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血盟クロスリリィ  作者: 猫郷 莱日
二章 ≪賽は投げられた≫
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銀に輝く月と華 1


お久しぶりです、お待たせして申し訳ありません!

忙しく時間が作れない中、なんとか書けました。

今回は二話続けての投稿になります。




 月と百合を模した銀のバッジを左胸に装着。全身をくまなく姿見に映し、おかしな点はないものかと最終確認する。

 伸びてしまった髪は以前と同様、ミディアムほどの長さに切り揃えた。学園の制服である真っ赤なジャケットに、リーリウムの幻想的な銀髪がよく映える。


「よくお似合いですよ、リリィ様」


「そう?ありがと。…リンデも、制服似合うよ」


「ふふ、ありがとうございます」


 身支度を手伝っていたリンデは照れ臭そうにはにかんだ。一見クールでキツい顔立ちが、笑うと無邪気で柔らかな印象を受ける。

 残念ながら、この親しげで好意が分かりやすい態度も表情も、リーリウム以外に向けることはめったにないが。


(学園を楽しみにしてるリリィ様可愛いなー。ああ、こんなに可憐で優美で花どころか宝石も天使も生温い、それこそ月ぐらいしか並ぶ存在のない美しいリリィ様を、有象無象の輩の目に晒すなんて…リリィ様に、ううん、世界に対する冒涜だよっ)


 学園に心弾ませるリーリウム。そんな主を完璧な笑顔で見守りつつ、リンデは未だ荒れていた。同年代のヴァンパイアが蔓延る場所に魅力的なリーリウムを連れて行きたくはない。というのが以前と変わらぬ本音。

 なお、ヴァンパイアよりも大勢いる人間の生徒には興味の欠片もない。眼中にないどころか、意識から排除されている。


(リリィ様の寵愛を一番貰うのはボクだけどね!)


 しかし以前と変わった点もある。


 自信と誇り。

 リーリウムの専属となったリンデは、第一の専属騎士たる自負を身に着けていた。

 それゆえ、他のヴァンパイアがかしずき専属が増えようとリーリウムなら当然だと思えるようになっている。リーリウムの関心が己以外にも向けられることには嫉妬するが、それだけだ。


 一方。


 増えるだろう専属にリンデがヤキモキしているとは知らないリーリウムはというと。


(今日から学園生。また学校に通えるようになるなんて思ってもみなかったなぁ)


 ごく普通に、人間だった頃のように、今日から始まる学園生活に思いを馳せていた。


(ローズ達が色々教えてくれるらしいから、あんまり心配事もないし。しいて言えば、体育とかは力加減を失敗しないように注意しないとだけど)


 一応力のコントロールは訓練で及第点をウィスタリアからもらっている。あとは実際に周囲を見て、人間の平均に合わせるだけだ。


 学園の案内を務めてくれたプリムローザと浅黄の姿を思い浮かべる。少なくとも友人ができない心配をする必要はなさそうだと、これから会う二人に感謝した。


「じゃ、行こ」


「はい」


 準備万端。

 身支度を終えたリーリウムの言葉に同意し、リンデは素早く二人分の鞄を手に持った。



 リーリウムの自室から玄関へ向かうと、親世代の主従が娘たちの見送りのために待っている。


母上マトレム。行ってきます」


「ええ。行ってらっしゃい、リリィ」


「リンデ、くれぐれも騎士エクエスの本分を忘れないで」


「はいはい、分かってるって母さん」


 広い玄関ホールでそれぞれ母との挨拶を交わし、声を掛けないながらも見送りに集まってくれたウィスタリアの専属達に目礼。

 ある者はハラハラと、ある者は微笑ましげに、またある者は憮然とした表情で佇んでいた。


「みんな、行ってきます」


 最後に全員に告げ、リーリウムは外で待機している送迎の車へ歩き出す。リンデも粛々と後に続いた。






「ねえねえ、聞いた?あの妖精の話!」


「聞いた聞いた。春休みのやつでしょ」


「ってか誰が妖精なんて言い出したの」


「今どき妖精とか…」


「でもこの学園に限っては有りえなくもなくね?」


「言えてる~もはやCGじゃねってくらいのやついるし」


 爽やかな朝。


 始業式が行われるこの日、登校時間であるにも関わらず、そこかしこで生徒達の賑やかな会話がなされていた。


 知る人ぞ知る私立ジーヴル学園。創設者が芸術の国、フランスの出身だけあって敷地内の建物はどれをとっても機能的でありながらデザイン性に優れている。

 眺めていたいほど絵になるのは建造物だけではない。生徒が行き交う単なる道も、季節ごとに様々な顔を見せる植木や花々も、生徒達が着る制服も。全てが物語を垣間見ているが如く。


 通う生徒の質もあきらかに一般の学校とは異なる。


 どう見ても良家出身にしか見えない品を感じる者が多数おり、かつてテレビで見たような顔の者が平気でその中に混じり、平凡と思いきや着信音が鳴り響くスマホをとると突如ドイツ語で喋り出す者。


 そんな普通とは言い難いジーヴル学園である噂が囁かれ、特に高等部に通うかろうじて「一般」の枠に当てはまる生徒の関心を集めていた。


「“月華”のメンバーになるのかな」


「可能性は高そうじゃない?あの薔薇様が一緒だったんでしょ」


 学園でも有名な女生徒が連れていたらしい妖精。

 妖精とは比喩で、あまりにも美しい容貌を表すために使われている表現に過ぎない。


「目の保養が増えるー」


「いや、ヘタしたらまたのぼせる人続出するかもよ」


「あー…外部生は慣れてないもんね」


 ジーヴル学園にはなぜか容姿が整っている者が多い。それもただ整っているのではなく、極上と表現すべき人外の美しさを持つ者も複数いる。


「昨日だって入学式凄かったし」


「保健室に運ばれた一年生、ほぼ外部生だって誰か言ってた」


 入学式は学園の洗礼と呼ばれている。

 新入生でも外部受験してきたグループは、鼻血が止まらなくなる者や失神する者が二桁近く出るのだ。


「でも入学式で倒れてたら全校集会とか他の行事とかヤバいよ」


「“月華”が勢ぞろいしてるとこは未だに直視できない生徒が半数以上だしな」


「神々し過ぎるでしょあの方々」


「うっかりすると普通に意識持ってかれる」


 学園の中心。学園の中枢とさえ言われる影響力を持つ生徒達が存在する。

 会話に登場する“月華”とは、その生徒達が所属する学園の組織の名だ。学園に認められた特別な生徒のみが受けられる待遇と権利が付随し、行事運営等を行う生徒会と同等以上の権限が約束されている。


 特別待遇生徒の条件は一部だけ公開されていた。

 学力・運動能力・容姿が格別に優れていること。そう、「格別に」である。


 学園の中でひときわ目立つ花、どこにあろうとその才は揺るがない、闇夜にあってなお輝く者。

 ジーヴルの顔に相応しい特別待遇生徒で構成される組織、正式名称“月華の会”。




 高等部二学年の教室にて。


「かなり噂になってるけど、その妖精とか呼ばれてるのは貴女の知り合いなんでしょ。いいの?」


 華奢な銀縁眼鏡越しに、切れ長の冷たい眼差しで少女が友人に問いかける。きっちり切りそろえられた黒髪のポニーテールで、生真面目そうな優等生といった雰囲気だ。


「ふふ…絢草あやさって本当に優しいですわ。心配しなくても早いか遅いかの違いなのだから、噂なんて好きにさせておいてよろしくてよ」


「なっ、あ、アタシは心配したんじゃなくてどういうつもりなのか聞いただけよ!貴女の知り合いならよほどの人物だろうから、騒動に巻き込まれたらアタシ達がどうなるか分かったものじゃないわ!心配は心配でも自分の身の心配よっ」


 問いかけた少女、緋衣ひごろも 絢草あやさが眦をつり上げて必死に否定するたび、烏の濡れ羽色のポニーテールが顔の動きに合わせて揺れた。

 果てしなく悪くなっている目つきで横に座る友人、プリムローザを睨む。


「そんなムキになって否定したら図星だって言ってるようなもんじゃね。いい加減素直になれば?」


「貴女はなんでこういう時だけ分かったような口をきくのよっ。普段はアホ面晒してるくせに!」


「なにぃ!ともはアホだけどアホ面はしてない!」


 絢草にうがーと唸る言葉遣いの荒い少女、蓮弥はすみ とも。日焼けした肌とウルフヘアーのアッシュグレージュに染めた髪も合わさり、躍動的で快活だと印象付けられる。


 第一印象を裏切らないタイプと言ってよいのか、素早い身のこなしで腰掛けていた長机から降り、絢草にずいっと顔を近づけた。


「ほら!」


「……ええ、まあ、黙っていればむしろ頭が回りそうなイタズラ猫って感じね、ってか近いわよ邪魔!」


「むぎゅっ」


 あと数センチで唇が触れ合う距離。すでに互いの息遣いまで感じられる間近に顔があり、慌てて絢草は友の顔を押しやった。


「なにすんだよーっ友の可愛い顔が潰れちゃうだろ!」


「確かに友の顔は可愛らしいけれど……ワタクシ達以外に言ってはダメですわよ?淑女とは言えない醜い心の女の子も世の中にはたくさんいらっしゃるから」


「へぇーそうなんだ……シュクジョってなに?」


「ざっくり言うと心が綺麗で思いやりにあふれた素敵な女の人のこと。…ローズ、前にも教えたけど友に言っても無駄。どうせナチュラルに相手のコンプレックス刺激するようなこと口走るから」


「そうですけれど、一応その都度指摘すればマシになりますわ」


「刺激するとコーンフレーク出てくんの!?あれ美味いよな!で、どう刺激すれば出てくんの?殴るの?」


「………予想以上に酷いですわね」


「諭そうとしてもおバカな友に理解させるのが一番大変なのよ……」


 プリムローザと絢草、二人で思わず遠い目をする。


「友のおバカは今に始まったことじゃないからおいておきましょ」


「それもそうですわね」


「なぁ、コーンフレークどうやったら出てくんの?」


「人を殴ってもコーンフレークが出ることはありません。さっきのは友の聞き間違いよ。食べたいならお店で買いなさい」


「ちぇーなんだよ。期待して損した」


 絢草と友は幼馴染である。明後日の方向に解釈した友を宥めるのも慣れたものだ。


(この二人は本当に楽しませてくれますわ。人間であるのに心がとても綺麗ですし)


 微笑みながらプリムローザは恒例となっている絢草と友のじゃれ合いを眺める。


 ヴァンパイアである自分から見ても、この二人の生き方は気持ちのいいもの。人間特有の醜悪でどす黒い感情が希薄で、性根から善人であることが妖力の気配で分かる。

 プリムローザにとって、学園で最も信用している人間の友人達であった。






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