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「・・・リアさま!・・・ジュリア様!!」
ハッと私を呼ぶ声に顔を上げると困った顔をしたエリーナが立っていた。
「え、エリーナ?なに?」
「なに?ではありません。先程から何度も呼んでおりますのに、ジュリア様ったら・・・・」
困ったようにほうっと溜息をつくとエリーナは先を続けた。
「・・・クラウス様へご伝言があれば届けに行きますがどうされますか?と申し上げたのですが、いかがされますか?」
その言葉に再び顔をゆでダコのように赤くなる。
まさか、夜を共にしろと義両親から言われるとは思ってもみなかった。
「そ、そうね。い、いえ。でも、そんなはしたない事を私の方からお願いするなんて・・・・」
ぶつぶつ言う私にエリーナは困ったように笑う。
「大丈夫ですわ。何も子を作りましょうと御呼びだてしなくてもお話があるからと言えばいいのですよ」
彼女の言葉に慌てながら私は首を縦に振った。
「そ、そうよね?ええ、でしたら、お話があるので夜お時間を頂くようクラウス様に伝えてくれるかしら?」
そ、そう。決して、夜一緒に寝てほしい訳ではない。
ブレンダ様に言われて、今夜一緒にしない訳にはいかないから。
一人そう納得していた私をみて、エリーナは呆れたように肩をすくめ、クラウス様に伝える為、部屋を後にした。
「あ・・・。で、でも。今晩クラウス様が来られたら、私どうすれば・・・・」
寝室を共にするのは初めてでもないのに、なぜか初めての夜の事を思いだした。
あの時、私は嬉しさと悲しさの狭間でクラウス様と夜を共にしたのだった・・・・。
「・・・・良いか?」
盛大な結婚式が終わり、私たちは二人ベットの上にいた。
「はい・・・・」
優しく、私を抱き込むクラウス様。
こんな素敵な方が今日から私の旦那様だなんて・・・。
ふと、クラウス様の熱のこもった目が私を見ている事に気付いた。
だけど、その瞳に映っているのはリアーシャ様に似せた私。
その自分を見て私は、彼の視線から思わず顔をそらした。
そうよ。何勘違いしてるの。
私でなくリアーシャ様を見てこんなに熱い視線を送ってくれているのに。
だけど・・・・・。
触れられるたびにクラウス様の熱を感じる。
頬に唇に首筋に・・・・。
広い手が私の全身を触れて行く。
それだけでなく今度はクラウス様の唇が私の体を味わうかのように手で触れた後を追いかける。
そんな熱に浮かされ私の意識はもうろうとする。
「・・・ジュリアッ・・・・・」
クラウス様からこぼれ落ちる私の名に私は体の芯から熱くなるのを感じる。
そう・・。せめて今この時だけは『ジュリア』を愛して欲しい・・・・。
そう感じながら、私はクラウス様の熱い熱を受け入れたのだ。
昔を思い出し思わず頬を染める。
そんな頬を両手でパタパタと仰ぎながら私はふと考えた。
「・・・・気持ちが通じ合っていなかったから・・・・・」
ブレンダ様の言葉が思い出される。
その原因の一つは自分にある。やはり、今まで子が出来なかったのは自分のせいなのではないかと思うと、今夜の事が少し不安になる。
「ブレンダ様はあのようにおっしゃって下さったけど・・・・」
本当に子供が出来るのか。
もちろん、すぐに出来るとは思っていないが過去1年も出来ていないものが気持ちが通じあったという理由だけで出来る物なのか不安だ。
それこそ今度こそ妊娠をしなければ本当に側室が来る事は間違いないだろう。
再び来るその時に私は耐えられるのだろうか。
そんな考えに陥っていた時、扉からノックの音が聞こえた。
「エリーナでございます」
クラウス様の元から返ってきたエリーナだった。
「どうぞ、入って」
そう言うと、エリーナは扉を開け一礼して部屋へと入室してきた。
「・・・・クラウス様は何と?」
そう問えば、エリーナは少し言いづらそうに口を開いた。
「それが、今晩はやる事があるので訪れる事は出来ないと。話があるのならば明日の午後に聞くと・・・・」
申し訳なさそうに目を伏せるエリーナだったが、私はがっかりしたのはもちろん、少しほっとしたのも事実だった。
「・・・そう。仕方ないわ。彼は忙しい人だもの。また機会を改めましょう」
悲しそうな表情を作るのは忘れない。
エリーナとは言えこの気持ちを打ち明けるわけにはいかなかった。