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第4話 関西弁遣いとロジック遣い

 

「入って、どうぞ」


 隼人が、低い美声で外の人物に声をかける。



 ガチャ



 顔面を蒼白にさせた一人の少女が、慌てた様子で生徒会役員室へ入ってくる。



「大変や! 完全な絶対の密室で罪が起こったんや。起こるはずのない完全不可能犯罪が起こったんや! ウチを助けて欲しいんや!」



 絶対と呼ぶには余りに絶対すぎる密室、すなわち完全絶対密室におけるパーフェクト・プロブレム。人類の知性では決して解に辿り付くことのできぬ難問『真夏の夜の方程式』。


 それこそは『史上最強の名探偵』にして『完全なるロジック遣い』綾宮隼人による奇跡の推理ショーの幕開けであった。




 その関西弁の少女は、身長は170cmを越え、体は細身だが、胸は大きく、しっかりクビレた完璧なるモデル体型。

 目鼻立ちもハッキリしたモデルのような顔立ち。肌は透き通るように白い。

 紫の長い髪を、巻き毛にして華麗な印象を与える。




「女子水泳部キャプテンの黒田雪乃先輩ですね?」


「そや! さすが生徒会長や。ウチのこと知っててくれてるんやね」


「昨秋の生徒総会のための予算原案作成の時期に、毎日しつこく生徒会を訪れて、ガメツい予算要求をしていたと前生徒会長から聞いたことがありますので。全国レベルの実績を出しているのは新井選手しかいないのにゴネまくったと聞きましたが」


「え~~。ウチはもらえるもんは貰っとかんと気が済まへん性質たちやからねぇ。ガメツイ言われるのは心外やけど、見解の相違ちゅうこっちゃなあ

 とりあえず、座らせてもらうで」


 雪乃は、隼人の近くに無造作に置かれていた机へと座り、右足を上へ交差させて組む。この小説の舞台である20X8年という近未来の東京でのJKのスカート丈のトレンドは極端に短いものとなっていた。しかも、雪乃は身長が170cmを越え、 細身でモデルのような体型。脚も非常に長くて白く美しい。そんな雪乃が、隼人の目の前で短いスカートで脚を組んで机の上に座るのだから、その白くて 長い脚が一際ひときわ強調される。常にクールな隼人ではあるが、思春期の健康な男子でもあることから、表情に一瞬だけ緊張が走る。


 花音と千冬は女性であるから、そこには意識をしない。



「今、水泳部の女子更衣室で絶対不可能な犯罪が起こったんや。せやから『史上最強の名探偵』にして『完全なるロジック遣い』って言われてる隼人くんに解決して欲しいんや」


 懇願こんがんする口調の雪乃。



「雪乃先輩。その前に、その胡散臭うさんくさい関西弁をやめてもらえませんか? ふわっとした関西弁というものは、俺が大切にしている厳密な論理ロジックにとってさまたげになるものなんです」


 隼人は冷たく言い放つ。



「隼人くん! 今のアンタのセリフは、関西弁への侮辱やで! アンタは、いま全ての関西人を敵に回したで! 関西弁でも、ちゃんとロジカルに会話はできるんやで」


 ムッとした表情になる雪乃。


「果たして、本当にそうでしょうか?」


「え?」


「雪乃先輩、ならば『私の犬はチャウチャウとは違うよ。違うよ、違うよ、違うんだからね』という標準語の会話を関西弁に翻訳して下さい」



「そんなん簡単やん。ウチの犬はチャウチャウちゃうで、ちゃうで、ちゃうで、ちゃうねんで……ホンマや! 全然ロジカルちゃうわ!

 さすが『完全なるロジック遣い』の隼人くんや」


 雪乃は驚く。



  「今のはロジックを遣ったわけじゃありません。単なる戯事ざれごとです。

 もっとも、ロジックを遣える人間でなければ戯事を遣えない点で両者は相当程度の関連性を有する概念同士とは言えますが」



「え? そうなん? 戯言なん?」


 キョトンとした顔の雪乃。


「それは置いておいて、本題へと入りましょう。雪乃先輩、あなたが生徒会役員室に来られたのは窃盗事件の被害にあわれたから。間違いありませんね?」


「そや! さすが『史上最強の名探偵』にして『完全なるロジック遣い』や。さっき盗まれたばっかりなんやで。ウチ隼人くんになんも言うてへんのに、何で分かったん?」


 雪乃は驚愕する。



「盗まれたのはスケスケの紫の紐パン、間違いありませんね?」


 隼人は冷静に言い放つ。


「なんでや! なんで、そこまで知ってるんや! アンタが犯人なんやな!」


 雪乃は立ち上がって気色ばむ。


「落ち着いて下さい。これも全てロジックによるものです。簡単に推理可能なものばかりなんですよ」


「え? ほんまに?」


「雪乃先輩、あなたは8月のこの熱い校舎の廊下を、あわてながら走ってココまで来られたのでしょう。ずっくり汗をかかれています。

 だから、白いシャツごしに紫のスケスケのエロいブラが透けて見えるんですよ」



「キャッ、見んといて」


 雪乃は慌てて両手で胸を隠す。



「ちゃんと乳首を絆創膏で隠されているのも見えました。だから安心して下さい」


「そこ安心するとこちゃうんちゃうん?……」


 そんな雪乃の質問を隼人は無視する。


「話を進めましょう。わざわざ学校にそんなエロいブラをつけているということは、強いこだわりを持って下着をチョイスされた考えるのが合理的でしょう。そうすると、下着のブラとパンツはセットのものと推認することができます。そうだとすると、スケスケの紫のブラとセットになったパンツとは、スケスケの紫の紐パンしかあり得ません。

 ゆえに、雪乃先輩、あなたは今日、スケスケの紫の紐パンをいて来られたことが確定します。ですが、短いスカートで脚を組んで机の上に座られるから分かるのですが、あなたは今、紐パンを履かれていません。

 よって本件は窃盗事件であり、被害物件はあなたのスケスケの紫の紐パンであると一義的に決定されるのですQ.E.D」


 隼人は証明終了を告げる。



「完璧な推理やん! さすが『完全なるロジック遣い』や! その通りやで!」


 雪乃は目を輝かせながら絶賛する。



「え? え? ほんなら、あんたウチのアソコ見たんかいな」


 雪乃は、自分の秘部を見られたことに気づき、顔面を紅潮させ慌てる。



「安心して下さい。俺は小さい頃からXVIDEOで、そんなの見慣れてますから興奮してません」


「たしかにそういうロジックも成り立つやんな……」


 雪乃は隼人がフォローしているのに気づき、うっすら目に涙を浮かべながら、とりあえずうなずく。


「せやけど自分、まだ高校1年やろ。そんなん見てええんはウチみたいな18才以上のもんだけやで」


 隼人は、取り合わずないで冷静な表情のまま雪乃に尋ねる。


「盗まれたのは、紐パンだけですか?」


「せやねん。半年前にもらった大切にせんとアカンもんやのに立つ瀬があらへんねん」


「完全絶対密室と言われたということは、紐パンは水泳部の使う女子更衣室で盗まれたということですね?」


「それも正解や。あの部屋は、昔、お笑い芸人が忍び込んで体操服が大量盗難されたことがあったやろ。それをキッカケにバイオメトリック認証システムが導入された。指紋、てのひらの静脈、網膜っちゅう3点の生体認証を要求する完璧なやつや。それも世界最高のセキュリティー技術を持つイリュージョン・アーツ株式会社のやつなんやで。


 そんな完璧なバイオメトリック認証システムが、更衣室の入口に設けられていて、これは水泳部部長であるウチしか開けられへん。しかも更衣室の中のウチのロッカーも、完璧なバイオメトリック認証システムで、ウチしか開けられへんねん。二重の完璧な要塞があるってことなんや。それなのにウチら水泳部が練習してる間にロッカーから紐パンが盗まれたんや」



「そんなの完全密室じゃない……絶対の不可能な犯罪……」


 花音が驚愕する。


「え? お兄様、それだけで完全な密室になるんですか? 助手様ちゃんは、窓が開いてたり、屋根裏とか隠し扉とかで入れる可能性を考慮に入れるべきだと思いますが」


 千冬が隼人の助手という立場から、完全密室であることを否定する可能性を有する具体的な事実を摘示し、隼人に役立とうとする。



 隼人は、残念そうな表情で、首を横に振る。


「ちーちゃん、それはあり得ないんだ。世界最高のセキュリティー技術を持つイリュージョン・アーツ株式会社による安全保証というものは、まさに完璧なんだ。女子更衣室自体を密閉された鉄の箱として完全に外界と隔離してしまうんだ。そして鉄の箱を破損しようとする者がいれば、防犯センサーが作動し、イリュージョン・アーツ株式会社本社へ通報が行くというシステムが24時間体制で作動している。あの天才物理学者の水鏡恭一郎がCEOを務める会社だ。その完全密室性を疑うことは決してできないんだ。しかも、そんな完全密室が二重に施されているんだ」



「助手様ちゃんは、完全記憶能力を有するデータベースですが、記憶したことが無いことは引き出せないのです……お兄様、ごめんなさい……」


 千冬が申し訳なさそうに頭を下げる。


「ほんならウチの大切な紐パンは返って来うへんの?」


 悲しそうに声を振り絞る雪乃。


「そ、そんな……こんなの不可能犯罪すぎるじゃない……完全密室すぎるよ……」


 花音が肩を落とす。



 生徒会役員室に絶望の静寂が支配する。


 隼人は雪乃に近づくと、優しく頭を撫で、皆を見回す。


「なぁ雪乃さん。それに花音、ちーちゃんもだ。俺を誰だと思ってるんだ? 俺は『完全なるロジック遣い』の綾宮隼人だ。犯人に教えてやろうじゃないか。我がロジックに敗北の2文字は無いということを」



「私も、そう思います」


 隼人の力強い言葉を聞き、笑顔で大きな声で返事をする千冬。


「私も、そう思うわ」


「ウチもや」


 花音と雪乃も、明るい顔に変わり千冬に続く。



「ならば行こう。犯行現場に。いや、違うな。

 人類の知性では決して解に辿り付くことのできぬ難問『真夏の夜の方程式』、それに対する綾宮隼人による奇跡の推理ショーのショー会場へとな」


 隼人は力強く断言する。


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