親が居なくなった時点で縁を切る事は遥か昔から決めていた。関わらない事が最善の方法だ。
盆前に墓参り位はしなくちゃな。すると電話が鳴った。番号を見ると実家のあった地域の市外局番。親戚の叔母さんかな? と思い、出てみると『水道局』だった。
水道料金? 火事で止めた時に払っただろ? その前の未納分があるので払えという事。何で電話がかかってきたかというと、律儀な私は火災にあった翌日には連絡先として、ご丁寧にも住所まで教えていた。
相続人である親族にご請求するようになっています。『確かに負の遺産も相続人が引き継ぐのは法的に間違ってはいない』だが、誰が私を相続人と断定したんだ? すると『戸籍を調べたりして請求します』? 『じゃあ、調べて分かった事を言ってごらん』『え? 息子さんですよね? 調査はまだしていません』『息子ではあるが法定相続人になった訳ではない』『相続放棄は死後三ヶ月以内でないと出来ませんよ』『それで今頃、電話してきたのか?』
要はその場凌ぎで『取れるところから奪ったらんかい!』という事だろう。役所は全部『取れる所に取り敢えず請求したろ』という姿勢である事は間違いない。『欠損処理しろよ』と言うと『相続放棄の書類を出して下さい』だと。相続放棄は三ヶ月以内だろ……
ほとんどサラ金の取り立てかオレオレ詐欺に近いではないか。たかが五千円ちょっとなのだが、理屈に納得出来ない金は一円も払いたくないものだ。二年以上逃げ切れば時効なのだが、生憎、スタートの時点で失敗していた。
火事の直後、まさか三ヶ月後に死ぬとは思わなかった私は、父親の携帯代七万や人に借りた借金を返済した。火災保険にも入っていなかった為、膨大な燃えカスを自力で片付けたり、介護の為の行政とのやりとり、役所や検察庁との折衝、最後は葬式までしてやった。誰も感謝して欲しいとも思わないし、感謝する人間も誰一人いない。それはそれで当たり前なのだ。
遺産もなく、借金しかないような身内が死んだり、死にそうな場合、下手に連絡先や住所などを教えまくってはいけない。死んだら砂糖に群がる蟻のようにあなたに請求が行くぞ。