それは仲直りと見せつけられる差
教室につくとまっすぐに自分の机を目指した。そのままカバンを肩にかけようとした時に気づいてしまった。さっき渡された資料を持ってきてしまった。あぁ、あの職員室出る場面で舌打ちしながら資料を叩きつけてたらもっとソレっぽかったな・・・・
「なーに頭わるそうなこと考えてんの?」
突然後ろからかけられた声に僕の意識したわけでもないのに別に肩がビクッと震える。
「すごーい、人間ってびっくりしたらホントに肩ビクッってなるんだねー」
「うるさいなー。なんで来たんだよ」
「なんで?」
次のセリフは「あんたバカァ!?」ですか?って突っ込みたくなるような顔で睨んできた。
「なんでってねぇ! あんたさっきの先生の話聞いてなかったの? 私たちはチームとして大会に出場するの! チームだよチーム! team! 協力しないとダメなの!」
「なんでおまえそんなにあの大会に熱心なんだよ」
「だって! 先生も言ってたけどあの大会に出れば金太郎のゲートが見つかるかもしれないんだよ?」
「今まで見つかってないのに大会に出たくらいで見つかるかよ」
「それでも! 可能性があるなら賭けようよ!」
本当は僕だって可能性があるなら賭けたい。でも、なんというかその・・・・さっきあんな感じで別れたもんだから・・・・その・・・・恥ずかしい。
「あの・・・・もしかして金太郎ってさっきのことで怒ってる?」
うわああ図星だ!これはヤバイ。この女さっき先生が「頭わるそう」って言ったら「顔もです」とか追撃かましてくる女だからな・・・・沙雪が、沙雪が次に発するセリフはこうだ!
「次におまえは だっさー! まだ気にs」
「ごめん!」
「え?」
え? 僕の耳は腐ったんだろうか? あまりの驚きにセリフの一番かっこいいポイントであると思われる ~と言う! が言えなかった。 やっぱり僕の耳は・・・・ それにしては腐乱臭がしないのが不思議だ。
「ごめん。さっきのは言いすぎた・・・・ほんとにごめん! 先生もちょっとやりすぎたかなって言ってた。その、ほんとにごめん!」
どうやら僕の耳が腐ってたから聞き間違えたわけではないらしい。沙雪が頭を下げている。これはどう見ても、謝っているのだろう。よかった。耳が腐ってなくて。
「じゃなくて! 僕の方こそ、ごめん。あんな子供みたいなことして。それと・・・・」
沙雪が謝ってくれて助かった。あのままじゃ恥ずかしくてギスギスした関係のままになってしまっていたかもしれない。だから。
「ありがとう。」
「なんでここでありがとうが出てくんの?」
「いいから、ありがとう」
沙雪はとりあえず受け入れてくれたのか微笑んでいる。
「そういやさ、先生がもう今日は帰っていいっていってたよ! アイス奢るからさ、一緒に寮まで帰ろうよ」
「え? アイス奢ってくれんの!?」
「うん! お詫びにね」
勝った。一時はどこぞの白衣の先生のせいで潰れかけたアイスだったが・・・・神は僕に味方した。ってか、今思えば、アイスを潰されたのも先生のせいだし、こうなんか変な雰囲気になったのも先生のせいなんじゃないだろうか。許すまじ白衣の無精ひげ先生。
「きんたろー、行こう」
声をかけられて顔をあげれば沙雪はすでに教室のドアの前に立っていた。
「う、うん」
返事をしながら僕もドアへと足を進める。
沙雪と廊下を歩き、ある所を目指す。この学校は全寮制だ。学校の向かいには巨大な寮がある。しかし、学校と寮が同じ敷地内にあるわけではない。学校と寮の間には道路がある。そのため学校と、寮の敷地は別である。学校は学校の敷地。寮は寮の敷地。学校と寮の間には一般道路。といった具合だ。寮から学校へ行くには道路を一本渡ればいいのだ。遅刻するものなどめったにいない。しかし、安全面の問題からこの学校と寮の間にも一手間加えてある。
校舎とは一般道路を挟んで向かいに位置するため、一般道路をまたぐように寮と校舎を繋ぐブリッジが架かっているのだ。
透明なブリッジで外の景色を見渡せるようになっている。(もちろん下の方は外から見えないようになっている。スカートの中とかスカートの中とかスカートの中とか)
このブリッジのおかげで雨の日でも一滴も濡れずに登校するということができるのだ。いつも通るたびに思うのだけれどこのブリッジ建設に一体いくらかかったんだろう? そんなことにお金を使うくらいだったらぜひとも我がゼータクラスの寮の設備を整えてほしいものだ。
「なぁ沙雪、こんなブリッジ架けるくらいだったらゼータクラスの寮の設備をなんとかしてほしいもんじゃね?」
「んー、たぶんこのブリッジ架けなくてもウチらの寮はどうにもならないと思うよ」
「なんで? こんなブリッジ無ければ金余ってこっちの寮にも金回してくれそうじゃん」
「でもさ、この学園って寮の設備に差をつけて学力アップだったりとか狙ってるから・・・・」
「あー、確かに僕らからしたらアルファクラスの寮を使いたいではあるね」
「でしょ、アルファクラスの人たちは逆にウチらのひどい寮になんて入寮したくはないわけよ。そのためなら勉強もがんばろうってなるのを狙ってるんでしょ」
なるほど。沙雪って頭いいな。
そんなことを話してるうちにアルファクラスの寮が見えてきた。相変わらずでかい。豪華だ。3階建ての寮は東側は男子、西側は女子という具合にわかれている。聞くところによると、ビジネスホテル程の設備らしい。アルファクラスの寮にゼータクラスの僕らが入ることはできないから確認はできないのだけど。なんでも一人一部屋は当たり前。テレビ、エアコン、ネット環境、シャワー、トイレが一人の部屋に用意されているらしい。更には三年生の階である三階には大浴場。一年生の階である1階にはスポーツジムや体育館まであるらしい。豪華すぎて意味がわからない。ここはほんとに学業を本分とする学生が住むために建てられた寮なのかと疑ってしまう。これもさっき沙雪が言ってた「差をつけるため」というやつだろうか。
「あー、羨ましいなー。アルファクラスの奴ら。僕もアルファクラスだったらなー」
「あんたの成績じゃ無理でしょ」
沙雪に爆笑される。まぁ確かに成績ワーストトップだしな、僕。自慢じゃないけど。
そんなことを話しながらブリッジを渡りきり、すぐそばにある(アルファクラスの為に建てられたけどホテルのサービスが良すぎて使う人がいないため他のクラス向けにも開放された)コンビニに入る。
「さーて、アイス、アイス」
言いながらアイスコーナーを目指す。
「どうせあんたが買うのはいつものでしょーが」
あった。2リットルの箱に入ったバニラアイス。これねぇ。たまらん。前に沙雪に そんなにバニラ食べて胃もたれしないの? と聞かれたが僕の胃をなめないでほしい。鍛えぬかれた胃は2リットルごときでは敗れはしないのだ。むしろ、この2リットル入りのバニラアイスで鍛えられとこある。
「はー、好きよねぇ、たまにはチョコ味とかも試してみないわけ?」
チョコは嫌いだ。毎年バレンタインが来るたびに周りに聞こえるように宣言してたらいつの間にかほんとに嫌いになってしまった。自己暗示とかいうやつだろうか。こわい。
「ま、いいわ。それだけでいいの? 給料入ったばっかだから2個くらい奢ってあげるわよ?」
その言葉しかと聞きとめた。閉めたばかりのアイスの冷凍庫のドアをもう一度開け更にもう一個2リットル入りのバニラアイスを取り出す。
「あんたアホでしょ・・・・」
「え?」
「もういいわ・・・・時間も遅いしさっさと買って寮に戻っちゃいましょ」
会計をすませ(もちろん沙雪持ち)寮へと足を向ける。夕日が綺麗だ。
沙雪がなにかを思い出したように話しかけてくる。
「そういやさっき金太郎さ、アルファクラスの寮のこと羨ましがってたけど私はゼータクラスの寮のほうが好きだなー」
「おまえあの寮が好きだとか変態なの?」
「あの賑やかな雰囲気好きだよ」
「まーたしかにうるさいな。」
手前にボロボロの民宿が見えてきた。。
まるで沖縄を思わせるような赤瓦屋根。しかしシーサーはいないのだ。ナンセンスとしか言いようがない。
縁側には猫が居座っている。縁側を構成している板など飛び跳ねてしまえば今にも折れてしまいそうだ。
木の雨戸。穴がところどころに空いている。こんなので台風が防げるのだろうか。この地域に台風はこないからいいんだけど。
夕日をバックに堂々とそびえ立つソレは間違いない。僕達の寮だ
さっき、アルファクラスの寮を「ホテル並み」と言ったが僕達の寮をなにかで言い表そうとするなら「赤瓦屋根の古い民家」だろうか。
いや、まんま「赤瓦屋根の古い民宿」なのだが。