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王妃の秘密  作者: 睦月
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エルステリア国を離れてもまだ、心は晴れなかった。

きっと、昨日アルバートがあんな事を言ったせいだろう。


「ジュリア様!やっと・・・・」


鏡の前に座る私をみて、エリーナは涙ぐんでいた。


「泣かないで、エリーナ」


苦笑しながらもエリーナを慰める。


「すみません・・・。つい、感激してしまって・・・・」


エリーナの苦労を思えば感激するのも解らなくないが、そんなに泣く程大変な想いをさせていただろうか?


「・・・・なんだか、久しぶりに本当の自分の姿を見たようだわ」


鏡に映っているのはリアーシャ様の真似をした私ではなく、本当の姿の私。

遠くから見る分にはたいして差がないように見えるかもしれないが、近くで見るとやはり今までの自分とは別人だった。


「・・・やっぱり、リアーシャ様の様な美しさはないわね」


ぽつりと言った言葉をエリーナは聞き逃さなかった。


「そんな事ありませんわ!!大きな眼もとには気品が漂い、スッと通った鼻筋は形も良く、思わず口付けしたくなるような唇。お顔全体からジュリア様のお心の優しさが現われてますわ!!」


あまりの勢いに再び苦笑するものの、やはりリアーシャ様の様な美しさはないと思わずにはいられなった。


「それに、ジュリア様は綺麗というよりも可愛らしいという言葉がぴったりですわ!」


・・・・確かに童顔だ。それも、今までは化粧でなんとか誤魔化せてはいたが、やはり元の自分に戻ると幼さが残ってしまう。


「・・・・私ももう18なのに・・・・」


可愛らしいと言われて嬉しくない訳ではないのだが、18ともなれば十分大人で素直にその言葉を受け入れることは出来なかった。


「さぁ、ジュリア様。そろそろ、城を出ませんと約束の時間に間に合わなくなってしまいます」


なぜか、満足したような顔をしてエリーナは扉を開けた。

そんなに、リアーシャ様メイクは大変だったのかと思うとエリーナに申し訳なく思った。

エリーナが、(これこそジュリア様の本当の魅力!今まで隠していたのがもったいない!男と言う男がジュリア様にメロメロよ!)と思っている事など露知らず・・・・。


「・・・エリーナ、ごめんなさいね・・・」


こっそりと謝罪した言葉は、浮かれているエリーナの耳には届かなかった。








*************************



「ご無沙汰しております。トレース陛下」


目の前の王座に座っているフィーナ国国王に頭を下げる。


「・・・・ジュリア殿?」


様子を伺いつつ私を見る国王に思わず苦笑いしてしまう。


「はい」


返事をした事で、改めて私を見る国王は少し驚いた様な顔をしていた。


「・・・しばらく会わない内になんだが随分雰囲気が変わられましたね?・・いや、驚いた。すごく素敵だ」


王座から下りて私の傍まで来ると、トレース陛下は私の左手甲に口づけを落とした。

エルステリア国では既婚女性にこの様な挨拶をする事はない為、思わず身を固くしてしまった。


「へ、陛下!」


「あぁ、失礼。あまりに可愛らしかったので思わずこの手に触れたくなってしまった。確か、エルステリア国ではあまり良しとしなかったね」


そう言いながらもなかなか離してくれない左手に思わず視線を落とすと、そこに唇をあてたままでこちらをみるトレース陛下と目が合う。


「お戯れがすぎますわ・・・。私ごときにこの様な事をなさっては、陛下にご迷惑がかかります・・・」


こんな子供の様な私にこんな事をして、陛下が幼子好きなんて噂されては大変だ。

確か陛下のお年は今年で35だ。

リアーシャ様を真似ていない私などせいぜい15、6にしか見えない。そんな子供にこんな事をしたと知れては迷惑がかかってしまう。

私は慌てて、トレース陛下から手を引こうとした。

しかし、唇は離れたものの陛下が手を離してくれる気配はなかった。それどころか、手を引こうとした私の手を更に強く握ってきた。


「と、トレース陛下?」


声をかけると、トレース陛下はにっこり笑顔を作った。


「・・・・ジュリア殿。いや、失礼。ちょっとからかいすぎたかな?」


そういうと、ぱっと手を離し、元いた王座へと戻っていく。

からかわれただけだと知ると、ほっとしたと同時にそれに慌てた自分が恥ずかしかった。


「・・・それで、今回はどうされたのかな?こちらへはどれくらい滞在する予定かな?」


トレース陛下からの質問にハッとし、気を取り直して陛下の質問に答えた。


「はい、今回は休養の為、1か月ほどこちらでお世話になります。その間、フィーナ国の方々にご迷惑をおかけする事となるでしょうが、宜しくお願い致します」


ドレスを摘み淑女のたしなみとして習った礼をする。


「休養?どこかお加減でも悪いのか?」


「いえ・・・・、少し王妃業をお休みいただいているだけです。お恥ずかしいお話です」


体の調子が悪いとも言えず、ましてや離縁する為に来ましたなど言えるはずもなく、おかしくないような言い訳も見つからず、王妃としてあり得ない様な理由を言ってしまった。


「ははは!そうか。そうだな。たまには王妃業も休業しないとやっていられないからな!」


あまりにおかしい理由を笑い飛ばしてくれたトレース陛下にほっと胸をなでおろした。

しかし、こんな事を言ってしまってクラウス様の恥にはならないだろうか・・・。

そんな思いがふっと過った。


「では、ジュリア殿。よろしければ明日夕食を一緒にどうかな?この国の名物を用意しよう」


トレース陛下の言葉に我に返ると、あまり気がすすまないながらも無下にお断りする事も出来ず了承してしまった。クラウス様に離縁を納得してもらう事を考えなければいけないのに・・・。と思いながら、思わず零れそうな溜息を飲み込んだ。




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