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王妃の秘密  作者: 睦月
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8

陛下と夕食を共にしてから、しばらくは平和な日が続いた。


「心安らぐわ・・・・・」


こんな天気のいい日は庭でランチにしましょう。

と言う事で、今日はエリーナとともに庭で昼食を取っていた。

周りは緑に囲まれ、庭には季節の花々が咲いている。

遠くでは鳥たちのさえずりが聞こえ、太陽の暖かい日差し。

それらに包まれながら昼食を取るなんて、いつ振りだろう。


「まだ、イングランシャにいた頃以来かしらね」


我が祖国イングランシャ国。

とっても緑が多く、天気のいい日にはよくこうやってエリーナとお茶をしていた。


「そうですね。あの頃はまさか他国にジュリア様が嫁ぐとは思っておりませんでした。・・・でも、そのおかげで私もこうして未だにジュリア様と一緒にいられますけどね!」


にっこりと笑うエリーナをみて、心が温かくなる。


「・・・そうね。私もまさか他国に嫁ぐなど思っていなかったわ。いくらお父様が大公爵とはいえ、王族でもない私がこんな大役など頂ける身分ではないものね」


そう、クラウス様が我が家に求婚に来なかったら、大人しく同じ貴族の方と結婚していただろう。

他国の王族へ嫁ぐのは王族からと決まっていた。王族から嫁ぐ娘がいない場合は貴族からとなってはいるが、まだ未婚の王家の娘がいるのに、それを差し置いて公爵家の娘が嫁ぐ事など、本当ならありえなかったのだから。


「・・・・あぁ!ダメね!せっかくこんないいお天気なのに暗い事を考えているなんて!」


この結婚は全てが間違っていたのだ。

そんな事を考えているとどんどん気持ちが沈んでいく。

だから、気分を変えようと空を仰いでみる。


「そうですよ!せっかく庭に出てきたんですから、少しお庭を歩かれて見てはいかがですか?」


そんな私にエリーナは答え、私は頷き庭の散歩道へと進んだ。

周りの草花は太陽の光に照らされて生き生きと咲き誇っている。

少し太陽の光が強い感じはするが、陽の光によって私も少し元気がもらえた様な気がする。

だけど、穏やかな日ってそんなに長くは続かないものなのね・・・・。






****************************


1週間前に、アルバートに託した手紙の返事を持ってアルバートが城へ戻ってきた。

その知らせを受け、その日から私は再びリアーシャ様の姿へと戻った。

クラウス様に近いアルバートの前では本当の姿をさらす訳にはいかなかった。


「ジュリア様。陛下よりお返事を頂いて参りました」


そう言って差し出した手紙を私は受け取る。

すると、もう一通アルバートは渡しにくそうにそれを差し出した。


「・・・・・それから、こちらは・・・・・招待状になります」


「招待状?」


夏も終わり秋の気配が深まってきた今日この頃。

しかし、まだ夜も寝苦しい日々が続き、舞踏会やパーティなどの季節には少し早い。

首をかしげながら、その招待状の封を切った。


~ご側室歓迎に伴う舞踏会開催のご招待~


それを目にした私は思わずアルバートを見てしまった。

その視線をそらすかのように下を向くアルバートについつい溜息をついてしまったのは許してほしい。

そして、もう一通の手紙の封を切った。



『親愛なるジュリア


君からの手紙とても嬉しかった。ただ、内容はあまり嬉しくなかったけれどね。


さて、本題に入る前に君には謝りたい。

この様なものを君に渡さなければいけない事を本当に申し訳ないと思う。


そして本題だが、側室を迎える際には必ず歓迎の意をこめて舞踏会を行うのが我が国の仕来たりだ。

正妃の場合は結婚式を行うが、側室にはそれは行わない。側室だから当然と言えば当然なのだが、代わりに舞踏会にて側室を迎える宴を開くこととなっているのだ。

そして、そこに正妃として君も出席をして欲しい。


ただ・・・、今回のパートナーとして私は君と出席する事が出来ない。

君のパートナーとして、アルバートと共に一緒に出席してくれ。


私の心はいつも君にある事を忘れないで。

舞踏会で会えるのを楽しみにしているよ。


愛をこめて

                       クラウス』




その手紙を読み終えた時、私の心の中で何かが壊れる音がした様な気がした。

そして再び、アルバートを見ると今度はしっかりとこちらを見ていた。


「申し訳ございません。私の様な者がパートナーで・・・・」


頭を下げるアルバートににっこりと笑いかける。


「いいえ。私の方こそ、この様なパーティが苦手なあなたにパートナーを頼んでしまう事になってごめんなさい。それに、気まずいでしょうに・・・・・」


パーティでの私の立場を考えると、アルバートが可哀そうだった。


「いいえ!!私は何があっても貴方様をお守り致します」


なんだが、噛み合っていない様な答えに思わず苦笑する。


「ありがとう。では、早速用意をしなければいけないわね。アルバート、貴方は疲れているでしょうから、ゆっくり休んで。御苦労さま」


そう言って、アルバートを下がらせると、エリーナを呼んだ。


「エリーナ。申し訳ないけれど、新しいドレスを仕立てる用意をして頂戴」


ドレスだけではない。新しい靴も、アクセサリーも準備をしなければいけない。

そんな事を考えていると、エリーナが傍にきて顔をひきつらせた。


「ジュ、ジュリア様?どうなさったのですか!?」


慌てて私に駆け寄るエリーナに、私は首をかしげる。


「どうしたの?私は別に何ともないわ。さぁ、舞踏会の準備をしましょう?」


にっこりとエリーナに笑いかける。

だが、エリーナはどんどん泣きそうな顔になっていった。


「ジュリア様・・・。一体どうされたのですか!?今のあなたは、王妃の仮面をかぶっておられますわ!!」


王妃の仮面?

そんなものをかぶっているつもりはない。


「そんなに、お心を乱したお手紙はなんと書いてあったのですか?」


おろおろするエリーナに、クラウス様からの手紙と招待状を見せた。

その手紙を見るなりエリーナの手がどんどん震えてきた。


「な・・・なん、なんなんですか!!これは!!」


怒っているのに目からは涙があふれ出しているエリーナ。


「クラウス様は、一体何をお考えなんですか!!ジュリア様の事を想うのでしたら、欠席させるべきでしょう!!」


手紙に向かって文句を言っているエリーナに苦笑しつつ、私はその手紙をエリーナの手から抜き取った。


「エリーナ。これは、この国の仕来たりだそうよ?それでしたら、私が出ないなどあってはならない事でしょう?さあ、涙を拭いて。舞踏会に出席する為の準備をしましょう?」


「ジュリア様!そんな仮面をかぶっていないとご自身を保てないくらいなのに、どうして、ここまでされるのですか!!」


エリーナの言葉に溜息を吐き私は言った。


「私は、まだこの国の王妃ですもの」


舞踏会はちょうど私たちが休養を終える予定の3週間後。

もう、何も考えたくなかった。




話の都合上、少し手直しをしました。

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