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王妃の秘密  作者: 睦月
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3

「・・・ならん」


内心はやはりと思いながらどうしても肩を落とさずにはいられなかった。

今日も午後からいつもの通りクラウス様の執務室を訪ね、仕事の合間にお茶をしていた。


「ジュリア、私を信じてくれないのか?」


悲しそうな眼を私に向けてくる。


「いいえ・・・。クラウス様の事は信用しております。・・・私がいけないのです。私には側にいて他の女性の元へ通うあなたを見ることができないのです。少しの間で構いません。どうぞ私をフィーナ国の城へ移していただけないでしょうか?」


涙を浮かべクラウス様に懇願した。

離縁を申し出てすぐに許されるなど思っていない。


「・・・ジュリア・・・・」


クラウス様は悲しそうな顔をしたまま少し考えていた。


「・・・それならば、1カ月・・・休養という名目で許可しよう・・・」


「・・・よろしいのですか?」


1カ月・・。期間は短いが、今の私には彼と距離を置くことが必要だった。


「・・・よくはない・・・。しかし、こうなってしまったのは私の不甲斐なさのせいでもある。ジュリアの心が軽くなるのならばそれもいいだろう・・・」


そして、私の隣に座ると、そっと私の手をとった。


「ただし、必ず私の元へ帰ってくるのだよ?」


その瞳は力強く、人を従える輝きを放っていた。


「・・・・はぃ・・・・・わがままを聞き届けて下さってありがとうございます」


手を繋がれたままそう言うと、クラウス様は私の額へキスを落とした。


「ジュリア。なにがあろうと私はお前を手放すつもりはないからね」


瞼の上ポツリとそう言うクラウス様に私の心がときめいた。

・・・これは、リアーシャ様に向かって言っている事と同じなのに・・・・。

それでも、ときめいてしまう私は重傷なのだろう。


「・・・執務中お邪魔して申し訳ありませんでした」


これ以上ここに居たら離れがたくなってしまう。

私は早々に部屋を後にしようとした。

だが、私が扉に手をかけた時、クラウス様が私の腰を引きよせ強引に唇を奪う。

塞がれた口。

ふと視線を上げると強い瞳と目が合う。

唇が開放されるとクラウス様はニッコリと笑った。


「ジュリア。気をつけて行ってきなさい」


突然の出来事に、つぶやくようにしか返事ができなかった。

そして、私はその部屋を後にしたのだ。


いつもより少し強引な口づけに、思わず私は左手で唇に触れた。


「・・・・クラウス様・・・・・」


自然と彼の名前がこぼれる。

ふと、廊下の向こうから侍女が歩いてくるのが見えた。

私は無意識のうちにスッと背筋を伸ばし王妃の仮面をかぶった。

1年。こうして私は彼にふさわしくあろうと努力した。

そしてそれはすでに身についてしまっていた。


私を見つけた侍女はスッと廊下の端によって頭を下げる。

そのたびに思う。


・・・私なんかに頭を下げないで・・・


下げられるような立場ではないのに。


だけど、こんな事も今日が最後かもしれない。

そう思うと、思わず言葉がこぼれていた。


「いつもご苦労様。ありがとう」


私から、声をかけられるとは思っていなかったのだろう。

当然だ。いつもならスッと通りすぎるだけなのだから。

侍女は目を見開いて固まっていた。

そんな彼女がおかしくて、思わずくすりと笑うと、侍女は覚醒したのか慌てて頭を下げた。


「も、もったいないお言葉・・・」


そう言った彼女に、感謝の気持ちを込めにっこりと笑い掛けその場を後にした。

そして、部屋に戻った私は早速エリーナと共にフィーナ国へ行くための準備を始めた。


「エリーナ、持っていくものは必要最小限でいいわ。クラウス様から貰った物は置いていきましょう」


それらを持って行ってしまうと別れると決めた決心が揺らいでしまうことが目に見えている。


「わかりました・・・。しかし、本当にいいのですか?」


「・・・いいの。もともとここは私のいる場所じゃなかったのよ」


荷物をまとめる手がついつい止まってしまう。

本当はずっとクラウス様と一緒に居たかった。


「ジュリア様・・・クラウス様に本当の事を打ち明けては・・・?」


エリーナは恐る恐る私にそう提案する。だけど・・・・。


「それはダメよ。いくら、クラウス様に求婚されてやってきたからといっても、私は我が祖国の名を背負ってやってきたのよ。こんな事がバレてしまったら国にも迷惑がかかってしまうわ。私一人の事じゃないもの」


そう、これは誰にもバレてはいけない。


「・・・側室となられる方が素敵な女性であることを願いましょう」


そうすれば、私は離縁を申し渡されるだろう。

子供も成さぬ王妃など必要ない。


「ジュリア様・・・・・」


目を伏せるエリーナに気付かないふりをして私は荷物をまとめた。


「・・・クラウス様が幸せになる為に私が側にいてはいけないのよ・・・・」

すべては偶然が重なった勘違いから始まった。

そのことに便乗して、私はずっと愛する人を騙している。

その上、王妃として一番大切な跡継ぎを産むことすらできない。

こんな私がクラウス様の側にいて何が出来るというのだろう。

側室が来るという話はきっかけに過ぎない。

そろそろクラウス様を解放して差し上げないといけない。

そんな思いがずっと心に引っかかっていたのだ。


「やっと、クラウス様を解放して差し上げられます・・・」


詰め終わった荷物を見て私はエリーナに聞こえないよう小さな声で呟いた。



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