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第5話 小鳥遊理事長とロジック遣い

 

「綾宮隼人くん! ちょっと待ちたまえ!」


 女子更衣室へ向かって廊下を歩く隼人たちは、大声に呼び止められる。

 廊下にいた生徒たちが大声の主に注目する。


小鳥遊たかなし理事長……」


 隼人は振り返る。

 そこにいたのは身長2m、ぶ厚い胸板を持つ大男。スキンヘッドに太い眉。精力旺盛そうな風貌。


 それこそは名門・秋葉原学園の理事長・小鳥遊豪剣ごうけんだった。



「ワシが秋葉原学園board chairman、小鳥遊豪剣ごうけんである!」


 小鳥遊は一喝する。



「す、すみません。小鳥遊理事長でなく小鳥遊board chairmanでしたね……」


 隼人は小鳥遊理事長が、何故か理事長でなくboard chairmanと呼ばせることにこだわりを持っていたことを思い出し謝罪する。



「構わん。間違いは誰にもある。大切なのは、そこで反省し、2度同じ間違いをしないことにある。これを人は『成長』と呼ぶ。ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」


 小鳥遊は豪快に笑う。



「バカじゃないの」


 花音が人に聞こえないほどの小声で毒を吐く。

 だが、小鳥遊は地獄耳だった。


「ん? なにか言ったか?」


 小鳥遊理事長はギロリと花音をにらむ。


「い、いえ、何でもありません……」


 花音は焦りながら頭を下げる。



「そんなことより小鳥遊board chairman。俺になにか用があったのでは?」


 隼人が花音を守ろうと話題を変える。


「おう、そうだった。秋葉原学園の卒業生に、人色ひといろ蔵人くろうどという卒業生がいるのは知っているかな?」


「はい。伝説の生徒会長として、小鳥遊board chairmanをはじめ理事たちを完全論破して、学園の主要な権限を理事会から生徒会へと委譲させた方ですよね。これにより秋葉原学園高校は、世界で最も生徒会の自治が広くて尊重する学校として有名になりました。ですので、素晴らしい功績の持ち主と評価しておりますが」


「うっ」


 当時のことを思い出したのか、小鳥遊の顔に苦渋の色が浮かぶ。


「東大とハーバードとケンブリッジを受けて全てを一番で合格され、今はハーバードへ留学中だとか」


「そうなんだよ。その彼が遂にリーマン予想の証明に成功したらしいんだ。さっきメールで教えてくれてね。優秀なOBがいてワシも鼻高々なんじゃよ」


 嬉しそうに語りかける小鳥遊。


「そうですか。遂に蔵人さんは念願を叶えられたのですね」


「あれ? 君は蔵人くんと面識があったのかい?」


「はい。俺が小学生の頃、よく詰め将棋を出題して下さり、解いてました。4年前のことです。俺が探偵になると心を決める時が来れば『史上最強の名探偵にして完全なるロジック遣い』という2つ名を名乗ると良いとのアドバイスを下さったのも蔵人さんなんです」


「ほぅ~、そんな接点があったなんて世の中は広いようで狭いもんだな」


「ん? 君は風紀委員副会長の花音くんだね? そして女子水泳部部長の雪乃くんか。 妙な組み合わせだな。 ん?! もしかして何か事件が起こったわけじゃないんだろうね」


 勘の良い小鳥遊は、隼人に核心を突いた質問を投げかける。



「それを知ることに意味はありますか? 蔵人さんの行われた改革により現在の秋葉原学園における警察権限は生徒会長である俺に専属しています。そして、今の質問に対し俺はグローマー拒否権限を発動します。したがって、これ以上、先ほどの質問をされると生徒会の自治権に対する圧力として問題が生じかねませんが?」


 隼人は小鳥遊を相手に、完全なるロッジクを展開する。


「ぐぬぬ……そ、そうだったな……ついやっちまったな……」


 苦しげな小鳥遊。


「いえ、構いません。間違いは誰にもあります。大切なのは、そこで反省し、2度同じ間違いをしないことでしょう。それが『成長』なんですよね」


「コ、コラッ! 隼人くんっ!」


 先ほどの自分の演説を逆手に取られ、小鳥遊の額に血管が浮き出る・


「言い過ぎたかもしれません小鳥遊board chairman。実は相談したいことが1つあるのですが」


「ワ、ワシに相談かね」


 一転、嬉しそうになる小鳥遊。親分肌の小鳥遊にとって、人から頼られることは好ましいことらしい。


「蔵人さんが卒業された後に生徒会長になったおかりんの改正された生徒会規則は欠陥が多い悪法です。そこで現在、俺は次の生徒総会で生徒会規則の再改正をすべくゼロベースから検討しつつ草案を起案しています」


「ほぅ」


 小鳥遊は感心した目で隼人を見る。


「悪法のうち最たるものは、生徒会規則第114章51条4項にあります。これは生徒会規則上の禁止規定に当たる行為があれば退学しか認めない極端に厳しい規定です。これでは逆に生徒会は懲戒権限を発動できません。改正規則では、不確定概念を用いることで広範な要件裁量を認めるつもりです。また、改正規則では、退学だけでなく、停学や戒告も可能となるようにして郊果裁量も認めるつもりです。これらの改正により、秋葉原学園生徒会規則は、世界で最も公正で中立的な内容を持つ校則となるでしょう」


「さすが隼人くんだ。そこまで我が校のことを考えてくれておったんだな」


 小鳥遊が興奮した瞳で隼人を見る。


「ん? 待てよ」


 小鳥遊は一転不思議そうな顔をする。


「我が校の生徒会規則では、改正は生徒総会で生徒のみにより決定される。board chairmanであるワシといえども、投票権を持ってはいない。それなのになんでワシに相談するんだ?」


 不思議そうに小鳥遊は隼人を見る。


「法的権限が無くても、総会までに生徒の前で演説をすることで、生徒を誘導することは可能です。これにより、生徒を介することで間接的に法的権限を持つことはでき得ます。そして、あなたなら、それを実行できるだけの力量もお持ちです。そういうことをされると困ると言っているわけです」


「なるほど、根回しだな。その年で、たいしたものだ」


「そうですか? 国会会期中の官僚なら皆やっていることです。まさか日本の官僚組織に俺より有能な事務次官がいるとお思いではないでしょうね?」


 隼人は自信たっぷりに小鳥遊に質問する。


「すべて了解した。ワシを信じろ。しかし、そういうところは蔵人あいつにソックリだな。君のような人材がいてくれることで、ワシもますます秋葉原学園のboard chairmanとして鼻が高くなるぞ。頑張ってくれたまえ。ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」


 小鳥遊は豪快に笑う。


 小鳥遊へ一礼すると、隼人たちは屋外へ出て、女子更衣室の前へと立つ。


 雪乃がノックをする。


 コンコン


「入ってください、どうぞズラ」


 静岡訛りの少女がドアを開ける。

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