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「ファビウス様・・・・」
思わず零れた言葉に慌てて口を噤み、頭を下げる。
「前国王ご夫妻においては・・・・」
私が挨拶をし始めたところで、ファビウス様がそれを遮る。
「堅苦しい挨拶はいい。そんなところにたっていないで、座りなさい」
にっこりと優しい頬笑みはクラウス様の笑顔を思い出させる。
「・・・・・はい・・・・」
ファビウス様に促され、私は席に着いた。
続いて、ファビウス様、ブレンダ様も席に着く。
「・・・ジュリア、この前の舞踏会以来だな」
ファビウス様の言葉に私は頭を下げる。
「その節は大変申し訳ありませんでした。ファビウス様方にあのようなウソをつかせてしまった事、本当に申し訳なく思っております。私がクラウス様のお気持ちを信じていなかったばかりに・・・・」
「まてまて。私たちはそんな謝罪を聞く為にここに呼んだのではないぞ?もちろんあの時の事は吃驚したが・・・。ジュリアは私たちが知っていたと思っておるみたいだが」
ファビウス様の言葉に思わず首をかしげる。
「・・・違うのですか?」
「うむ。あの時、お前たちが2人で現われなかった事を不思議に思ってもいたが、側室などとは全く聞いておらんかった。あの後、クラウスに事情を説明させその事についてはもう話も終わった。・・・国王と王妃とはいえどもお前たちも夫婦だからな。喧嘩をする事もあるだろう。国民を巻き込んでいないだけまぁ・・・なんだ。今回はまだ許せる範囲と言う事とにしておこう。しかし、今後は同じ事のないようにはしてほしいものだ。老い先短い私たちの心臓を止める気があるのであれば別だがな」
ファビウス様はほっほほと口元に蓄えた髭を触りながらそう笑う。
「・・・っ!!滅相もございません!!・・・今後はこの様な事のないようクラウス様とも良く話し合います」
「うむ。そうしてくれると助かるの」
「さぁ、その話はもう宜しいのではないのですか?2人とも。本題に入りましょう?」
私とファビウス様の会話が終ったと感じるや、ブレンダ様は横から手を叩き私たちを注目させる。
「ジュリア、貴方は私達に色々と隠し事があった様ね?」
ブレンダ様は私に向きなおると、しっかりと私の目を見つめそう言った。
私は、一瞬戸惑ったが現在の自分の事を正直に話す事にした。
「・・・申し訳ありません。騙すつもりはなかったのですが・・・、いえ、結果的にはそうなったのかもしれません。これまで、私は自分を偽っておりました」
そう話を切り出すと、私は今まで自分がリアーシャ様の変わりにこちらに来たのだと勘違いしていた事。クラウス様がリアーシャ様を好きだったのではないかと疑っていた事を全て話した。
「・・・・そう。その様な勘違いをしていたの。・・・それは、クラウスにも非があるでしょう。誰かの様に女に対しての気遣いが全然出来ていないのね。困った子」
ブレンダ様は右手を頬にあて、わざとらしく溜息をついて見せる。
隣りに座っていたファビウス様はなぜか顔をそらし窓の外を見ていた。
「だけど、その誤解も解けたのよね?」
ブレンダ様は確認するように私に問いかけた。
「はい」
「それならば・・・・、どうして、貴方がたは寝室を共にしないのですか?」
ブレンダ様の言葉に思わず飲みかけていた紅茶をひっくり返しそうになった。
「ごほっ・・・!え、・・・え!?」
「あらあら?そんなに驚く事?この国のあなた方の閨の事情は我が国にとってはとても大切な事よ?」
すましたままでそう答えるブレンダ様に、困ったように片手で目を覆うファビウス様。
私の傍にいたエリーナが慌ててハンカチを私に手渡した。
「・・・ごほ・・・。んん。取り乱してしまい申し訳ありません。その・・あの・・・。寝室を共にしない訳ではなく、色々ありまして共に出来なかったと申しますか・・・・・」
最後の方は言葉が消えていくくらい声が小さくなった。
まさか、そんな話が出るとは思ってもいなかった。
「・・・そう、まぁ、貴方がたにも色々事情はあるのでしょうが、今回の事にしてもそうですがあなた方に必要なのは親密さです。そう!子供を作る事が先決ですわ!」
ブレンダ様はグッと手を握った。
「は・・・はぁ・・・。しかし、この1年私たちの間に子が出来る兆候もなく・・・」
自分で言っていて泣きたくなってくる。だからこそ、私ではなく側室が必要だと言う話が出たのだ。
「大丈夫よ!あなた方が今まで子が出来なかったのは気持ちがすれ違っていたからだわ!今は勘違いも解けて気持ちが通じ会ったのでしょう?だったら、必ず出来ます!そう。作ってもらわないと困るのよ・・・」
最後の言葉は聞き取れなかったが、ブレンダ様の言葉に私は心があったかくなる。
しかし、傍ではファビウス様がふふんと笑うようにブレンダ様を見ていらっしゃった。
だけどそんな事にも気づかず、私はブレンダ様のお言葉に思わず再び湧き上がる希望を抑えられなくなる。
「子が・・・・出来ますでしょうか・・・。私に・・・・」
この1年出来なかったのに、本当に私に子供が出来るのだろうか?
「出来ます!いえ、必ず作りなさい!!まずは夜を共にしなければ何も始まりません!とにかく、今夜から頑張りなさい」
直接的なお言葉を頂き思わず赤面してしまう私は悪くないはず・・・。
すっかり冷めてしまった紅茶を飲み干すと、前国王夫妻の前を辞する事にした。
これ以上ここにいては、私は恥ずかしくて倒れてしまう自信があったから・・・・。