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昨日の登城後は疲れて、片付けが出来なかった。
今日は今日で夕方からまた王城へと出向かなければいけない為、朝からまだ片付いていない荷物をエリーナがせっせと片付けていた。そんな、忙しく動き回るエリーナの手伝いをしようとエリーナに何度か声をかけているのだが・・・。
「・・・エ、エリーナ。私も何か手伝えることは・・・・」
最後まで言わないうちにエリーナに言葉を被せられた。
「ジュリア様は大人しく座っていらしてください」
「・・・はい」
にっこりと笑うエリーナの言葉に頷くしかなかった。
だけど、エリーナ一人に働かせるのは心苦しい。
「そうだわ!お茶の準備くらい・・・・」
私の言葉を聞くや、クローゼットにいたエリーナが慌ててそこから出て来た。
「ジュ、ジュリア様!お茶なら私が!!お願いですから、大人しくそこに座っていてくださいぃ!!」
なんだか、泣きそうな声でそういうエリーナに思わず首を縦に振ってしまった。
それを見たエリーナは心底安堵したように笑顔をこぼし、窓際にあるソファーに腰をかけるよう勧めた。
ソファーに腰をかけたものの、せわしなく動くエリーナを見てやはり何かできないだろうかと思案してしまう。
・・・・エリーナばかりに負担をかけてしまって申し訳ないわ。私も何か手伝いたいのだけれど・・・
しかし、あれもしなくていい、これもしなくていい、と言われ私はすることが何もなかった。
そして、そんな姿をちらりと横目でみるエリーナの心中は、
(ジュリア様に家事をさせようものなら、さらに負担がふえてしまう!!)
そう思うと思わず背筋が凍えるエリーナ。
ちらりと主を見ると何かを考え込む仕草をしていた。
(い、いけない!とにかく、ジュリア様には違うことをしてもらって気をそらさなければ!!)
エリーゼは慌ててお茶を入れると、そばにあった本の入ったカバンをひっくり返し、ジュリアが興味を持ちそうな本を取り上げるとお茶と一緒にそれを差し出した。
「ジュ、ジュリア様?ぜひ、これをお読みになってお待ちください」
必死で平常心を保ちながらいつもの笑顔で話しかけた。
「まぁ!・・・でも、エリーナが働いているのに私が本を読んでるなんて・・・」
「いいえ!!これはただの本ではありません!!離縁に関してつづられた本なのです!どうぞ!ジュリア様はジュリア様のなさるべき事をなさってください!私もこれが侍女としての仕事ですから!!」
そう言って、私は渡された本に目を落とした。
『コレで離婚問題もバッチリ!』
・・・・どうしてこんなものが・・・。
ちらりとエリーナを見たが、エリーナはせっせと荷物をクローゼットへと運んでいた。
ひとつため息をつき、とりあえずページをめくってみた。
するとどうだろう。
例として挙げられている夫婦のさまざまな不満や問題に私は思わず目を丸くしてしまった。
『夫の浮気癖がひどく別れたいのですが慰謝料は頂けるでしょうか?』
そ、そんな、そんなことで別れるの?だったら、側室を持つクラウス様は間違っているとでも・・?
いいえ!そんなわけないわ!だって、世継ぎがいなければ世継ぎ争いが起こってしまうじゃない!!
王室内で争うなんてあってはならないことだわ!
思い切り首をふりつつ、このページは参考にならないとさらに先に進んだ。
『夫の暴力がひどく耐えられません。だけど、生活費もすべて夫が持っていて離婚しようにも離婚後生活していけるかどうかが不安です』
暴力はいけないわね・・・。でも、・・・生活のお金のことなど私が考えたことなんてないけれど、それが普通なのではないかしら?ドレスや宝石を買うのは別にしても、何をするのだってクラウス様の許可が必要だわ。でも、そうしなければ湯水のようにお金を使う者も出てきてしまうかもしれないし。
管理することは当然だわ!
これも、参考にはならないと更にページを進める。
『夫のたびかさなる嘘にたえられなくなりました。これで離婚はできるでしょうか?』
ドキリとした。
クラウス様が嘘をついているわけではないけれど、私がクラウス様に嘘をついているようなものだ。
先を読み進めると、この本の著者であろう人物がその質問に回答していた。
私は、その回答の一部に目が止まった。
『夫婦といえども、所詮赤の他人。隠し事のひとつや二つはあるでしょう。嘘をついた事を責める前に、どうしてそのような嘘をついたのかよく話し合ってみてはいかがでしょう?それでも、許せないと感じるのであれば離婚も仕方ないのかもしれません。』
・・・・話し合いなど出来るわけがない。
こんな事がバレてしまっては国がどうなってしまうか・・・。
それならば、黙って離縁した方がよっぽどマシだ。
「・・・・それに・・・・」
私はきっと嫌われてしまうだろう。
そう思うと、言葉にならない言葉で胸が張り裂けそうだった。
「ジュリア様・・・?」
のめり込むように読んでいたその本から目をあげると、エリーナが声をかけてきた。
とても心配そうに・・・。
その声色に、ハッとして無理やり笑顔を作った。
「・・・エリーナ。ありがとう。とても参考になったわ」
そう言って、その本をエリーナに返した。
エリーナは何か言いたそうな顔をしていたが、そのまま本を受け取るとそれを戻しに部屋を出て行った。
「・・・・このままどこかへ行ってしまう方がいいのかしらね・・・・」
ぽつりとつぶやいた言葉は、少し考えていたことだった。
この城を抜け出して、姿をくらませる。
だけど、それをしてしまうと多くの人に迷惑がかかってしまうだろう。
そう思うと、実行することは難しかった。
「・・・・やはり側室の方に、お子を身ごもって貰って、その方を正妃にするようにしてもらうしかないわね・・・」
それには、兎にも角にも側室の方がお子を宿さなければ話にならない。
時間があれば、こちらに来られるとおっしゃっていたが、それを思い留めるようこちらからもお願いしよう。
「こんな事を書かなければいけないなんて・・・・」
側に置いてあった紙とペンをとり、初めてクラウス様宛に手紙を書いた。
こちらへは来られるよりも、王宮に上がられたばかりの側室の姫君を気遣って差し上げてください。きっと心細い思いをされているでしょうから。と・・・。
書き綴っているうちに、紙にぽたりと雫が落ちた。
「馬鹿ね・・・・。最初から本当の事を話しておけばよかったのよ・・・。今さら泣くなんて虫がよすぎるわ・・・」
落ちた涙をシミにならないよう綺麗にふき取ると手紙を封筒に入れた。
そして、エリーナからアルバートへと手紙は渡され、アルバートはその日のうちに手紙をもって城へ向かった。
最後、少し手直しをしました・・・。
話の都合上です(>_<)