32
「お、おやめ下さい!!今、ジュリア様は奥で休んでおられます!!」
ふと、扉の外の騒がしさに目を覚ました。
と、同時にその扉が開かれた。
「ジュリア!!」
その扉から現われたのはクラウス様だった。
驚きのあまり思い切り体を起してしまい、少しめまいがした。
「クラウス様っ・・・・っ!!」
その様子を見たクラウス様がすぐ横に駆けつけてきてくれた。
「大丈夫か!?無理をするな。横になったままでいい。お前に話したい事があったんだ」
そう言って、起こした身体をゆっくりと横にしてくれた。
「・・・申し訳ありません・・・・」
「いい。気にしないでくれ。それより、先程、母から聞いたが、ジュリア。お前は誤解している。私は決してジュリアとの間に子が欲しくないと言った訳ではないぞ?」
その言葉に思わず目が丸くなる。
「はっ・・・・。本当にその様に思っていたのだな・・・・。すまない。誤解させる様な言い方になってしまって・・・」
クラウス様は自嘲気味に笑った。
私は、彼の言葉に思考がついていけない。
「あ、あの・・・どういう事なんでしょう?」
私の言葉に、クラウス様は少し考えた後、口を開いた。
「・・・詳しくは言えないが、今はまだ子を授かる前に解決しなければいけない問題がある。それが解決しない限り君や生まれてくる子が幸せになれない・・・・」
クラウス様の言葉はまだ何かを隠しているようだったが、私は彼の言葉に安心した。
「・・・・では、クラウス様は子を授かることが嫌なわけではないのですね・・・・」
私の言葉にクラウス様ははっきりと頷き言葉にしてくれた。
「もちろんだ。国王としてもジュリアの夫としても私は君との子供が欲しい。そして、皆に祝福してもらいたい」
その言葉に私は昨日とは違う涙がこぼれた。
「よ、良かった・・・・。私はクラウス様が私との子を授かることがお嫌なのかと・・・」
あふれる涙は止まらない。もう愛想をつかされてしまったのではないかと。私は捨てられてしまうのではないかと・・・。
ふと、そのとき昔似たような想いをしたことがあるような気がした。
「・・・・?ジュリア?」
クラウス様の声にハッと我に帰ると、心配そうにクラウス様が覗いていた。
今だあふれる涙を手で拭うと、にっこりと笑って言った。
「・・・もう大丈夫です。私の早とちりでしたのね。こんなことでクラウス様のお時間を使ってしまって申し訳ありません。もう、クラウス様を信じると決めたばかりなのに私ったら・・・・」
自分の弱い決意に思わず自分で呆れてしまう。
「いや、私の方がこそ誤解をするような言い回しをしてしまった。悪かった」
私の手をとり、頭を下げるクラウス様に私は慌てて彼の体を起こした。
「謝らないで下さい!私が勝手に勘違いしただけなのですから!!クラウス様・・・・。お仕事でお忙しいところ私の為にわざわざ訪問して下さってありがとうございました。さぁ、私の事は気になさらずお仕事に戻られてください」
クラウス様の頭が上がると私はにっこりとほほ笑みそう言った。
その言葉にクラウス様もほっと安堵の表情となった。
「・・・そうか・・・?では、言葉に甘えて仕事に戻るとしよう。・・・今日はちゃんとここへ帰ってくる」
そういうとクラウス様はすっと立ち上がり私の部屋を後にした。
「・・・・おまちしております」
クラウス様はもう部屋を後にしていて私の声は届かなかっただろう。
でも、構わなかった。私の想いに気づいてくれた事。私の為にここまで来てくれた事。その事だけで私は心が温かくなっていた。
そして、こうしてちゃんと意見を交わす事が大事なのだと思った。
今回はたまたまブレンダ様が気づき、クラウス様に進言して下さったから良かったものの・・・・。あのままにしておいたら、またあの時と同じ事をしてしまっていたかもしれない。
そう思うと、私は思わず自分の体を両手で抱きかかえた。
もう、2度とあのような寂しい思いはしたくない。
想いがすれ違う事ほど寂しい事はなかった・・・・・・。
「・・・・寂しい?・・・・・」
ふと、先程感じた想いが再び沸き起こった。
以前にも経験をした事がある様な、ない様な・・・・・。
「きっと、リアーシャ様の振りをしていたときに感じていた寂しさを思い出してしまったのね」
誰に言う事もなく自分自身にそう言い聞かせるようにぽつりとその言葉が零れた。