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それは賑やかな夕餉と恥じらい


 縁側で猫と一緒に寝転がっていた影勝(かげかつ)が声をかけてくる。

「よぉ、お二人さん。相変わらず仲のいいことで」

 石川(いしかわ) 影勝(かげかつ)。戦国武将の名からつけられた名前らしい。時代が変われば名前の風潮も変わるもんだよなぁ。うちの親は金太郎だなんて名前をお付けになった。どういうセンスをしてるんだろうか。そこは時代に流されてくれ。あなたのセンスは何千年も前から変わらぬのか・・・・あれか。もし弟がいたなら桃太郎だったのだろうか。

「いいことを教えてやろう! 我がゼータクラスの寮の冷凍庫は今! 埋まっている!」

 なん・・・・だと・・・・? しかし影勝の目は本気だった。本当に冷凍庫は埋まっているのだろう。僕の2リットルアイス×2など到底入らないくらいに。さっき自分の耳を腐っていないかと心配になったが、今は腐ったことにして衝撃の事実を聞かなかったことにしておきたい。

「ってかなんで2つも買ってんだよ・・・・意味分かんねーよ」

 愚問だな。

「君にはわかるまい。このアイスの素晴らしさが」

「素晴らしいアイスも溶けたら意味無いでしょ。どーすんの? 私のおごりが無駄になっちゃうわけ?」

 んー、どうしたものか。まぁ、方法はいろいろあるよね。食べるとか・・・・食べるとか。

 いけるのか? 4リットルのアイスを前に自分に問う。鍛えぬかれた胃は4リットルなどではびくともしないであろう。だが腸のほうはどうだ? アイスを食べる際に最も気をつけたいのは腹痛である。美味しいアイスを食べたあとに腹痛に襲われてしまえばアイスを食べる意味が無い。美味しかったアイスの味も腹痛と言う名の悪魔に流されてしまう。

 それだけは避けなければならない。絶対に。

「仕方ない、君たち手伝ってくれてもいいよ。僕のアイス消化に」

「私のおごった意味・・・・まぁ、いっか」

「ほんじゃ俺もいただくわ」

 縁側からそのまま寮の中に入る。敷き詰められた12畳の真ん中にどっしりと構えられた一枚板の座卓に腰を下ろす。

 端っこから沙雪、僕、影勝という順番で座る。

「おれ、スプーンと皿取ってくるわ」

 皿? すでに箱に入ってるのに? あー、そうか。僕は2リットル食えるからそのままでいいんだけど、この一般人どもは1リットルで限界だから最初に1リットルずつくらいで分けましょう。ってことか。さすが影勝。

 影勝が戻るまでの間、気づけばさっき言われた【47県対抗想造技能競技大会】のことについて思いふけっていた。

 チームねぇ・・・・沙雪とチームか。はっきり言って沙雪は強い。実力ならば学年でトップクラスに入る。ほんとにゼータクラスにいるのが不思議なくらいに。

 同級生では敵無しの沙雪。しかし全国となるとどうだろう? この想造学園、47都道府県全部にあるらしいが、他の学園の情報など全く入ってこない。昨年度優勝校だとかいろいろな情報が必要なんじゃないだろうか。明日先生に聞いてみるか。

「はいはーい。おまたせ」

 影勝が3つのスプーンと包丁と皿を持ってきた。ん? 包丁??? 

「待て影勝、包丁はなんのために持ってきたんだ?」

「ん? これか・・・・これはな、こうするんだよっ」

 悪魔の形相をした影勝がすでに開けられていた2リットルアイスに、包丁を入れる。

「アイスを包丁でカットする奴とか初めて見たわ! ってか、アイスにカットって概念がなかったわ!」

「そこらへんが、おまえと俺の脳みその違いだよ」

 全くかっこよくないセリフを吐きながら綺麗に1リットルずつに分けられたアイスの片方を皿に移していく。

「ほらよ、沙雪」

「ん、ありがと」

 影勝はそのまま皿には移さず箱のまま食うらしい。こいつわかってる。

「では、実食!」

 僕の合図でみんながスプーンを手にいただきますをしてアイスを食べ始める。


 北極の大地のように銀世界が広がるバニラ。大地にスプーンを刺す。大いなる大地はそれを迎え入れ、そしてスプーンを優しく銀世界で包み込む。

 スプーンの上に乗った小さな銀世界は清く美しく華やかであった。

 銀世界を口の中へ運ぶ。スプーンごと口に含み、そして銀世界を口の中に残しスプーンを離す。

 残された小さな銀世界。ソレは瞬間、弾けた。

 口の中にバニラ特有のまろやかさが広がる。アイスの冷たさ、食感、そして、バニラの風味、まろやかさ、甘さ、これら全てが一瞬にして僕を刺激する。


「これだよ、これ。これを求めて僕はバニラなんだ。これが2リットル分も味わえる。これを幸せと言わずに・・・・」

「また入ったわね、スイッチ」

「こいつほんっとバニラ好きだな」


 10分ほどして3人ともバニラアイスを食べ終わる。

「さーて、他のやつにバレないようにさっさと処分しちまおうぜ」

 影勝が言いながら立ち上がり、スプーンと皿と包丁を台所へ持っていった。僕は空になったアイスの箱を持ち、ゴミ箱へ葬り去る。

 学校が終わってから随分と時間が経ったせいか、寮の中の学生の数も増えてきた。あと帰ってきてないのは夜遅くまで部活している奴らくらいだろうか。

 あと20分もすれば部活生たちも帰ってくる。その30分後には食事、その30分後に風呂、そのあとは自由、11時には消灯。

 夕食であるがさすがに自給自足ってわけではない。まぁ、ちょっと前まではそうだったらしいけど、いくらなんでもってことで食事は支給されるようになった。

 指定時刻になれば、「想造」によって作られたワープポイントに食事が出てくる。ゼータクラス20人分の食事だ。よって、ワープポイントも各人の席ごとに設定されている。もちろん、食事は手作りだ。いわゆる、給食のおばさん達の。なんでもアルファクラスは寮ことホテルの中にあるレストランで食事ができるらしい。結構名高いレストランで味は絶品らしい。

 でも、帰り道に沙雪が言っていたように僕もこのアホたちと一緒にガヤガヤと騒ぎながら食事をとったりするのが好きだったりする。おしゃれなレストランでBGMを聞きながら静かにウフフと笑い、食事をするのは僕には合わない。

 縁側で物思いにふけっていると沙雪が隣に座ってきた。

「そういやさ、先生が明日は放課後になったら直接、訓練場の方へ来いってさ」

「訓練場? どこにあんのそれ」

「ほんと何も知らないんだね」

 クスッと手を口にあてながら笑う。こんな上品で可愛い笑い方ができるのになんで昼間のこいつは「金太郎の股間はすでに勃ってまーす」とかぶっ放す奴なのかな。ほんとにわからん。

「まぁ、明日一緒に行こうよ」

「うい、分かった」

「ところでさ、金太郎」

「ん?」

「あんたゲートないから「想造」できないわけだけど大会ではどうするの?」

「・・・・必死に逃げ惑う? とか?」

「え、じゃあそれまで私ひとりで戦わないといけないの?」

「ん、まぁ、そうなるな・・・・頼みますよ沙雪さん・・・・」

「しゃーないよね。うん! 私が金太郎のゲートが見つかるまで守ってあげる!」

「ふぇ?」

 あまりの驚きに変な声が出た。どっから出てきたんだこの声。

「なに変な声だしてんのよ。 私が守るって言ったの!」

「つまり、戦えない俺を守ってくれると?」

「だからそう言ってんじゃん!」

 女に守ってあげる宣言されて恥ずかしくないわけではない。男としてのプライドがそんなことは許してない。だが、僕はザコだ。「想造」ができないのにソレを駆使した大会に出るというのだ。今は、守ってもらうしかない・・・・。そう、今は。

「ありがとう、沙雪。おれ、早くゲート見つけて・・・・そしたら今度は沙雪を守るから」

「ふぇ?」

 今度は沙雪から変な声が出た。

「と、と、と、とにかく! 私がいつまで守れるかも分からないからあんたはさっさと見つけなさいよね!」

「うん! それまでよろしく頼むな!」

 なんだか今の会話はいろんな意味で恥ずかしかった。沙雪も顔が赤い気がする。

 沈黙に押し殺されそうになった時に助け舟がやってきた。

「おーい、沙雪、金太郎。そろそろ飯が飛んでくるぞー」


 飯が飛んでくる。ワープしてくるためそう言われている。これはゼータクラスの伝統らしい。

 机を見やるとすでにワープポイントが「想造」されていた。ヴァイオレットブルーの美しいワープポイント。その粒子が消えたかと思えば机にはカレーが並べられていた。他の20人分のカレーも次々に現れる。


 噂では、ワープポイントを「想造」しているのは担任の白衣の先生らしい。だが、あの人のゲートは右手である。LIDも右手に埋め込まれているのになぜ机の上にワープポイントを「想造」できるのか? 答えは簡単で机の裏に「擬似ゲート複製機」なるものを埋め込んでいるらしい。これを使えばゲートを増やせるし物をゲートにできる。だが、前提条件として元々あるゲートを増やす類の物なのでそもそもゲートがない僕には意味が無い。それにこの「擬似ゲート複製機」は人間への臨床実験は済んでいない。


 クラス委員長でもある影勝が席から立ち上がる。

「よーし、今日も全員分届いたな、それでは」

「「「「「いただきまーーーーす」」」」」


 全員の待ちわびた声が響き渡る。

 みんな美味しそうにカレーを食べるなぁ。僕なんてさっきのバニラのまろやかさがまだ口に残っているのに。その口の中にカレーのバニラとは違うまろやかさを放り込むのは自虐的すぎないか。

 向かいに座っている沙雪も困った顔をしている。影勝もまた然り。

 それでも残すわけにはいかない。無理やり口へとスプーンを運んだ。



 食い終わって地獄を見た。覚えておけ。バニラアイスとカレーは混ぜたらダメだ。たとえ胃の中でも。

 バニラアイス+カレーの必殺コンビにより、もたれいた胃を風呂に入って癒し、寝床へ向かう。そう、ゼータクラスには個人部屋など、そんなものはなかった。

 畳が敷き詰められた大広間に布団を敷いて雑魚寝スタイルである。もちろん女子との部屋は別だが。

 時刻はとっくに消灯時間を過ぎている。起きているのは2,3名だ。

 僕もさっさと自分の布団を敷き体を預ける。


 明日から始まる訓練に備えて、深い眠りに落ちた。

 



***金城のレポート***


 前に、「想造」を学ぶ学校ができた。と書いたが、今度は大会まで出来ているらしい。「想造」を学ぶ学校、想造学園主催で大会名が【47県対抗想造技能競技大会】だったか。

 これには盛大に笑った。嬉しいのだ。私がいなくとも時代は進んでいく。その中で必死に私の発見を活かしてくれる者がいることが。しかし活かされ方が軍事目的なのが玉に傷といったところか。

 今日は大会の要項を入手し、じっくりと読んでいた。

 

*47県の学校から学園代表で2人一組のチームとして出場する。

 

 トーナメント方式で行う対戦形式らしい。チーム戦というのがまた面白そうである。

 

*ステージの広さは1キロ四方。【局所的サイリスタ収集器】を四隅に設置し、これでステージを形成する。(例:火山ステージ、森林ステージ等)形成するステージの内容は直前まで明かされない。

 

 1キロ四方とはまた巨大なものだ。そして、局所的サイリスタ収集器か。おもしろい。聞いたところによると、これでサイリスタを収集するので「想造」の限界時間と言われる10秒の制限はなくなるらしい。しかし、小型化は到底ムリな設計なので局所型、なのだとか。「想造」によって作られたステージで「想造」を使い暴れる。私も出場してみたいものだ。


*安全面から出場者の状況を常時【局所的サイリスタ収集器】で監視し、殺傷能力のある「想造」が行われると判断した場合、こちらから強制的に【局所的サイリスタ収集器】によって供給されているステージ内のサイチアを無効化し、「想造」も無効化させる。それに加え、救護班も常時スタンバイさせておく。

 

 【局所的サイリスタ収集器】とはそういったこともできるのか。非常に高機能である。一度、これの開発者と話がしてみたい、叶わぬ夢だが。

 とりあえずこれで安全面はちゃんと確保されているようで安心した。出場する選手たちには存分に暴れてほしい。


 私が生きていれば来賓席だっただろうに。モニタ越しとは・・・・


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