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血盟クロスリリィ  作者: 猫郷 莱日
二章 ≪賽は投げられた≫
24/43

銀に輝く月と華 2


二話続けての投稿です。

この話が二話目にあたります。




 周囲の空気が変化したことをプリムローザ達は敏感に感じ取った。


「来ましたわね」


 膝で重ねていた掌に気付けば鉱石の感触を感じ、プリムローザは想像以上に己がリーリウムを気に入っていたことを自覚する。


(ワタクシとしたことが、無意識で力を使っているだなんて…)


 今度は意識して力を働かせ、鉱石を消滅させた。

 遠足前の子供のように浮足立って落ち着かないため、手慰みに作ってしまったのだと悟る。ここの所はなかった不注意だ。


『気付いてるよね?リリィ様達が来たよ。めっちゃ他の生徒に注目されて居心地悪そうな状態』


 不意に声がプリムローザの耳元に届く。傍に姿などない浅黄の声が。


「――ええ、分かっているわ。ありがとう」


 それに対し、プリムローザも言葉を返す。小さく、独り言に過ぎないボリュームで。


「なんだか廊下が騒がしいわね」


「アヤが言ってた妖精ってやつじゃね」


 プリムローザの声に気付かず、絢草と友は話しを進めた。


「きっとお二人の予想通りですわ。妖精と騒がれるほどあの子は可愛いくて、とっても魅力的なんですもの」


 リーリウムの美貌を考えれば、人間達がこぞって惹きつけられるのも無理はない。ヴァンパイアであり貴族ノビリスの位階にあるプリムローザですら同等以上と認めているのだ。


「…アタシ、今猛烈に後悔してるわ。もっと噂の妖精について真面目に調べとけばよかった」


「急にどうした、アヤ」


「だってあのローズが『魅力的』って言ったのよ!?可愛いとか面白いとか楽しいとか他人を褒めることはあっても、今まで魅力的だなんて最大級の賛辞を贈った相手なんていなかったじゃない!」


「言われてみれば、確かに。でも、それがどうしたんだ?」


 訳が分からないと怪訝に絢草を見やる友。

 どうして分からないんだと、絢草は必死に事の重大さを伝えようと頭を回転させる。


(ローズをして美人だって言ったってことは、“月華”でもめったにいない超極上の見た目だっつーことでしょうが!)


 現在の“月華”メンバーで容姿順位をつけたなら、評価する人間の趣味嗜好に多少左右されてもトップ争いできるプリムローザである。

 プリムローザと肩を並べられる美貌の女生徒は、高等部に入学したばかりの新入生を合わせても三人。


 しかし、その誰にもプリムローザがストレートな賛辞を述べたことはない。


「……荒れるわ…保健室が…アタシの安全地帯がなくなるぅっ」


 絢草は去年まで保健委員であった。そして今年もなる予定だった。

 よほどの事情がない限り、学園では委員会かクラスの何らかの係に所属しなければならない。だから絢草は仕事があまりなく比較的楽な保健委員を選んでいた。


 だが今年からは多忙になる予感をひしひし感じる。

 絢草は怠惰ではなく真面目な部類であるが、何事も適度が一番だと思っていた。


「そう悲観することはないですわ。少し仕事が増えるかもしれませんが、その分リリィ…くだんの妖精さんが癒しをもたらしてくれるでしょうし」


「ローズの知り合いってことは、友も仲良くなる感じ?」


「別に強制はしないですけど、自然と仲良くなるのではないかと。しばらくワタクシが学園のことを手取り足取り教える予定ですから…うふふ」


「…そこはかとなく危険な香りがするんですけど」


「あら。絢草の勘違いですわ、きっと」


 そこでふと、プリムローザが教室前方にある扉に視線を固定する。待ち望んでいた気配が辿り着いたのを察して。

 プリムローザの様子に絢草と友も事情をなんとなく悟り、同様に扉を見つめる。


 登校時間も残り十分をきっており、大半の生徒が教室にいた。あと五分もすれば、遅刻ギリギリに滑り込んでくる生徒が何人か現れるだろう時間帯。


 教室内の生徒も廊下から伝わる異様さを感じ取ってか、声を潜めて会話している。



 普段と全く雰囲気の異なる教室で、甲高い扉の開閉音が響いた。

 一瞬で室内は静寂で満たされる。


 入室したのは、妖精という言葉も霞む、儚げで幻想的な銀の化身。


 淡く煌めく銀髪に、シルクのように滑らかで透明感の強い真っ白な肌。絶妙に整った顔立ちと、精巧な人形かCG投影かと疑う要因のエメラルドを思わせる瞳。

 生物だとかろうじて認識できているのは、背後にいる女生徒から鞄を受け取った後、その美しい瞳が何かを探して彷徨い始めたからだろう。


「……!…ローズ」


 目的の人物を見つけ、ふっと和らぐ眼差し。

 さほど表情に変化はないはずなのに、教室中の視線を釘付けにした。


「っ…リリィ」


 はっと我に返ったプリムローザはリーリウムを迎えるため、席を立ち満面の笑みを浮かべる。


「ではリリィ様、また後ほど休み時間に伺いますので」


「うん」


 隣同士ではあるが別クラスになったリーリウムとリンデはここで別れる。

 全身で名残惜しいと訴える背後のリンデを目線で促し、廊下の端で手を振っている浅黄に目礼してリーリウムは教室後方へ歩みを再開した。


 笑顔で自分を待ってくれている新たな友人の下へ。


「おはよう、ローズ。これから二年間、よろしく」


「ええ、おはようございますリリィ。ワタクシこそ、よろしくお願いしますわ」


 小さく口角を上げたリーリウムに、笑みを深めながらプリムローザは抱きつく。


「あの…ローズ?」


「嫉妬深い番犬もいなくなったことですし、思う存分人目を気にせず仲良く・・・できますわ」


「嫉妬深い番犬……リンデは心配性で少し親愛過多なだけだよ。あと、さすがに周囲の目は気にするべき」


「もう、リリィったら。つれないですわね」


 前回のように自然と手を繋がれ、最も後ろの席に共に座らせられた。


 手を繋いだままだったので座りづらそうだと思っていたが、なんと着席と同時に腕を組まれる。距離はもちろん零で肩も足も密着している。まるで恋人同士のごとき距離感であった。三人まで座れる長机と椅子だからこそ可能な座り方。


(おお…なんか腕がスゴイことになってる)


 密着ということは自然、出っ張っている部分はぶつかるわけで。


(柔らかっ…あれ、女子高生ってこのくらいが普通だっけ?)


 プリムローザの圧倒的質量を誇る巨峰が、むにゅりとリーリウムの腕に当たる。リーリウムは平均よりやや大きい程度だったので、プリムローザほど相手に質量を感じさせることはないだろう。


「リリィ、もしかして緊張していますの?身体が若干硬いですわ」


「ここ、教室。さっき言ったよ。周囲の目は気になる…」


「ああ、リリィはまだ学園での立場に慣れていませんものね」


 注目されることが当たり前のプリムローザからすれば、空気と変わりなかった。


「それに…この二人は紹介してくれないの?」


 前の席に座る一見相性の悪そうな真逆の性質の二人を気にする。リーリウムに言われてプリムローザは、友人の紹介をしていなかったことを思い出した。


「そうでしたわ!忘れていました」


 組んでいない方の自由な左手で、片方を示す。


「こちらの真面目そうな方が緋衣 絢草さん。頭がいいのに素直じゃない意地っ張りさんですわ」


「誰が素直じゃない意地っ張りよ!」


 カッと咄嗟に言い返す絢草。リーリウムの雰囲気にのまれ呆けていたわりに、早い復活だった。


「そしてこちらが、見た通り活発で運動が得意な蓮弥 友さん。勉強がからっきしなので、そこを考慮して接してくださいませ」


「そうそう、友はバカだからなるだけムズカシ—話は簡便な」


 じいーと、リーリウムを穴が空くほど見つめてから、友はにっと朗らかに笑う。


(……えーっと…随分明け透けな人?だな)


「ジーヴル学園に編入した、リーリウム・アルゲントゥムです」


 リーリウムもひとまず名乗ることにした。


「…?なーローズ。こいつなんて言ったんだ?」


「ごめんなさい。悪いけどアタシ日本語以外だと英語と中国語しか分からないの」


 ただの自己紹介だったのだが、何故か言葉を理解してもらえなかった。リーリウムは想定外の事態に疑問符だらけになる。


(ん?え?どういうこと?)


 プリムローザとは普通に会話が成立していたのに。


「っふ、もうリリィ。貴女そんな天然さんだったのですか?」


「え…天然?それよりもローズ、二人と会話できないんだけど、なんで?」


「ああ、でもそんな困ってる顔も可愛らしいですわ」


 何やら悶えているプリムローザ。ますます訳が分からずリーリウムは混乱する。


「ねえ、ローズっ」


「リリィ。しっかり意識して喋っていますの?貴女が今使っている言葉は、どこの国の言葉かしら?」


「…どこの国?」


 自分がどんな発音で喋っていたか。意識してみてはたと思い至る。

 こんなにも簡単な、それこそ今まで気付かなかったことがとてつもなく恥ずかしく思えるような、うっかりが原因だった。


「 C'est dingue !?Pourquoi ?(嘘!?どうして?)」


 なんのことはない。ウィスタリアの故郷でフランス語を話すことに慣れきり、日本に戻ってきてからも無意識にそのままだっただけだった。


 ちなみに、ウィスタリア達は単にリーリウムがフランス語を気に入っただけだと考えており、リーリウムに合わせて皆フランス語で会話していた。ヴァンパイアとして多言語を流暢に話せるのが当然のため、誰も苦労せず過ごしてしまったのが大きいだろう。

 まさか言葉の変更に思い当たらずそのままだったとはウィスタリア達も予想すらしていない。


「J'ai honte.(恥ずかしいっ)…もっと早く教えてほしかった……」


 意識して日本語に直しつつ、リーリウムはプリムローザに何か言いたげな視線を向ける。


「ごめんなさい、まさか気付いてないとは思わなかったのですわ――フランスからの編入生として怪しまれないように振る舞っているのかと思いまして」


 後半の台詞はリーリウムだけに聞こえるボリュームで告げる。

 なまじフランス語が話せる者達としか会っていなかったから、余計に状況判断が遅れたのだろう。教室に着くまでのリンデとの会話を目撃した生徒達は、おそらくリーリウムが生粋のフランス人だと疑わない。


 図らずもウィスタリアが用意した偽の経歴に説得力を持たせる結果となった。


「改めて初めまして。さっきはフランス語でごめん。私はリーリウム・アルゲントゥム。リリィって呼んでほしい」


 気まずい思いを抱え、リーリウムは今度こそ自己紹介を成功させる。

 今度は意味が通じ、絢草と友は目を瞬かせ、スムーズに承諾した。


「日本語上手ね。これなら意思疎通に困らないわ。ローズから紹介されたけど、絢草よ。よろしく」


「おぉ?いきなり日本語になった。よろしくリリィ!友は友だ!」


 幸い二人とも大して気にすることもなく友好的だ。

 気の良い二人に「さすがローズの友達だな」と感想を抱く。リーリウムは順調と言えなくもない人間との接触に安堵した。







かなり長く間をあけて申し訳ありません。

休みが週一で、大体寝てるか体力も頭を使わなくてもいいアニメ鑑賞になってしまいます。

仕事の疲れがまったく抜けません…。

しかし今回はやっと二日間もの休みが!


私は飲食業ですので特に世間一般で休日とされる日は稼ぎ時。

土日はもちろん祝い事の多い三月や四月、これから始まるGWはとても忙しいです。

次の更新は来月の半ばか末になると思います。


見放さず読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

次の更新でまたお会いできることを祈っております。



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