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血盟クロスリリィ  作者: 猫郷 莱日
二章 ≪賽は投げられた≫
39/43

気高くも高潔でもなく 4



お待たせして申し訳ありません。

今回は物語のかなり重要なシーンとなるので、ぜひともじっくり読んでいただけたら幸いです。






 ――ヴァンパイアとはなんだ。


 この疑問を持つのに、そう時間はかからなかった。


 ――何故、人間と区別するのだ。


 純粋に、深い意味もなく。ただ不思議だった。

 似た様な姿かたち。言語を用いてコミュニケーションをし、理性を持って思考する。他の生物とは一線を画した、高位の哺乳類。

 区別する必要がどこにあるのか。


 リンデにとって至極当然の問いは、しかしヴァンパイア達の当然ではなかった。

 

「有り得ないわ。冗談にしても不愉快にすぎる。二度と口にしないで」


 まだ十にも満たない頃、母に尋ねて返ってきた言葉が、ひどく心に響いた。

 隠しもせず放たれた怒気に委縮して、しばらく母の顔がまともに見られなかったことを今でも覚えている。


 この時、この日からだ。薄々察してはいても見ないようにしてきた謎の不安を、明確に悟ってしまったのは。


(自分は他の人たちとは違う)


 それも、ヴァンパイアでも人間でもない、ナニからしい。

 漠然とした認識が、闇となって影を作り出した。


 それからさして経たないうちに、母が、ヴァンパイア達が人間を忌避する理由を教えられて、ああやはり、とどこか諦念にも似た納得をした。


「だからみんな、母さんも、ボクをおかしいって、いらないって言うんだ」


 リンデが他のヴァンパイアとは少し違う訳も合わせて聞き、流れるように本心が口から落ちていった。


 そう、落ちた。当たり前の事実が、確認の必要もなく、まるでゴミを捨てるが如く。

 このセリフは誰かに向けて言ったものではないから、受け止められることなどないから。ただ、落ちた。


「ちが…違う!」


「どうしたの、母さん?」


「違うのよリンデ。わたくしは、貴女をいらないだなんて思っていないっ…思ったことなんか一度もない。何故そんなことを」


 ただ落ちてしまった言葉を、拾おうとした母が、その場にはいた。

 拾っても何も得られないし、すでに意味も役割も終えてゴミとなった言葉を。


「…?なんでって……だって母さん、ボクが好きじゃないでしょ?いつもじゃないけど、そんな目してるもん」


「…っ」


 キーファが血相を変えて訂正することの方が、リンデは意味不明だった。

 何故とはリンデが聞きたいくらいだ。


 分かりきったことなのに、どうしてショックを受けた顔を母がするのか。

 ふとした瞬間、畏怖や拒絶の色を瞳に乗せて見るくせに。まさか自分の感情に気付かなかったわけでもあるまい。


 母たるキーファだけではない。皆だ。皆、同じような目を向けていることを、リンデは分かっていた。


 ただ母だけは、一応愛と呼べるものも向けてくれているのは感じている。

 好きでなくとも愛情を持てるのだから、母親とは凄いものだ。


「別に、もうどうでもいいけどね。前はちょっとムカついてたけど、理由も知ったし、その理由も仕方ないと思うし」


 全ては取り返しのつかない過去の事。


「まあ、“知識”がないのは勉強で補うしかないから面倒だけど…」


 人一倍努力しなければ他のヴァンパイアと話を合わせることすらままならない。

 おまけに知識を詰め込んでも共感しようもなく、考えを理解するのも一苦労。リンデばかりが他者と差をつけられ続ける。


 そして学び続け、努力してもなお、リンデに寄り添ってくれる存在は。

 同胞が現れることはなかった。




 本当に、厄介な所に生まれた。


 自分の生い立ちを聞いた当時の回想をするとこの一言に尽きる。今までは。しかしどうやら、そんなものは表面的な、心の表層にしかすぎなかったらしい。

 自分の感情を欺くには、悲哀と寂しさに喘ぐ心を騙すには、割り切るしかなかった。


 どうにもならない現実を生きるには、他者を拒絶し孤独を保つことでしか耐えられなかったのだ。

 少しづつ乾き何かがひび割れていくのを感じながら。


 そうして生きるリンデの前に、ある日ようやく現れる。


 無垢で無知で純粋な、それでいて何者にもなれるが何者でもない、哀れで可憐な愛しき光リーリウムが。





 知っていたはずだった。リンデが内包する歪な価値観と想いを。

 リーリウムは絶叫したリンデを前に、言葉をかけようとして迷う。


「ボクが何をした!?世界の害悪になるようなことでもしたか?誰かを不幸に陥れたのか?ああ、そうだなっボクが生まれたから母さんはいつまでも過去に苦しめられる!皆が顔を顰める、人間を思い出して嫌悪する!そんなこと、ボクにはどうしようもないのにっ!」


 リンデの出自はヴァンパイアのタブーとも言われる。それほど、許し難い人間の所業が関わっている。


 口に出すのも憚られる非道が、亡きリンデの父であったヴァンパイアに課されていた。


「いつだって疎まれるのはボクだ。損をするのも、何も与えられないのも、ボクばかりっ」


 不安定になった妖力があふれ出し、室内に吹き荒れる。泣いているような冷たい妖力が、リーリウム達に降りかかった。


「みんな勝手だ!形だけの心配と憐みの目でボクを慰めた気になって!そんなこと誰も頼んでないっ」


 ここまで感情をぶつけられた経験のないリーリウムは、自身の専属騎士が抱える想いにどう応えるか考える。

 だが、答えはとっくに、専属を受け入れた時に決まっていたのかもしれない。


 辛そうで悲しげな、けれど歯を食いしばり眦をつり上げるリンデ。その傍らに、近づく。


「なんで、全部、いつもいつも、ボクだけこんな」


「リンデ」


 おそらくこれは、リンデに踏み込む一歩。

 リンデの心までは変えられないと、リンデだけのものだという考えは変わらないけれど。


「もっと一緒にいよう。いろんなこと、一緒にしよう」


 抱き寄せて、リンデの背中に両手を回す。離さないと訴えるように、力いっぱい。


「いっぱい我慢させて、私だけリンデに甘えてた。」


 思えば、リンデが頼ってくれたことも、我儘を言ってくれたこともない。リーリウムは常にリンデに守られ、気を遣われ、望みを叶えられてきた。


「リンデ。いつもありがとう。私ね、リンデがいるから、今立っていられるんだよ」


「専属騎士として主を支えるのは当然です…」


 力が抜け困惑を含んだ声音で、加えて泣きそうな震えた声のリンデ。

 視線をうろうろと彷徨わせ、軽く添えるようにリーリウムの背に手を回す。


「うん。だからありがとう」


「礼など」


「不要じゃないよ?」


「……ボクの方が、貴女の専属になれて感謝しているのに」


「私も、リンデが専属になってくれて感謝しかない」


「貴女には、ボクじゃなくても候補が沢山います。でもボクは、リリィ様だけです。…ボクが、縋ってしまっただけ」


 捨てないで。側にいて。


 リンデの妖力を介して、リーリウムへ感情が伝わってくる。


「違うよ」


 それは違う。リーリウムは否定した。


「先に縋ったのは、私」


 捨てるはずがない。側にいたいのは、先に望んだのはリーリウムだ。


「初めてリンデに守ってもらった時。身分を決定づける時、怖くてたまらなかった私を、リンデが抱きしめてくれた」


 身分証を作るにはヴァンパイアの能力を測らなければならない。初めての感覚に恐怖するリーリウムにいち早く気づき、宥めたのはリンデだった。


「あの時から、無意識にリンデに頼ってばかり」


「嬉しいお言葉ですが、縋るというほどでもなかったでしょう。リリィ様にはタリア様がいますから」


「ううん。縋ったんだよ。程度の差はあっても、それが事実」


 無意識でも庇護を求めた。自分とそう変わらない、年端のいかない相手に。

 恥ずかしげもなく、とリーリウムは自嘲する。


「リンデ」


「はい」


「リンデがどう思っていても、私はリンデに側にいてほしいし、リンデしか考えられなかった」


「……」


「刷り込みとか、状況が違えばとか、色々思うかもしれない。別の人が同じ立ち位置にいればその人に縋ったとか、リンデである必要はないとか…でも」


 腕を緩め、リンデの顔を真っ直ぐ見つめる。


「別にどうでもいい」


 昔リンデがキーファに言った言葉。心を守るために、必死で無関心の自分を作り上げた言葉。

 それが異なる意味を持って、今、リンデに返ってくる。


「私が縋ったのはリンデで、他の誰でもない。私と時間が交わったのはリンデ。リンデなんだよ」


 額をくっつけ、鼻が擦れる距離で、言葉を重ねた。


「条件が合えば別の人とか、そんなの考えられない。…よく運命がどうって、言う人がいるよね」


「…ぅ、ぐす…はぃ」


「じゃあ、これがきっとそうなんだろうね」


 目に零れそうな涙を溜めて、視線を絡ませるリンデに、告げる。

 自分の専属騎士はなんて可愛くいじらしいのかと、その表情を緩めながら。


「リンデ・フルウム。私の運命、私の唯一無二。私、リーリウム・アルゲントゥムは、貴女が専属騎士であることが、たまらなく幸せです」


 ――貴女と出会えて良かった。


 互いに心の底からそう思えたら、それだけで運命なのだ。







御無沙汰してます。

ようやく投稿できました…最近は疲れとストレスがマッハです。


例の上司がまたやらかしまして…なんと、急に1週間来ないかと思えば、社長から明かされる新事実。

入院したよ。


…言うの遅いわああああああ!


え、普通そういう連絡ってすぐ職場でも学校でもしますよね?

え、私がおかしいのか……そんなはずはないですよね?

しかも…1カ月ほどの期間になるそうです。


Q.その間の仕事どうするの?誰やるの?

A.ちょこちょこ手伝わされてた新人さん。


新人に重要書類がひしめくお前の仕事やらせるとか意味わかんねーだろおおおがあああああ!


ぜえはあ…マジ意味わかんない…やっぱ頭おかしい…。

これが2カ月前のできごとです…泣きたい。

ちなみに新人さんに回してた通常業務は残りのメンツ(同じ部署の同僚と私)でやれという。

ふざけるな!こっちだって暇じゃねえよ!

さらに追い打ち…


「給料の計算方法変わって面倒だから残業するな」


そうして強制ホワイトな職場が出来上がりました☆

………真面目にぶん殴りたくなりました。

実際に血管は切れなかったけど、私の心の中では何本も切れました。

ブチブチと盛大に。


そんな訳で定時には帰れるけど、恐ろしい速度と集中力でマルチタスクしながら仕事回してます…つらい。

時には休憩時間も削る。じゃないと終わらない。っていうか終わってない。

期限のある仕事を優先するので期限なしの仕事は少しずつ蓄積されていく…ちりも積もればなんとやら。

年度末が恐ろしい…。




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