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血盟クロスリリィ  作者: 猫郷 莱日
二章 ≪賽は投げられた≫
36/43

気高くも高潔でもなく 1



先ほどの一件があって、リーリウムはご機嫌である。


「あの、わたし友達を待たせているので…」


「…あ…うん」


 しかし、その一件を引き起こしてくれた繋は、焦った顔でその場を離れようとした。

 思わず、縋るように袖を掴み、立ち上がった繋を見上げるリーリウム。


 なんとなく、食堂で注目を集めているのには気づいていた。だから繋に迷惑をかけたのかもしれない。初めて自分から声をかけ、繋も歩み寄ってくれたというのに。そのせいで繋が嫌な思いをしたのかと、リーリウムは申し訳なくなる。


 掴んでしまった袖をどうしようかと今更考えた。


「あああちち、違うんです!リリィ様が嫌とかでは決してないので!決して!」


 一方、一瞬悲しげな目をしたリーリウムに上目遣いで見られている繋はたまらない。極上の餌が用意された罠に飛び込んだ小動物のごとく、リーリウムの魅惑の視線に捕らえられた。


 この愛らしい存在を放っておいていいのか、いい訳がない。悲しませていいのか、それは断固として認められない。先ほどの笑顔をまた見たいだろう?当たり前だ。あわよくば寵愛を得て濃密な絆結あいを交わしたくはないか、イエスしかない。


 などと自問自答を繰り返す。


「あの、繋」


「わーわーごめんなさい!不埒なことなんて全然考えてないですからっ」


「不埒なこと…?」


「~~~~っ」


 盛大に墓穴を掘った。リーリウムが首をかしげたのに対し、繋は動揺して言葉にならない。


「…ローズ。アタシは何も聞かなかったわ。ええ。クラスメイトがおかしな扉を開けそうになっている所なんて、この学園では日常茶飯事だもの」


 光を失った瞳でテーブルのパスタだけを視界に入れる絢草。

 いつもであれば冷静に切って捨てる案件なのだが、さすがに色々な意味でクラスの良心的存在の繋が堕ちていく光景には耐えられないらしい。


「ぬー…アヤ、ふらちってなんだ。どーゆー意味なんだ?」


「…アンタは知らなくてもいい言葉よ、一生そのままで、いえ、駄目ね。未だに不審者について行きそうなお馬鹿だし。変質者と遭遇して無知を利用してセクハラトークされないとも限らないし…ああもう!なんでアタシがこんなに気を遣わなきゃならないのよっ」


 リーリウムと出会ってから、プリムローザと知り合った時以上の心労を感じている。絢草はとりあえずヤケ食いに走った。


「あら。繋さんったらいい度胸ね。ワタクシより先にリリィと深い関係になろうだなんて…」


 妙に艶っぽい微笑を浮かべ、プリムローザはうろたえる繋に流し目を送った。


「ひいっそそ、そんな、お、恐れ多いこと、考えるワケな、ないじゃにゃいですかっ!」


「っふ…繋、噛んだ。…可愛い」


「か、かわっ~~~~っ」


「……本当に、面白くないわ」


「っ――――」


 天国と地獄を交互に味わったかもしれない。後に繋はこの日の出来事をそう語ったとか。

 リーリウムの表情が崩れたことと、睦言のように告げられた言葉が繋の全身にビリビリとナニかを与え、直後に笑っているのに冷えた眼差しでプリムローザが抑揚なく喋った。



「………」


「あー落ち着こうかリンデ。妖力漏れ出してるから。ヤバイから、人を殺しそうな目してるから」


 リーリウム達の一つ後ろのテーブル席では、浅黄が必死にリンデを羽交い絞めにしていた。ちょっとでも力を緩めようものなら、この狂犬は唯一絶対の主が気に入ったらしい人物を消しかねない。


 物騒な気配を纏ったリンデに気づき、この食堂内にいた数人のヴァンパイア生徒が怯えた。ああ、あのアルゲントゥム家の誰にも媚びぬ劇薬が、頭を垂れる主を見つけたという噂は真実だったと。


 リンデ・フルウム。彼女はアルゲントゥム家に代々仕えるフルウム家の直系。母たるキーファ・フルウムが、当代のアルゲントゥム家当主にしてアジア領域の六王玉ドミナスである氷銀女王ウィスタリア・アルゲントゥムの専属騎士筆頭であることは有名だ。


(ちょおマジで冗談じゃないって!リンデの能力ちからはシャレにならないんだからっ)


 浅黄は普段通りに見えて、その実かなり本気で慌てていた。


 リンデはフルウム家の名だけでなく、別の理由でもヴァンパイア界で知らぬ者がいない存在だった。多くのヴァンパイアが哀れみ、特別な目を向け、どこか恐れる。


(リンデはほんっとにリリィ様以外なんとも思ってないっぽいし!根っこの部分昔のままじゃん…)


 浅黄は期待していた。出会った当初のリンデから、仲間を知る・・・・・リンデという同胞・・になったのではないかと。

 だが現実は、そう甘くはないようで。


(リンデの目に映る世界は、変わってない。リリィ様は別枠で、きっとリンデの世界に生まれた神様みたいなものなんだね)


 リンデは同胞を仲間だと思わない。人間を敵とも味方とも思わない。リンデにとって、他人は等しく他人。そう、そこには種族・・すら考慮されない。


 例外はない。リーリウムを除いて。


(こんな野生の猛獣を懐かせるとか、リリィ様って規格外すぎ)


 生まれは由緒正しい血統のサラブレッドでありながら、リンデは野生で育ったも同然。


 ヴァンパイアとして異端であるリンデ・フルウム。偉大なる始まりのレクスの加護を発現できない者。騎士エクエスでありながら、位階を無視できる者。


(同胞を同胞と思えない。何も知らない、何も知る事ができない。…親は残酷だね。見るに耐えない歴史かこを知って欲しくないからって、身勝手な理由でリンデの世界に呪いをかけた)


 浅黄は思う。なぜ周囲のヴァンパイアおとなたちは、守るという名の大儀で子供を縛り付けるのか。なぜ、子供自身に選ばせてくれないのか。


「なんて、柄にもないか」


「ねえ、離して」


「だって暴れるじゃん。危ない気迫駄々漏れだったでしょー」


「ふん。気づいてないの?ボクが動くまでもなく、アイツはボコボコになる」


「は?」


 なんだそれは。浅黄は少し考えに没頭してただけで事態が動いたのを知る。


「マヌケだね。ほら、見てみれば」


 ムカつくことに、呆れた声音でリンデが指し示した状況。

 浅黄にすれば今すぐ逃げ出したい光景がそこにはあった。



 クルクルと巻かれた金髪の上級生、カメーリエ・グラウィス。いかにもお嬢様ですと言わんばかりの西洋の品格を持つ彼女が、中身が半分以下になったグラスを片手に、尻餅をついた繋を威圧感たっぷりに見下ろしていた。


「このあたくしを誰だと思っているのかしら」


 どうみても怒りを堪えていると分かる様子で睨みつける。


「結相 繋。貴女は当学園の生徒であり、“月下の会”の会員である自覚が足りない。…近々指導が必要ですわね」


 指導。


 その言葉の響きに、びくりと繋は肩を震わせた。血の気が引き、真っ青になっているのがわかる。


「グラウィス先輩…」


「心配せずとも、何も痛めつけるようなことをするつもりはありません。手出し無用ですわ。できればアルゲントゥムとして、勉強していただきたくはありますが」


「…っ」


 リーリウムはカメーリエ・グラウィスというヴァンパイアが分からなかった。誰に対しても厳しい口調だが、その眼差しや言葉がリーリウムにだけ柔らかく向けられたから。“月下”の集まりでも、始業式の直後に初めて出会った時も。


 けれど、確信してしまった。


「グラウィス先輩は、アルゲントゥムが好きなのですね。心の底から」


「そうですわね。…敬愛する英雄ですわ」


 遠くを見つめ、微笑むカメーリエに、リーリウムはなんとも言えない感情を覚えた。


(グラウィス先輩が見ているのは、アルゲントゥム。正確には、母上マトレム


 リーリウムもアルゲントゥムが好きだ。そこはカメーリエの気持ちも分かる。だが。


(つまり、私という個人に興味はない)


 分かっていた。アルゲントゥムの名は重くて、多くのヴァンパイアが求める英雄。

 中身に関心がない者がいることくらい、想定していた。


(でも…想像以上に、キツいな)


 心が乾いた。リーリウムという存在が小さく薄くなる感覚。


 繋というヴァンパイアがいかに稀有で希少な存在か、わかる。

 だから、手放せない。余計に繋が大切に思えた。



 浅黄は勘弁してくれと冷や汗をかく。いきなり繋が高位のヴァンパイアのカメーリエに怒気をぶつけられている場面。

 この数分という短い間にいったい何があったのか。


(うわーローズ様が厄介事の気配に反応してキラキラしてるよぉ)


 困った主人の悪癖が今回も出そうである。


「何がどうしてこんなことに…」


「さあねぇ。楽しそうなおたくの主にでも聞けば」


「………」


 リンデは説明する気がないと。視線で尋ねればにべもない答えが返ってくる。


 仕方なしに浅黄は気配を殺してプリムローザの傍らへ寄ることにした。関わり合いにならないだろうと知らぬふりもできるが、浅黄は知ることを選択する。

 何故ならなんだかんだと言ってプリムローザに似た気質を、浅黄も持っていたりするから。


(ウチに流れ弾さえこなければ…けっこう面白そうな展開だよね)


 伊達に黄金の仔狸と呼ばれる主人と長いだけの付き合いではない。懐刀と認識されるくらいには、その仔狸の真意を理解して動いてきたのだ。


 やれやれと溜息を吐きつつ、浅黄は今回もまた主人の意向に従う気でいる。

 この主従はやはり上手くかみ合っているのだった。




 時は休み時間が始まったあたりまで遡る。


 問題のカメーリエ・グラウィスは専属騎士もつれず、親友である八重崎やえざき いつきと食堂で昼食をとっていた。







ぎりぎり間に合いました。

正直来月の投稿はかなり厳しいかもしれないです(-_-;)

リアルの仕事の方がさらに忙しくなる予感がヒシヒシとあります。

同僚が一人今月いっぱいで辞めるのに人員補充が間に合わない…上司め、「別になんとかなるでしょ」とか鬼か!

今の人数だから仕事回せてるんだよっ、減ったらどれかが滞るわ!



※この先はタダの愚痴です。



普段半分以上の割合職場にいないか丸一日来ないウチの上司。

何してるのかは知らない。9割の確率で電話にも出ないから。

こっちに仕事おしつけてくる。上司の仕事量減ってる筈なのに減る前と上司の勤務態度変わらない。

平気で取引相手のアポすっぽかし、求人に応募してくれた面接予定者の約束時間も忘れ、そして給料計算が間違っていたり…。

ある時、二日くらい連続で連絡なしに休んで、次の週、知った驚きの欠勤理由…

―――社長と喧嘩したから。

あ、ちなみにその上司と社長は親子です。


職場に私情持ち込み過ぎだろおおおおおおお!


なんですかね。職場が自分の家の延長みたいな扱いなんですかね。

だから報告・連絡・相談も勿論してくれないです。

だけど本人はちゃんと報連相しろって言って、かなり気にします。

あんたにだけは言われたくないよっ!

してほしいなら電話に出ろよ!職場に来いよ!机に置いたメモ見ろよ!

こっちは全部ちゃんとやってるんだよおおおおっ。



こほん。愚痴にお付き合い頂きありがとうございました。

見苦しいものをお見せして申し訳ございません<(_ _)>


そんな訳で、4月の投稿は難しいかもしれないです。

なるべく投稿できるように努力しますが、できなかったら申し訳ないので、あらかじめ謝っておきます。

ごめんなさい。


それでは、今後とも本作品をよろしくお願い致します。



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