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「~~・・・・っ!!」
日の光に誘われて目を覚ますと何やら扉の向こうで人の声が聞こえる。
「・・・・一体何かしら・・・」
まだ完全に目覚め切れていない状態でそっと身体を起こすと同時に扉の向こうから声がかかった。
「ジュリア様!!エリーナでございます!しつれいします!!」
返事を待たずにエリーナが扉を開き部屋へと入ってくる。
その状態に何やらただ事ではないことが伺え、私もまださえない頭をフル回転させた。
「一体どうしたの?何かあったの?」
「朝から申し訳ありません。実は、リアーシャ様の事で少し外でもめ事がありまして・・・」
エリーナの言葉に思わず眉間にしわが寄る。
「リアーシャ様が一体どうしたというのですか!?」
「いえ・・、その、リアーシャ様ご本人に何があったという訳ではなく・・・」
はっきりしないエリーナの言葉に思わずいらいらが募る。
「なにがあったの?はっきり言って頂戴!」
「・・・はい。実は、早朝にリアーシャ様のご婚約者様がこの城に到着されたのですが、到着そうそうクラウス
様の元へとお訪ねになったそうで・・・・」
「クラウス様の?」
到着後に挨拶をと言うことであれば普通の事だろう。
ただし、時間的にはあまりよろしくない。それに加えてエリーナがこうして報告に来ると言う事はきっと他にも何かあるのだろう。
「それで?」
ベットから足を抜き着替えをする為底からおりる。
それをすかさず感じ取ったエリーナは急いで私の手伝いをする。
「は、はい。それが、ご挨拶にいかれたまではよかったのですが、現在のリアーシャ様の処遇に対して憤慨されまして・・・・」
ジュリアは思わず頭を抱えてしまった。
「もしかして・・・。側室だと言う事が・・・」
「・・・はい、どうやらウィルト殿下のお耳に入った様です・・・・」
その言葉に私もエリーナも目を瞑り肩を落とす。
まさかとは思うが、側室と言う事が他国にも知られているのではないだろうか?
ふと思ったその想いはどうやら口に出ていた様だ。
「いいえ。他国へはおろか城下にもその話は広まっておりません。さすが国王様というか・・・・」
「では、どうしてウィ、ウィルト殿下のお耳に?」
「はい。それが、どうもトレース陛下が・・・・」
またもや、聞きなれていた名に肩を落とす。
トレース陛下?また、なぜそのような事をなさったのだろう。
いや、彼はリアーシャ様の側室話がウソと言う事を知らないはずだ。
私でさえ、昨日一昨日と知ったばかりの話。
彼は誤解したままだったのかもしれない!?
そう思うといてもたってもいられなくなり急いで身支度を整えると、謁見の間へと向かった。
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「一体どういう事ですか!!」
扉の前に来ると、大きな声が扉の向こうから聞こえた。
きっと、ウィルト殿下のお声なのだろう。
慌てて部屋へと踏み込んだ。
「失礼致します」
扉をあけ入った私は出来る限り冷静を装い部屋へと入った。
「・・・・ジュリア、今は謁見中だ。入室はゆるさん」
私の姿を認めたクラウス様は少し低い声で私を咎めた。
「申し訳ありません、陛下。しかし、この度の事はすべて私の所為で起こった事。ウィルト様には私からご説明させていただきたいと存じます」
私の言葉にいち早く反応したのはクラウス様ではなく、ウィルト殿下だった。
「どういう事ですか」
低く唸るような声に思わずビクッとしたが、その様なそぶりを見せるわけにはいかなかった。
頭をあげ、しっかりとウィルト殿下を見るとそこには私よりも少し年が上だと思われる青年がクラウス様の方へ向いていた体をこちらへ向け私を睨んでいた。
「お初にお目にかかります。ウィルト殿下。私、ジュリア・エルステラと申します」
ドレスの裾を持ち上げ腰を落とす。
「・・・・存じ上げております。あなたが、リアーシャ殿の親友だと言う事も。しかし、この処遇は一体どういう事でしょうね?親友を側室に収めると言う事の意味がわかっていらっしゃるのですか?」
淡々と語るその口調には明らかに怒りの感情が込められていた。
「・・・リアーシャ様をご側室などには私が絶対に致しません。ご存知の通り他国はもちろんどこでもそんなお話は流れていないと思いますが?」
先程聞いたばかりの事をはっきりとウィルト殿下に向かって私は告げた。
「・・・・そうでしょうか?私が到着してここまで来る間に私はこの話を耳にしました。それでもそんな話がないとでも?」
「そのお話は一体誰にお伺いになったのでしょう?」
「・・・フィーナ国の国王だったが、彼がウソをついているとでも?」
やはりトレース陛下かと思うと思わずため息がこぼれそうになる。
この城に戻ってからのトレース陛下の行動には甚だ頭を抱える。
「いいえ。ウソはついていないでしょう」
この国の事だとは言え、一国の王が嘘をついているなど言ってしまえばトレース陛下に迷惑がかかる。
「ならばやはり・・・!!」
彼が言い募る前に私は言葉を被せた。
「ただ!・・・・トレース陛下は誤解されているのだと思います。・・・私は久々に会えた親友にずっと近くにいてほしく、後宮にお泊まり頂きました。クラウス様にはもちろん反対されたのですが、私がどうしてもとお願いし無理を言って彼女にも頼みこんで1日だけ滞在していただきました。その時に、たまたま訪れていたトレース陛下は誤解されてしまったのでしょう。後宮に滞在しているリアーシャ様の事を側室だと・・・。私の軽率な行動の所為でこの様にウィルト様にご心配おかけしました事心よりお詫び申し上げます。申し訳ありません。悪いのは私です。どうぞ責めるのであれば私を責めてください」
私はウィルト殿下に深々と頭を下げた。
私の言葉に納得しきれないでいるのかウィルト殿下は何も言わない。
「ウィルト殿下」
ふと、今まで黙っていたクラウス様が声をかける。
その声に私もウィルト殿下もクラウス様の方を見る。
「・・・・私も配慮が足りなかった。申し訳ない。その詫びにとは言えないだろうが、貴国より申し出のあったかの件を前向きに検討させてもらう。この話はもちろんトレース陛下には私より話をしておく。他国へ一切この話が流れない様約束しよう。それで、気を静めてはいただけぬか?」
クラウス様の言葉にウィルト殿下はすべて納得はしていないのだろうが、『かの件』について少し反応があった。
そして、考え込んだ末、しぶしぶ頷いた。
「・・・ただし、リアーシャ殿はすぐに連れ帰ります。このような噂が立っているところに我が花嫁をおいてはいけません。よろしいですね?」
クラウス様もその事に頷いた。
彼女の体調を心配し、我が国の医者を同行させることを付け加えて。