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新しいドレスは、真っ赤で豪華なドレスだった。
侍女たちは私にドレスを着せると、用事は済んだとばかりに部屋を後にした。
静まり返った部屋に一人残された私は力尽きたように、そばにあった椅子へと腰掛けていた。
「っクラウス様・・・」
あふれ出てくる涙は、着つけられたばかりの真っ赤なドレスに落ちシミを作っていく。
こんなところで泣いている場合ではないのに、リアーシャ様の変わりようにショックで何も考えられなかった。
「かわいそうなジュリア」
いきなり聞こえてきた声に驚き顔をあげると、扉の近くにトレース陛下が立っていた。
その姿に、無意識に体がかたくなる。
「ト、トレース陛下・・・・・」
「あぁ・・・。かわいそうな、ジュリア」
再び、同じセリフを口にしながら、トレース陛下は私の方へと近寄ってくる。
思わず、椅子から立ち上がりその椅子の後ろへと避難する。
その行動に、トレース陛下の表情が硬くなった。
「・・・・クラウスの元になど居た為に、貴女は本当の愛する者を見失っているのですね」
ゆっくりと近寄ってくるトレース陛下は、私の前に膝まづくと、私の手をとった。
私は、とられた手を取り戻そうと必死で手を振り払おうとするが、それを許さないかのようにしっかりと手を握られていた。
「あぁ、こうして運命の2人が引き裂かれる程、悲惨なことはありません。ですが、安心してください。やっと・・・。やっとこうして貴女は私の元へ戻ってきてくれた」
そういうと、トレース陛下は私の手の甲に口づけを落とした。
「やっ・・・。やめてくださいっ・・・!」
再びその手を引くが、それは叶わない。
「離してっ!!触らないで!!」
ふれられた所から悪寒が体中を駆け巡る。
私の声に、トレース陛下はゆっくり顔を上げ、私の視線を捉えると、ゆっくりと口を開いた。
「もう、貴女を離しません。やっと私の手元に戻ってこられたのですからね。・・・・邪魔者は早々に消してしまいましょう」
にこりとほほ笑むトレース陛下に、思わず眉を寄せる。
「何を・・・おっしゃってるの・・・?」
私の問いかけにトレース陛下はほほ笑むばかりで、答えようとしない。
「・・・っ!クラウス様に何をしようというのっ!!」
そう叫ぶと、トレース陛下の笑顔が消えた。
「・・・貴女の口から奴の名前は出さないで頂きたい。今すぐにでも殺してしまいそうだ」
低くまるで本当にすぐにでも殺そうとしそうな声でそう答えると、トレース陛下は私の手を離した。
「大丈夫ですよ。まだ奴にはリアーシャを連れてイングランシャへと行ってもらわなければならないのでね。すぐには殺したりしません」
そう答えると、トレース陛下は立ち上がり私の腰に手をまわした。
「さぁ、その素敵な姿をリアーシャに見せてあげましょう。彼女とも今生の別れになるかもしれませんからね」
その言葉に、トレース陛下から距離をとる。
「り、リアーシャ様をどうするつもり!!」
今生の別れなどと口にする目の前の男をキッと睨み上げる。
トレース陛下はまるで子供でも相手にするように、溜息をつき微笑した。
「貴女は、どうするのかと聞いてばかりだ。少しは私の事にも興味を持ってほしいな」
そういうと、再び私のそばに来て腰に手をまわし顔を耳元に近づけてきた。
「あまり、他の人のことばかりを気にしないでください。貴女の心を奪う彼らを本当に殺してしまいたくなる」
耳元でそう囁かれ、思わず耳をふさいだ。
身体中に何かが走ったかと思うと、その場から一歩も動けなくなってしまった。
この人は本当に誰かを殺してしまう。
それは予感ではなく確信だった。
震え出しそうになる体に、トレース陛下がぐっと腰を引いた。
「さぁ、行きましょう」
そう言うと、トレース陛下は私の腰を抱いたままその部屋を後にした。