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 開け放された拝殿の戸から、明かりと越天楽が漏れていた。風流な音色に耳を傾けながら、賽銭を投げ、拍手を打って礼をする。とりたてて願うこともない。


 おみくじを引こうと少女たちは売り場に向かう。視線をめぐらすと、部屋の隅の目立たないところにラジカセが置いてあった。曲はそこから流されている。雰囲気の演出に余念のない神社である。感心すればいいのか呆れればいいのか誠司にはわからなかった。


 拝殿の明かりを頼りにして今年の運勢にはしゃぐ聡美に声をかけた。


「そういや、兄貴は元気してるか?」


「え? あいつ最近落ち込んでるよ」


「へえ」


「なんかね、彼女取られたって言ってた」


「……へえ」


 聡美の陰から覗き込むように、高梨が顔を出した。


「平岡さんって聡美ちゃんと昔から仲が良いんですよね」


「仲が良いっていうか、こいつが兄貴にべったりだったから、自然と一緒に遊んでただけだけどな」


「べったりじゃないし」


「いっつも兄貴の後ろくっついてきて、相手にしてもらなくて俺に泣きついてたろ」


「泣いてないし」


「ま、高梨さんみたいな子が友達みたいで俺も安心したよ。同級生と遊んでるの、見たことなかったもん」


 高梨はくすくす笑った。


「聡美ちゃん、学校じゃ結構人気ありますよ。部活で活躍してましたから」


「ほぉう」


 わざとらしく感心してみせると、聡美が鋭い蹴りを入れてきた。照れ隠しのくせにやけに強く、的確だった。痛みと衝撃に膝をついた。


「おまっ……バカじゃねえの」


 蹴られた太腿をさすりながら悪態をつくと、聡美が鬼の首を取ったように誠司を指差して言った。


「あーあー、受験生にバカなんて言っちゃいけないんだ!」


「ああ、そうか。もう高三か。それはすまない」


 誠司は素直に謝った。が、その様子を見ていた高梨がいたずらっぽく笑っていた。


「聡美ちゃん、もう決まってるでしょ」


「あ、こらっ」


 のそっと誠司が立ち上がると、聡美の顔が引きつった。蹴りをくれてやろうか。じりじりとにじり寄ると、聡美は恥も外聞もなく友達の後ろにまわって盾にする。


 そんなことをしていると、誠司の携帯電話が鳴った。


「悪い、電話だ」


 と、断ってコートのポケットから携帯電話を取り出した。「新垣」と表示されていた。読みはさておき、新垣名の知り合いは、高校時代の同級生だけである。


「はい?」


『平岡? ひさしぶり、オレだけど』


 記憶の新垣の声と一致する。


「どうした、突然」


『あけおめー』


「おめでとう」


『それで――あいてっ。ちょい待って――』


 軽い悲鳴のあと、声がいったん遠ざかっていく。


『あ、もしもし』


「大丈夫か?」


『おお、大丈夫。それよりよ、ここどこだ?』


「大丈夫じゃないな、頭が」


 誠司が納得すると、電話の向こうで声が大きくなる。


『ちげえって。梅田の近くって言ってたろ、おまえの家。そのへんのはずなんだけど、道わかんなくなっちゃってさ』


「えー……なんか目印ない?」


『おう、ええっとなあ……。あっ、コの字のビルが見えるな』


「で、どこに行きたいんだ?」


『関テレの公園ってとこ』


「東に行け」


『うわっ、ざっくりしてんなあ。つうかせっかく近くにいるんだから、会おうぜ。それで案内してくれ』


「えー……」


『いいだろ、な?』


 強く押されると、断るのが申し訳なくなって、つい「うん」と言ってしまう。悪い癖だと思いながら、誠司は返事をする。


「まあいいけど……。近くに線路あるか? 高架じゃないぞ」


『ああ、ある』


「じゃ、線路沿いに北東だ」


『それはえーっと、どっちだ』


「コの字型のビルあるだろ? そっち側の道を、右手を線路に向けて歩け」


『あー、なんとなくわかった、了解』


 通話が切れた。ため息をつきながら、携帯電話をポケットにしまう。


「友達に呼ばれたから行くよ。じゃあな」


 手をひらひらさせて、なかば格好をつけていると、別れたはずの少女らが隣に走ってきた。


「待ってよ、あたしらも行く」


「あ? 高校のときの知り合いだぞ」


「いいよ、暇だもん。ねえ」


「ねえ」


 と、二人は顔を見合わせた。


「暇って。家に帰れよ」


「あたしらね、初日の出見るから。どうせ外で時間潰すつもりだったし。なに、もしかして彼女とか?」


「まあな」


「じゃあ余計に行かなくっちゃ」


 遠慮すると思って嘘をついたのにあてが外れた。誠司は肩を落として訂正する。


「ま、本当は男友達だけどな。おもしろくないぞ」


「いいって。どうせ暇潰しなんだから」


 神社を出てすぐにある線路を、南西に向かって歩く。


 ふと空を見上げ、誠司はいまさら月が出ていないことに気がついた。これでは方角がわからなくてもしょうがないかと一人納得する。


「ってか誠司さ、あいかわらずお人好しだね。むこうの声は聞こえてないけど、良いように使われてるの、わかったよ」


 聡美はなぜかすこし責めるような口調だった。


「お人好しか? 断る理由がないだけだぞ」


「それをお人好しって言うの」


「あいかわらずって、昔からなの?」


 変なところに高梨が食いついた。聡美は意地悪そうに笑う。


「そうそう、昔っから。ちょろいからね、こいつ」


「こいつとか言うな。いちおう先輩だぞ」


「一番バカだなあこいつって思ったのは……中二の夏だね」


「おい聞けって」

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