王子サマとて 人の子、男の子
一方、此方は 王子様サイド
冷静な国民から「売れ残り」と評されたあの王子様です。
「…面倒くせえ」
親と配下一同からの「早く身を固めろ」のプレッシャーが ウザい。嗚呼、とにかく ウザい。
毎回、趣味も相性も合わないオンナたちばかり引き合わされる
オンナは、粛々と柔順に頷く方が可愛い。
だが、それだけは 物足りない。
かといって、居丈高なオンナは嫌だ。その自信の拠り所が 特に。
お前の自慢の美貌とやらは、賞味期限伸ばして 持ちこたえさせてるだけだろ?
オトコは 維持費に付き合うほど暇じゃねえ
延々に続く引き合わせの娘たちをぼんやり見ながら、
「(首飾りの流行、変わったのか…? 昔は 真珠や宝石の類いだったと思ったが、近年は ガラス細工も増えたのだな…)」「(煽れば、職人の腕も上がるだろう。 輸出も今後は見込める…か)」
とまあ、完全に上の空でしたとさ。
挨拶の列が途切れると 王子は 早々に テラスへ非難しました
今宵は、月見酒にはまたとない夜です。虫の音、雨上がりのうっそうとした若草の匂い、どことなく冷えた 風の流れ…行くしかないだろう?!
カツカツカツといい足音を響かせて向かった先は、「(…チッ、先客か)」
お気に入りの場所には、早くも ご令嬢が一人
はーい、我らが主人公! 例の娘でーす
「あら、コンバンワ」
面倒くせえ、声掛けられた…と悟った王子様
「貴方も 月見のクチ?」
ニヤッと笑ってくるその顔、少し驚いた。顔はまあ可愛い、特段美人でもないが 気の強そうな雰囲気は、嫌いじゃない。
王子様は ひっそり 思いました。
…見ない顔だな、どこかの秘蔵っ子か?
この業界にいると、「人に言えない恋愛関係の末路の子供」の話はよく聞く。その類いか、それに近いか。
ある程度の検討がついたところで、娘をみると 視線が合いました。
「…困ったわね、私のは 自分のが切れたトコよ。 貴方、生憎 手ぶらのようね?」
手ぶら? ああ、手元の酒のことか。…知るかよ、お前の酒なんて
「俺は、一人で月を見るのが好きだ。 席を外せ」
…嫌な言い方するオトコですね~、まあ この人 王家の人ですからね
フツウは、許されちゃうんですけど 娘はフツーじゃないんで 許さないんですよね~
「アンタ、何いってんの?
月は どう眺めようと勝手だけど、見るにも御行儀があるのよ」
…生意気な女だ、王子は ムカムカきました。うん、フツーは 王子様の方が正しい
でも 相手は「そんな事で青筋立てなさんな?」飄々としてる
「だいたい、月なんて 雲以外は 隠すことも出来ない…皆のモノなんだから 眺める場所で諍うなんて アホらしいと思わない?」
堂々と言い放つ目の前の女… 今夜の晩餐会に溢れてるアホな女たちとは、大して変わらなそうだが、アホにも毛色が違うようだ。
こちらの観察は余所に、娘は ぶつぶつと呟く。
「そこの池に流れる水は 飲めるのよね?」
は?
その一言に、立ち去ろうと思った足が止まった
この女は 人の身体をした野生動物か?
グラスを2つ 庭へ引き込まれた小川に浸し、なみなみと水を汲んでいる
「どーせ 王宮なんだから あったとき、籠城対策くらい施してるんでしょ?」
…その辺の湧き水と成分は大差ないはずだから、美味しいはずよ
それだけいうと、平然と グラスに口をつけてしまう。
「アタリね」
美味しい… と こちらを気にする様子もなく微笑む
まあ、そうだ。
…城が立つ立地と地盤を考えれば、確かに水源は 名水と名高い水脈ではある。
そして 娘が言うとおり、四方を大国に囲まれたこの国は 戦乱時の籠城をも視野に入れて建造されている。
二人の側に立つ松も 危機の折りには 炊きだしの燃料には勿論、実は 貴重な栄養源となるし、ヤニや煤もまた 城の修繕に使える『鑑賞 兼 実用』で植えられているもの。
馬鹿ではない。らしい
まぐれかもしれないけど。
だが。
だからとて、一般子女が城の庭にある人造水路の水を飲むか?
この娘、何者だ?
軍人の娘か、学者の娘か、はたまた ただ単に ミリタリー系もしくは 城系マニアか。
こちらの疑問を余所に「要る?」差し出されたグラス。
こうしてみると、意外に…いや、かなり 可愛い。顔は 笑うと一段と幼いものの、胸元みたとき ちらりと よぎる事もなくはない。
個人的には、そのギャップが結構 ツボなんだよな、俺。
まあ、その萌えスポットに 当てられたとしても とても 自宅の家の庭の水を飲む気はしないが。
常識をスルーされたまま 促すように渡されたシャンパングラス…
「月が写っていた部分を汲んだわ。月光が溶けていると思うと ロマンチックよね」
さっさと渡すだけ渡して、満足した娘は グラスを高々と掲げ、月夜を水越しに眺めようしている
すべすべとした肌が 艶をもって光帯びた
これって…見る人が見たら
ちょっと小綺麗な『不思議ちゃん』。
でも そんなことより 王子様は ちらっと 見えちゃったんだよねー
屈んだときに しっかり 「(実は あるんだな…)」 胸元の具を。
グラスの水に目を凝らす娘の立ち姿、横から見るシルエットは 今となっては オトコの煩悩丸出しに追い討ちを掛けるだけ。
…これは、常日頃、動いて使い込んだ肉体だ… 身体を縁取る線が とても自然で美しい
「(もし、あのドレス背中の紐を引いたら…)」
喉が 溜まった唾液を飲み干した
は~い、陥落でーす
魔女姐さ~ん? 早くも 被害者出ましたよ~