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「まぁ!そんな事があったの!?もうっ!ジュリアったら!!」
くすくすと楽しそうに笑う彼女の顔をみるとこちらまで笑顔になってくる。
クラウス様の部屋を出た後、なぜかふとリアーシャ様の部屋へと足が向かった。
昨日に比べ、顔色も随分よくなり少しずつではあるが以前の美しかったリアーシャ様に戻りつつありその事にほっとする。
「だって、私ずっと誤解していたんです。クラウス様はリアーシャ様の事がお好きなんだって・・・」
この1年の話をリアーシャ様に聞きだされていた。
恥ずかしさのあまりおもわず顔が下を向いてしまう。
「ふふふ、そんなはずあるわけないじゃない。貴方は知らなかったでしょうけど、クラウス様は小さいころから貴方一筋だったんだから」
くすくすと笑うリアーシャ様の言葉に勢いよく顔を上げた。
「・・・・えっ!?」
「ふふ、驚いた?」
リアーシャ様は楽しそうな顔で私を見つめてくるが、私はリアーシャ様の言葉に思わず口があいた。
「そ、そんな事あるわけ・・・・」
必死で落ち着かせようとするが、言葉はどうしても上ずってしまう。
「あるのよ。いくつの頃だったかしら?彼がイングランシャ国へ勉強の為にと長期で滞在していた事があったのよ。その時貴方と会ったって言っていたけど、ジュリアは覚えてない?」
クラウス様と幼いころに会ってる・・・?
リアーシャ様の楽しそうな顔を見つめながら私は記憶を辿る。
だけど、幼いころにクラウス様と会った記憶はなかった。
「お会いしていたら忘れないと思いますが・・・・」
首をかしげる私にリアーシャ様はふふふと笑った。
「あの頃はこっそり城を抜け出して町に下りていたみたいだから気づかなかったのかもしれないわね。よく叱られているのを見かけたわ」
思いだす様にくすくす笑うリアーシャ様の笑顔に再びリアーシャ様が・・・なんて思ってしまったが、彼女の笑顔は心の底から懐かしんでいるそんな感じがした。
「クラウス様にもそんな時代があったのですね」
そう言って、顔を見合わせくすくすと笑いあい、しばらく昔話に花を咲かせているといつのまにか時間はたっていた。
「ジュリア様、あまり長居をされますとリアーシャ様のお身体にさわりますので、そろそろ・・・・」
リアーシャ様の侍女と共に部屋に入ってきたエリーナにそっと耳打ちをされ、小さく頷く。
「リアーシャ様、久しぶりにこんなにたくさんお話しできてとても楽しかったですわ!お身体の調子もまだ優れませんのに、長居してしまって申し訳ありませんでした。そろそろ失礼させていただきますね」
そういって、リアーシャ様に挨拶をして席を立ち部屋を後にした。
昔から、そうだった。
リアーシャ様と話をしているとなぜかいろんな事に共感できて、彼女の事が自分の事の様に、また彼女も私の事を自分の事の様に話を聞いてくれる。
そして、いつのまにか時が流れ去っている。
ふと、昔の事を思い出した。
いつだったか、王妃様より王女が一人では寂しいだろうと年が一緒の私が選ばれ王女の遊び相手を命じられた。
「きっと、あなたとなら素敵な関係になれるでしょう」
その言葉が嬉しく、私は張り切って王女様のお相手をする事にした。
そして、父からくれぐれも粗相のないようにと厳しくいい聞かされながら、精一杯王女様に仕えた。
だが、王女様は一向に私に心を開いてはくれなかった。望みをきいても無視をされ、何かを提案しても無視をされ・・・・。幼い私は何がいけないのかさっぱりわからず、いつしか王女様の元に行くことが苦痛となっていた。そして、とうとう私の我慢が限界を迎え、こともあろうに王女様の前で大泣きしてしまった。
その時に彼女は言ったのだ。
「あなたは私に仕えにきたの?それとも、親から言われたから来たの?何のために私の傍にいるの?私は仕えてくれる人が欲しいんじゃない。私を王女として見るのではなくリアーシャとして見てくれる人が欲しいのよ」
その言葉にはっとした。
彼女は、侍女が欲しかったわけでも、家庭教師が欲しかったわけでもない。
ただ、一緒に泣いて、笑って、遊んで、喧嘩して・・・そんな普通な友人が欲しかったのだと。
それから、私は彼女に尽くす事を辞めた。
もちろん立場上、最低限の礼儀をわきまえつつ話をしたり、遊んだり、時には口げんかをするようなこともあった。
そんな関係を築き上げてから私たちはずっと一緒にいた。
絨毯を敷き詰められた廊下を歩きながらふと目の前を見つめると、窓から差し込む綺麗なオレンジ色が差し込みその色に染めていた。
その時、クラウス様の言葉が蘇った。
『・・・・今夜は部屋に戻れないかもしれない。先に寝ていてくれて構わないよ』
きっと、彼は戻ってこないのだろう。今夜は一人夜を過ごさなければいけない。
だけど、大丈夫。
今日は久しぶりに昔に戻った気分だ。
すこしほっこりとした気分のままこの夜は眠りについた。