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血盟クロスリリィ  作者: 猫郷 莱日
二章 ≪賽は投げられた≫
41/43

気高くも高潔でもなく 6



っく、GW前に投稿できず!

申し訳ございません!!





 リーリウム達は会話がひと段落した後、そもそもの目的を果たしていないことに思い至った。


「ローズ。グラウィス先輩が言ってた意味を、教えて」


「ああ、そうでしたわ」


 たった今まで忘れていた、と言わんばかりのプリムローザの態度を見やり、その専属騎士は呆れを隠せない。


「ローズ様ぁ、それヤバいくらい白々しいから」


「気のせいですわ」


「まあ、いいけどね」


 やれやれ、いつものことながら。

 浅黄は苦笑が滲む。主人の狸ぶりは誰に似たのやら、と。


「…これだからこの一族は厄介極まりない」


 浅黄とプリムローザのやり取りだけでリンデも察した。

 悪癖が出たことを。


「それでは伺いましょう。リリィ、今回のことが何故問題になったか、何が問題だったのか、どの程度分かっていますか?」


 鼻歌でも歌いそうなほど上機嫌に、艶然と微笑んで。


「継承した“知識”があるとは言っても、それは所詮、そこにあるだけの事実。ただ情報を持っているだけでは、意味を成しません」


 意味深な流し目。

 彼女が期待するのは、眼前の少女の答え。


「情報をどう扱うか。それが明暗を分けるのです。…情報と、先ほどの一件。判断材料はいくらでもありますわ。これらを気に留めて、考えるのです。何があの場で問題視されたのか。何故、問題視されるのか。問題がもたらすものとは?―――そもそも」



 ―――問題は、解決すべきことなのでしょうか。



 蠱惑的な、誘うような声色に反して。

 脳が理解した言葉は鋭く、それでいてドロリと纏わりついてくる不可思議な。

 重いのか軽いのか、熱いのか冷たいのかも定かでない、絶妙な心地よさと不快感。


 酩酊感。ある者はプリムローザとの会話で与えられた感覚をそう評した。


 どこからか昼休憩の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。

 静寂に包まれていた室内も、止まっていた時間が動き出したかのように奇妙な空気が霧散した。


「ふふ、時間切れですわね」


 朗らかに言ってのけるプリムローザ。

 思う所があり、リーリウムは素直に問いかける。


「狙ってたの?」


「ご想像にお任せいたします」


 ニコニコと楽しげに答える。


「…自分なりの答えを明確にできたら、答え合わせをしてもらってもいい、かな?」


「そうですわねぇ。すぐに教えてもいいのですけれど、それでは面白くありませんし……こちらがグラウィス先輩の思惑通りに動いたところで、たいして効果はないでしょうし」


「…ローズの意図は知らないけど、もう時間ないし、教室戻ろう。話は後でもできる」


 “月華の会”会員専用特別ルームから退室し、急ぎ足で教室までの道のりを歩くことに。



「こうしましょう。答え合わせは、ワタクシの裁量で行います。リリィに必要になった、と判断できたその時に」


 教室に着く前に、プリムローザは結論を出した。


「分かった。それまでに答えを考えておく」


 間髪入れずに頷いたリーリウムに、むしろプリムローザが困惑の声を上げた。


「…いいんですの?自分でも少々意地が悪いと思うのですけれど」


「ちょっとどころではなく大変に意地が悪いです。鬼畜の所業かと」


「リンデさんも言うようになりましたわね」


「あはは。通常運転でしょ」


「浅黄…帰ったらお話があります」


「え、えへっ」


「笑って誤魔化しても遅いですわ」


 賑やかな声を響かせる4人は当然の如く周囲の目を引いているのだが、今さらだろう。“月華”のメンバーが固まっていれば嫌でも目を引くのだから、慣れるしかあるまい。


 リーリウムは寄せられる視線に耐えつつ、偽りなく心情を吐露した。


「ローズは、カッコいいから」


 出会って間もないが、リーリウムが抱くプリムローザへの印象は、実に簡潔で、容赦のないものだった。


「いろんな凄いことができて、綺麗で、カッコいいから。だから…」


「………」


「ローズの意思ですることは、どんなことでも、私には意味のある何かに思える」


「…っ!」


 プリムローザにとってリーリウムが、初めて会った時から他とは異なる、様々な因果を伴う特別な存在であるように。

 リーリウムにとってもプリムローザは、初めて会った時から他とは異なる、輝かしい特別な存在だった。


「私はローズが何をしてもきっと、幻滅なんてしないんだろうなあ…って」


(あれ…いいの?って聞かれたのに脱線したかも)


 なんとなく口走ったが、見当はずれなことを言ったかもしれないとリーリウムは反省する。


「………もうっ…ほんとう……困った子ですわね」


「なに?」


「なんでもありませんわ。その信頼は嬉しく思います。授業が始まる前に教室に戻りますわよ」


「うん」


 小さくプリムローザが呟いた言葉は、彼女の専属騎士を除いて誰の耳に届くこともなく。

 早足で先に進んだプリムローザを追い掛け、リーリウムはクラスの違うリンデ達と別れた。


「…うわぁ・・・・・・ちょっとリンデ。おたくのご主人様、ちょーえげつないんですけど」


「我が主に対し不敬だぞ。リリィ様は純粋で、下手に言葉を飾らないからこそ響くものがある。素晴らしく魅力的だろう」


「えー…なにそのドヤ顔」


 主人達と別れて騎士エクエス組は別クラスへ。

 浅黄は表面上いつもの軽快さでリンデと話すが、衝撃は抜けきっていない。


(正面からあそこまで混じりっ気のない好意と信頼を寄せられたら、そりゃ困るでしょっ!)


 別れ際に盗み見たプリムローザの表情は普段通りに見えたが、その胸中は穏やかとは言えなかろう。


(あーあー。ローズ様の牙城に迫れる人なんて現れないと思ってたけど…)


「元人間だから、なのかねぇ…でも、ないか。あーあー…」


 納得いかないなにか。

 形容しがたい感情を持て余し、思わず呻いてしまう。


「さっきから煩い。口を閉じろ」


「リンデは微塵も変わらないね」


 嘘だ。リンデは教室内で浅黄だろうと無視がデフォルトである。

 連絡事項などの必要な会話は最低限こなすが、私的な会話となると無視か睨んで黙らせるか。相手が食い下がると毒を吐く。

 浅黄と会話するのもリーリウムやプリムローザが絡んだ時のみ。


 しかし今はどうだろう。自ら言葉を発したではないか。


(どんな心境の変化やら。ま、いい変化なら大歓迎だしつっこまないけど)


 突っついて後退されても困る。


(お、みんなリンデの態度が軟化したのに気付いたっぽい)


 周囲で二人を窺っていたクラスメイト達は、早くもリンデについて囁き合っているらしい。


(リンデがクラスメイトと仲良くする光景なんて想像できないけど、普通の会話ぐらいならそのうちできるでしょ)


 勝手に形作られたリンデのイメージがどう作用するのか。今から見ものである。


(想像と言えば…リリィ様も繋も今日だけで色んな憶測が飛び交ってるんだっけ。人間ってバカとなんとやらが紙一重だから、確実に騒動が起きるだろうし。ああ、でも)


 愚か、と思われる者がいるのは人間に限らない。


(その点、漫画とかはやたら美化されてるよねぇ)


 人ならざる者の描かれ方は、美しいか醜悪か、はたまた人間に近すぎる価値観を持つか。

 フィクションの世界は夢と理想に溢れている。


ヴァンパイアウチらは人間じゃない。種族に誇りがあるし、ぶっちゃけウチも人間なんて猿の一種なんだから気にする必要あるのかって思うし。でも、人間が夢見るほど高尚な種族かって聞かれると…)


 考えてしまう。


「ま、それこそどうでもいいか。やめやめ。くだらんコトに時間割いたわー」


 そう。下等生物の考えを理解しようとするなど、愚の骨頂。


「やっば、もしかしてウチが馬鹿と紙一重?ないわー」


 たまらずケラケラ笑った。


「なんで人間目線でウチらが測られなきゃなんないのかマジ意味不明だし!」


 小夜風浅黄。生まれも育ちも誇り高き、生粋のヴァンパイア。

 至高のレクスより騎士エクエスの位階を賜りし、穢れなき一族の末席に連なる者である。







次は少なくとも来月には投稿できそうですので、期待せずにお待ちください。



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