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第2話 ブラコン妹とロジック遣い

 

「しゃぶれよ」



 隼人は、おもむろに全長15cmほどの太くて黒い円筒形のアイスを仁王立ちの姿勢のまま花音へと差し出す。



「こ、これは……」


 動揺どうようする花音。


「お前がこの部屋に来た本当の目的はこれだろ? これが欲しかったんだろ? これが好きなんだろ?」


「どちらかと言わずとも好きよ」


 花音はコクリとうなずきながら、そう言うとトロンとした目となる。


 花音は四つん這いから膝立ちにになりながら、仁王立ちになった隼人の腰の高さにある太くて黒い円筒形のソレへとゆっくりと自らの顔を近づける。



 花音はゆっくりと黒いソレへと舌を絡める。


「ちょっと苦いだろ?」


 隼人は、そう言いながら花音の右側の耳元の髪をかき上げて、耳を出し、また花音の右側の首もと鎖骨上にあるホクロを優しくなぞる。


 黒いソレを一心不乱に舐める花音は、隼人にホクロをなぞられていることも、スマホで舐める姿を撮影されていることにも気づかない。



 隼人は、花音の胸へとゆっくりと手を伸ばす。


 そして、白いシャツの上に付着しているコンタクトレンズを取る。



「コンタクトは、ここだぞ」


「え?」


「いきなりコンタクトが胸についてる事を言うと、お前が慌てて、その拍子にコンタクトが落下することが危惧された。また、俺が、いきなりお前の胸へと手をやるのも、セクハラとの誤解を招きかねずお前をあわてさせ得る。

 だから、ガリガリちゃんアイスのエスプレッソ味という新製品を、お前の目の前に差し出すことで、俺はお前の神経をアイスにのみ集中させたんだ。なかなか入手困難なガリガリちゃんの新製品だから、誰もが欲しがることは明らかだ。また、俺が「史上最強の名探偵ガリガリ」とも呼ばれるが、このガリガリというのは、俺がガリガリちゃんアイスを趣向することによるとの噂によるものだ。ここから、お前がこの部屋に来た目的も、手作り弁当を対価として交換することで俺が独自ルートで手に入れたであろうこのエスプレッソ味を食べることにあるとの推認を働かすことができた。そして案の定、俺の誘導どおりにお前は黒い円筒形の新製品アイスに夢中になった。そのすきに俺は安全にコンタクトを取ったというわけだ」


 隼人はニンマリと笑う。


「見た瞬間、いまTwitterでトレンドに入りまくってるガリガリちゃんのエスプレッソ味だと分かったわ。さっそく食べれるなんてラッキーと思って、気がついたら一心不乱に舐めてた……それがコンタクトを安全に確保する手段だったなんて……。

 そこまで計算してアイスを差し出していたというわけね……それは戦略だわ。さすが『史上最強の名探偵ガリガリ』ね。今、確信したわ! ガリガリの意味って、あなたは天文学の父ガリレオ・ガリレイ(Galileo Galilei)に匹敵する頭脳を持つ、そんなガリレオ・ガリレイを省略した名称ってことなのね」


 花音は、尊敬の眼差しで隼人を見る。


「はっ」


 だが、次の瞬間、花音は身構える。


「どうしたんだ?」


「危うく忘れるところだったわ! そ、それ、何なの」


 花音は、隼人のズボンに付着した濃厚な黄色い液体を指さす。



「おわっ!」


 隼人はズボンを見て驚く。



「学校に来るとき、曲がり角で食パンくわえたドジっと衝突したんだ。その時ついたマーガリンだな……謝りもしないで、こんな……あの生意気女!」


 隼人は愚痴ぐりりながら、ハンカチで黄色い液体をぬぐう。



「え? それってマーガリンだったの?」


「そうだが。何と勘違いしてたんだ?」


 不思議そうに花音を見る隼人。


「……」


 さすがに精液とは言えず、下を見て黙り込む花音。




「さすがお兄様です、助手様ちゃんは、なにかのプレイかと誤解してましたわ」


 満面の笑みで、そのように言う新たな美少女。

 銀色ショートヘアに黒いカチューシャを付けた見目麗みめうるわしい少女が、尊敬の眼差まなざしで蔵人を見つめる。


 その少女の名は、綾宮あやみや千冬ちふゆ。隼人の実妹。秋葉原学園中等部の生徒。隼人の探偵活動を助手として熱心にサポートし、ゆえに自らのことを『助手様ちゃん』と呼ぶ。

 だが、千冬は、『2代目Dr.I』と言われている世界最強のハッカーであるという裏の顔もあわせ持つと共に、完全記憶能力をもつことから『完全なるデータベース』という異名をも持つ。すなわち千冬は隼人の探偵活動にとっての最高のパートナーでもある。



「ちーちゃん、いつから来てたんだい?」


「お兄様が、『しゃぶれよ』と言ったあたりですわ。

 何かお取り込みのようでしたので、声をかけるタイミングを失ってしまって……」


「いいんだよ、ちーちゃん。声をかけたら、コンタクトを取り損なったかもしれないからね」


 申し訳なさそうにする千冬を、隼人は優しくフォローする。



「ありがとうございます、お兄様! 今日は、助手様ちゃんが手作りのデラックスお弁当をお持ちしましたのですわ」


「ちーちゃん、ありがとな」


 隼人は、弁当を差し入れてくれた千冬を笑顔でねぎらう。



「ちょっと、その制服、中等部よね。なんで中坊が入ってきてるのよ!

 生徒会規則だと、部外者が校内に入る時は、風紀委員の許可が必要なのよ。アンタなに無断で入って来てんの!」


 風紀委員としての自覚から、花音は千冬をしかる。



「お兄様、助手様ちゃんにイジワルを言ってくるこのオバさんは誰なのですか?」


 千冬は目にうっすら涙を浮かべながら、隼人を見る。



「ムキー! お、お、オバさんって……私は、まだ16才なのよ!」



双葉ふたば花音カノンさんだ。見回りを手伝ってくれるんだ」



「早く立ち去りなさい、中坊!」


 オバさんと言われ、凄い剣幕の花音。


「立ち去らないのです、オバさん!」


 ベーと舌を出す千冬。


 2人の少女の早速さっそくの激しいバトルに隼人は苦笑する。



「なぁ、花音。俺と風紀委員会委員長のロックコとの協議により、夏休み期間中の校内の見回りは、生徒会の職務権限へと委譲されたことは、お前も知ってるよな」


「うん。さっきも話したばかりだよね」


「そうだ。この職務権限委譲に伴って、密接に関連する職務権限事項も全て生徒会へ移転したと考えるのが合理的だろう。

 校内の見回りも、部外者が校内へ立ち入ることを許可することも、これらは本来であれば風紀委員が持つ職務権限だ。だが、両者は共に学内治安を維持するという同一の目的によるものだ。ならば、両者は密接に関連する職務権限事項といえる。

 そうだとすると、夏休み期間中の校内の見回りとの職務権限が生徒会の職務権限へと委譲されたことにより、これと密接に関連するところの部外者が校内へ立ち入ることへの許可という職務権限も、生徒会に委譲されたといえる。

 そうすると部外者が校内へ立ち入ることへの許可という職務権限は、現在において秋葉原学園の生徒会長である俺に専属することとなる。そこで、俺は、生徒会長の名の下において、この職務権限に基づき、部外者である千冬が校内へ立ち入ることを許可する。

 よって、千冬は校内に立ち入ることができるし、お前はこれを掣肘せいちゅうする何らの権限を有しないQ.E.D.」


 隼人は証明終了を告げる。



「さ、さすがだわ! 完璧なるロジックよ。さすが『完全なるロジック遣い』綾宮隼人ね」


 余りに鋭いロジック切れ味に、先ほどまで千冬に立ち去るよう言っていたことも忘れ、花音は隼人を賞賛する。



「さすがお兄様です! 助手様ちゃんの為にありがとうございますなのですわ」


 千冬も、いつもながらの隼人の切れ味鋭いロジックを絶賛する。



「お兄様、今日のお弁当は、助手様ちゃん特性の手ごねハンバーグなのですよ!」


 一段落した安心から満面の笑みで、千冬は手提げ袋から弁当箱を取り出す。


「あら? 偶然ね。私も手ごねハンバーグなのよ」


 不思議そうに伊織を見る花音。



「そうなのですか。で、パンですかライスですか?」


「え? お弁当だから、ライスに決めってるじゃない」


 そんな花音の言葉に、千冬はニヤリと笑う。



「全く分かっていませんねぇ~。お兄様は極端な偏食家で、ライスが大嫌いないのですよ。ハンバーグは、全てサンドイッチにしてパンに挟んで用意しないといけないのです。手作りランチパック最強ですわ」


「え? ご飯が嫌いなのに日本で生活して来たわけ?」


 花音が目をパチクリさせ驚く。


「実は、そうなんだ」


 少し恥ずかしげな隼人。


「ご飯は、曲線だろ? あの曲がった感じが俺の感性にそぐわくてな。俺が常に最短距離での真っ直ぐなロジックを趣向することの現れなのかもしれない……」


「そんな食生活じゃ、体に悪いんじゃないの? だから隼人くんはそんなに痩せてるの? もしかしてガリガリって」



 その時。




 生徒会役員室にSkype着信音が響き渡る。


「警視庁捜査一課長の大石小次郎課長からか。みんな静粛に頼む」


 そんな隼人の言葉に、花音と千冬は緊張を覚える。



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