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血盟クロスリリィ  作者: 猫郷 莱日
一章 ≪転換≫
14/43

銀を冠するモノ 2

明けましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いします!!



 気を取り直して能力の訓練に戻る。


「基本はひとまずできたから、あとは練習あるのみね。次のステップに進みましょう」


 自分の意思で氷を作るという課題は乗り越えた。

 応用でもするのかなとリーリウムは気軽に構えている。


「妖力は、自分の一部。これは“知識”にあるわね」


「…うん」


 鳥の翼が腕の役割を担うように、トカゲの尻尾が切り離せるように。

 妖力は体の一部にして代わりが作れるもの。必要不可欠ではあれど、いざとなれば次があるのだ。手足のように動かすことができ、外に放っても人形を操る糸のごとく自由自在に操作できる。


「アタクシ達が作った氷がその場に浮かび続けていられるのは、妖力で座標を固定しているから」


 ペキペキ。

 予備動作もなくウィスタリアの正面に氷塊が構築される。


「氷がそこにある限り、細い糸で繋がったかのような妖力の感覚が残ってるでしょう?その糸に妖力を上乗せすれば、新たなイメージを与えられる」


 パキィッ。

 ただの氷塊は体をくねらせる蛇へ。


「それだけじゃなく、糸を引っ張るみたいに移動させることも」


 生きている本物の蛇を錯覚させられる動きが加わった。さながら空中を泳ぐ氷蛇だ。


「これをたくさん織り交ぜることで、ただの氷だったものが一気に応用のきく手段・・となるわ」


 パキベキ…キュオッ!


 走る緊張。リーリウムの顔の真横を、凄まじい速さで通り抜けた何か。


「…っ」


 慌てて確認した物体の正体は、氷杭。

 リーリウムの後方で旋回し、ゆっくりとウィスタリアの元へ戻ってゆく。


「ふふふ、ビックリしたかしら」


「…次は事前に行ってほしい」


 心臓に悪い。


(ほ、ほんとに止めて。ああー…今になって心臓がドキドキしてきた)


 冷や汗が背中を伝う。早鐘を打つ胸を手で押さえるが、眉が僅かに寄った程度で、リーリウムの表情にさして変化はない。

 感情が出にくい顔というのも考えものだ。


「ふふっ、ちょっと意地が悪かったわね」


 茶目っ気を含んだ声音とウインク。反応を楽しんでいるらしい。


 一呼吸の間を置き、実践に移る。


「この使い方は様々な場面で活用できるわ。それこそ直接の攻撃手段にも使えるし、逆に相手の動作の妨害や防御にもね。…あまり物騒な状況にはなってほしくないけれど」


 ウィスタリアの繊細な美貌が曇り、不安の影。


「でも覚えておいて損はないでしょう。いつ害意を持った輩が現れるとも限らないのだし」


 違法浮浪者イリーガル、ヴァンパイアに恨みを持つハンター。そしてヴァンパイアを滅ぼすことを悲願とする退魔師や陰陽師といった存在。

 加えて、一般人でも遭遇するような人間の暴漢や通り魔などの犯罪者。


 危険はどこから迫ってくるか分からないのだ。自衛手段を持つに越したことはない。


(近頃はとみ違法浮浪者イリーガルが活発化している……違法浮浪者イリーガルの集団が何らかの規律を持ったまとまりになってきているのも厄介。まるで呼応するようにハンター協会も危険な匂いが漂い出した)


 一言で表すなら不穏。これに尽きる。


(これで陰陽師まで妖しい動きを見せ始めたら…想像するだけで気が滅入るわ)


 陰陽師。古来は正式な国の官職。後に占い等を扱う奇異な者達まで現れ、市井しせいにも陰陽師を名乗る様々な者が台頭した。

 それら全ての者達が広い意味で陰陽師と呼ばれる。


 しかし、時の移り変わりと同様に変化した現在の陰陽師の在り方は少々異なる。


 占いを行う奇術は数多の可能性を秘めた妖術の一種となり、魔を滅する力を持った。伴って、魔をほふることに特化した驚異的な退魔の組織へと。


 陰陽術と名付けられた力を持つ、ヴァンパイアを滅ぼさんとする者。これが今の陰陽師である。


(まったく……嫌な時代が来そうね。遙かの日に何があったのか、人間ヒトはすぐに忘れる。………いいえ、違うわね―――)


 忘れたかったのだろう。忌々しい彼の日・・・を。

 証拠に。公に知られることすらなく、歴史から消された。


 否。自分達の都合のいいように、密やかに、改竄かいざんした。


(―――国の恥を、世界における人間ヒトの立ち位置を、認めたくなかった。………ヴァンパイアアタクシたちは、そんなことを分からせるために臨んだわけではないのに、ね)


 嗚呼、なんて愚かで浅ましい。意地汚く、臆病な生物であるのか。


「……母上マトレム


「…っ。…なぁに、リリィ?」


「心配なことでも、あるの?」


「――!!」


 ハッと我に返ったウィスタリアは、リーリウムの瞳を見つめた。


 探る意図もない、ひたすら真っ直ぐで純粋な、綺麗な目。鮮やかな翠玉はただただ、ウィスタリアを想う色のみを映す。


「…ほんの少しだけね。リリィが誰かに傷つけられるところを想像してしまったわ。もちろん、そんな事態にならないようアタクシは守りたいわ」


 これは本心であり、事実。リーリウムが知るのはこれだけでいい。


「さ、力の応用よ。やってみて、リリィ」


「分かった」


 首肯して素直に挑戦する我が子を見て、ウィスタリアは眩しげに目を細めた。


「…イメージして妖力の上乗せ」


 口に出しながらやることで成功させやすくするねらいだ。


 リーリウムは未だ己の手に浮かぶ氷のリンゴと繋がる妖力を意識する。

 今度の形は武器になりそうなものにしてみようと思案。


「矢…腕の長さプラス一〇センチくらい…」


 ウィスタリアのような杭も考えたが、ここは日本らしく弓道で使う弓の矢にした。


「容易に壊れない鋭い矢…透明な冷たい氷の矢…」


 リンゴに繋がった妖力に、イメージを乗せて多めに妖力を上乗せする。


 ピキィッ。

 手元を見やると頭に描いた矢がきちんと形作られている。白くなるという失敗もない。


「あっちの壁の…直前まで、いけ…!」


 さすがに壁に刺さるのはマズイかと寸止めする気持ちで矢を放つ。


 ヒュアッ!


 予定通り、壁際すれすれで止まる氷矢。完璧な成功だ。


(よしっ、できた!)


 思わずガッツポーズ。無表情ながらどこか明るい生き生きとした感情が漏れた。実はよくよく観察すると口角が数ミリ上がっているのだが、そこまで分からずとも歓喜しているのは伝わってくる。


「一度で成功させるだなんて、アタクシのラ・フィュはとっても優秀ね!」


「そうかな?」


「うふふ。そうなのよ。普通のヴァンパイアの子供は練習し始めの段階でこれほど妖力をうまく扱えないの」


 氷矢を手元に引き寄せながら振り返ると、ウィスタリアの慈愛に満ちた顔。


「力の発現までは簡単なのだけど、発現後に動かすことは意外と難しくて、躓く場合が多いわ」


「でも、できる子もいるでしょ」


「そうだけど、リリィは人間だったファミリアでしょう?ファミリアはその元人間という弊害で、個人差はあれどヴァンパイアの感覚を掴むのに時間がかかってしまうものよ」


「そうなんだ…じゃあ私、けっこう凄い?」


「ええ。もっと誇っていいわ」


「…母上マトレムの自慢になるなら、誇れる」


「~~~っもう、リリィは本当に世界一素晴らしいラ・フィュよ!!」


「ふあっ!?」


 瞬時に距離を詰められ、ウィスタリアの華奢な腕に見合わない力強さで抱きしめられる。気付けば目の前に藤色にも似た碧眼が迫っていてリーリウムは驚いた。


 またも親バカ化が著しい対応に走ったウィスタリアだが、見て分かるほどにはにかんだリーリウムを目撃してしまったのだから、仕方がないのかもしれない。


 この時、驚愕でリーリウムは妖力を分散させたうえに回路を切ったため、氷矢は形を保っていられず消えた。



(いいなぁタリア様。リリィ様を公然と抱きしめられて)


 繰り広げられる親子愛に羨ましげな視線を向け、しみじみと胸中で呟いたリンデ。

 その横ではキーファが複雑な顔で居たたまれない心境に陥る。


(タリア様はお嬢様が好き過ぎるでしょう……ああ、あんなに目じりを下げられて…こんな顔をこれからどこに行ってもなさるわけですか…。っは、まさかレクスや他の六王玉ドミナスの方にも!?ああ、いいことなのか悪いことなのか判断に困る!)


 高潔にして凛然とした氷の女王。高雅なる完璧な淑女とは正しくウィスタリアのための言葉だとヴァンパイア達は噂する。

 氷銀女王に死角などない。キーファもこれまではそう思っていた。


 だがしかし、いかな氷銀と言えど娘に関してはその氷壁もなすすべなく溶け崩れるらしい。


 キーファにとって頭の痛い悩みがまた一つ増えたのだった。






読んでくださりありがとうございました。

更新頻度は相変わらず遅いですし不定期になりますが、これからも頑張って執筆していこうと思います!



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