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王妃の秘密  作者: 睦月
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腰を抱かれたまま私は呆然と部屋を後にし、トレース陛下になされるがまま歩かされある部屋へと連れてこられた。


「あら、そのドレス、ジュリアには似合っていないんじゃない?」


聞こえてきた声は、鈴の鳴るようなきれいな声のリアーシャ様だった。

その声に、顔をあげてみれば、私が先程まで来ていたドレスを身につけそこに立っていた。


「どう?ジュリアのように見えるかしら?」


私の方を見てにっこりと笑うリアーシャ様。

その姿に私は息を飲んだ。まるで鏡の自分を見ているようで声が出ない。

私の代わりにその問いに答えたのは、トレース陛下だった。


「まぁまぁ、ですかね。外見はよく似ていますが中身が違えば雰囲気も違うのでしょうね。私のジュリアとは大違いですよ」


鼻で笑うようにそう言うと、リアーシャ様も同じように笑った。


「あら、さっそく手でも出してきたのかしら?大事そうに抱えちゃって。でも、ジュリアには迷惑そうだけれどね」


楽しそうにころころと笑うリアーシャ様。

まるで会話が噛み合っていないのだけれども、それが普通の事のように2人は楽しそうに笑っていた。


「さて、そろそろ行こうかしら?これだけ似ていればすぐにはわからないでしょう」


そう言うと、リアーシャ様は侍女を呼んだ。

呼ばれた侍女はなぜか手に刃物を持って現れ、それをリアーシャ様に渡した。

刃物を受け取ると、リアーシャ様は私の方を向いてほほ笑んだ。


「ふふ、見ていて?」


そう言うと、リアーシャ様は自らが来ている私のドレスに刃物を当てるとドレスを切り裂くように下におろした。


「っ!!」


その行動に息をのみ、出そうになる悲鳴を抑えるように両手で自らの口をふさいだ。


「あら、別に好きで自分を痛めつけているわけではないのよ?」


私の表情を満足そうにのぞき込みながらそう言う。


「ただ、何事もなくクラウスのところに戻ったら怪しまれるでしょう?賊に襲われたけれど必死に逃げ出してきましたっていう風に見てもらわなきゃね」


そう言いながら、何度も何度もドレスを刃物で切っていく。

そして、綺麗に纏めあげられていた髪も、ぐしゃぐしゃにかき乱す。


「・・・ふぅ。こんなものかしら?本当はこんな格好で外を歩くのは嫌なのだけれど・・・」


その言葉通り、リアーシャ様の格好はひどくぼろぼろになってしまった。


「ど、どうして、そこまで!!」


思わず零れ落ちた言葉にリアーシャ様は私をじっと見つめると、にっこりと笑った。


「・・・別にどうでもいいのよ。こんな事してもしなくてもどうでも。私が失うものなんてもう何もないもの。ただね、同じ様に生まれてきていて、どうして貴女が幸せのままなのかわからないの。だから、一緒に堕ちましょう?」


「・・・リアーシャ・・さまっ・・・」


一体、彼女に何があったというのだろう。

準備は整ったとばかりに私に背を向け扉へ向かう彼女に、再びこみあげてくるものを必死で押さえながら私は叫んだ。


「リアーシャ様っ!こんなこと間違っています!やめてっ!お願いですからっ!!」


私の叫びが聞こえているのかいないのか、リアーシャ様は足を止めこちらを振り向くとにっこりほほ笑み部屋を後にした。

あわててリアーシャ様の後を追おうとするが、腰に添えられていた手に阻まれる。


「離して!!リアーシャ様がっ!!」


その手を振り払おうと全身を使って動くが、その手はびくともしない。


「暴れないでください。大丈夫。彼女はちゃんとクラウスの所まで送り届けますから」


この場には似つかわしくないような声でトレース陛下は言う。

その言葉に、何を勝手なことをと怒りがこみ上げてくる。


「離して!!貴方、リアーシャ様に何をしたの!!」


今までに出したことのないような声で、私はトレース陛下を怒鳴りつける。

リアーシャ様は、ドレスを切り裂くたびに少なからず体にも傷が付いていたのだろう。

ドレスには血がところどころついていた。

それなのに、彼女はどうでもいいと言った。一体、彼女に何があったと言うのか。

本当にウィルト殿下が違う人と結婚した事だけで、あんなふうになったというのだろうか。

リアーシャ様の事を思うと、どうしてもこみあげてくる怒りがおさまらなかった。


「言ったでしょう?貴女の口から他の者の名前など出してほしくないと」


その言葉と同時に、私の腰から手が剥がれその手によって口を塞がれた。

そして、首元にはつめたいものが当てられていた。


「大丈夫。貴女を傷つけるなんてしませんよ。貴女は私の事だけを考えていればいいのです」


首元から離されたそれを、トレース陛下は私の目の前に持ってきた。

それは、先程までリアーシャ様が持っていた刃物だろう。切先にはリアーシャ様の肌を切ったであろう血が少しついていた。


「これは彼女が勝手にしたことです。まぁ、止めはしませんでしたがね?さぁ、そんなことよりこれからは私たち夫婦の時間です」

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