進め、若人 焦るな、中年
もー、王子様は 言わずもがなのノリノリです
「これだけ着飾っても、愛らしさもなければ、色気もない。
…大いに問題を感じるな」
とかなんとか、憎まれ口叩いていますが、内心は、脳ミソ全然違うこと考えてますから〜っ!
全く!と言っていいほど、気がついていないのは 娘。
っていうか、フツー このセリフのどこが口説き文句なのか、分からないよね…
娘は、ケロリと言い返す
「アンタみたいに、さ?
眉間に皺が寄ったまま、女の外見に口出しされても、なーんか 悔しくも哀しくもないのよね
…大いに問題を感じた方がいいのかしら?」
ケケケと笑う娘は、王子を楽しそうに見やる
ヒネくれてる二人ですからね。
お互いこういう舌戦が 何よりも好物な連中です。
王子様の顔が、一気に破れました
「(いやー、イケメンの笑顔は、威力あるわー)」
娘は、一瞬 ドキッ
「(口が裂けても言えないわね、
今の顔で 『色気ない』とか『可愛くない』っていわれたら 素直にゴメンナサイって反省するかも)」
アタシが見つめてるからって、照れ笑いに 髪をかきあげるとかって…止めようよ。
そういうの、見せつけるのは 他所の本命子女の前でやってよ、バカ。
王子様より、ほんの少し 素直な娘は言いました
「どんな売れ残りかと思ったけど、アンタって意外に面白い《イイ》男なのかもね」
王子じゃなかったら、友達になるのにな、なーんてね。
これを聞いた王子様は、もはや 有頂天。不思議なスイッチが、さらにオン。
もう、娘の素性が気になって、仕方ない。どーやって聞き出そうかな…なーんて、脳内作戦会議中
公衆の面前でチクチクやれば、ボロだすかなーとか、イジワルな事を考えているんですよ。
…素直に 聞けばいいのにね…
一方こちらは、宴も高輪 大広間でございます
「ご報告したき事、ございます」
国王夫妻の元に、「皇太子殿下が 見初めた女子を口説いている模様」との速報が入りました。
一応ね、国家の中枢ポストですからね、デバガメと言われようが 密偵的な護衛は必ず付いているんですよ。
それを聞いて
「長かった…! やっとであるか」と言ったのは、国王陛下
「空いてる小部屋でちゃっちゃと事さえ起こしてくれれば、一安心」と言ったのは、王妃様
重鎮+国王は、ギョッとした顔で王妃様を見ましたが、何もなかった顔で王妃様は微笑みます
「…殿方というものは、背負う者が大きゅうございますから。大事な事には、二の足を踏んでしまう…」
ふっと口元が緩んで、王妃様は続けます
「今宵の月に免じて、我を忘れて悦びに浸っても良いのでは、と思うのが親心なのですよ」
いや、『よろこび』の変換違うから!
大臣、真っ青。
国王、真っ赤。
王妃様は 思っていたんですよ。
「(男ってバカね。押し倒さないと 始まらないのよ。)」って。
ウチだって、それなりに国力あるし、王家の威信とかそんなちっぽけな物気にするタマじゃないし。
他所の知らない婦女子に息子が手を出そうが、目くじら立てないわよ。
嫁だ、後宮に入居だ、人事だ、予算だ… 面倒事気にしてたら、人生進まないわよ。
「(手ぶらで帰ってきたら、『ヘタレ』って呼んでやるわ)」
王妃様は、決意を新たに扇で口元を隠し直しましたとさ。