第40話
夜中私は目が覚めた。
目をこすりながら、喉を潤す為私は食堂へ向かった。
廊下を歩いていると目的の場所から光が溢れていた。
「・・・・・ダメだ」
明かりのついた食堂の扉を開こうとすると、完全に閉まりきっていなかったのか、お父様の声が中から聞こえた。
私の起きている時間にはなかなか会えない父の声に私は嬉しくなり、再びその扉を開こうと手をかけた時、次に聞こえた声はお母様の泣き声だった。
「なぜ・・・・!?この事を話してしまったらあの子はっ・・・・・!!」
必死にすがる様にお父様に話しかけるお母様の声に私は部屋に入るのがためらわれた。
「だがっ!!いつまでもこの事を黙っているわけにはいかないだろう!?あの子達を見れば誰がどう見たって血のつながりがないなど信じられない!!現にあのお方も怪しまれているではないか!!」
私と会うときにはいつもお優しいお父様のどなり声に思わず身がすくんでしまった。
「だけどっ・・・・。あの方に知れてしまえばあの子の命はなくなってしまうわ!あなたはそれでもいいというの!?あの子達は私たちの可愛い娘ではなかったの!?」
「可愛い娘だ。当たり前だろう。だかな、ジュリアはこれから王宮に赴くことが増えるだろう・・・。やはり、無理な話だったのだ。あの御方の目をくらませ用などと・・・」
幼い私には父や母の話している内容はよくわからなかったが、いつもの父や母ではなかった。
怒鳴ることなどなかった優しいお父様。
いつもにこにこと笑顔のお母様。
その2人の見たこともない姿に私はそっとその場を離れいそいで自室へと戻った。
慌ててベットに潜り込むと私は目をぎゅっと瞑った。
いつもの様子と違う2人の姿は、私には怖かったのだ。
だから、忘れてしまおうと思った。
見なかったことにしようと。
きっと、明日の朝はいつもの2人に戻ってくれていると信じて。
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だから、忘れていた。
あの時の話はきっとこのことだったのだ。
こんなにも大切な話をしていたのに、私は忘れ去っていた。
いや、父と母の様子が違うことの方が幼い私にはショックだったのだ。
だから、記憶から消した。
それなのに・・・・
「まさかこんなことが・・・・・」
今になってあの時の話がこのことだと分かるなんて・・・。
しかし、幼い私にわかる訳がない。
それでも、今まで過ごしてきた時間の中でその欠片は多々あったのかもしれない。
私が気付かなかっただけで・・・・。
あまりの事実を続けざまに知らされて私の頭の中はもうパンク寸前だ。
「わ、私はどうしたら・・・・」
震える手をなんとか抑えようと手を組んでみるも効果など内に等しい。
ふと、落ちている手紙に視線を落とす。
「ど、どうして、お父様、お母様そんなことを・・・・」
手紙に書かれていた事とあの時、両親が話していた事を繋ぎ合わせれば父や母が捕まった理由が見えてくる。
落ちている手紙を震える手で拾い上げると、そっとテーブルの上に置いた。
「まさか、リアーシャ様と私が双子だったなんて・・・・・・」
知らされて初めて、あぁ、そうだったのかと思う。
似ているとは思っていた。
だけど、性格は全然違う。
私は、リアーシャ様のように明るくもなければ、社交性だってない。
こんな私とリアーシャ様が双子だなんてこれっぽっちも思ったことなんてなかった。
だけど、もしそれが事実ならば、あの時母が言っていたことはきっと私とリアーシャ様のことだったのだろう。
私達が生まれ、何らかの理由があって、リアーシャ様が王女となった。
きっと、あの時言っていた『あの方』とは王のことだったのではないのだろうか?
私たちが双子だと知れて実は王の子供ではなかったと分かったら・・・・
「両親だけでなく私達だって・・・・」
きっと殺されるだろう。
だから、父や母はあの時必死に隠そうとしていたのだろう。
そして、私は何も知らされなかった。
きっとリアーシャ様も知らないのだろう。
だが、今になって王のお耳に入ってしまった。
そして、父や母は捕まってしまったということなんだろう。