プロローグ ロジック遣い
プロローグ
20X8年8月11日
PM6時05分
「くっ、目が、目が……」
東京都千代田区にある日本屈指の名門・秋葉原学園高校。タワービルよりなるこの学園の最上階、すなわち地上76階に生徒会役員室はある。
東京湾を一望でき30畳の広さを持つ豪華なその部屋で、隻眼の少年が一人、苦痛に右目を押さえる。
「我が失われし右目が猛烈に疼く。これは非常なる難事件到来の前兆。来たりしは不可能犯罪いや人類の知性では決して解に辿り付くことのできぬ難問『真夏の夜の方程式』やも知れぬ。ならば、教えてやろう。
我がロジックに敗北など無いということを」
その少年の名は綾宮隼人。
鼻筋が通り切れ長の目をした端正な顔立ち。身長は178cmの16才。
男としては長い部類に入る髪、その髪の色は銀。
そして隻眼。
そんな隼人の2つ名は、『完全なるロジック遣い』。
その2つ名の由縁は、スーパーコンピューターにも比肩する明晰な頭脳、及びその頭脳による解析に基づきFBIや警視庁捜査一課など世界中の捜査機関が白旗を上げた難事件、不可能犯罪を悉く解決してきた高い実績にある。
また隼人には、もう1つの異名もある。
それこそは『史上最強の名探偵ガリガリ』。
これまでの実績から世界中の捜査機関より全幅の信頼を寄せられる隼人が『史上最強の名探偵』であることに異論を差し挟む者は、もはや世界に誰一人存在しない。
しかし、なぜ『ガリガリ』であるのか? その一点のみについては、定説というものが存在しない。
ある者は言う。隼人の頭脳が、天文学の父「ガリレオ・ガリレイ(Galileo Galilei)」のように優秀であり、その省略形に由来すると。
また、ある者は言う。隼人が極端な偏食であることから、痩せた体型であることに由来すると。
また、ある者は言う。それは隼人が完全なるロジックを駆使することで、いかなる知能犯をもガリガリと追いめるその余りに迫力のある姿を表したことに由来すると。
そして、ある者は言う。それは隼人が趣向するアイスの名称に由来すると。
どれが真実であるかは誰も分からない。
しかし、どれもが真実であり、どれもが戯事なのかもしれない。
何故なら、真実とは人の認識の数だけ存在し、人とは決して己の認識を越えることのできない存在なのだから。