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塞がれていた口が解放されていたかと思うと、すぐに手を取られ引きずられるようにまた違う部屋へと連れて行かれた。
「さぁ、ここが貴女の部屋です」
開かれた扉の先を見た私は、ここでも息をのんだ。
「ここは・・・・・っ」
「そうですよ。貴女の為に作ったんです。貴女の部屋そっくりに」
トレース陛下の言うとおり部屋の中は、エルステリアの自室がまるでそこにあるかのようにそっくりにされていた。
「本当は、あの部屋とまったく同じというのもどうかと思ったのですが、やはり貴女が好きなものはあの部屋の中に多くありましたからね。貴女に落ち着いて過ごしてもらうにはあの部屋の通りがいいかとおもいまして」
あまりの衝撃に扉の前で立ちすくんでいると、取られていた手を再び引かれた。
「作りは同じようにしてありますので、どこに何があるか迷わなくても済むでしょう。そしてこちらが私たちの寝室です」
手を引かれながらまた違う扉をあけると、そこには大きなベットが部屋の真ん中に置かれていた。
「さすがに、寝室は変えました。クラウスなどを思い出させてしまっては貴女に申し訳がありませんからね」
眉を寄せ、心底申し訳なさそうな表情でトレース陛下は私の手に口づけを落とした。
呆然とその部屋を眺めている私に、トレース陛下は私の肩を抱き髪に口づけを落とし囁いた。
「すぐに騒ぎも収まるでしょう。そうすれば、貴女とゆっくり過ごすことも出来ます」
これまでのショックから今だ立ち直れない私は、トレース陛下にされるがまま肩を抱かれその部屋を出ると再び私の部屋にあるソファと全く同じソファに座らされた。
「すぐに飲み物を持ってこさせましょう」
トレース陛下はそう言うと、一旦部屋の外へと出ていった。
一体、何が起こっているのだろう。
辺りを見渡すと、まるでここがエルステリアの様に思えてくる。
だが、ここはエルステリアではない。
呆然としている場合じゃない。早くここから抜け出し、クラウス様の元へ戻らなければ。
「でも、どうやって・・・」
辺りを見回すが、見回せば見回す程なんだか肌寒く感じる。
細かなところまで、全く同じように揃えてある。
ふと、窓に目が止まる。
そっとソファから立ち上がり、窓の側に近づく。
まさか、そう簡単に逃げられる訳がないだろうと思いつつも、窓に手をかけそれを開いてみる。
「・・・・やはりダメね」
思わず深いため息が零れる。
やはり、ココは最上階のようでこの窓から外に出るのは無理そうだ。
「・・・そのようなところにいたら、風邪を引いてしまいますよ」
その声に振り向けば、いつの間にかトレース陛下が部屋へ戻ってきていた。
それ以上行き場がないのに、思わず後ずさりしてしまう。
「景色が良いでしょう?貴女は緑が好きでしたからね。眺めのよい部屋にしました」
そう言うと、トレース陛下は私へと手を伸ばしてきた。
また触れられると思い、思わず目を瞑り体を固くしてしまう。
が、その手は私を素通りして空いていた窓を占めただけだった。
「さぁ、そんなところに立っていないでこちらで暖かいお茶でも飲みましょう」
いつの間にか先程まで座っていた場所にトレース陛下は戻っており、陛下自らお茶を注いでいた。
その姿の異様さに、動けないでいる私はじっとそれを見ていた。
「・・・少し昔話をして差し上げましょう」
お茶を入れ終え、テーブルに2つのカップを置くとトレース陛下は唐突にそう言いだした。
「さぁ、その前にこちらに来て座ってください。少し話がながくなるかもしれません」
ふと顔を上げ私を視線でとらえると、にっこりと笑った。
だが、私はその笑顔に寒気を覚えつつ、ここで逆らうことは得策ではないと動かない体を叱咤し、なんとか先程座っていたソファーへと身を沈めた。
私が座ったのを見届けると、トレース陛下はテーブルを挟んだ向かい側に腰をおろし、自らが入れたお茶に一口口をつけた。
「・・・・貴女は覚えていないかもしれない」
そう前置き、カップを元の位置に戻すとトレース陛下は話始めた。