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ふと、目を覚ますと、頭が重い感じがした。目の前がふらふらする様な感覚の中、身体を起こす。
「・・・・どこ・・・・?」
視線の先には見たこともない部屋の中に私はいた。
その事に、先程の事が思い出される。
「私は・・・・・」
何かの薬を嗅がされて、気を失った後、どうやら私は連れ去られたらしい。
周りを見渡すが、ここがどこなのかわかる様な物はない。
ただ、豪華な部屋である。
その時、扉からノックの音が聞こえ、返事を待たず扉が開いた。
「・・・・目が覚めた?」
入ってきた人物に私は思わず息をのんだ。
「調子はどうかしら?」
軽やかに私に問いかけるその声はいつもと同じだった。
「・・・・な、なぜ・・・っ!!」
「あら?驚いているの?ふふっ、当然よね。でも、安心して。別に貴女の命を取って食おうと言う訳ではないのよ」
にこやかに笑っている目の前の人物に信じられない思いで私はさけんだ。
「な、なぜですかっ!!リアーシャ様!!!」
「なぜって・・・・・そうね。私もこんな事したくないわ。でも、貴女がいけないのよ?」
そういうと、リアーシャ様は私の傍に、水差しを置いた。
「飲むといいわ。今度はなにも入ってないから大丈夫よ」
そう言って手ずから水を入れ、私にコップを差し出した。
それを受け取るが、私は水を口にはしなかった。
「どういうことですか?説明してください」
コップを持つ手に力が入る。信じたくない。きっと、何か理由があるはずなんだ。その想いでリアーシャ様に説明を求める。
「説明といっても・・・・。そうね。私、貴女の事大好きだったわ。・・・・・大好きで、憎らしい」
その言葉に息をのむ。
「ねぇ、ここがどこだかわかる?ここはね、フィーナ国よ。なぜ、私がここにいるかわかるかしら?」
にっこりと笑っているリアーシャ様はいつものリアーシャ様と同じだ。
だけど、どこか違う。何かが変わってしまっている。
「私ね。もう、ウィルとは一緒になれないの。ウィルと一緒になる為にここに来たのに、私はもうウィルとは一緒になれないのよ」
目を伏せて悲しそうに話すリアーシャ様。
そして、そのまま黙ってしまった。
「・・・・な、なぜですか?」
「ふふ・・・・さっきから『なぜ』ばかりね。ねぇ、貴女は今幸せ?あぁ、聞くだけ無駄ね。だって、幸せそうな顔してるもの」
そういうと、リアーシャ様は顔を上げた。
「っ!!」
その目には怒りが現われていた。
「貴女がいるから、私は不幸になるのよ。知ってるでしょう?イングランシャでは双子は災いを招くって」
その言葉に、私は驚く。
「リ、リアーシャ様も、知っていたのですか・・・・?」
「あら、貴女も知っていたのね。私は、ここに来て初めて知らされたわ。貴方と私が双子だと言う事を。だから、私が不幸になったのよ?なら、貴女がいなくなれば、私は幸せになれると思わない?」
そう言って笑うリアーシャ様に、思わず鳥肌が立ち、後ずさってしまう。
「・・・・あら、私が怖い?安心して、貴女を殺そうだなんて考えてないから」
ふふふっとおかしそうに笑う。
「でもね、貴女はもうエルステリア国には戻れないわ。あぁ、そうそう。私ね、結婚したのよ」
なぜか急にリアーシャ様はそんな事を言い始めた。
「ウィルと結婚したかったのに。ずっと一緒にいたかったのに。なのに、ウィルは私を裏切って他の女と結婚したの。えぇ、ウィルの国には私と結婚するよりも、とても有意義な結婚をね」
にこにこと笑っているリアーシャ様は幸せそうに笑う。
先程まで不幸だと言っていたその口の端を上げて。
彼女の心が悲鳴を上げているように、なぜか私の心も苦しくなった。
「ねぇ、ジュリア。笑ってよ?私も結婚したのよ?おめでとうって言ってくれないの?」
「・・・・本当にお幸せなのですか?」
心臓を掴まれるような苦しい想いが、思わず口をついて出てしまった。
リアーシャ様は私の言葉を聞くと、急に般若の様な顔になったと同時に私は自分の左頬に鋭い痛みを感じた。
「っ!!馬鹿にしないで!!」
リアーシャ様は、左手で右手を掴みながら私に叫んだ。
「幸せ?何が幸せよ!!貴方のせいでっ・・・!」
痛む左頬を抑えながら、私は目の前のリアーシャ様に釘付けになっていた。
だから、気付かなかった。その声を聞くまで、いつの間にかこの部屋に他の人がいた事を。