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外の光が窓から差し込んでいるのであろうか?
意識が浮上する中、外が明るい事がわかる。
「・・・・ん・・・・」
目を開けようとすると、いつもよりも瞼が重い。
「ジュリア様。お目覚めになられましたか?」
傍からエリーナの声が聞こえた。
重い瞼を上げ、目を開けるとすぐ隣にエリーナが座っていた。
「私・・・・・」
声を出そうとすると、思った様に声が出ず乾いた声が出た。
そんな私を見て、エリーナは困ったように笑った。
「すぐにお水を持って参ります」
エリーナが席を離れると、私は部屋を見回した。
・・・朝?・・・あ・・・・・。
そうか。私は昨日泣き疲れてあのまま眠ってしまったのね。
徐々に思い出す昨日の出来事に私は深いため息をついた。
「ジュリア様。どうぞ」
水を持って戻ってきたエリーナにそれを差し出され一口口をつけると冷たい水が渇ききった喉を潤した。
「ありがとう」
先程より滑らかに出た声に自分自身ほっとしてグラスをエリーナに渡す。
「・・・昨日はごめんなさいね。私はあのまま寝てしまったのね・・・」
エリーナを見上げて見れば、再び困ったように笑い頷いた。
「ジュリア様・・・。本日はいかがされますか?」
今日、王妃として表に出る予定はない。だとしたら、彼女が聞いているのは午後の時間の事だろう。
「・・・今日はお断りして・・・・」
今はまだクラウス様に会う勇気はない。
合ってしまえばその場で泣き崩れてしまうかもしれない。
「かしこまりました。では、その様に・・・。ところで、朝食はいかがされますか?」
エリーナはそれ以上何も云わず、聞かず、後は私の今日の予定を組んでいった。
午前中は、昨夜泣きはらした目や顔を綺麗にするべく湯浴みの用意をしてもらいすっきりする事が出来た。
午後からは王妃の執務をこなす。何かをしていないと、思い出してふたたびこみ上げてくるものがあったからだ。
そうして午後を過ごしていると思いがけない訪問者があった。
「お仕事の邪魔をしてしまってごめんなさいね・・・」
今、目の前に座っているのは、ブレンダ様だ。
「い、いえ」
ブレンダ様は頬に手を添えながら首を傾け、申し訳なさそうにそう言う。
「実はね、あなたに謝ろうと思って今日は尋ねたの」
「謝る・・・ですか?」
思わず心臓が跳ね上がる。
「そう・・・・。昨日、クラウスに怒られてしまったわ。あのような事をジュリアに言うなと・・・」
その言葉に跳ね上がった心臓が鷲づかみにされた様だ。
「それで、私も反省したわ。こういう事は周りが言って本人達を焦らせてしまってはダメなのよね・・・。私もクラウスを身ごもっていた時、あれだけ周りから大人しくしろとかさんざん言われてうんざりしていたのに、同じ様な事をしているなんて・・・。はぁ・・・。もう、情けないわね。だからね、焦らなくてもいいのよ?貴方達が仲良くしてくれているのであれば、いづれ授かるでしょうし、こういった事は神様がお決めになる事だものね」
ブレンダ様はにっこりと笑ってそう言った。
私は、今笑顔で返せているだろうか?
彼女の言葉は既に頭の中に入って来ていない。
「ジュリア?」
私からの返事がない事に彼女は首をかしげ顔を覗き込んできた。
「あっ・・・・」
声が出ない。何か言わなければいけないのに・・・・。
「どうしたの?大丈夫?顔が真っ青よ?」
心配そうに私を見ているブレンダ様が手を伸ばしたその時。
「も、申し訳ありません!!ちょ、ちょっと昨夜から具合が悪くボーっとしているだけです。あ・・・。ブレンダ様にうつしてはいけませんので、どうぞ、今日の所はお引き取り下さい・・・。後日改めてこちらからお伺いさせて頂きます」
必死で笑顔を作りごまかした。
「あら・・・・・。そう?そうね。顔色が悪いもの。体調が悪い所に伺ってしまってごめんなさいね。今日の事は気にしなくていいから、ゆっくり休んで頂戴。では、私はこれで失礼するわね」
そういうと、ブレンダ様は連れて来ていた侍女を引きつれて部屋を後にされた。
「ジュリア様。大丈夫ですか?」
すぐにエリーナが私の傍に駆け寄ってくれる。
「え、ええ・・・・。大丈夫。まだ、心の整理が出来てなかったのに・・・・」
ポツリと言葉が零れる。
「ジュリア様・・・・」
エリーナが言葉を濁す。きっと、先程のブレンダ様との会話で私の涙の理由を気づいたのだろう。
「少し休むわ。・・・後で、ブレンダ様に謝罪のお手紙を書くからペンと紙を用意しておいてくれる?」
エリーナは頷き、私を支えてベットに横にさせてくれると、部屋を後にした。
私は、そのまま目を瞑り暗闇に身を任せた。