18
ふと、目を覚ますと見慣れた部屋。
思わず勢いよく起き上がって周りを見渡した。
「・・・・夢・・・・・?」
ポツリとつぶやいた自分の言葉に思わず肩を落としてしまう。
「そ、そうよね・・・・・。そんな事・・・・・・・」
あるわけがない・・・と続けようと思ったが、それを遮られた。
「起きたか?」
聞こえた声に思わず顔を上げると、扉から部屋へ入ってくるクラウス様の姿がそこにあった。
「ク、クラウス様・・・・・・」
「なんだ?まさか昨日の事が夢だとでも思っていたか?」
はははと笑うクラウス様の笑顔はいつもの様に優しい。
そして私のいるベットまで来ると傍に腰かけた。
「・・・・ジュリア・・・・おはよう」
頬を撫でるクラウス様の瞳には私への愛情が感じられた。
「・・・・クラウス様・・・・」
再び私の目には涙が溜まっている。
昨日の事が夢じゃなかった。
その事に涙は止まらなかった。
「・・・昨日から泣いてばかりだな」
そういうと、困った様な笑顔で私の涙をぬぐった。
「ジュリア。君が用意させた荷物はすべて元へ戻す様に指示した。もうここを出て行こうなんて思ってないだろう?」
クラウス様の言葉に私は静かに頷いた。
クラウス様の気持ちを知った今、傍にいたいと思う気持ちは止めなくてもいい。
そう思うと、止まりかけていた涙も再び溢れだす。
「泣き虫なのだな、ジュリアは。・・・これから、お互い色々な事を話し合っていこう。本当のお前をもっと知りたい」
クラウス様はそっと私の額に口づけを落とし、スッと立ちあがった。
「今日はゆっくり休むといい。夜、また来る」
そう言い残すと先程の扉から出て行った。
流れ出す涙は未だ止まらなかったが、心はとても満たされていた。
「・・・ジュリア様」
扉の向こうからエリーナの声が聞こえる。
涙をぬぐい、一つ咳払いをすると私は答えた。
「・・・入室を許可します」
その言葉を言い終わるとそっと扉が開いてエリーナが顔をのぞかせた。
「おはようございます」
扉の前で頭を下げるエリーナ。
「エリーナ・・・・・」
言葉を紡ごうとすれば再び涙がこみ上げてくる。
「・・・何も言わなくて結構ですよ。良かったですね!ジュリア様!!」
頭を上げたエリーナの顔は満面の笑みだった。
「あ・・・ありがとう・・・・」
溢れだす涙に、思わず顔を両手で覆ってしまった。
すると、そっとその手に合わさる温もりを感じた。
「・・・ジュリア様。泣いてばかりではダメですよ?せっかくの幸せが逃げてしまいますからね」
そう言うエリーナの声が少し震えていた事に気づき、私はそっと顔を上げる。
すると、エリーナの目にもきらりと光るものを見た。
それでも、にっこりと笑っているエリーナを見て、私も笑顔を返した。
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朝はあまりの出来ごとに信じられない思いだった。
だけどやっと気持ちも落ち着きゆっくりお茶を飲んでいた時だった。
「これからは本当のご夫婦としてクラウス様と暮らしていけますね!」
エリーナが嬉々として話している。
「本当の夫婦・・・・」
「ええ!そうですわ!心が通じ合ったのですもの!何も心配いりませんわ!」
自分の事の様に喜んでくれるエリーナに私も思わず笑顔になる。
「ありがとう・・・。貴方にはいつも迷惑ばかりかけてしまっていたものね」
「いいえ!迷惑だなんてとんでもないですわ!本当のジュリア様を愛しておられたとは国王様も見る目がありますね」
その言葉に思わず頬が熱くなる。
「ふふふ、ジュリア様。お顔が真っ赤ですわ」
「も、もう!からかわないで頂戴!エリーナったら・・・・」
そんな事を言っていた時だ。
扉からノックの音が聞こえた。
「まぁ!もしかしたらクラウス様が待ちきれなくて戻ってこられたのかもしれませんわ!」
そんな事を言いながらエリーナはスキップでもしそうな勢いで扉へと向かった。
「・・・もう。エリーナったら・・・・」
私はさっきからあの調子のエリーナにやられっぱなしだ。
頬が赤く染まるのも今日は何度めだろう。
ぱたぱたと手で熱くなった顔を仰いでいると、エリーナが戻ってきた。
「・・・・ジュリア様」
先程までのエリーナの声色とはあきらかに違っている。
その声色にエリーナの方に視線をやると少し青ざめた様なエリーナが立っていた。
「・・・・どうしたの?」
「・・・・り、リアーシャ様が・・・・・・」
リアーシャ様・・・。
その名を聞いたときにハッとした。
あまりに浮かれていたのだろう。彼女の存在をすっかりと忘れていた。
「・・・・リアーシャ様がどうされたの?」
青ざめた顔色のエリーナをみて、なんだか嫌な予感がした。
「・・・・・ご自害なされたそうです・・・・・」
エリーナの言葉に私は頭が真っ白になった。
「・・・・・・・え・・・・・・・・?」
「・・・・・幸い、発見が早く命に別条はないと言う事ですが、お怪我をされているとの事で・・・・・」
エリーナの手が震えていた。
「・・・・リアーシャ様が・・・・・・・・自害・・・・・・・・」
頭の中に響くその言葉に私はその場から動けなくなってしまった。