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それは潰されたチャンスとイジケ

 放課後。沙雪と共に職員室へ向かう。職員室とデカデカと書かれたプレートの前で一時停止する。僕の脳内では沙雪が率先して職員室のドアを開け、先生に声をかけ、一緒に入室するつもりだった。しかし、隣の沙雪に動く気配がない。おかしい。想定外だ。


「なにやってんだよ、さっさと職員室入れよ」


「・・・・」


「沙雪?」


「恥ずかしい・・・・」


「奇遇だな」


両者の目にキラッと閃光がほとばしる。これは戦いの臭いがする。


「じゃんけんして勝った方がドアを開けるってのはどうだ?」


「勝った方が行くの?おかしくない?」


「おまえ2012年頃それはまだテレビというモノがあった時代だな。バラエティ番組の  企画でジャンケンに勝った奴がその店の高額商品を買わされるというのがあってだな」


「金太郎、私この後奢ってあげるから職員室のドア開けて」


「なんて金の使い方だよ・・・・財閥め・・・・」


「それほど高校生でバイトってのは優位にたてるのよね~」


まったく何が楽しくて高校生でバイトしてるんだか・・・・


「なに奢ってくれるの?」 


「ん?なんでもいいわよ?ジュースでもアイスでも」 


「な・ん・で・も??」


「なんでも。」


言わせた。ここで僕の勝ちが確定した。 


「じゃあ開けるからな!開けた瞬間沙雪の驕り決定だからな!」


そう言いドアに手をかける。と、同時向こう側に人影が。突然の人影に驚き動作を止める。 その次の瞬間にはドアが開く。ただし、僕は手を動かしてない。向こう側にいた人物がドアを開けたのだ。開けた人物は自分たちを呼び出した先生本人だった。白衣がまぶしい。

 

 さっきの沙雪に奢ってもらう条件を思い出してみよう。〈俺がドアを開けた瞬間奢り確定〉である。俺が。そう俺が。俺がドアを開けたわけではない。泣きそうになりながら沙雪のいる方へ体を向ける。

 

沙雪は一言言い放つ。


「ノーカン」

 


アイスさよなら



***金城のレポート***


「想造」であるがまた新たなことが起こっているらしい。

 どうも、病院で生まれた赤ちゃんにサイリスタ(体のどこにLIDを埋め込めばいいかを発見できる機械)にかけているらしい。政府の決定でだそうだ。生後1週間の赤ちゃんをサイリスタにかけるなどどうかしている。政府はそれほどまでに「想造」を軍事的に使いたいのか。戦争が起きそうなのは依然として変わらない事態ではあるが。


 それと問題がひとつ。私が「想造」の研究を一任した企業がどうも不正アクセスの被害にあったらしい。外国からアクセスされたそうだ。これで「想造」は外国にまで知れ渡ったことになる。戦争で使われた場合、何が起こるか本当に予想できない。


 だが、面白いことも起こっているらしい。というのも、サイリスタでスキャンしたところ「想造」の才能はあるらしいが「ゲート」が発見できないらしい。名は、「藍澤 金太郎」だったか。ゲートが発見できないとはすなわちLIDが埋め込めない。これは、「想造」が使えない とイコールなのである。才能はあるのに使えない。


もちろん、機械の故障等ではない。少なくとも100のサイリスタで試したらしいがダメとのことだ。

 

これは一体どういうことなのか。私のたてた仮定など崩れ去ってしまった。おもしろい。


 私もカプセルなどに篭ってなければ、こんな興味深いテーマ、何日も寝ずに研究しただろうに。




「んでなんの用なんですか先生」


アイスを潰してくれた人物は椅子に座り、僕と沙雪はそのまえに立っている。先生は机に肘をつきながらめんどくさそうに言葉を返してきた。


「そんな嫌そうな顔するな。とりあえずこの資料をくれてやるからサッと目を通せ」


言いながら分厚い資料を渡してくる。40枚くらいだろうか。正直、読む気が失せるどころかサッと目を通す気さえ失せた。沙雪の方もめんどくさそうにしてる。


「やっぱ通さないよね…うん…いいよ。おまえらが読んでくれるとは思わなかったから…とりあえずそれは二学期から行われる実戦訓練について書かれてるから。ちゃんと読んで頭に叩き込んどかないと…死ぬから」


それまで面倒くさそうにため息を吐きながら喋っていたのに最後の死ぬから…ってところだけトーンを落として、目をギラつかせながら警告してきた。


「先生、実戦訓練ってあの実戦訓練でいいんだよね?」


「そう、あの実戦訓練だ」


あの実戦訓練ってなんだろう?


「あのー実戦訓練ってなんですか」


僕がキョトンとして尋ねると先生どころか沙雪にまで呆れた顔をされた。心外だなぁ。


「さすが、ゼータクラスだけはあるな。実戦訓練も知らずにこの学校にいたのか…いいだろう説明してやる。沙雪も確認の意味で聞いとけ」


先生が説明を始める。


「まず実戦訓練ってのは47ある想造学園が一斉に戦う【47県対抗想造技能競技大会】に出場し、勝つためだ。」


 待ってほしい。おかしい。


「先生、47県ってなんですかその数字」


 先生が何を言ってるんだコイツは。という目で見てくる。


「いや、47県ってのは全国大会だからだな。この想造学園は全国47都道府県に一校ずつ設立されてるから…」


 え?


「この学園ってそんなにあるの?」


 先生の呆れた目が、より一層呆れた色を示した。


「おまえなんでこの学園に入学した?」


「将来の夢がこの国の第一線で想造を使いこなして国を防衛する「想造者」になりたいからです!」

 

 想造者ってのは憧れの職業No.1に3年連続ランクインしてる憧れの職業だ。想造学園の生徒なら、いや、男ならば誰しもが憧れる職業だ。

 具体的には、敵国の兵士を想造でやっつけるってとこだろうか。

 

 先生の目がよく言ったとでも言いたげだった。


「やる気は十分だ。話を戻すが、お前たちには【47県対抗想造技能競技大会】に1学年代表として出てもらう。選考については1学年主任の俺の独断だ。沙雪については身体検査で想造力が学年トップ、おまけに筆記試験で想造に関するある程度の知識もあるからな。文句なしだ。」

 

 未だに不思議なのが、なんで最底辺のゼータクラスにトップの沙雪がいるんだろう?以前それを目の前にいる白衣の先生に聞いたら「ワケありだ」などと意味深なことを言ってきた。聞くなということなんだろうか。


真実は闇の中だ。


 先生が、そして、とこっちの方へ視線を移す。


「金太郎。お前を選考した理由は、これを機におまえのゲートが発見されればという期待からだ」

 ゲート。サイリチアからサイチアを収集する際にサイリチア側とこちら側との通り道となるもの。


生まれた時に想造の能力の素質があるかどうかをサイリスタを使い、生後1日には検査をする。ここで検査に反応があった者はゲートが体のどこなのかも検査する。手だったり、背中だったり。


でも、僕にはそれがなかった。


 想造の能力はある。でもゲートがない。ゲートが無ければ想造でなにも生み出すことはできない。そういう中途半端な人間なのだ、僕は。


「想造技能競技大会はサバイバルゲームのような感じで行う競技だからな。危機に立たされて突発的にゲートを発見できるかもしれん。」


 僕にゲートが見つからないことは先生と沙雪くらいしか知らない。というか、僕が心を許せるのがそれくらいだった。


「そっか、ありがとう。先生。」


 本当に嬉しかった。


「ま、礼ならおまえのゲートが見つかってから言ってくれ。」


 白衣の先生がいつも見せるため息しながらの笑み。それから先生はいろんなことを説明してくれた。


「まずお前たちが出場する【47県対抗想造技能競技大会】だが、2人一組のチームでトーナメント方式で開かれる。なにをすればいいか?相手チームをぶっ飛ばせばいい。もちろん「想造」でだ。」


「ちょっと待って。そんなことしたら人の生死に関るよ先生。学校の大会でそんな危なっかしいことやっちゃうわけ?」

 

 沙雪が言うのも最もだ。学校主催の大会で「想造」を使ってバトルしたら死者が出ました。だなんてシャレにならない。


「安心しろ。お前たちが戦うステージは1キロ四方の金網で囲まれた巨大なステージだ。しかし、ただの1キロ四方ではない。局所型サイチア収集器を使って「想造」によって作られたステージ。そこでは「殺傷能力」のある「想造」をしようとすれば自動的に収集器の方で「想造」をキャンセルされるんだ。つまり、お前たちには「想造」の機能を制限された檻の中で戦ってもらうってことだ。あと、ステージが「想造」で作られてるってことはなんでもありってことになる。森林ステージだったり、火山ステージだったり。局所型サイチア収集器を使うから「想造」で造ったモノの限界時間と言われている10秒の時間制限なんて関係ない」


 待ってほしい。またなんか知らない単語が出てきた。この先生、難しい単語をさもこちらが知っているかのような感じで喋りやがる。


「先生なんなんですか、その局所型サイチア収集器ってのは」


 先生がまた呆れた顔をしてくる。隣の沙雪までも呆れたため息をついてる。この雰囲気どっかで味わった気がする。デジャヴだ。


「おまえなんでこの学園に入学した?」


 あー、これデジャヴじゃなくてなんかさっきも聞いたなー。聞いた気がするどころの話じゃなくて確かに聞いたわー。しかし、この先生の問いにさっきみたいに真面目に答えては面白く無い。これはアレだ。先生が僕のギャグセンスを試しているのだ。では、こういう切り返し方ではどうかな?先生。


「先生なんで数分前のセリフ繰り返してるんですか?」


 きっとさすがの先生でも、こういうスパイシーな切り返しは予想外なはずだ。さて、どう返してくるかな?


「………………………………」


 ふっ。僕としたことが。手加減というものを忘れてしまったようだ。先生が黙りこくってしまっている。なにも返せないか。これでは先生が可哀想だ。ここらで助け舟を出してやろう。


「先生、冗談ですよ」


 僕ができる最高のスマイルと慰めの言葉を先生に届ける。


「え?」


 んんん???


「え?」


 思わず聞き返してしまった。


「あ、おまえ喋ってたんだ、なんなのその気持ち悪いスマイルは。頭おかしいの?」


 おおおおっっと??


「先生、金太郎は頭だけじゃなくて顔もおかしいです」


 沙雪が横槍を、というか、追撃をしかけてきた。


「沙雪、知ってた」


「ですよねー」


 ともに笑いあう二人。うう、こいつら人を馬鹿にして笑顔だなんて下衆な……先生が悲しんでる僕に気づく。


「えっと、なんでおまえいるんだっけ?」


 んっっんー。スパイシィー。今にも吹き出しそうな顔で、満面の笑みで、悪魔の目で、問いかけてくる。隣では沙雪が爆笑してる。ゴリラみたいに机たたきやがって。


「帰る」


 幼稚園生みたいだと思われたかもしれないがなんなんだこいつら。そのまま先生の机の前から立ち退き、職員室のドアまで直行する。


「ちょ、金太郎!」


 沙雪の呼び止める声が耳に入ってきたがそのまま受け流す。職員室のドアを開き、廊下に出てドアを閉めようとした時、二人の顔が見えた。先生は相変わらず無表情だけど沙雪の方はアタフタした顔をしている。フンッと鼻で笑いながら職員室を去る。廊下には誰もいない。とりあえず自分のカバンを取りに教室に戻るか。そう考えながら教室側へ足を向ける。


「おーい、ドアくらい閉めてけー」


 白衣の無表情先生の声が聞こえる。あんなにかっこ悪く最後には鼻で笑いながら立ち去ったのになんだかとても恥ずかしい。


「うっせんじゃ」


 誰にも聞こえないくらいの声で呟きながら、開けたままのドアを放置して教室へ向かった。

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