帰りたいの 帰したくないの
一方、こちらは 娘サイド
そういや、魔法使いのオバ…お姉さんは 言ってたなー、と 思い出していました
「24時には 城を出ること」
魔法は、そこまでしか保てない…と。
愛と奇跡と魔法は、あんまり 信じてないけど 約束は守らないとなあ。
娘は アタマをボリボリ掻きながら言いました
「アタシ、人と約束あるから そろそろ 帰るわ」
じゃっ! 颯爽ときすびを返して ガツガツと大股で(色気もなく)帰ろうとする娘。
もちろん、王子は 肩をつかんで止めます
「いい度胸だ、名乗りもせず帰るのか。」
まあね、国の将来担ってる王子様と直接会話出来ただけでも面白かったけど名乗って今後もどうこうとか 望んでないし。
このまま、帰り支度を 若干 急いでいるんだけどなあ?と娘は 面倒くさそうに息を吐きました
「とくめい きぼう」
王子様は、その切り返しの予想は出来てはいましたが、やっぱり ムカっと来ました
「…もう一度いう。名前をいえ」
「『ナマエヲイエ』」
「お前…!」
娘は、「(目の前の兄さん、からかうのも これで終わりか~ 寂しいなあ)」なーんて ムキになってる王子様の顔を みやりながら思いました
嘘か本当か知らないけど、24時に魔法は切れるらしい…
もし、それが本当だとしたら どーするよ? 日付の変わり目をここで迎えて、いきなり真っ裸は ホントに本当、勘弁して欲しい。
さーて、マジで帰らないとマズいんだけど どうすっかな…
このやり取りを見ていた国王夫妻。…恐ろしい人たちですね~ 息子の恋路を出歯亀でっせ
そんなこといっても どうやら 夫婦で同じことを思ったらしい
『ウチの長男は、今を逃したら 婚期逃すかも!』
本人より 親たちの方が必死…まあ、綺麗に言えば 親心
国王が言いました
「面白いな、あの娘。」
王妃様も言いました
「息子を 変えるかもしれませんわね」
「良くも、悪くも…な」
「息子を相手に、態度が変わらないのは 有難いことですわ、あの子自身をみてくれるもの」
「義理の娘になるのだぞ? 人前に出せるまでに仕込むのも 一手間だな」
「あら? ウチの長男坊は 安心して 社交サロンへ放てまして? その結果が 今宵でございましょう?」
実は あんまり 宴会がお好きでない王妃さまは、「(早く 次の展開がみたいなあ)」と思いながら 扇子をパタパタしましたとさ
国のトップの出歯亀にも気付きもせず、二人は なんの進展もなくまだ一緒にいました
そろそろ マジで帰りたい娘
何故 娘がこうも時間を気にするのか、そこから分からない王子様
問答が続くままでしたが…
「あっ! 真後ろで、バニーちゃんのストリップショーやってる!」
娘が、指差して叫びます
「ん?」
王子が振り返ったその一瞬を狙って 娘は 「嘘だっぴょ~ん」 全力疾走をスタート
「(案外、古典的な心理トリックに引っ掛かるのね)」
走りにくいので、靴は 脱ぎ捨てました。
でも、手に力が込めやすいように 片方の靴は リレーのバトンみたいに 握りしめて走ることにしました
下町のガキんちょ相手に 日々 鍛えてる脚力、伊達じゃないわよ? さーて、最後にマヌケ面拝んで 帰るとするか
「名乗ってなくて悪かったわね、親不孝通りの灰被り、とでも 名乗っておくわ」
顔は 満面の笑顔で。出来るだけ 最高のいい笑顔でキメながら、軍人の軽い敬礼っぽいのを 一つ、ウィンクと一緒に投げてやって。
「だいぶ アンタの事、嫌いじゃないわよ!」
娘は そこから 本気を出して 家まで走っていきました…
娘が鮮やかというか、王子がマヌケというか。
「追わないのか?」
国王は、渋い顔をしたまま 深追いもせず 早く帰ってきた我が息子を出迎えました。
王妃様も「なんで 男って 追い掛けるのを直ぐに諦めるのよっ! このヘタレ小僧!」落胆してる。
もう一回 息子をみやれば、シレッと言いやがった。
「私が 深く追わずとも 父上と母上が、お探しになるのでしょう? 時間の問題なのでは?」
はあ。
分かっていたけど 可愛くねー。親の顔が見てみたいですね。あ、自分達か…そりゃ、失敬。
国王夫妻は、「(可愛い孫を抱っこするもんね、この手で!)」決意を新たにしたのか分かりませんが、取り合えず 大臣を呼んで相談しましたとさ。
「あの息子の鼻っ柱をへし折ってくれたのは、どこの娘だ?」と