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血盟クロスリリィ  作者: 猫郷 莱日
一章 ≪転換≫
12/43

甘美なる血の絆 4

お久しぶりです!


十二月からリアルの方がばたつき、中々時間が取れませんでした。

申し訳ありませんm(._.)m



 自分が見ていない所できっとリーリウムは先に進んでしまう。手の届かない場所に行ってしまうだろう。

 アルゲントゥムの名にふさわしく他者を魅了するリーリウムだから、周りが放っておくはずがない。


 置いて行かれないためにリンデができるのは、傍にいること。いてもいなくてもいい存在ではなく、専属という他者を納得させられる肩書きが必要だった。



 リーリウムが人間としてもまだ幼子と言える年齢だったなら、リンデもここまで焦燥感を覚えなかっただろう。専属となるための能力を身につける期間を受け入れ、リーリウムと過ごす時間を積み重ね、認められるまでゆっくりと待ったかもしれない。

 今それができないのは、リーリウムがすでに十代半ばを過ぎた年齢であるから。


 ヴァンパイアの成人は百歳。つまりリーリウムはヴァンパイアとしては幼子と言ってもいいが、リンデは喜べない。ちょうど思春期に突入する年頃が十代半ばほどなのだ。そして長命であるがゆえに八十歳まで思春期が続く。


 だが、このヴァンパイアの思春期というのが、人間のものよりも少々厄介な代物だった。


 一般的な思春期といえば。

 異性への関心が出てきたり、親から自立したいがために反発心を抱いたり、感情の起伏が激しく精神が不安定になったりすること。ただしあくまでもそれは人間であれば、だ。


 ヴァンパイアの思春期はそれに加え、妖力の急成長からくる暴走、力を持ったことによる増長と選民思想の発現、吸血衝動に対する理性の緩みなどがある。



(そんな獣どもにリリィ様を好きにさせてたまるもんですか!)


 リンデの歳は三十五歳であり、人のことは言えない。


 さらに思春期云々は建前で、本心は同年代―――二十歳前後の歳の差でも人間感覚で二歳か三歳くらいの違い―――のヴァンパイアにリリィが掻っ攫われるのを恐れているだけだ。自分より先に専属騎士になる者が出てきたら、ショックのあまり倒れるかもしれない。


 そういう訳で、リンデは専属になるのに必死なのであった。



 結局キーファを認めさせることもできないまま、騎士エクエス達による話し合いは終了した。大人達はリーリウムの様子などをキーファから聞き満足げだったが、リンデの心は話し合う前よりも荒んでいる。


「焦らず確実に力をつけな、若人よ。専属の中でも第一騎士になりたいってのは、まあ、分からなくもないがな」


「…………はい」


 わしわしと頭を撫でてきたエルガー・パキラグラ―――騎士エクエスの一人である金髪碧眼の男―――に、不承不承といった体で返事を返す。

 乱雑でありながら優しさを感じる手。反発したいと訴える己の心を抑え込んだ。手から伝わる妖力で、目の前の男が自分を心から心配してくれていると分かってしまったから。そういう面において、リンデはエルガーが苦手である。


(父さんがいたら、こんな感じなのかな)


 考えても仕方のない事を、思ってしまう。


(…別に。男の親なんて、必要ない。母親一人いれば子供を育てるのに支障がないし)


 ボクみたいに。


 リンデは常々思っている。子育てというものは、母親で完成されているのだ。

 子が本能的に生まれた瞬間から求める存在は母であり、無条件に懐くのもまた母である。栄養源となる母乳を持つのも母であり、何より子を愛し慈しむ母性が備わっているのも母だ。


 原始の時代より男が母子を守り生活の糧を得て支えるとあるが、その役割を必ずしも子種の親がする必要もない。別の男でも可能だろう。あるいは、守るという力と糧を得る技術があるなら、女でも務められる。

 つまり“父親”というポジションは、いくらでも代替できる。


(究極の意味で、男は子種以外いらないよね)


 それがリンデの持論であった。

 もちろん、その持論とは別枠で認められる男がいることも承知しており、そういう男はエルガーも含めて尊敬はしているのだが。


「あのぉー…リンデ。頑張ってくださいね。……わたしの平穏のためにも」


 エルガーがにかっと笑って去っていくと、どう見ても少女にしか見えない女、エスピ・アロエスがおずおずと近寄ってきた。


「このままではこの歳になって学生服に身を包まねばならなくなってしまいます…っ」


 へにょり。元から下がっていた眉がさらに下がる。この顔で言われると本当に成人しているのか疑わしい。


「頑張るのは当然ですけど、エスピさんはリリィ様のお側に居たくないのですか?」


「そりゃ、お側に居られたら名誉なことだと思いますよ?で、でも…今の段階じゃ全く御子様のことが分からないので、何をしでかすか、こ、怖いじゃないですか。…あと、純粋に学生服は…ちょっと……」


「……そうですか」


 絶対に最後のが本音だなと思いつつ、リンデはつっこまない。彼女のコンプレックスを大いに刺激した輩が、過去に悲惨な末路を遂げた事を知っている者として。


 頼りなさげな大人しい雰囲気を持っているが、それは仮の姿と言っても過言ではない。腹黒と言えば聞こえは悪いが、エスピの能力が遺憾なく発揮されれば、誰であっても精神的に追い詰められることは必至なのである。


 敵であろうが味方であろうが、アルゲントゥムの専属騎士の中で最もおそれられる人物。それがエスピだ。

 ヴァンパイア界隈でエスピ・アロエスの名を知らぬ貴族ノビリス騎士エクエスもいない。


 だから、ウィスタリアもリーリウムの傍に置きたがる最有力の騎士エクエス。現時点でリンデの最恐のライバルである。


(本当に、エスピさんがタリア様の専属で良かった…)


 すでに決まった主がいるエピスは、ライバルであっても不戦勝できる。リーリウムの専属の座を争うことはない。


 改めて認識した事実にほっと息を吐いてリンデはエスピと談笑した。






 夕闇も過ぎた晩。リーリウムは心地よい目覚めを覚える。


「…?…ふあ……」


 薄く開けた瞼の隙間から周囲を見やり、小さく欠伸を噛み殺しながら首を傾げた。

 見覚えのない場所にいる自分に疑問を感じたが、しばらくしてそういえば新しい家族が用意した部屋にいたのだと思い出す。


(んー…よく寝た)


 もそもそと布団の中で動き眠気を覚ましつつ、寝る直前の記憶が徐々に呼び起され硬直した。同時に首から目元まで一気に赤みがさす。


(っ…なな、なんてことをしてるの!?ああっ恥ずかしい!あんな、あんな声出すとかっ。っていうか無理!あれを頻繁にするとかいろいろ無理だからっ!)


 意識が落ちる直前までは冷静だった気がするが、その時はその時で普通ではなかったのだ。おそらく巷で言う「賢者モード」と呼ばれるなにかではないかとリーリウムは考える。


(まあ、賢者モードがなにかよく知らないけどっ)


 愛情過多な父に育てられた由璃、もといリーリウムは、親友と周囲の友人達が結託してその手の話題を排除していたため、名称は知っていても意味はよく分からないという単語が多かった。



『ついこの間めでたく最後までいったんだけどね…それで、あたしの彼氏がさー。ヤッた後に妙に悟った顔ってか神妙な感じで』


『あーあれでしょ、賢者モード!』


『それそれ』


『で、感想は?ヤッた行為自体はどうだったん?』


『普通。ってか目がね、ギラギラしてんのなんのって。興奮で鼻膨らませててちょい引いた』


『童貞だったんでしょ。仕方ないって』


『そういうもんかな…だってそれにしてもいきなりバックはなくない?』


『マジ!?ないわー引くわー。別れた方がいいんじゃね』


『こらあんた達!!』


『いたっちょっなにすんの葵!』


『いきなり叩くなよ、由璃に言いつけちゃうぞ!』


『その由璃がもう教室にいるんですけど!はい今の話お終いね』


『え、嘘』


『あーおはよ由璃。今のは聞かなかったことに…』


『おはよ。賢者モードって?』


『………』


『それはー…あれだ。ヤッた後の悟りモードでいっだ!葵また叩いたな!?』


『由璃にいらない知識吹き込まないでよ!』


『今のはアンタが悪いわ』



 ある時の教室での一幕。

 話はうやむやになって、友人達の必死な様子から「バックってなに?」というもう一つの疑問は口に出せなかった。


 「賢者モード」とはいわゆる異性間における性的な何かに関係するものの名称だろう。だからウィスタリアとのあれこれは同性であるのだし、用いる言葉は正しくないかもしれない。


 一人頷くリーリウムに正しい知識を教えてくれる者はいない。


「……リンデに聞いてみよっかな」


 目を輝かせ、リーリウムは妙案だとばかりに手を打つ。きっと人間だった頃に教えてもらえなかったのは、付き合いが長かったために由璃の父の影響を受けた葵が友人達に言い聞かせていたからなのだ、と。

 リンデならちゃんと教えてくれるだろう。父とは会ったことすらないのだから。


 リンデの知らない所で激しく対応に困ることをリーリウムは決めた。

 聞かれたリンデの脳内が色々な意味で桃色に染まるだろうことは言うまでもないが、リーリウムを殊更大事にしているうえに深い想いを抱いているリンデの理性やら倫理観やらが試されるであろう。


 また、その場面をウィスタリアが見ているか否かでも状況を変わってくるだろうし、どちらにしろリーリウムとリンデが二人きり以外の場面で会話がなされたら空気が荒れるだろうことは想像に難くない。






少し短いですが、今回なんとか投稿できました。

一応正月休みの期間はそれなりに時間が取れそうですので、続けていくつか投稿できそうです。

この忙しさは二月頭まで続くかと思います(-_-;)


また、ブクマ・評価等ありがとうがざいます!

これを励みに頑張りたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。



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