通りすがりの魔女姐さんが 云う事には
さして迎える当日。
一応、それなりに体裁を整えた継母と義理の姉たちは 勇んで 王城へ乗り込んで行きました
もちろん、我らが主人公 娘は お留守番
今頃、お城では登城ラッシュでしょうか?
一人つぶやく娘は、誰もいない台所。
窓からは、満月の月明かりだけが差し込んで、鈴虫の鳴き声ととに秋風が吹いてくる静かだけれど寂しい夜。
「ぶっちゃけたとこ、さ。
コルセットにドレス、ハイヒールとか 好きじゃないから これはこれで大助かりなのよね」
娘は、ネズミ取りに仕掛けたチーズを ぼんやり 眺めながら言いました
「父さまと母さまが 今でも 元気でいらしたら…
嘆かわしいとか、年頃の娘なのに とか、言うのかな。」
明日の朝食にしようと思ってるカボチャを 指でつつきながら またポツリ
「まあ、今の身の上だったら 考えるだけ 夢物語よね」
娘は 暫く目をつぶりながら、物思いに浸りました。 いっそのこと、このまま 夜風を楽しみながら寝ちゃってもいいかな…
目が冷めたときは、肌が冷えきっていました。
どんなに夢の世界に浸っても、いつかは 現実に帰らなければならない
仕方ない よしっ! と立ち上がりました。
「泣いていても 始まらない」
そこへ いまのは独り言だったはずなのに 返事が聞こえました
「始まらなくないんじゃいかえ? 案外?」
そこにいたのは リッチにドロープが利いたローブを纏った お姉さん的なオバさん。
三角帽子に 杖とホウキ。 足元には ご丁寧に 黒猫のオマケつき。
「失礼ですが どちらさま?」
暗がりの室内に 突如として現れた お姉さん的なオバさん、科学を越えた出現方法に 声もどことなくぎこちなくなっている
「通りすがりの魔女だよ。そんなに警戒した顔で見ないでおくれ、別に 悪さをするつもりもないし」
魔法使いが 通りすがり、で ねえ…?
…こういうのって 幽霊を 見えたとおもえばいいのかしら… 娘は、ドキドキしながら、どこか冷静に思っていました
というのも、
忍び込んできた女泥棒というには 人相がいいし、お化けというには、血色が良すぎる
というか、高級店のホステスってくらい、色気がムンムンすぎる
相変わらず 相手の得体が知れなくて ただただ眺めていましたが、魔女は どこ吹く風。
「お前さんが 驚いているっていうことは…
ここは 昔とエラく変わってしまったということなんだねえ」
この、自称魔女は ここの住所と縁のあるのでしょうか?
「まあ、ここで会ったのも 何かの縁さね。ひとつ 驚かせた詫びついでに 魔法でプレゼントしようか。
何がいいかえ?」
魔女は、年季の入った妖艶な笑い方をしました。
「年頃の娘さんには、忘れられない夜とか?」
その笑顔が 妙に 良い子にはまだ早く見えてしまうのは 気のせいでしょうか?
魔女姐さんは、お構い無しに 話を続けます
「良いとこに生まれた 若いお嬢さんが、今夜は 男を知らずに 時間を過ごすなんて 興がないねえ」
足元にいる黒猫が、娘の肌をくすぐるように 尻尾を 掠めていきました。魔女姐さんへ同意するように 喉を鳴らしては、艶のある濃い黒毛で 娘の脚を 撫で上げて…それが くすぐったいような、気持ちがいいような…
魔女姐さんが そのさまを目を細めながらいいました。
「所詮 一夜の幻想と思って、アタシに預けてみないかい?」
どうする? 話にのる?のらない? 魔女姐さんは 目線で それだけ迫ると、袖から 何かを取り出しました。
見れば、いつのまにか、ピンクともぬかぬ紫の煙が キセルから くゆり昇り、二人の間を 立ち上っていきます
「悪いようにはしないさ。
まあ、アタシ基準だけどね…? オトコなんて コツさえ掴めば、コロリ。簡単なモンだ。
お前さんに、今夜はその手助けをしてやるって話さ」
悪い話じゃないだろ?
フフフ、と横目で一瞥を送り キセルを フーッと吹きました。
また立ち上る煙を見ながら…娘は、決めました
「どうせ、一晩だけの幻想なら 人生、変わるぐらい 潔く派手なのがいい」
こんな中でも生きてきたアタシだもん、多分 悪い事態が起きても 生活能力はある。
大丈夫
腹は決まった。
「で、何を私はすればいいの?」
魔女姐さんが 笑いました
「いい返事だ、うーん 気分いいねえ
アタシも お前さんが気に入ったよ。景気よく行こうか」