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王妃の秘密  作者: 睦月
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リアーシャ様が国に戻られてから私は何をするでもなく淡々と日々の業務をこなしながら過ごした。


「・・・なんだか、寂しいわね・・・・」


ぽつりと零れた言葉は誰に聞かれるでもなく窓の外へと吸い込まれていく。

一通り今日の業務を終わらせると、天気もいいので陽のあたる窓辺で紅茶を飲んでいた。


「・・・いい天気」


ホッと紅茶が喉を潤すのと同時に扉からノックの音が聞こえ、そこからエリーナが入ってきた。


「失礼致します。ジュリア様、お休みのところ申し訳ありませんが、ブレンダ様よりお茶会のお誘いがございました」


「ブレンダ様から?」


前王妃・・つまり、クラウス様のお母様でもあるブレンダ様からのお茶会の誘いともなれば断るわけにはいかないけれども・・・・。


「もちろん、お受けして頂戴。それで、それはいつの事かしら?」


「それが、来れるときで構わないからとの事で・・・・」


「・・・・・支度をして今からお伺いすると伝えて頂戴」


ブレンダ様の意図はわからないが、『来れるとき』と言われているのであれば本日中に伺った方がいいだろうと直感がそう言っていた。


「かしこまりました」


そういうと、エリーナは部屋を後にし、残った私は少し頭を捻る。


「ブレンダ様からのお茶会は久しぶりだけれども・・・・」


この姿で言ってもよいものだろうか。

舞踏会以来お会いしていない事もあり、今までリアーシャ様の振りをしたメイクでしかお会いしたことがない。いや、それよりも先日の舞踏会の件で改めてお詫びをしなければいけないだろう。

お会いする時間がなかったとはいえ、色々な事ですっかりと訪れて謝罪する事を忘れていた。


「・・・・本当に・・・・」


あまりのふがいなさに、私が王妃としてここにいる事が申し訳ない。

それでも、今は王妃を辞めようとは思わない。クラウス様の傍で私に出来る事をしようと決めたのだから。

しかし、どちらにしても急いで準備をする必要がある。ブレンダ様をいつまでもお待たせするわけにはいかない。

エリーナは返事を伝えに行っている為、手伝ってもらう事はできないから他の侍女を呼び、私は急いで準備を始めた。もちろん、彼女達にはリアーシャ様のメイクは出来ないから本当の私の姿を見てもらうこととなるだろう。しかし、今はこれが私だ。思っている事を素直に話そう。今度こそ、間違えない様に・・・。





**********************************


「申し訳ありません」


エリーナが頭を下げる。


「いいのよ。私がお願いしたのだから、気にしないで」


エリーナは私の準備が出来なかった事を申し訳なく思っているようだったけど、本当にそんな事きにしなくてもいいと思っている。

今は、はやくブレンダ様の元へ行く事が先決だ。


「さぁ、お待たせしてしまってはいけないわ。行きましょう?」


エリーナに頭を上げるように促し、ブレンダ様の元へと向かう。

今は義父・・・前国王が引退して離宮で暮らしている前国王夫妻。

彼女らのいる離宮には大きな庭があり、ブレンダ様が育てていらっしゃる花々が私たちを出迎えてくれる。


「素敵だわ・・・・・」


季節ごとに色々な花々が咲くそこにはブレンダ様の人柄を想わせる様な淡い色の花が所狭しとそこここに咲いていた。ふと、その中に花と同じ淡いオレンジのドレスを纏った女性が水を上げていた。


「あれは・・・・・」


こちらを振り向いたその人は、今から訪れようとしていた人物その人だった。


「ブレンダ様」


「まぁ、ジュリア。もう来てくれたの?ちょっと待っててね。後少しで水やりも終わるから」


そう言うと、彼女は再び丁寧に水やりを始めた。


「・・・こちらのお庭の花はすべてブレンダ様自らお手入れをされているのですか?」


ブレンダ様は水をやりながら、にっこりと頷く。


「そうね。難しい事は庭師に手伝ってもらうけれども、ほとんど自分で育てたわね。昔からやりたかった事の一つなのよ」


伝え聞く話では彼女が王妃になってから色々と苦労をされたらしい。

私が嫁いだ時にはすでにご夫婦仲睦まじくうらやましく思ったが、そこに至るまでには色々あったと聞いた。


「さぁ、終わったわ。待たせてしまってごめんなさいね」


ふと我に返ると、にこにこと笑うブレンダ様の笑顔がすぐそばにあった。

彼女はもうすぐ53になるはずなのだが、その年齢を感じさせない若々しさはこの笑顔にあるのではないかと思う。


「いいえ。ここの花を見ているととても落ち着いて時間を忘れてしまいそうになります」


「そう言ってもらえると嬉しいわ。花や緑は人の心を癒してくれるものよ。どんなに忙しくてどんなに心に余裕がなくても、花や緑は人を受け入れてくれる。いつだって人の傍にあるものだわ」


そう言うと彼女は侍女を呼んだ。


「先に部屋に行っていて頂戴。カリナが案内するわ」


ブレンダ様の後ろからカリナと呼ばれた侍女が頭を下げる。


「カリナでございます。王妃様、どうぞこちらへ」


カリナに案内され通された部屋は、先程ブレンダ様がお世話をしていた庭が見える暖かい部屋だった。

ふと目に着いたテーブルの上には既にお茶菓子が並んでおり、いつでもお茶会が始められる準備が整えられている。


「ありがとうございます。・・・・少し庭を拝見してもよろしいですか?」


カリナに許可をもらい、庭の見渡せるテラスへと出ると、さわやかな風が頬に触れる。

部屋の中からは、カリナがお茶の準備をしている音が聞こえる。

エリーナもカリナの傍で手伝っているのだろう。2人が話している声も聞こえてくる。


「・・・・まるで、違う世界のよう・・・・」


先日までの騒ぎがウソのように、ここに流れる時間は落ち着いていて穏やかだ。

全身でそれを感じているとふと後ろから声がかかった。


「・・・そんな所にいると風邪をひきますよ。さぁ、中に入ってお茶にしましょう」


振り向いた先には、淡いオレンジのドレスから淡いピンクのドレスに身を包んだブレンダ様ともう一人。

風格のある髭に優しい笑顔を浮かべる前国王・・・・ファビウス様がそこに立っていた。



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