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血盟クロスリリィ  作者: 猫郷 莱日
一章 ≪転換≫
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アルゲントゥムの娘 2


 不意にウィスタリアは確認するようにキーファへ問いかけた。


「無事に(ラ・フィュ)が起きたのはみんなに伝えたわよね」


「はい、タリア様の気配を感じ取ってすぐに。皆大変喜んでおりました。警備の強化に努め、タリア様の言いつけ通り護衛の選別を進めています」


「今のところの筆頭候補がリンデなのでしょう?心配なのは分かるけどあまり厳しくしすぎないようにね。誰よりも気持ちを理解してるのは貴女だって思うわ。だって、リンデは昔の貴女に似ているもの」


「理解できても、認めるかどうかは別ですよ。タリア様が待望された御子ですからね。わたくしも万全を期したいのです」


「まあ!ありがとう」


 ウィスタリアとキーファの話を聞き、リーリウムはリンデを観察する。

 リンデがリーリウムに関わる今後の生活で何か重要な役目の筆頭候補らしいと理解したためだ。専属騎士の件については追々考えればいいだろうとひとまず横に置いた。




 現在の時刻は朝方の七時である。


 キーファとリンデ以外にも、あれからリーリウムの下を専属騎士が六名も挨拶に訪れた。さすがに一度にそれだけの者を覚えるのは大変で、リーリウムは顔と名前を必死に頭に刻んだ。

 ウィスタリアが言うにはキーファが騎士達のまとめ役なので、最低キーファだけ覚えておけばよいと笑ったが、同じ家で暮らすならばそれではいけない。



 もう挨拶に来る者はこれで打ち止めということで、着替えて部屋を移し、朝食―――夜行性のヴァンパイアからすれば人間にとっての夕食―――をとった。


 ちなみにリーリウムが薄々察していた通り、どこの金持ちの食事だ、というようなフレンチの洒落たメニューだったとだけ言っておこう。

 また、食事をとった部屋は豪華なダイニングルームで、やはり自分がいるこの建物は洋館なのだとリーリウムに確信を抱かせるものであった。



「さあ、身分証をつくりに行きましょうか」



 母はお金持ちらしいと驚嘆していたら、そう言葉をかけられ、あれよあれよという間にいかにも堅苦しい役所らしき建物へ到着していた。


 黒塗りの高級車に乗せられて。


(………漫画の世界みたい)


 窓ガラスも真っ黒で、フロントガラス以外からの日光は完全にシャットアウトされている。快適な環境だ。


 ヴァンパイアが日光が苦手なのは事実。

 元々夜行性であり、昼間は見えすぎる視力が仇となってしまうためである。さらに、寝起きの気だるさのようなものが付きまとい、身が入らないと言うべき状態だ。加えてヴァンパイア自身が持つ能力に適応した体になっており、場所によっては多くの体力を消耗する者もいる。

 炎系の能力であれば、寒帯。水系の能力であれば乾燥地帯。


 つまり。


 ウィスタリアの氷系能力を受け継いでいるだろうリーリウムは、熱帯地域に弱いのである。当然、強すぎる日差しや夏は苦手である。

 幸い今は秋。リーリウムが抱える不調は目に感じる眩し過ぎる日光とダルさのみにとどまっている。


「大丈夫?帰ったら力の使い方を教えるから、そうすれば少しはマシな体調になるわ」


「…分かった」


 頷くと隣に座るウィスタリアが別の車に乗ってきたキーファのエスコートで降り、ついでそのまま開かれたドアからリーリウムも降りる。

 差し出されたリンデの手でエスコートされながら。


「ありがとう」


「どういたしまして。これからはずっとこれがボクの役目なので、お礼は今だけでいいですよ」


「…そう、なの?」


「はい」


 リンデがリーリウムの世話をするのは確定事項のようだ。


(どうでもいいけど、ボクっなんだ)


 首を傾げつつリーリウムはウィスタリアに先導されて役所の中へ入って行く。


(ううん…こうして見ると母上マトレムが見立てた服が似合ってるのか不安になってくる)


 自分とウィスタリアの服を見て顔が引きつりそうになるのをこらえた。


 というのも、リーリウムが出かける前にウィスタリアから渡された服は、爽やかなお嬢様スタイルとでも表現すべき上品なブラウスや膝丈のスカート。

 ウィスタリアは大人っぽい若奥様然としたコーディネイト。派手すぎない色彩の長袖のロングワンピースはいかにも箱入りですと主張するようにたおやかさを演出している。


 リーリウムは自分が服に着られているような気がして、気遅れ気味だった。



 キーファとリンデがそれぞれウィスタリアとリーリウムの斜め後方に控えるように付き従う気配に落ち着かない気分を味わい、ようやく目的の窓口へ着いた。

 建物内は閑散とした雰囲気で、人通りはほとんどない。いくつかの窓口に担当の職員―――おそらくはヴァンパイア―――がいる以外、誰もいないようだ。


 その窓口にいる職員たちの視線はリーリウムにくぎ付け。普段ならカタカタとパソコンや他の機械を動かす音が鳴りやまないのだが、今回に限ってしんと静まり返っている。


「これはアルゲントゥム様!ようこそいらっしゃいました」


 ウィスタリアが近づいた窓口の職員の男が、はっと我に返って立ち上がり、整った相貌に微笑を浮かべ優雅に腰を折る。


「今日はこの子の登録に来たの。位階判定と身分証の発行をお願いするわ」


「よろしくお願いします」


 肩を抱かれ、リーリウムも視線の圧にさらされながら用件を頼む。


「…もしや、アルゲントゥム様のファミリアであられますか?」


「ええ、そうよ」


「…っ」


 男が息をのんだのが分かった。


 ざわり。


 声を大にして言っているわけではないが、見守っていた職員たちから驚愕の声が漏れ聞こえてくる。


「可愛いでしょう?初めてこの子を見たときに運命を感じたの。この子ほどアタクシの因子と相性のいい子はいないって」


「そうですね、分かります。銀を継いでいる・・・・・・・うえ、圧倒的な妖力を感じますから」


「ごめんなさいね。まだ力の調節を教えていなくて、放出状態なのよ」


「おや、それでは早く手続きを終えなければっ。アルゲントゥム家のご令嬢に何かあってはいけませんから」


「ふふ、ありがとう」


 職員の男は慌て気味に書類を用意し始めた。


 無理もない。ヴァンパイア達の間で「アルゲントゥム」とはそれだけ大きな影響力を持つ存在なのだ。リーリウムも“継承した知識”により知り得ている。

 「アルゲントゥム」は銀を意味する。その名はいにしえに初代のレクスより、とあるヴァンパイアが賜った誇り。


 そして。


 「アルゲントゥム」の名に連なる者達の中でも、いにしえレクスが認めた“銀”をその身に宿している者は特別な存在だ。


(はあ…期待が重い…)


 リーリウムは顔に出さず嘆息する。


(まさかここまで扱いがあからさまとは…覚悟足りてなかったかも。多分ヴァンパイア社会ではどこに行っても言われるんだよね、「アルゲントゥムの娘」って)


 ウィスタリアの屋敷で着替える時、大きな姿見で確認した己の容姿を思い出す。

 人間だった頃より少し伸びた綺麗な髪と、変化した顔立ちや体つきを。


「では、こちらへどうぞアルゲントゥム様。お嬢様はあちらの職員の誘導をお受けください」


「分かったわ」


「はい」


 ウィスタリアは書類の記入のために席を用意され、リーリウムは待機していた女性職員の誘導で別室へ向かう。

 その際キーファとリンデがリーリウムに付き添っている。ウィスタリアの指示らしい。



 向かった部屋は窓のない薄暗い室内である。

 中央に机と椅子が二組あり、片方にロングコートを纏った全身真っ黒の男が腰掛けていた。見えるのは顔の下半分と耳、黒髪だけだ。


「この妖力…なるほど。アルゲントゥムはついに次代をつくられましたか」


「ウェーレ様、この方の判定をお願いいたします。仰るとおりアルゲントゥム様のご令嬢です」


「承りました」


 女職員の言葉を聞いたコートの男は、これほど暗い室内にもかかわらず身につけていたサングラスを外す。


「初めまして。位階判定という大役をレクスより仰せつかっている正視まさし・ウェーレと言います。以後お見知りおきを」


 サングラスから解放された琥珀色の瞳が印象的な男、正視は、席から立ち上がり洗練された礼をした。


「ご丁寧にどうも。リーリウム・アルゲントゥムです」


「ではこちらへお掛け下さい」


「はい」


 言われた通り対面の空いている席へ座る。

 なお、キーファとリンデは三メートルほど離れた斜め後方に控え、女職員は退出した。


「判定といっても複雑なことをするわけではありません。不詳この正視が貴女様を見ている間、三十秒ほど椅子に座り続けていただくだけで結構です」


「分かりました」


「早速始めますね。少々不快かもしれませんが、ご容赦を」


 頷き、直接目を合わせ続けるのは気まずいので、リーリウムは正視の首元辺りに視線を固定する。


 刹那。

 肌が粟立つ感覚がリーリウムを襲った。







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