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長い長いトレース陛下の独白が終わり、トレース陛下は持っていたグラスに口をつけた。
「・・・その幼い少女が私と・・・?」
思わず聞いてしまったその疑問にトレース陛下はにこりと笑った。
「そう。君は覚えていないだろうね」
その言葉に、私は返事が出来なかった。
トレース陛下の言うとおり私はその時の事を覚えていなかったのだから。
「あぁ・・・。随分と昔の事を長々と話してしまいました。ジュリアもお疲れでしょう。少しゆっくりと休んだらいい」
そう言うと、トレース陛下は私を残し部屋を後にした。
トレース陛下の居なくなった部屋に一人残された私は、先程まで語られていた話を反芻していた。
「・・・幼い頃に私がクラウス様やトレース陛下と会っていた??」
一体それはいつ頃の話なのだろう。
ふと、自分の幼いころの記憶が途切れていることに気づく。
何かを忘れているようなそんな感じがする。
「それが、クラウス様やトレース殿下との思い出ということ・・・?」
だけれど、それを思い出してはいけないような、思い出さなければいけないような。
思い出そうとするが、やはりトレース陛下が語るような出会いは思い出せなかった。
正確には思い出そうと考えているうちに、トレース陛下の語る話やこれまでの疲れからか、私はいつのまにか眠りについていた。
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「・・・・・ダメだ」
「なぜ・・・・!?この事を話してしまったらあの子はっ・・・・・!!」
これはいつのことだっただろう。
「だがっ!!いつまでもこの事を黙っているわけにはいかないだろう!?あの子達を見れば誰がどう見たって血のつながりがないなど信じられない!!現にあのお方も怪しまれているではないか!!」
「だけどっ・・・・。あの方に知れてしまえばあの子の命はなくなってしまうわ!あなたはそれでもいいというの!?あの子達は私たちの可愛い娘ではなかったの!?」
「可愛い娘だ。当たり前だろう。だかな、ジュリアはこれから王宮に赴くことが増えるだろう・・・。やはり、無理な話だったのだ。あの御方の目をくらませ様などと・・・」
そう、お父様とお母様が言い争いをしていて、私は怖くてその部屋に入れなかった。
そして、この夢はつい先日も見た気がする。
ということは、これは夢なの・・・・?
「・・・王妃様に頼まれたの。その時、私は、生涯この秘密を王妃様とともにすると決めたわ」
お母様が真剣な様子でお父様に語りかけていた。
そんなお母様を見て、お父様は片手で目元を覆った。
「・・だが・・・しかし・・・」
両親がそろって口を閉じた。
先日、見た夢の続きなのだろうか。私は、扉の外でその様子を息を飲んで見ているようだった。
「・・・災いを起こすと言われている双子の片割れだ。この国に災いが起こったらどうする」
お父様は静かに口を開いた。
その言葉に私は衝撃を受けていた。
「・・・・・この国のためを思うのならば、あの子が生きていてはいけないのだよ」
お父様の真剣な言葉に、お母様は泣き出した。
そして、私はこの時に悟ったのだ。私は、お父様とお母様の子供ではなかった。
王妃様と王様の子供で、この国の者ならばだれでも知っている、災厄を呼ぶ王家の双子の妹
だったのだと。
その話を聞いた後、私はわけもわからず自分の部屋に戻りベットに入って再び眠りについた。
これは夢、悪い夢だと言い聞かせながら。
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頬が冷たい。
その感覚で私は目を開いた。
「・・・・そう・・・・だった・・・」
こぼれおちた言葉はかすれていた。
体を起こし、手を頬にあてるとそこは涙が落ちて濡れていた。
なぜ、忘れていたのだろう。
こんなにも大事なことを。
「わたしっ・・・のせいっ・・なのっ・・・?」
今起こっていることは全て、私がこの世に存在しているから?
だから、お父様やお母様は捕まり、リアーシャ様は変わってしまったの?
私がこの世に生きているから、全ての歯車が狂ってしまったのだろうか。