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王妃の秘密  作者: 睦月
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『いやよ!!これ以上は私には何もできない!!お願いだからもうやめて!!』


私は必死で叫んでいる。

いや、これは私じゃない。リアーシャ様だ。


『・・・お願いだ。リアーシャ。私たちが幸せになるためにはやらなければならない・・・』


目の前には、ウィルト殿下がいる。

彼はとても苦しそうにリアーシャ様に向かっていた。


『おねがい・・・。もうやめましょう。ウィル・・・。これ以上彼の言うことを聞くのは・・・』


とても辛い。悲しい。心のそこから彼の事を想っているリアーシャ様の心が私に伝わってくる。

頬を伝う涙の冷たさまで私は感じ取る。


『・・・リアーシャ・・・。もう引き返せない。私たちは彼の言うとおりにするしかないんだ』


目の前でうなだれるウィルト殿下をリアーシャ様は優しく包み込む。

だけど、心はひどく痛い。辛い。悲しい。

2人は涙を流して抱き合った。








****************************


「・・・リア!ジュリア!!」


自分の名前を呼ばれて目を開ければ、そこには心配そうに私の顔をのぞき込むクラウス様の姿があった。


「・・・クラウス様・・・・?」


「ジュリア・・・。どうした?辛い夢でも見たのか?」


「辛い夢・・・?・・・どうして・・・?」


私はクラウス様の言っている事を反芻するように問い返す。

悲しい?・・・・そう、とっても悲しい。辛い夢だった。


「どうしてって・・・。ほら・・・」


そう言ってクラウス様は私の頬を撫でる。

そこで、私はやっと気づいた。頬に伝う涙に。


「泣いて・・・・いたのですね。私」


「・・・・どうした?何の夢を見たんだい?」


優しく語りかけるクラウス様に私は先程見た夢の内容を話した。


「・・・・そうか。ウィルト殿下とリアーシャの夢を・・・・」


私の話を聞いたクラウス様は眉間に皺を寄せ何かを考え込むようにそうつぶやいた。


「はい・・・。とても・・・、辛い。悲しい想いをしていらっしゃいました。お2人に何かあったのではないでしょうか?」


私はずっと引っかかっていた事を聞いた。


「・・・・何かあったかどうかは私にはわからない。だが、ウィルト殿下の国が現在危ないと言うことは耳にした」


思わぬ話に私は目を丸くする。


「危ないとは一体どういうことですか!?」


クラウス様は苦しそうにその質問に答えた。


「・・・彼の国では現在兵士と食料を同盟国に援助しているのだが、その同盟国は今現在既に国が崩壊しかけている・・・」


言いづらそうにそういうクラウス様の言葉が頭の中にぐるぐると回る。


「つまり・・・・、ウィルト殿下の国も巻き添えを・・?」


まさかとは思うが念の為に確かめて見る。


「・・・同盟国と縁を切りすぐにでも兵士達を撤退させればそう大きな問題にはならないはずだ」


クラウス様の言葉に引っかかりを覚える。


「大きな問題にならない・・・・と言う事は、何かしらやはり問題が起こっていると言う事ですか!?」


私の問いかけにクラウス様は静かに頷いた。


「・・・仕方のない事だ。直接ではないにしろ、戦争に少しでもかかわれば丸く収まる事などできない。いかに被害を出さず民を納得させるかはウィルト殿下を始め王族の手腕によるだろう。だから、私からはこれ以上なんとも言えない」


クラウス様は静かに目を瞑ると、辛そうな顔をした。


「・・・そうですね・・・。私達には何も出来る事などないのでしょうか・・・・」


納得しなければいけないと思いながらもやはり何か力になれる事はないかと思ってしまう。

しかし、立場的にも何か手出しをしてしまう事はその国に加担する事とみなされてしまう。

結局、状況を知ったところで何も出来ない自分が情けなく肩を落とす。


「ジュリア。お前だけではない。悔しい思いをしているのは。だが、これは仕方のない事なのだ。わが国を危機にさらす事もできない」


ふと、顔を上げるとクラウス様は真剣な表情でそう言った。


「わかっております・・・・・」


クラウス様の言いたい事は十分に・・・。

そんな私を見かねたのか、クラウス様は深いため息を付いた。


「・・・・・はぁ・・・。これは言うべきではないと思っていたのだが、そんなに落ち込むジュリアを見てはいられない」


クラウス様の言葉に私は首を傾げる。一体、何の話なのだろう。


「リアーシャは現在、フィーナ国に滞在しているらしい。だから、君がそんなに心配する事はない」


「フィーナ国に?」


・・・なぜ?祖国とフィーナ国にはまったく交易がない。ウィルト殿下の国と何かしらの関係があるとしても、まだ婚約者としての立場しかないリアーシャ様が単独でフィーナ国に訪れる事もあるはずがないのに・・・。


「・・・トレースがわざわざウィルト殿下に申し出たらしい。リアーシャを預かると・・・」


私の考えを読み取ったのか、クラウス様は私が疑問に思っている事を答えてくれた。


「ですが・・・。それならば、祖国のイングランシャ国に戻った方が安全だったのでは・・・」


そう、祖国では戦争も関係なく穏やかに過ごせる事は間違いないはずなのに。


「あぁ、私もそう思ったさ。なぜ、フィーナ国なのかと・・・。だから、君には話さなかった」


クラウス様の表情が険しくなった。


「ジュリア。・・・・トレースが何を考えているのかはわからない。だが、間違いなく何かを企んでいるだろう。リアーシャが今あちらにいる限り、出来ればリアーシャと連絡を取らないでくれないだろうか?」


その言葉に思わず私はクラウス様を見た。

せっかく彼女の居場所が分かったと言うのに、連絡を取るなとはあんまりではないだろうか。そう思って勢いよく上げた視線の先のクラウス様は既に私の夫としてではなく、国王としての表情となっていた。

その表情に私は頷くしかなかった。



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